特集:アジア大洋州における米中貿易摩擦の影響不安と期待が交錯、新たな投資の動きも(バングラデシュ)
米中貿易摩擦による進出日系企業への影響

2019年2月22日

米中貿易摩擦がバングラデシュ進出日系企業に与える影響は限定的といえる。しかし、中国製原材料の高騰を懸念する声や、バングラデシュ製部材の輸出増加への期待も示された。さらに、中国依存からの脱却を目指しバングラデシュに関心を示す日系企業も見られる。米中の貿易摩擦の影響について、ジェトロが実施した調査結果や回答企業へのヒアリングを踏まえて分析する。

「影響はない」が最多

ジェトロが実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(以下、実態調査)」によると、在バングラデシュ日系企業(回答数:37社)のうち、「保護主義的な動きによる事業への影響」について、「影響はない」が42.9%(18社)、「分からない」が35.7%(15社)であった。「影響はない」と回答した企業が多かった背景には、バングラデシュに進出する日系企業の大半が日本向けの輸出を主なビジネスとしていることがある模様だ。一方、「マイナスの影響がある」と回答した企業は16.7%(7社)、「プラスの影響がある」と回答した企業は7.1%(3社)と、マイナスの影響がプラスの影響を上回った(図参照)。

図:保護主義的な動きによる事業への影響の有無(バングラデシュ)
(n=42/複数回答)
「影響はない」が最多の42.9%、次いで「分からない」が35.7%、次いで「マイナスの影響がある」が16.7%、最も少なかったのが「プラスの影響がある」の7.1%となった

注1:母数は、有効回答数。
注2:企業によって、サプライチェーン上、「プラス」「マイナス」の影響が考えられるために、「複数回答」としている。
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

中国製原材料の価格高騰を危惧

「マイナスの影響がある」と回答した企業は、中国から輸入する素材および原料の高騰を危惧する。2016/17年度(2016年7月~2017年6月)のバングラデシュにおける中国からの輸入額は100億ドルを超え、総輸入額の23.3%を占める最大の輸入相手国だ(表参照)。実際、進出日系企業の多くが衣料品の原材料などを中国から輸入する。ジェトロ・ダッカ事務所が今回、バングラデシュ進出日系企業に取材したところ、繊維関連A社は「中国から輸入する原料価格が米国の報復関税により上昇することを懸念している」と漏らした。米国の報復関税により中国の米国向け輸出が減れば、本来米国向け製品で得られるはずだった利益を中国が他国向けの原材料価格に転嫁する可能性を懸念している。

表:バングラデシュの主要国・地域別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
2015/16年度 2016/17年度
金額 金額 構成比 伸び率
米国 6,221 5,847 16.8 △ 6.0
ドイツ 4,988 5,476 15.7 9.8
英国 3,810 3,569 10.2 △ 6.3
スペイン 1,999 2,025 5.8 1.3
フランス 1,852 1,893 5.4 2.2
イタリア 1,386 1,463 4.2 5.6
カナダ 1,113 1,079 3.1 △ 3.0
日本 1,080 1,013 2.9 △ 6.2
合計(その他を含む) 34,242 34,847 100.0 1.8
輸入(CIF) (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
2015/16年度 2016/17年度
金額 金額 構成比 伸び率
中国 9,686 10,193 23.3 5.2
インド 5,509 6,146 14.1 11.6
シンガポール 2,060 2,447 5.6 18.8
日本 1,644 1,735 4.0 5.5
韓国 1,148 1,277 2.9 11.2
インドネシア 1,236 1,150 2.6 △ 7.0
米国 1,012 1,130 2.6 11.7
マレーシア 968 1,056 2.4 9.1
合計(その他を含む) 40,098 43,663 100.0 8.9
注1:
輸入総額には輸出加工区、借款・贈与分を含む。
注2:
2016/17年度は暫定値。
出所:
輸出振興庁およびバングラデシュ中央銀行

他方、「プラスの影響がある」と回答した企業はバングラデシュ製品の輸出増を期待する。機械部品メーカーB社は「これまで中国製で賄ってきた商圏をバングラデシュ製に置き換える動きが社内にある」と明かした。物流C社も「中国からマーケットを奪うチャンスだとする動きが企業の間で見られ始めた」とした。

なお、米中貿易摩擦が表面化する前から、中国の人件費の高騰や環境規制の強まりを受け、衣料品分野ではバングラデシュをチャイナプラスワンの候補地として改めて注目する動きが見られた。これに合わせて、日系衣料ブランドのOEM(相手先ブランドによる生産)をしていた中国企業もバングラデシュに進出し始めている。

中国依存脱却へ、バングラデシュ投資加速

中国がバングラデシュにとって最大の輸入相手国であることは先述のとおりだが、米国は衣料品などを中心に58億ドル超(2016/17年)を輸出する最大の輸出相手国だ。貿易相手としてバングラデシュで強い存在感を示す米中両国だが、同国に進出する日系企業のビジネスの範囲では、このマイナスの影響を直接的に受ける企業は限定的といえるだろう。

他方で、米中貿易摩擦により中国で米国向けに製造している品目の関税率が上昇してしまったため、中国依存からの脱却を目指しバングラデシュを視察する日系企業も現れ始めた。労働集約的な産業の中国離れが進み、バングラデシュを新たな製造拠点として活用する動きが進みつつある。米中両国との経済関係が強いバングラデシュにおいて、米中貿易摩擦はこれを一層後押しする要因となるかもしれない。

執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
古賀 大幹(こが たいき)
2010年、ジェトロ入構。サービス産業支援課、アジア経済研究所研究管理課を経て、2015年8月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 リサーチ・マネージャー
西澤 知史(にしざわ ともふみ)
2004年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ山形、ジェトロ静岡などを経て、2011~2015年、ジェトロ・ニューデリー事務所勤務。2015年8月より海外調査部アジア大洋州課勤務。