特集:どうする?世界のプラスチック 世界で一番「エコ」な大陸か?(アフリカ)
アフリカのプラスチック規制を巡る現状と企業活動への影響

2019年1月10日

アフリカ大陸では54カ国中、過半数の30カ国がプラスチック袋の規制を導入するなど、「エコ」政策が広がっている。南アフリカ共和国(以下、南ア)は、2003年に世界でもいち早く規制の導入に踏み切った。ケニアとルワンダには、プラスチック袋を使用すると「罰金もしくは禁錮刑を科す」という厳しい罰則もある。後発開発途上国(LDC)のエリトリアなどでも、同様の規制がなされている。この背景には、ごみ処理問題の解決を目指すとともに、環境問題への取り組みをアピールしたい各政府の狙いがある。一方、極端な規制や急な政策変更により、企業活動や個人への影響も懸念される。アフリカで広がるプラスチック袋規制の実態、背景にあるごみ処理問題、企業への影響について報告する。

域内30カ国以上がプラスチック袋の使用・製造・輸入を規制

アフリカでは、2003年に南アが初めて規制を施行したことを皮切りに、他国でも導入が進み、2013年から2018年までの5年間には20カ国が相次いで法律を施行した。アフリカ54カ国中、過半数の30カ国がプラスチック袋を使用・販売・製造・輸入規制の対象としている(ジェトロ調べ、表参照)。うち、国内全域で「禁止」の対象としている国は24カ国にも上る。残り6カ国のうち、南ア、ボツワナ、ジンバブエの3カ国は禁止または課税の対象とし、ソマリア、エジプト、チャドの3カ国は一部地域で自治体が条例を制定している。使用・販売・製造・輸入規制の取り締まりの対象は企業から個人にまでに及ぶ。

表:アフリカ諸国のプラスチック袋規制一覧
規制の種類 国(施行年)
プラスチック袋の輸入・製造・販売・使用を禁止または課税対象に 南ア(2003年)、ボツワナ(2007年)、ジンバブエ(2010年)
プラスチック袋の輸入・製造・販売・使用を禁止 エリトリア(2005年)、タンザニア(2006年)、ルワンダ(2008年)、モロッコ(2009年)、ウガンダ(2010年、注1)、マリ(2013年)、モーリタニア(2013年)、コートジボワール(2014年)、カメルーン(2014年)、ブルキナファソ(2015年)、ガンビア(2015年)、ニジェール(2015年)、マダガスカル(2015年)、マラウイ(2015年)、モザンビーク(2016年)、モーリシャス(2016年)、セネガル(2016年)、ギニアビサウ(2016年)、カボベルデ(2017年)、ケニア(2017年)、セーシェル(2017年、注2)、チュニジア(2017年)、エチオピア(2018年)、ベナン(2018年)、コンゴ共和国(施行前)
プラスチック袋の 輸入・製造・販売・使用を一部地域で禁止 エジプト・フルガダ市(2009年)、チャド・ンジャメナ市(2010年)、ソマリア・ソマリランド地域(2015年)
(参考)
プラスチック袋の規制を検討
ナイジェリア
注1:
2015年に製造規制を一部緩和。
注2:
プラスチック製の食器、箱なども規制対象。
出所:
各国管轄省庁、管理局、報道メディア、国連環境計画を基にジェトロ作成

都市人口や中間層の増加に伴い、ごみ問題が喫緊の課題に

国連環境計画(UNEP)と南アの科学産業研究所(CSIR)が2018年6月に発表した、アフリカの廃棄物処理に関する調査報告書によると、2012年に同地域で発生したプラスチックを含む固形廃棄物は推定1億2,500万トンに及び、2025年には倍増すると予測されている。同報告書によると、約9割の廃棄物が現在、不適切に処理されており、アフリカは人口増加、都市化、中間層の増加、生活の変化による廃棄物増加の問題に直面している。

過去20年間で、アフリカ社会には大きな変化が生じた。2000年代以降のアフリカの実質GDP成長率は毎年、プラス成長を記録している。大半が農村部で農業を営んでいた農民は、より良い仕事と収入を求めて、都市部に流れた。結果的に、2015年には人口の40%が都市部に暮らし、2025年には45%に増加するという予測もある。従来の自給自足から、食べ物を「買う」生活への変化が起こったのだ。格差の問題はあるものの、経済成長に伴い、中間層は拡大傾向にある。そして、急速に拡大する消費に伴い、ごみの量も増加したが、処理能力がこれに追いつかず、約9割のごみは適切に廃棄されていない、96%のごみがリサイクルされていない状況(UNEP、CSIR報告書)にある。

図:アフリカ地域の人口、都市人口率、中間層比率
人口(単位は百万人)、都市人口率(単位は%)は1990年から2015年の推移と2020年、2025年の推定値を示す。中間層比率(単位は%)は1990年から2010年までの推移のみを示す。いずれの指標も増加傾向にある。中間層比率は1990年で27%、2010年には34.3%に。人口は2015年時点で11億9,400万人、2025年には15億2,200万人となるとの予測。また、都市人口率は2015年時点で41.2%だが、2025年には45.9%となると予測される。
注:
人口、都市人口率の2020、2025年の数値は推計値。
出所:
人口、都市人口率は国連「世界人口予測」、中間層比率はアフリカ開発銀行を基にジェトロ作成

南ア政府はプラスチック袋を禁止・課税対象に、民間は代替素材の活用に注力

1990年代の南アでは、道端に投棄されたプラスチック袋が街に溢(あふ)れていた。英国放送協会(BBC)は、風で飛ばされるプラスチック袋が「新しい国花」とやゆされていたことを紹介した。見かねた政府は他の先進国、新興国に先んじて業界団体と交渉の上、2003年にプラスチック袋規制を導入した。現在、厚さ24ミクロン未満のプラスチック買い物用袋および平袋の製造、販売、使用が禁止されており、24ミクロン以上のものが環境税の対象となる。小売企業が税金を納める仕組みで、袋24枚につき0.08ランド(約0.61円、1ランド=約7.6円)が課せられる。一方、こうした規制が存在するにもかかわらず、ケープタウン大学の研究チームの調査によると、プラスチック袋は年間80億枚使用されている。袋100枚でも3円に満たない課税では抑止効果が少ない、と指摘されており、UNEPは規制の効果を「限定的」としている。

規制があるにもかかわらず、プラスチック袋の利用が減らない中、南アの大手企業は自主規制に乗り出している。小売り大手ショップ・ライトは2018年10月に、再利用可能プラスチック袋を導入することを発表した。国内168、アフリカ域内20の店舗を持つレストランチェーンのオーシャン・バスケットは店内でのプラスチック・ストロー使用を禁止。同社は「プラスチックは最悪だ」と書かれたポスターの作製・配布、ハッシュタグ#refusethestraw(ストローは断ろう)を使ったSNS戦略で、消費者に環境に優しい行動を働き掛けている。国内100以上のホテルを経営するホテル業大手ツォーゴ・サンも、プラスチック・ストローの使用禁止を発表している。

また、CSIRの研究グループは、メイズ(トウモロコシ)と砂糖から作られるバイオプラスチックを開発したことを発表。このプラスチックは水で溶け、また土に埋めると微生物により分解され、環境に優しい点が注目される。未分解性プラスチック袋の利用を禁止している小売業大手ウールワース、ピックアンドペイのスーパーマーケットで試験導入されている。ただし、通常のプラスチック袋より2~3倍のコストがかかる点が、課題として残る。

紙袋が浸透したルワンダは規制拡大に向けて動き出す

東アフリカに位置する内陸国のルワンダは、2008年にプラスチック袋の国内製造、輸入、使用を禁止した。規制開始から10年がたつ同国の市場やスーパーマーケットでは現在、プラスチック袋の代わりに、紙袋が無料で配布されている。また郊外の市場では、コメ袋からリサイクルされたエコバックがおよそ300ルワンダフラン(約36円、1ルワンダフラン=約0.12円)で販売されている。

また、2018年に入り、ルワンダではプラスチック袋だけでなく、未分解性プラスチックで作られた容器や食器も規制の対象とする動きが見られる。アフリカではインド洋の島国セーシェルや、タンザニアの島しょザンジバル自治政府のみで敷かれている規制だ。ルワンダ環境管理局によれば、プラスチック規制は3段階で順次、導入される予定。第1段階は2008年に制定した袋のみの規制、第2段階は未分解性プラスチックの容器やストローなどの食器を規制対象とする。政府案が国会に提出され、現在、審議中だ。第3段階はペットボトルを対象とする予定だが、同国では現在、ペットボトルの代替製品がないため、民間事業者との協議を重ねた上で、規制に乗り出す方針だ。

ルワンダは、国連が定めるLDCに指定されている。同じくLDCのエリトリアやウガンダなど18カ国にも、規制する法律がある。一方、地域大国であるナイジェリアは、いまだ検討中だ。ちなみに、ルワンダがプラスチック規制を徹底する理由として、国のイメージの改善を図る狙いもある。同国は1990年代の内戦、ジェノサイド(大虐殺)などのマイナスイメージが強い。投資や観光客を呼び込みたい政府は「清潔で、健康的で、豊かな国」ビジョンを掲げ、月に一度、地域住民が集まって清掃活動(ウムガンダ)を実施するなど、政府主導の環境保全活動に取り組んでいる。また、各自治体が十分なごみ処理施設を有しておらず、ごみの量自体を減らす狙いもある。国連人間居住計画(UNH)は2008年に、同国の首都キガリをアフリカで最も清潔な街として、名誉賞を授与している。

ケニアは厳しい規制で注目されるが、密輸の懸念も

ケニアは2017年に、プラスチック袋の製造、輸入、包装、使用を禁止した。違反した個人または団体には、200万~400万ケニア・シリング(約220万~440万円、Ksh、1Ksh=約1.1円)の罰金、または1~4年の懲役、もしくはその両方が科せられ、欧米メディアから「世界一厳しい」と称される。プラスチック袋の製造も規制対象となるため、ケニア製造業者協会(KAM)は、製造業者170社の経営が懸念されることと、約6万人規模の失業者が出るとして、反対の声を上げていた。一方、同国小売業界では大手タスキーズ、ナクマット、ウチュミ、クイックマートが規制開始の当日から、紙袋や再利用バッグを有料で販売することによって対応していることが確認されている。

ケニア、ルワンダ、ウガンダが規制を敷いている状況下で、同3カ国が加盟する東アフリカ共同体(EAC)6カ国内で全面的に禁止する法律の制定も議論されている。しかし、現地の「イースト・アフリカン」紙によると、上記3カ国の国境間では密輸が横行している。特に、ウガンダで製造されたプラスチック袋がルワンダで使われていることが報告されている。取り締まりが行き届いていない状況にあり、本格的な議論には至っていない。

プラスチック規制が日系企業に与える影響は限定的か

今のところ、日本企業がこうした規制や罰則の影響を大きく受けた事例は見られない。また、ほとんどの国では医療機器や食品用プラスチックの使用は禁止対象外となっており、医療機器や食品の輸出は引き続き影響はないと考えられる。しかし今後、規制の対象範囲が広がるなどの政策変更があれば、日本企業にとってもビジネスリスクになり得る。万が一、法律違反となった場合、罰則が厳しいことから、企業活動にとって影響が大きくなるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 中東アフリカ課
山崎 有馬(やまざき ゆうま)
2017年4月、ジェトロ入構。2018年10月より現職。