特集:ロシア・デジタル経済政策とスタートアップ生態系企業のロボット技術採用進む

2019年6月19日

モスクワ郊外にあるスコルコヴォ・イノベーション・センターで4月16日、ロボットやAI(人工知能)をテーマとしたフォーラム「スコルコヴォ・ロボティクス」が開催された。2013年から毎年開催されている。

「人類とロボット:現代生活の中でのロボット工学とAI」と題した全体会合では、スコルコヴォ財団のアルカジー・ドヴォルコヴィッチ総裁(ロシア前副首相)が登壇し、ロボット技術の発展には法的枠組みの整備が重要と指摘、同財団がロシアで主導的役割を担っていると述べた。2017年にロボット工学研究所を立ち上げ、スタートアップ企業との協力に取り組む大手銀行ズベルバンクのレフ・ハシス副総裁は、現金取り扱い事務でのロボット導入に着手しており、今後も導入を進め自動化を推進していくことを明らかにした。ハシス副総裁は「ロシアではキャッシュレス化が進んでいるものの、現金の取り扱いが重量で年に10万トンにも上る」と述べた。ドローンを活用した財貨の輸送にも試験的に取り組んでおり、陸上輸送と比べ輸送時間・費用の節減ができたという。ハシス副総裁はドローンについて、「ロシアは広大な土地を持つためポテンシャルがある」と述べた。

ズベルバンクが開発する無人輸送機
(ジェトロ撮影)
ズベルバンクが開発するアーム型ロボット
(ジェトロ撮影)

スコルコヴォの入居者で、鉱業用ロボット開発を行うヴィスト・マイニング・テフノロジイの親会社ヴィスト・グループのドミトリー・ウラジミロフ社長は、4年前からトラック大手のベラルーシ自動車工場(ベラズ)と無人トラックの共同開発に取り組んでおり、最近では石炭大手SUEKが持つハカシア共和国にある炭田に2台の130トントラックを供給した事例を紹介した。

個別のセッションでは、ロボット研究の最新動向や企業での活用事例が報告された。石油大手ガスプロムネフチは、シェレメチェヴォ空港において航空機へ給油する車両に対し航空機燃料を供給する給油ロボットの導入や、アスファルトなど瀝青(れきせい)材料の工場での無人フォークリフトを利用した製品の配送事例を紹介した。同社のアントン・エゴロフ氏は「従業員の安全や、事業の収益性向上に貢献している」と述べた。

検索大手ヤンデックスで自動運転技術を開発するアントン・スレサリョフ氏は、同社の自動運転試験事例を紹介した。同社はロシアに加え、テルアビブ(イスラエル)とラスベガス(米国)の公道で試験運転を行った。テルアビブを選択したのは、自動運転試験ができる法的環境が整備されているほか、土地が起伏に富み、砂嵐が起こるロシアと異なる条件下での試験が可能な点を挙げた。ラスベガスでは、2019年1月の家電展示会「CES」の開催に合わせて試験を実施した。イルミネーションが多い同市内において、センサーが信号のランプを適切に判別できるか確認ができたという。

スレサリョフ氏は、自動運転技術の開発には「ソフトウエアとハードウエアとの連携が重要」と指摘した。自動運転レベル4(特定の場所でシステムが全てを操作)、5(場所の限定なくシステムが全てを操作)を可能とするシステムを開発するため、同社は2019年3月、韓国の現代モービスと協力の覚書を締結した。

今回のフォーラムでは、日本のロボットや製造業向けソリューションに関する技術のプレゼンテーションも行われた。日本の総務省、経済産業省およびIoT推進コンソーシアムによる事業で、ロシアNIS貿易会が実施の支援を行った。プレゼンでは、産業技術総合研究所が日本における介護ロボット開発の経緯や現状、電通国際情報サービス(iSiD)が製造業向けの製品開発プロセス最適化のためのITソリューション、アプリ開発を行うニアがソフトバンクロボティックス開発のロボット「ペッパー」向け接客アプリの紹介を行った。

プレゼンテーションに加え、場内ではズベルバンクのロボット科学研究所によるロボット開発内容や、ロボット関係スタートアップ企業約30社の展示も行われた。

ロボット関係企業の展示風景(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所 次長
浅元 薫哉(あさもと くにや)
2000年、ジェトロ入構。2006年からのジェトロ・モスクワ事務所駐在時に調査業務を担当したほか、農水産輸出促進事業、知的財産権保護事業にも携わる。本部海外調査部勤務時に「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。2017年7月から再びジェトロ・モスクワ事務所勤務。