特集:どうする?世界のプラスチックプラスチックはもういらない!?(東南アジア・南西アジア)

2019年1月10日

※東南アジア・南西アジアの輸入規制状況ついて、2019年6月18日記事「東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化、日本の輸出量は減少」を参照


「漂流」する廃プラスチック。2017年末に中国が輸入を禁止して以降、代替地となっていた東南アジア各国でも、輸入制限措置が取られ始めた。プラスチック製品の利用規制についても、東南アジア・南西アジア各国で禁止・制限する国は多い。高まる「脱プラスチック」の機運にあるアジア各国、そのプラスチック事情を追う。

(※本稿は2018年10月4日記事「東南アジアでも廃プラスチックの輸入禁止へ」を 基に、一部情報をアップデートしたもの)

締め出される廃プラスチック

廃プラスチック(以下、廃プラ)が行き場を失いつつある。東南アジア各国では、廃プラの輸入制限が相次ぎ、2018年に入ってからマレーシア、タイ、ベトナムの3カ国で新たな輸入制限措置が取られている(表1参照)。

表1:東南アジア・南西アジア諸国の廃プラ輸入規制
内容
マレーシア 2018年7月から3カ月停止されていた輸入許可証(AP)を、許可基準を厳格化した上で10月から再開。
タイ 一部の港で廃プラ積載コンテナを荷揚げ禁止。2021年までに全面輸入禁止の方針。
ベトナム 廃プラを含む輸入廃棄物の検査管理を強化。輸入許可基準も厳格化。
ラオス 輸入制限・禁止を検討中
カンボジア
バングラデシュ
輸入禁止品目に指定
インド
インドネシア
フィリピン
輸入制限品目に指定
出所:
各種報道・各国政府発表資料を基にジェトロ作成

事の発端は中国だ。2017年12月31日、「海外ごみの輸入禁止と固形廃棄物輸入管理制度改革の実施計画」が施行され、廃プラを含む環境への悪影響が大きい資源ごみの中国への輸入が禁止された。1992年から2016年までの廃プラの全世界輸入量で、中国は約45%を占める輸入大国だったことから、輸出者に大きな衝撃が走った。

中国の輸入禁止令は東南アジア各国に大きな影響をもたらした。各国・地域の廃プラ輸入量をみると、2018年になってから軒並み増加していることが分かる(図1参照)。中国の輸入禁止の後、東南アジアが輸出先の代替地となっているのだ。

図1:アジア各国・地域の廃プラ輸入量比較(同期比)
マレーシア、タイ、台湾を中心に、2018年に入ってから廃プラスチックの輸入量が急増している。
出所:
グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

9月時点で日本の輸出先1位になっているマレーシアは、国内で廃プラを輸入する114の企業・工場に発行した輸入許可証(AP)を、7月23日から3カ月間停止する措置を取った。10月23日からはこの措置の解除とともに発行が再開されたが、従来の申請条件に加えて、保管場所の収容能力の証明や輸入量に応じた税金の納付など、新たな条件が追加され、輸入許可基準が厳格化されている。

ベトナムでは、ホーチミン市のカットライ港とヒェップフック港の2港で、港湾管理会社が廃プラの受け入れを6月1日から一時制限する通知を出した。7月に廃プラを含む輸入廃棄物の管理強化が行われ、10月末には輸入許可基準も厳格化された。その結果、カットライ港などでは廃プラが約7万トン滞留しているようだ(9月末時点)。さらに、フック首相は7月25日の閣僚会合で、輸入割り当ての記載がない許可証の更新と廃棄物輸入ライセンス新規発行の禁止の必要性を強調していることから、輸入規制の一層の厳格化が行われる可能性が高い。

タイでは7月、バンコク港での廃プラや電子廃棄物などを積載したコンテナの荷揚げを禁止した。さらに、ジェトロが工業省工場局に問い合わせたところ、当局がプラスチックごみの輸入ライセンスの発給を一時停止していることが分かった。政府は今後、輸入枠の設定など段階的に輸入量を制限し、2021年までに輸入を禁止する方針を検討している。日本をはじめとする世界からの大量の廃プラ輸出を受けて、タイ、マレーシア、ベトナムの3カ国は輸入制限措置をとっているのだ。措置の効果は着実に出ており、日本から3カ国への廃プラ輸出量はいずれも減少傾向にあり、中でもタイの減少幅が最も大きい(図2参照)。

図2:タイ・マレーシア・ベトナムへの日本の月別廃プラ輸出量
マレーシア、タイ、ベトナムは急増する廃プラスチック輸入を受けて、それぞれ2018年7月下旬、7月初め、6月初めに輸入制限措置をとった。結果、日本からの廃プラスチック輸出量が減少している。
出所:
グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

他方、カンボジアとバングラデシュでは、廃プラは貿易管理品目に指定されており、従来から輸入禁止になっている。インド、インドネシア、フィリピンでは輸入制限品目に指定されているため、担当省庁から輸入許可を得る必要がある。また、ラオス商工省はジェトロの問い合わせに対し、天然資源環境省と商工省の間で「プラスチックのリサイクル処理工場の新規建設許可の停止と、廃プラ材の輸入停止が議題に挙がっている」と回答。輸入制限・禁止が検討されているようだ。

こうした一連の輸入制限政策で、ビジネスは少なからず打撃を被っている。マレーシアでリサイクル事業を行う地場企業A社はAPが停止された際、ジェトロの電話取材に対して「工場が操業不能になった」と話した。前述のラオス商工省担当者も「登録されている68社のプラスチックリサイクル処理企業の存続が危うくなるため、輸入停止については時間をかけて協議する」と述べている。

日本の技術を生かし、国内循環を目指す

東南アジア各地からも締め出された廃プラはどこへ向かうのか。かつての中国に代わる輸入大国が出てくるとは考えにくい。2018年上半期の米国や日本の廃プラ輸出量は前年同期比で約30%減少していることからも、行く着く先は原点回帰、国内処理になるのではないだろうか。

廃プラの利用先として注目されているのが、RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel)やフラフと呼ばれる燃料だ。両者ともに、廃プラや紙くずといった廃棄物を固めてつくられるが、製造過程で熱を加え、圧縮成型された固形燃料がRPF、フィルム状に破砕されたものを燃料化したのがフラフ燃料と呼ばれる。その発熱量や価格の低さ、石炭と比べて二酸化炭素の排出量が少ないことから、石炭の代替燃料としての可能性を有しており、大手製紙会社や鉄鋼会社などで既に利用されている。

日本で培った処理技術を生かして海外進出する企業もある。グーン(本社:神奈川県横浜市)はフィリピン・セブ島でこれまで埋め立てられるだけだった廃プラに着目し、2017年5月からセブ州コンソラシオン市で廃プラ処理事業を開始。フラフ燃料を製造し、現地のセメント会社へ販売している。同社はインド・グジャラート州での再生プラスチック品製造の事業化調査のサポートも行っている。

ベトナムでは、市川環境エンジニアリング(本社:千葉県市川市)が廃棄物処理やリサイクル事業を展開している。同社は2016年にベトナム北部フンイエン省に現地法人を設立。RPFの製造や販売、廃棄物処理のコンサルティングを行っている。さらに、ベトナムで家庭や商業施設から排出されるごみの多くは埋め立て処理されている状況を受け、産業廃棄物を含めて総合的に処理する「エコタウン構想」も同社は進めている。

環境への配慮という観点から、プラスチックごみを適切に処理する技術や設備の需要は従来から存在していた。廃プラの輸入規制を受けて、国内循環への圧力が高まる中、その需要は今後、アジア各国でますます増大していくだろう。

利用規制は域内各国で

適切に廃棄されなかったプラスチック製品は海洋を漂流し、一部はマイクロプラスチックとなって海の生物に被害をもたらす。人類にも無縁ではなく、タイ、インド、フィリピンなどでは、投棄されたビニール袋が排水溝にたまって洪水を引き起こしている。そのため、世界中で「脱プラスチック」のうねりが巻き起こっているのだ。

マクドナルドやスターバックスなど、グローバルに事業を展開する外食企業が相次いでプラスチック製ストローの全廃方針を発表している。アジアの企業も同様だ。タイの小売り大手セントラル・グループは傘下のセントラルフードホールとトップスで、ストローをプラスチック製からコーンスターチ製に切り替えた。フィリピンの食品大手ユニバ―サル・ロビナも、プラスチック製品の使用量を削減する方針を発表している。


ホテルでもプラスチック製ストローの利用を控えるよう
呼びかけている。(スリランカ・コロンボにてジェトロ撮影)

こうした動きは企業だけではない。各国政府もプラスチック製品の利用規制を打ち出している。インドのモディ首相は6月、使い捨てプラスチックを2022年までに全廃すると発表したが、西部マハーラーシュトラ州は3月23日、これに先駆けるかたちで「プラスチックおよびポリスチレン製品の製造、使用、販売、移動、取り扱い、保管に関する通達」を出し、この通達は3カ月後の6月23日から施行された。業界団体などから大きな批判もあったが、現状では流通するプラスチック製品などがなくなりつつある。ファストフード店ではドリンクを注文しても、ふたやストローがもらえなくなった。クリーニング店でも、これまでは日本と同様に、ビニールのカバーを返却時に掛けていたが、これがなくなった店もある。

フィリピンの主要都市では、以前からレジ袋などのプラスチック利用を禁止する条例が制定されている。マニラ首都圏のマカティ市やケソン市では利用規制が、ミンダナオ島ダバオ市ではリサイクル可能なプラスチック袋を当局が推奨、観光地として有名なセブ市でも利用規制法案が審議されている。インドネシアでは、バンジャルマシン市が使い捨てプラスチックを利用禁止にしており、他の地方都市でも利用規制草案の作成が検討されている。スリランカやバングラデシュでも、レジ袋の製造、販売、使用のすべて、またはいずれかが禁止されている。

廃プラは目的地を見失い旅路をさまよっているが、中国に代わる一大集積地を見つけることはできないだろう。タイやベトナムでは、国内にリサイクル工場を新設しようとする動きが活発化しているようだ。しかし、輸入制限措置が解かれる見込みは薄く、各国とも現在より厳格化されていくだろう。プラスチック利用規制についても同様の方向性にある中、企業は最悪の事態を想定して行動を決定することが望ましいと思われる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。