特集:主要国・地域の越境EC(電子商取引)日本企業の越境EC(電子商取引)の現状と課題 ‐ 中国・韓国との越境ECビジネスを中心に ‐

2018年3月30日

近年、東アジアでは、消費市場の拡大、インターネット・スマートフォンの普及などにより、日本企業の越境EC(電子商取引)ビジネスが拡大している。

本稿では、まず、ジェトロが実施したアンケート調査結果を基に日本企業の越境ECへの取り組みを紹介する。ついで、企業インタビュー結果に基づき、特に、中国・韓国との越境ビジネスの課題を紹介する。

日本企業の越境ビジネスへの取り組み

ジェトロが実施したアンケート調査「2016年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(注)によると、回答企業(2,995社)のうち、ECを利用したことがある企業は全体の24.4%と約4分の1を占めた。

ECを利用したことのある企業(731社)のうち、海外への販売(日本からの輸出、海外拠点での販売)で利用したことのある企業は半数弱の47.2%であった。企業の海外販売先(複数回答)は、中国が49.6%とほぼ半数を占め、第1位になり、次いで米国(36.2%)となり、韓国は第5位(19.4%)となった。企業規模別ではいずれの販売先でも大企業の比率が中小企業を上回り、特に中国では大企業の比率は63.5%と、中小企業の45.0%を18.5ポイント上回った。また、業種別にみても、ほぼすべての業種で中国への販売が最多となっている。衣料品・化粧品では89.5%にのぼる企業が中国を販売先に挙げた。

さらに、海外への販売でECを利用したことがある、または、ECを使用したことはないが今後利用を検討していると回答した企業を対象に、今後、販売拡大を図る、または新規に販売を検討している国・地域を尋ねた結果(複数回答)、中国が43.8%と他を圧倒して第1位となった。他方、韓国は第10位(16.2%)であった。

表1:現在・今後の販売先(企業規模別)
順位 全体 大企業 中小企業
現在の販売先(n=345) 今後の販売先(n=1,018) 現在の販売先(n=85) 今後の販売先 (n=177) 現在の販売先(n=260) 今後の販売先(n=841)
1 中国(49.6%) 中国(43.8%) 中国(63.5%) 中国(48.0%) 中国(45.0%) 中国(42.9%)
2 米国(36.2%) 米国(29.1%) 米国(44.7%) 米国(28.8%) 米国(33.5%) 台湾(29.6%)
3 台湾(26.4%) 台湾(27.6%) 台湾(25.9%) タイ(26.0%) 台湾(26.5%) 米国(29.1%)
4 香港(22.6%) 香港(25.3%) 香港(24.7%) ベトナム(22.0%) 香港(21.9%) 香港(27.2%)
5 韓国(19.4%) タイ(25.1%) シンガポール/韓国(22.4%) シンガポール/インドネシア(19.8%) 韓国(18.5%) タイ(25.0%)
注:
n=回答企業数を表す
出所:
ジェトロ「2016年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

越境ECにおける課題としては、回答率(複数回答)の高い順に「決済システムの信頼性」(回答企業数の25.2%)、「商品配送に係るリスク」(同24.2%)、「必要な人員の不足」(同21.1%)、「現地語への対応」(同21.0%)、「制度や規制に関する情報不足」(同21.0%)となった。企業規模別にみると、中小企業では「決済システムの信頼性」(26.0%)、「商品配送に係るリスク(破損、正確性)」(24.9%)、「必要な人員の不足」(22.6%)、「現地語への対応」(22.4%)、「制度や規制に関する情報不足」(21.8%)、「物流コストが高い」(21.4%)の回答率が2割を超えた。大企業では「決済システムの信頼性」「商品配送に係るリスク」のみが2割を超え、物流や決済など、販売先のビジネスインフラに影響されやすい分野に不安を抱えている傾向が指摘できる。一方で中小企業はこれらに加えて、海外顧客とのコミュニケーションや、相手国で必要な制度や情報の収集など、ソフト面についても課題を抱えていることがうかがえる。

回答率の高い課題を個別に業種別にブレークダウンすると、「決済システムの信頼性」については製造業で「情報通信機械器具/電子部品・デバイス」(39.6%)、「精密機器」(32.9%)、「飲食料品」(29.2%)、非製造業で「小売り」(30.0%)、「商社・卸売り」(28.4%)、「通信・情報・ソフトウエア」(27.7%)などが高かった。「商品配送に係るリスク(破損、正確性)」については製造業で「飲食料品」(41.1%)、非製造業で「小売り」(50.0%)が特に高い結果となっている。「物流コストが高い」については「小売り」(52.5%)が突出して高い結果となり改めて問題が顕在化した。

表2:越境ECにおける課題(全体、企業規模別、業種別)PDFファイル(124KB)

中国・韓国との越境ビジネスの課題

ジェトロは、中国、韓国と越境ECビジネスに取り組む日本企業10社に対してヒアリング調査を実施した。その結果、越境ECビジネスへの期待の高さがうかがえた一方で、課題も多く聞かれた。

中国に関しては、例えば「消費者からの問い合わせが多い分野は食品」「日本製品の需要が根強くブランド力もあることから、中国のEC事業者と提携し、食品や日用品の輸出を増やしていく」といったコメントがあり、日本産の食品に対して期待の高さがうかがえる。しかしながら、食品輸出に携わる企業からは一様に「中国向けに食品を輸出する場合、10都県に対する輸入規制があり困難な状況」との声があり、ニーズがあるにもかかわらず輸出できずに機会損失につながっているようである。また、越境EC通関については「三単合一システム」(注文、決済、物流各データの統一管理システム)の導入により効率化された」「税関の透明化が進んでトラブルが減少した」といったコメントがある一方で、「度重なる制度変更があり予見可能性が低い」「通関許可が突然下りなくなった場合には現地在庫をすべて破棄することになった」「税率の大幅な改定により収益モデルが大きく変わった」などがリスクとして指摘されている。他方、韓国に関しては「KCマーク(国による安全認証マーク)導入の話が突然あり、最終的には延長になり安堵(あんど)したが、販売者に対する突然の過度な要求は困る」との指摘があった。

物流については、中国に関しては「EMSの配送品質が粗悪で商品の破損や紛失などで困っている。EMS料金の引き上げも痛手」「物流コストが吸収できない点が最大のボトルネック」とのコメントがあり、越境ECに関するグローバルなサプライチェーン整備の必要性は高い。物流配送網をより完全なものにするために、ネックとなっているラストワンマイルを整備し、宅配産業を健全に発展させることが求められる。また、韓国に関しては「日系企業は韓国で国際宅配便の輸入を扱えない。韓国側の輸入通関は大韓通運などの大手企業が担っていて、外資が通関業務に参入するには、現地の通関業者の協会に加入しなければならないという商習慣があり、外資は同協会に加入できていないのが実情。日本では同分野は外資にも開放されている」との指摘もあった。

中国では、特に中小企業が越境ECで一部の大手EC事業者サイトに新規参入したとしても、高い出店料、販売手数料、広告宣伝費用、たたき売りやイベント向けの値引き要請などで、利益を上げづらいケースもあるようである。また、模倣品が横行していて、発覚した際にEC事業者が責任を負わず出品者の責任が問われることも問題視されている。「中国側のグレートファイアウォールによって、中国から日本の自社サイトへのアクセスが遅いあるいは開けないなどの障害が生じる」「グローバルに展開されているソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が使用禁止のために日本で実施している広告が導入できず、海外サプライヤーの参入規制につながっている」との指摘があり、越境ECの一層の発展のためにはグローバルなデータフローの環境整備も喫緊の課題となりつつあるといえよう。


注:
海外ビジネスに関心が高い日本企業9,897社を対象に郵送形式で実施した。調査時期は、2016年11月25日調査票発送、2017年1月6日回答締め切り。回収状況は、発送総数9,897社(うち、ジェトロ・メンバーズ3,546社)、有効回答数2,995社(同1,292社)、有効回答率30.3%。アンケートは、貿易での取り組み、海外進出への取り組み・今後の国内事業展開など、さまざまな項目に関する設問を設けており、電子商取引の利用に関する設問は本調査の一部となっている。

ジェトロ海外調査部中国北アジア課