インド発のユニコーン企業OYO、ビジネス急成長の秘密
不動産テックで世界トップを目指す

2019年7月10日

インドのホテル運営会社OYO外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは2019年2月20日、日本のヤフーと合弁会社OYO TECHNOLOGY & HOSPITALITY JAPANを設立した。同年3月には画期的な賃貸住宅サービス「OYO LIFE」を日本で開始するなど、成長著しいインド発のユニコーン企業だ。5月から6月にかけてのインタビュー(注)の結果も踏まえ、同社の急成長するビジネスの背景と、今後の日本でのビジネス展開について紹介する。

「旅するように暮らす」をコンセプトに

OYO TECHNOLOGY & HOSPITALITY JAPANは、スマートフォン1つで物件探しから入居手続きを可能にするサービス「OYO LIFE」を提供する。「旅するように暮らす」をコンセプトに、家具付きの部屋を敷金・礼金・仲介手数料0円で提供できる新たなビジネスモデルを構築している。ホテルを予約するような感覚で、誰もが気軽に賃貸アパートを契約し利用ができる。インドのOYO本社は、ソフトバンクビジョンファンドほかインド国内外のベンチャーキャピタル(VC)から計10億ドルの出資を受け、日本以外でも中国や欧州など、24カ国800以上の都市で63万6,000以上のホテルを展開している。


「旅するように暮らす」をコンセプトに日本国内では賃貸サービスを提供(OYOLIFE提供)

世界最大のホテルチェーンを目指す

OYOは、インドや諸外国ではホテル事業を中心に展開する。日本では同社のコアビジネスであるホテル事業とは別に、不動産業界にも参入し、革新的なビジネスで同業界に大きなインパクトをもたらした。創業者であるリテッシュ・アガルワル氏は大学を中退し、18歳という若さでOravel Stays Private Limited を創業。OYO Roomsというブランド名のもと、メンテナンスが行き届いていない既存ホテルを改装し、同社独自の基準まで部屋の品質を整備、好立地でも低価格なホテルを提供するというビジネスモデルで成長してきた。

同氏は、大学中退後にインド中を旅していた際に、宿泊した各地のホテルが独自ブランドを持たず、適切な管理も行き届いていなかった点に注目。各ホテルのオーナーと交渉し空き部屋を改装、その部屋を顧客に貸し出したところ、そのデザインやメンテナンスの良さ、手頃な価格が人気を集めた。このときに、現在のビジネスモデルを確立した。

2013年にわずか10部屋だったOYOは、2年後の2015年には、客室数でインド最大手のホテルとなり、2018年12月には南アジア最大のホテルチェーンとなった。2017年には中国へも進出、既に中国国内において2番目に大きなホテルグループへと成長した。2023年には世界最大のホテルチェーンであるマリオットを追い抜き、世界トップを目指すと意気込む。

驚異的な成長スピードと革新的なテクノロジーの秘密

創業からわずか6年で世界6番目のホテルグループへと急成長した要因について、同社ベンガルール地域統括責任者(=「ハブ」と呼ばれる)のラチット・スリバスタバ氏は「組織がフラットであることがカギ」と断言する。同社インド法人の場合、グループCEO(最高経営責任者)のアガルワル氏の下にインドCEOがおり、北インドと南インドをそれぞれ統括する地域統括責任者、さらに細かい地域を担当するハブがいる。インド全体では、現場スタッフを除き2,000人の社員がいるが、一般社員からインドCEOまでの間に中間管理職は3人しかいない。同氏は「現場の意見や提案に対する意思決定のスピードが非常に速く、短期間の急成長につながったはず」と分析する。さまざまな契約や支出の可否に対しては、マネジメント層が1時間以内に判断して返答するルールだそうだ。

意思決定の速さに加え、同社の成長を支えているのが人工知能(AI)などのIT先端技術を駆使したホテル経営である。インド最大の武器である、若くて豊富なIT技術者を活用し、「空室リスクを軽減する検索システム」や、「スマートフォン1台でホテル運営管理ができるスマートシステム」などを構築した。システム上でのAIによる価格調整により、部屋の稼働率を最大化するほか、これまで契約や引き渡しなどを含めて1週間以上かけていた手続きを、スマートフォン1台で、30分ほどで済ませることが可能となった。約8,500人のグローバル社員のうち、700人以上がデータ科学・AI・ソフトウエアなどのIT技術者で、これらのシステムを全て内製化することで、コスト削減、社内技術の向上およびよりスピーディーなビジネス展開を可能にする。

ホテル市場の約10倍、巨大な不動産市場に大きなチャンス

OYO TECHNOLOGY & HOSPITALITY JAPANの勝瀬博則CEOは、日本の賃貸不動産業市場について、「12兆円と言われる巨大市場だ」と分析。さらに「欧米では家具、家電付きの住居は一般的だが、日本ではまだ浸透していない」とし、「商品・サービスの『所有』から『利用』へと個人の意識が変化する日本のライフスタイルに合うサービス提供のノウハウがある点が強みだ」とする。これに加えて、日本の不動産業界ではほとんどIT化が進んでいないことを指摘し、「日本ではまだ書面での契約が主流で電子契約が浸透していないため、物件の在庫管理システムも貧弱である」という。同氏は「日本の不動産業はIT導入による合理化、コストカットが可能な市場である」と見通した。OYOがホテルビジネスで培ったノウハウを賃貸事業に応用し、物件の検索から契約、入居までをスマホだけで完結させることで利便性の向上を図るという。

同社はこれまでは、東京23区中心部でのみサービス提供をしてきたが、より多くのお客さまに利用してもらえるよう、物件の獲得と顧客リーチの拡大を始めた。2019年6月から順次、エリアを1都3県に拡大している。すでに多くの住宅建設会社、不動産ファンド、不動産管理会社、不動産仲介会社などの不動産関連企業や、さまざまな種類の商品やサービスを定額制で提供しているeコマース企業など100以上の企業と提携するなど、拡大に向けた整備が進む。


OYOLIFEが提供する東京都内のおしゃれな物件(OYOLIFE提供)

さらに同社は、企業の福利厚生の一部である社宅の提供にも商機を見いだそうとしている。人材不足が顕著になる中、優秀な社員獲得のための福利厚生として、良質な社宅を提供することのメリットは大きい。勝瀬CEOは同社の社宅サービスについて、「ホテルよりも低価格で家具付きの社宅用物件を大量にそろえている。外国人雇用者のための住居、社員のための社宅はもちろん、外国人長期出張者のホテル代わりにも使ってもらえるはずだ」と魅力を語った。さらには、2020年に開催される東京オリンピックや2025年の大阪万博によるインバウンド需要および賃貸物件の利便性に対するニーズも見込む。同社はインドで培ったスピード感を武器に、日本国内でのビジネス展開を加速していく予定だ。


注:
スリバスタバ氏には5月23日、勝瀬CEOは6月18日に聴取。
執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
瀧 幸乃(たき さちの)
2016年、ジェトロ入構。対日投資部誘致プロモーション課(2016~2018年)、ジェトロ・ベンガルール事務所実務研修(2018~現在)。高度人材、スタートアップ、オープンイノベーション関係の事業、調査を主に担当。