特集:アフリカ進出における現地・第三国企業との連携可能性第三国企業に聞く日系企業との連携に対する期待

2018年7月13日

英国企業へのインタビュー

ディンツ・インターナショナル(サプライチェーン・プロバイダ)
最高経営責任者(CEO)ジョフリー・ドマウブレー氏

当社はいわゆる日本の商社に相当する。アフリカの鉱山向けに物資を調達し、輸送・通関・倉庫保管を行い、現場に届ける。英国輸出信用保証局(UKEF)のスキームでファイナンスも供与する。主要顧客は金鉱山会社ゴールドフィールズ・ガーナだ。鉱山会社の調達規模は大きく、かつ幅広い物資が必要だ。機械類、通信機器、3,000人分の食料、医師、運動器具まで、まるで小さな村をつくるようなものだ。鉱山での実績から、当社のビジネスモデルはあらゆる業種や商品で通用すると言える。

最重点地域は西アフリカで、戦略的ハブはガーナとコートジボワールだ。カメルーン、ナミビア、モザンビーク、ケニア、タンザニアも重要市場。顧客は17 カ国におり、物理的な拠点構築については検討中だ。日本企業との連携では、鉱山開発を行う企業には、同社の予算枠と品目リストに沿った物資を納入できる。アフリカで商品を売りたい企業であれば、われわれの顧客網が使える。その商品を当社の現地倉庫に保管し、潜在顧客への販促を担うことも可能だ。UKEF は基本的には融資ではなく保証供与なので、日系の銀行や金融機関と付き合う用意もある。

執筆者紹介
ジェトロ展示事業部展示事業課
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2006~11年)、企画部企画課(2011~13年)、ジェトロ・ラゴス事務所(2013~2015年)、ジェトロ・ロンドン事務所(2015~2018年)を経て、2018年4月より展示事業部展示事業課勤務。

フランス企業へのインタビュー

ヴェオリア(資源管理会社)
アフリカ・中東副社長 オペレーション担当 マルチーヌ・ヴュリエルム氏

中東アフリカ地域への進出は26 年前にさかのぼる。域内での雇用は1万2,710 人(2016年末時点)。アフリカでは文化、宗教に加え、意思決定プロセスの相違にも理解が必要だ。交渉で重要なのは、相手の良い聞き手になること。日本企業とフランス企業はともに歴史や現地事情を重視しながら、イノベーションを志向するという共通点がある。アフリカでの日本企業との連携は十分考えられる。

ブイグ建設(建設・メディア・テレコム)
ビジネス開発部長 アラン・デカン氏

アフリカ市場への進出は約40 年前。1986年に域内で広く展開する道路建設コラスを傘下に収め、進出を加速させた。現在は20カ国近くで事業を手掛ける。日本企業とはアジアで連携した実績がある。アフリカでも小規模な都市交通の開発や、橋の修復プロジェクトで協力の余地がある。日本企業との連携では、コンプライアンス重視の共通認識があること、人材育成や技術移転を視野に入れた投資が可能なことが利点だ。

スナ・デザイン(独立型街灯の開発・製造)
最高経営責任者(CEO) トマ・サミュエル氏

2010年設立の当社は、太陽光とLED を利用した独立型街灯を開発・製造するスタートアップ企業。当社製品は気温40℃の環境下で10 年間メンテナンス不要の強靭性を有する。世界43 カ国で8,000カ所に設置され、25 万人に照明を提供する。アフリカでは22 カ国で展開し、総売上高の8割を占める。当社製品を用いれば、電力の自給自足が可能だ。このため、日本の電気機器メーカーなどが当社と組めば、無電化地域でも事業展開できる。

執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及び仏語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。

スイス企業へのインタビュー

エナジー・コンサルティング・グループ(ECG)(エネルギー関連コンサルティング)
パートナー ダビド・オーザン氏

1999年設立のECGは電力関連の各国の規制づくりや、発電事業、電力グリッド、電力小売り・供給など、電力事業のバリューチェーンを網羅し、さらにエネルギー効率化や、戦略策定、M&A、デューデリジェンスまで幅広い事業を行う。アフリカは重要市場で、これまで16カ国で25件のプロジェクトを実施してきた。欧州では改修案件はあっても新規案件が少なく市場は縮小しているが、アフリカ市場は活況だ。難しい市場だが、将来的に重要な市場になることはほぼ確実で、最後の残された市場とみている。

日本企業がアフリカに進出する場合、アジアとアフリカの文化の違いを認識する必要がある。アフリカはよく知らなければ難しい市場で、交渉の仕方も異なる。当社は中国企業や韓国企業、日本企業など、アジアの企業とも付き合いがあるので、両者の文化の違いを理解しており、アジアとアフリカの間の格差を埋める懸け橋となり得る。日本のブランドはアフリカで信頼度が高い。日本企業との協力も積極的に検討していきたい。

イノックス・キャピタル(資産管理会社)
最高財務責任者(CFO) イワン・アガベコフ氏

当社はスイス金融市場監督局(FINMA)の認可を受けた資産管理会社で、2004年に創業し2006年に最初のファンドを設立した。旧ソ連諸国やサブサハラアフリカを中心に、コモディティービジネスを展開する企業に対して運営資本を供給している。主にコーヒー、カカオ、メイズ、大豆、落花生、ゴマなどの農産物が対象。アフリカではアビジャンとヨハネスブルクに拠点を有し、特にコートジボワール、ガーナ、ブルキナファソを得意とする。リベリアや南部アフリカ諸国でも経験がある。

日本企業との共同投資など、前向きに検討したい。アフリカから農産物を輸入したい日本企業があれば、そのバリューチェーンへの投資に関心がある。ファイナンスや調達・物流経路の組成の面でも協力できる。現地生産者ネットワークも有している。アフリカに農場を設けて農産品を生産したい企業があれば、相談に乗りたい。企業にノウハウやスキルがあっても、銀行が投資支援をしないケースは多い。われわれはそういう案件に関与していきたい。

執筆者紹介
ジェトロ展示事業部展示事業課
佐藤 丈治(さとう じょうじ)
2001年、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2006~11年)、企画部企画課(2011~13年)、ジェトロ・ラゴス事務所(2013~2015年)、ジェトロ・ロンドン事務所(2015~2018年)を経て、2018年4月より展示事業部展示事業課勤務。

トルコ企業へのインタビュー

アイカ・アディス・テキスタイル・アンド・インベストメント(繊維)
社長 ユスフ・アイデニズ氏

2010 年にエチオピアに工場を設立。現地従業員7,000 人を雇用し、輸出額はエチオピアの繊維製品輸出の約半分を占める。輸出先はドイツ、フランス、トルコ、中国、イタリア、米国が中心。日本の大手子供服チェーンにも輸出している。進出後の道のりは決して平たんではなかった。さまざまな苦労があり、とても一言では語れない。エチオピアのみならずアフリカ諸国の大きな問題は、政府が非常に官僚的で、諸手続きなどがスムーズに進まないことだ。

日本企業とは繊維分野に限らず、取引や連携を強化させたい。真剣にエチオピアでの投資やビジネスを考えている企業に対しては、われわれの経験と現地政府とのネットワークを喜んで提供したい。

ヤプ・メルケジ(総合エンジニアリング)
会長 エルシン・アルオウル氏

アフリカでの受注総額は、これまでに50 億ドルを超える。モロッコ、アルジェリアでのトラム、アルジェリア、エチオピア、タンザニアでの鉄道、スーダンでの橋、工場施設やショッピングモール建設など、受注件数はこの15 年で15件を超える。特にタンザニアで進行中の鉄道プロジェクトは、将来的にはウガンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国までつながる2,200キロの一大プロジェクトだ。

アフリカでは、迅速な決断とリスクを取る覚悟が求められる。以前、日本企業とのコンソーシアムでドバイ・メトロプロジェクトに参画した。その経験から、日本企業がアフリカで仕事をするのは難しいと思う。ただ、日本企業の仕事に対する姿勢、真面目さ、技術や遂行能力は素晴らしい。日本とトルコはお互いが足りないところを補完できる関係にある。迅速な決断とリスクを日本企業が理解した上で、機会があればぜひ連携したい。

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所長
村橋 靖之(むらはし やすゆき)
1989年、ジェトロ入構。1993年8月~1997年4月ジェトロ・クアラルンプール事務所所員、1999年6月~2003年11月ジェトロ・テルアビブ事務所所長。2003年11月~2009年6月ジェトロ本部海外地域戦略主幹として中東・アフリカ地域を統括。2009年6月~2013年6月ジェトロ・リヤド事務所長、2015年8月よりジェトロ・イスタンブール事務所長。長く中東地域と日本とのビジネス促進に関わる。現職ではトルコに加え、コーカサス、中央アジア地域も所管する。

インド企業へのインタビュー

アポロ・ホスピタル(病院経営)
企業開発部副社長兼国際ビジネス部門長 ハリンダ―・シン・シドゥ(Dr.)氏

1983 年にチェンナイで創業した私立総合病院。海外からの評判も高く、メディカル・ツーリズムでは120 カ国以上から患者を受け入れている。この多くがアフリカからの患者だ。また、東アフリカを中心に域内7ヵ国の政府と覚書(MOU)を締結している。現地の医師や介護人材を対象とした各種研修を実施している。インド外務省の補助を受け、渡航費など無料で100 人以上の医師をアフリカから受け入れたこともある。域内での病院建設の実績はないが現地政府から要請があり、ここ1、2年で計画が進む可能性がある。

日本ブランドの認知度はトヨタを始め、アフリカで一定の水準にある。日本の製品や設備は高品質で高い技術力に支えられているが、その分コストが高い。アフリカでは品質よりコストを重視する傾向があり、今はまだ現地のニーズにマッチしないかもしれない。一方、現地患者の給与水準がその価値を見いだすレベルまで底上げされれば、ニーズは必ずあるだろう。

ラーセン・アンド・トゥブロ(L&T)(建設・エンジニアリング)
副社長兼アフリカ部長 ラフール・シッカ氏

インド最大の建設・エンジニアリング企業で、従業員数は5 万人以上。アフリカでは、アルジェリア、エチオピア、ケニア、タンザニアなどでの送配電施設の建設を手掛ける。南アフリカ共和国は子会社を通じた金融向けサービスを提供。モーリシャスではメトロ事業に参画する。インド人は移民としてもアフリカで100 年以上の歴史がある。現地のインド人コミュニティーに話を聞きに行けば、ビジネスの勘所を押さえることができる。

日本企業との連携では、技能開発、ヘルスケア、インフラなどの面でシナジーを発揮できる事業を模索している。日本の高い技術力とインドのアフリカでの経験とプレゼンスの高さを活用し、共通のビジョンが実現できるだろう。インドでは、双日(貨物専用鉄道関連工事)や三菱重工業(発電プラント事業)と連携実績がある。これまで構築してきた日本企業との良好な関係を、アフリカビジネスにも生かしていきたい。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課を経て、2015年7月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。

南アフリカ共和国企業へのインタビュー

アクトム(電気機械)
グループCEO メルヴィン・ナイドゥー氏

アフリカ最大の総合電気機械メーカーで、従業員はグループ全体で7,500 人。南部アフリカに43 事業所、44 製造・サービス・修理拠点、41 配送拠点を持つ。産業用の機械設備、高電圧機器、変圧器の製造・販売・保守・修理のほか、エンジニアリングサービスを提供する。南ア電力公社エスコム向けの発電所建設案件などを請け負う。日本企業はここ数年大型インフラプロジェクト案件に投資しており、連携の可能性は高い。例えば、調達などでEPC 契約(設計・調達・建設)を提案する際、当社との協業が可能だ。

当社はアフリカの文化、ビジネス習慣、法慣習などを熟知している。近年は中国、インド企業がアフリカ市場に積極的に進出しているが、同時にその多くが撤退する姿も目にした。制度変更や政権交代など、突発的な出来事への対処で苦労しているようだ。また、現地での資材調達や大型機械の輸送や物流の面で、現地のサービスをうまく利用できていない。この点、当社は数十年に及ぶ経験で培ったネットワークを持っており、それが強みだ。

インキュベータ(通信・IT サービス)
社長 デニス・アームストロング氏

1995年設立で従業員は450人。電子メディアを通じた商品マーケティングのほか、顧客データ分析、ウェブアクセス解析、広告の効果測定、データ通信量分析、IoT(モノのインターネット)事業を手掛ける。この分野ではアフリカ最大で、かつ競合相手は域内にほとんど存在しない。顧客は3,000 社に上り、地場の通信・金融大手企業のほか多国籍企業からマーケティング業務を請け負う。インドにカスタマーサービス業務を担うコールセンターを設置している。

技術面で外国の競合他社に大きく勝るわけではないが、現地でのノウハウや知識を提供して付加価値を高めている。例えば、個人情報保護法などが未整備な国に進出する場合、規制や法的な面でのリスクが予見できないことが参入障壁となる。当社は過去の経験から事業運営のノウハウが蓄積されており、こうした場合でも躊躇する必要がない。日本企業との連携では、当社のアフリカでのオペレーションノウハウを共有できる。逆に当社はアジア市場への進出を検討しており、その点から日本企業との連携は魅力的だ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課 課長代理
高崎 早和香(たかざき さわか)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ熊本、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2007~2012年)を経て現職。共著に『FTAガイドブック』、『世界の消費市場を読む』、『加速する東アジアFTA』など。

インタビューのフルバージョン(13カ国45社・団体)は、「主要国企業のアフリカ展開と日本企業との連携可能性(2018年4月)」を参照されたい。