特集:アジア大洋州における米中貿易摩擦の影響約2割が米中貿易摩擦の影響を受けると回答(フィリピン)
米国向け輸出が拡大か

2019年2月22日

ジェトロが2018年10月9日~11月9日にかけて実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、在フィリピン日系企業(回答数:114社)のうち、「保護主義的な動きによる事業への影響」について、「マイナスの影響がある」と回答した企業は15.8%、「プラスの影響がある」とする企業は7.0%だった。一方、43.0%の企業が「わからない」、35.1%が「影響はない」と回答した(図1参照)。

図1:保護主義的な動きによる事業への影響(単位:%)
「分からない」が43.0%で最多。次いで「影響はない」が35.1%、「マイナスの影響がある」が15.8%、「プラスの影響がある」が7.0%の順。

注: 母数は有効回答数(複数回答)。
出所: ジェトロ 2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査

「マイナスの影響がある」と回答した企業のうち、61.1%が海外売り上げに影響が及んでいると回答した。続いて「調達・輸入コスト」が33.3%、「生産コスト」と「国内売り上げ」に影響が及ぶとした企業が22.2%となった(図2参照)。

図2:マイナスの影響が及ぶ主な範囲(複数回答、単位:%)
「海外売上(輸出での売り上げ)」が61.1%で最多。次いで「調達・輸入コスト」が33.3%、「生産コスト」と「国内売り上げ(現地市場での売上)」がともに22.2%と続く。

注1:海外売り上げは、輸出での売り上げ。
注2:国内売り上げは、現地市場での売り上げ。
出所:ジェトロ 2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査

影響が出るかどうかは今後の状況次第

ジェトロ・マニラ事務所が電話取材したところ、日系材料メーカーA社の社長は「中国から米国に輸出している客先企業が、米中貿易摩擦を受けてタイやベトナムなど第三国への移転を検討中だ。移転した場合、調達先変更によって当社製品の不採用の可能性があるため注視している」という。一方、日系部品メーカーB社は「当社の中国工場からの北米向け輸出の関税が上がり、社全体のグローバルサプライチェーンを検討した結果、中国での生産量を減らし、フィリピンを含め東南アジア各国の工場に生産量を拡大している。フィリピン工場での生産量を上げるにあたり、新たな設備投資、人件費、その他さまざまなコストがかさんだ」(担当C氏)と述べた。今後さらに影響が拡大する可能性もありそうだ。なお、「現段階で問題やメリットは生じていないが、今後の状況次第ではプラス・マイナス両方の影響が出る可能性がある」と、複数の日系企業が回答した。

影響を受ける具体的政策については、「米国の対中制裁措置(通商法301条)」を挙げる企業が60.9%、「米国の自動車・自動車部品の輸入安全保障調査(通商拡大法232条)」が30.4%、「中国の米国に対する報復関税(通商法301条に対する対抗措置)」が21.7%、「米国の鉄鋼・アルミニウムを対象とした追加関税賦課(通商拡大法232条)」が13.0%と多かった(図3参照)。

なお、「マイナスの影響がある」と回答した企業に対応を聞いたところ、「分からない」という回答が61.1%と大部分を占めたが、「調達先の変更」を講じる企業が5.6%あった。

図3:具体的に影響を受ける政策(複数回答、単位:%)
「米国の対中制裁措置(通商法301条)」が60.9%で最多。次いで「米国の自動車・自動車部品の輸入安全保障調査(通称拡大法232条)」が30.4%と2番目。

出所: ジェトロ 2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査

国家経済開発庁(NEDA)のペルニア長官は2018年9月、現地紙に対し「米中貿易摩擦により、2023年までの6年間にわたり、電気電子、輸送機械、化学・ゴム製品、鉄類、鉱物性生産品といった製品のフィリピンから米国への輸出が拡大するだろう」とコメントした。また、同長官は、米中貿易摩擦によってフィリピンの米国向け輸出額は、2018年に3,470万ドル(38億1,700万円。1ドル=約110円)増加し、2023年には5,070万ドル増加すると予測した。

執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
坂田 和仁(さかた かずひと)
2007年、ジェトロ入構。産業技術部、沖縄事務所、ソウル事務所、企画部企画課などを経て、2017年より現職。