特集:アフリカ進出における現地・第三国企業との連携可能性各国企業の特徴からみる連携のメリット

2018年7月13日

アフリカ戦略に磨きをかける第三国企業

1970年代には数多くの日本企業がアフリカで大規模にビジネスを展開したが、その後、多くがアフリカを離れた。現地の政情不安によりビジネスの継続が困難になったことに加え、同時期にアジア市場へのシフトが顕著になったためである。その結果、アフリカビジネスに関するノウハウの大部分が失われた。

一方、欧州企業は中国の参入に戸惑いつつも、アフリカ市場を死守しようと、旧宗主国としての言語・文化、経験の蓄積を生かしたビジネス戦略により磨きをかけている。そして、トルコやインドもアフリカと独自の関係を築き、「最後のフロンティア市場」へのアプローチを強めている。また、物流のハブとしての優位性や湾岸諸国の豊富な資金を背景に、アフリカとの結び付きを強めるアラブ首長国連邦のような国もある。アフリカ域内に目を向ければ、北からはモロッコ企業が、南からは南アフリカ共和国の企業が成長機会を求めて域内展開を急速に進めている。

他方、日本は他の国々と比べて出遅れているともいえる状況だ。主要国の対アフリカ投資額をみると、トップ英国の約6分の1で、近年急速に投資を拡大させる中国の4分の1の水準にとどまっている(図参照)。

図:主要国の対アフリカ投資額(2016年)
英国577億ドル、米国575億ドル、フランス485億ドル、中国399億ドル、イタリア227億ドル、南ア227億ドル、インド170億ドル、スイス132億ドル、ドイツ108億ドル、日本100億ドル。
注:
インドの数値は2015年。
出所:
OECD、UNCTAD、中国商務省、南アフリカ準備銀行の統計を基にジェトロ作成

競争が激化する中、日本企業はアフリカ市場にどのように取り組んでいくべきだろうか。アフリカは日本にとって地理的にも、心理的にも遠い地域だ。ビジネス環境も大きく異なり、リスクも高い。そのような難しい市場にアジアと同じビジネスモデルで臨んでよいのか、また、単独で臨んで勝ち目があるのか。

ジェトロは、第三国企業との連携によるアフリカ市場へのアプローチの可能性を模索するため、合計13カ国で50以上の企業・団体を対象にヒアリングを実施した。その結果についてはジェトロ調査レポート「主要国企業のアフリカ展開と日本企業との連携可能性(2018年4月)」に取りまとめたが、日本企業にとってまさに「目からうろこ」となるヒントが得られた。本稿では、その一部を紹介する。

主要国のアフリカ展開の特徴

第三国企業と日系企業が連携する場合、M&Aや戦略的提携、技術・サービス活用、情報交換など、大きく深いものから、すぐに開始できる小さく浅いものまで幅広い選択肢が存在する。そのため、以下では幅広い観点から、インタビューで得られたアフリカ展開における各国の特色を紹介する。

英国

  • アフリカとは旧宗主国・植民地の関係。現在もコモンウェルス(英連邦)の枠組みの中でアフリカ諸国との緊密な政治・経済関係を維持。
  • アフリカから移民を数多く受け入れてきたため、大規模なディアスポラ(在外居住者)社会が存在し、現地との関係をつないでいる。
  • 世界の金融センターとしてアフリカ情報を蓄積し、法律・会計事務所、コンサルティングなどのサポート産業が集積。

フランス

  • 英国と同じくアフリカとは旧宗主国・植民地。フランス語圏アフリカを中心に大規模なディアスポラ社会が存在。
  • 軍事協力のほか、政治・経済面で強くコミット。インフラプロジェクトの受注などを政府が積極支援。
  • 第三国連携では、豊田通商によるフランスCFAO買収など、先行事例がある。

ドイツ

  • 植民地はナミビアなど一部のみ。南部では自動車・同部品メーカーなどの進出がみられるが、アフリカ域内全体での大手企業の進出は、シーメンスなど一部企業を除いては限定的。
  • リスクセンシティブな点や品質重視、中堅・中小企業の裾野の広さなど日本と類似。
  • 政府は企業の直接支援に及び腰だったが、難民危機により転換。アフリカ支援に積極化の見込み。

トルコ

  • エルドアン大統領のイニシアチブにより、アフリカに積極外交。アフリカが必要とするインフラプロジェクト受注や消費財などに強み。
  • 価格やビジネスマネジメント面などで競争力が高く、リスクを取るのに抵抗感が低い。
  • トルコ航空がアフリカの広域に定期便を就航。

アラブ首長国連邦

  • 営業拠点としても物流拠点としても優位性あり。アフリカ(特に東側)と距離が近く、アフリカ各国への空路・航路ともに充実。
  • ドバイで開催される展示会やイベントでの顧客開拓に優位性。
  • 湾岸諸国から集まる豊富な資金力、世界的な金融ハブで資金調達にも優位。法人税や送金面での規制がない点でメリットあり。

インド

  • バスコ・ダ・ガマ以前にさかのぼるインド洋沿岸貿易、英植民地以降のインド人材の往来拡大、これらに伴う印僑の存在などを通じ、結び付きは強い。
  • 定評あるエンジニアリング、高い価格競争力の製品をもってインフラプロジェクトや市場展開を図る。
  • モディ政権発足後は、外交面のアプローチも強化。日印パートナーシップを通じたアフリカ開発は2国間の重要なアジェンダ。

南アフリカ共和国

  • リージョナルチャンピオン。自国市場での競争激化や域内での商機の高まりを受け、域内で積極的に展開。
  • 小売りや通信分野などで競争力あり。金融や自動車産業をはじめとする製造業など、他のアフリカ諸国にない産業構造を持つ。
  • 先進的な法制・規制などが域内拠点としての優位性となっている。

モロッコ

  • 域内に商機を見いだし、国王自らが旗を振って積極外交を展開。2017年にはアフリカ連合(AU)に復帰。
  • 多角化された産業構造や財閥グループが存在。
  • フランス語圏諸国とは言語面で、イスラム諸国とは宗教面で高い親和性を持つ。

日本企業にとってのメリットは

すでに第三国企業と連携している日系企業もある(表参照)。こうした企業は第三国企業との連携のメリットをどう捉えているか。ジェトロのヒアリングでは、次の点がメリットとして挙げられた。

  • 連携先の販売ネットワークを活用して販路が急拡大した。
  • アフリカのリスクは多様化し、一社単独では対処できない。リスク回避の面からも連携は有効。
  • 現地政府との関係構築において、パートナーである第三国企業の本国政府からも支援が得られる。
  • 連携先の人材はアフリカで20 年、30 年を超える豊富な経験に基づくノウハウを持っており、それを享受できる。
  • 連携相手の企業が有する、欧州留学経験者や欧州企業で働いた経験のあるアフリカ人材とのネットワークが広がり、新規事業や投資情報が入手可能。
  • アフリカでの事業経験が豊富で産業情報に精通しており、的確な情報をいち早く得られる。
  • 連携先が先行投資した技術的なプラットフォームにアクセスできる。
  • フランス企業との連携については、西アフリカ諸国への進出パートナーとして、言語や 文化、法制度の面でのメリットを得られる。
表:日系企業の第三国企業との連携事例
企業名 連携相手国 発表日 発表内容
IDOM(ガリバー) 米国 2018年2月 米ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーとタンザニアで提携。ウーバー登録ドライバーに同社から推薦車種の情報が提供され、気に入ればIDOMから車両を直接購入できる。
損害保険ジャパン日本興亜など 南アフリカ、モロッコ 2017年10月 南アの金融・保険グループのサンラム、モロッコの金融グループのサハムグループと損害保険事業において包括業務提携契約を締結。
住友商事 モロッコ 2017年9月 モロッコ最大の商業銀行アティジャリワハ銀行とアフリカ諸国での新規事業開拓を共同検討する覚書締結。
インド 2010年12月 インドのエンジニリング会社ワバックと水事業で提携し、エジプトなどで新規の水事業を開発。
三井物産 米国、南アフリカ 2017年5月 グーグル、南アの通信系投資ファンド、国際金融公社(IFC) と光ファイバー網を用いた高速通信事業を手掛ける企業に共同出資。
豊田通商 フランス 2016年10月 ボロレ・トランスポート&ロジスティックス(ケニア)、日本郵船と共同でケニアにおける完成車物流会社を設立。
フランス 2013年5月 子会社のフランスの商社CFAOがカルフールとアフリカでのショッピングセンターの展開で提携。
本田技研工業 アラブ首長国連邦 2013年2月 ドバイの自動車販売会社トランスアフリカ・モーターズと提携し、ケニアでの四輪車販売を加速。
注:
表中の企業は必ずしも文中のヒアリング先と一致しない。
出所:
各社プレスリリースより作成

連携特有の難しさも

連携の難しさについては、コンプライアンス意識の相違やどちらが事業を主導するかで主張が食い違い、折り合いがつかないことなどが指摘されている。アフリカでは現地の法制度が未整備であることも多く、現地法に照らして判断できないことも企業間の見解の相違を生じさせている。

生産現場では、賃上げや労務管理に対する考え方の違いなどが職場での摩擦を生み、ひいては従業員による労働争議を招いたといったケースも聞かれた。こうしたトラブルが発生した場合、アフリカでは調停制度が機能していない国も多く、問題解決を難しくしている。

実際の企業連携では、相手側の経営方針も重要な要素となる。レポート「第三国企業に聞く日系企業との連携に対する期待」では、英国、フランス、ドイツ、トルコ、インド企業のアフリカ展開と日系企業との連携意欲について、ヒアリング結果の要約を紹介する。

なお、インタビューの全文、および本稿に掲載した国以外での企業インタビュー結果については、ジェトロ調査レポート「主要国企業のアフリカ展開と日本企業との連携可能性(2018年4月)」を参照されたい。

執筆者紹介
ジェトロ展示事業部展示事業課
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2006~11年)、企画部企画課(2011~13年)、ジェトロ・ラゴス事務所(2013~2015年)、ジェトロ・ロンドン事務所(2015~2018年)を経て、2018年4月より展示事業部展示事業課勤務。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課 課長代理
高崎 早和香(たかざき さわか)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ熊本、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2007~2012年)を経て現職。共著に『FTAガイドブック』、『世界の消費市場を読む』、『加速する東アジアFTA』など。