特集:総点検!アジアの非関税措置南西アジア最良の結果、その実態は?(スリランカ)

2019年3月15日

スリランカに在ASEAN日系企業から熱い視線が注がれている。2018年10月にシンガポール日本商工会議所、1月にはバンコク日本人商工会議所のミッション団がスリランカを訪問。地域の物流ハブ機能を魅力として進出先候補に挙がる。ハブ機能に磨きをかけるように、シンガポールとの自由貿易協定(FTA)が発効し、ASEANとの貿易環境が整いつつある。一方で、一部のスリランカ進出日系企業からは、輸入制限や基準・認証制度が課題だという声が聞かれた。

南西アジアで最良でも、輸入制限などが課題

ジェトロは2018年10月から11月にかけて、「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(以下、ジェトロ調査)を実施した。「ビジネスを阻害する非関税措置」について回答した進出日系企業28社のうち、10社(35.7%)が「ビジネスを阻害する非関税措置がある」と回答した。そのうち5社が輸入制限を、4社が基準・認証制度などを主な非関税措置として挙げた。「ある」と回答した企業の8割は非製造業だった。「ある」とした企業の割合35.7%は、調査対象国の中で3番目に低く、南西アジアでは最も低い結果となった。

表1:スリランカにおけるビジネスを阻害する非関税措置(複数回答)(-は値なし)
ビジネスを阻害する非関税措置 全体 製造業 非製造業
輸入制限(輸入者登録義務、輸入ライセンス制度、数量規制、輸入課徴金など) 5 - 5
基準・認証制度(強制規格など) 4 1 3
輸出制限(未加工資源の輸出禁止、輸出税など) 2 1 1
外資規制(サービス貿易の阻害) 2 - 2
現地調達(ローカルコンテント)要求、国産品優先補助金など 2 - 2
差別的な税制(関税以外) 2 - 2
セーフガード、アンチダンピング課税 - - -
特恵関税利用時の原産地証明書の否認 - - -
知的財産の侵害(水際での模倣品差し止め措置ができない) - - -
その他 1 - 1
特に問題なし 18 8 10
回答数 28 10 18

注:影響がある項目は複数回答、特に問題なしの場合は他の項目選択不可
出所:「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)

輸入制限に課題を感じる回答企業は全て非製造業だった。スリランカでは、輸入・輸出管理法(1969年制定)の下で、規制品目を除き原則として自由に輸入できるが、複数の企業が課題だとする背景には、基準・認証制度や現地調達要求と密接な関連性があると推察できる。

スリランカ基準機関法(1964年制定)により、スリランカ基準機関(SLSI)は特定品目(注)の輸入に関し、所定の基準仕様に合致させる権限を有しており、SLSIはHSコードに基づき規格検査を行う。その際、特定品目の輸入については、(1)製品の品質証明書の有無、(2)輸入される製品の生産者に関する信頼性および過去の実績を証明する証拠の有無、の2点が必要となる。

「現地調達要求、国産品優先補助金など」に関連する課題についても、複数の情報が得られた。日系建設会社によると、特定の石油製品は元国営企業のセイロンペトロリウムが寡占状態で製造しているため、市場価格は同企業が設定する。同一製品を海外から輸入しようとした際に、「不当に安価」とされ輸入できなかったという。また、「地場企業には製造できない品質というお墨付きを得なければ輸入できない製品がある」と日系物流会社は話す。地場企業でも製造できれば、輸入の必要性がないと判断される可能性があるという。

スリランカは外資に対して開かれているとは言い難い面もある。スリランカの地理的優位性から、南西アジア地域の物流ハブとして機能しているが、物流業に対しては外資規制が設けられている。貨物輸送、海運代理業は原則40%まで、航空運送業、沿岸海運業についてはスリランカ政府が認可した割合まで出資可能となる。ただし、貨物輸送、海運代理業はスリランカ投資委員会(BOI)の認可があれば40%以上の外資出資が可能だ。認可基準は明文化されていないが、BOIによると、投資額の大きさや産業に与える影響などが考慮されるようだ。

事業運営コストの入念な事前調査が必要

スリランカへの輸入時には、関税以外に売上税や物品税など多くの間接税が設けられている点に注意が必要だ。例えば、スリランカに輸入される物品のCIF価格の7.5%が港湾・空港開発税(PAL)として課される(表2参照)。販売時には、輸入業者、製造業者、サービス業者の四半期ごとの売上高に対して2%が国家建設税(NBT)として課される。

表2:日系企業が課題とする輸入時にかかる関税以外の諸税
付加価値税
(VAT)
15%(すべての商品・サービスのうち、免税品目、課税除外対象品目を除く)
輸入税
Import Cess
ゴムを原料とする製品には、税率2%または1キログラム当たり15ルピー(約9円、1ルピー=約0.6円)、天然ゴムは1キログラム当たり25ルピー(約15円)
物品税
Excise Duty
物品(特別規定)税はアルコール飲料、たばこ、自動車など特定品目に課税される
港湾・空港開発税 (PAL) すべての輸入貨物につき、申告されたCIF価格の7.5%

出所:ジェトロ「スリランカの税制」を基に作成

保税地域である輸出加工区(EPZ)の入居企業も、こうした間接税を支払う必要がある点には注意が必要だ。部材の現地調達が難しい状況にもかかわらず、税金、課徴金の多くは輸入品に課せられている。付加価値税(VAT)をめぐっては近年毎年のように税率変更が行われ、一度納めたVATが還付されないとの声もあり、進出企業にとっては大きな負担となっている。スリランカでのビジネスでは、こうした想定外のコストを含めた入念な事前調査が必要だ。


注:
スリランカ基準に合致している場合のみ輸入が認められる輸入品目の一覧表はジェトロ ウェブサイト参照(英語)PDFファイル(106KB)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。