特集:アフリカ・スタートアップフランス語圏アフリカでも高まるスタートアップ支援(コートジボワール)

2019年7月12日

アフリカのフランス語圏地域でも、スタートアップ企業への注目が徐々に高まっている。2018年には、コートジボワール中小企業促進庁が同国初の公的インキュベーション施設「ドリーム・ファクトリー」をアビジャンに開設した。この施設のプロジェクトアナリストのディアラ氏に、これまでの活動と今後の展望を聞いた(6月7日)


開発が進むアビジャン市街(ジェトロ撮影)
質問:
施設設立の経緯とその目的は。
答え:
中小企業促進庁が管轄する公的インキュベーション施設として2018年8月、アビジャンに開設された。政府も民間も、新しい技術がスタートアップから生まれている事実に着目し、スタートアップの育成・支援を始めている。政府のイニシアチブである当施設もその一環で開設され、コートジボワール国家開発計画の中でも重点施策に位置付けられている。現在、コートジボワールにはスタートアップの統一された定義はない。そのため、スタートアップに対する支援は、2014年3月に制定された「国家中小企業促進政策方針」に依拠する中小企業対策の枠組みで行われている。
質問:
活動内容は。
答え:
コートジボワールの中小企業、スタートアップ・ベンチャー企業、起業家をサポートしている。その活動は大きく3つに分けられる。1つはインキュベーションだ。特に、フィンテック、スマートシティー、アグリテック、ヘルステック、電子商取引(EC)などを中心に、技術革新的な新規事業の立ち上げや育成を目的として、トレーニングプログラムの編成、メンター制度の導入、ビジネスプランの改善、市場調査、個々のスタートアップ事業のPR支援などを行っている。これらの支援は適宜、外部サポーターとも連携している。
2つ目は情報提供だ。特に、インダストリー4.0を中心とした技術革新に関する研修やイベントを実施している。研修やイベントはスタートアップのみならず、次世代の起業家創出を目的として、学生や児童も対象にしている。具体的には、「デジタルホリデーキャンプ」と題して、コンピュータプログラミングや電子工学、ロボット工学、3Dプリントの分野で、8〜15歳を対象とした情報通信技術(ICT)トレーニングプログラムを実施した。また、スタートアップの国内外での運営資金調達の促進、市場アクセス改善のため、投資家やメンターなど外部サポーターとのネットワーク形成を目的としたイベントも行っている。3つ目は企業設立に関する支援サービス。法定住所の指定などの企業設立手続き支援、コワーキング・スペースやレンタルオフィスの提供などだ。

インキュベーション施設内の様子(ジェトロ撮影)
質問:
外部機関との連携は。
答え:
各スタートアップの若手リーダーの経営管理能力の強化を目的に、米国のNPOジュニア・アチーブメント(注1)と技術的なパートナーシップを結んでいる。有望なプロジェクトをサポートするために、フランスの銀行大手ソシエテ・ジェネラルが設立したインキュベーターのイノベーション・ラブ(注2)とも連携している。
質問:
コートジボワールのスタートアップの有望分野は。
答え:
アグリテックと金融(モバイルマネー、フィンテック)だ。農業大国であり、西アフリカの金融、物流のハブであるコートジボワールでは、これらの分野を対象としたイノベーションが期待されている。ドリーム・ファクトリーでも同分野をテーマとした支援プログラムを組織している。スタートアップ支援プログラムの第1弾として、農村地域におけるデジタル決済システムの構築と普及を目的としたRUFINプロジェクトを採択した。このプログラムには国内の6つのスタートアップが参加している。例えば、参加企業の1つであるSキャッシュ・ペイメントは、従来の金融システムにはアクセスすることが難しかった個人を対象に、電子金融サービスを提供している会社だ。
質問:
コートジボワールにおけるスタートアップ支援、エコシステム構築の課題は。
答え:
最大の課題は、個々のプロジェクトと市場ニーズの関連性を明確にすることだ。プロジェクトが社会や環境に与える影響、革新的技術の有無、プロジェクトの継続性、普及可能性を精査しなければならない。言うまでもなく、そのためには、スタートアップを育成するインキュベーターやメンターの知見、経験の蓄積が重要であり、運営資金の確保も課題だ。そのため、ドリーム・ファクトリーでは、始めに経営管理能力を強化し、次に事業運営体制の確立と資金調達の段階におけるサポートに重点を置いている。
質問:
今後の展望は。
答え:
現在、政府が管轄する公的インキュベーション施設は当施設のみで、アビジャンの1カ所だけだが、今後は中部、西部地方の主要都市であるヤムスクロ、ブアケ、サンペドロに拡散する計画だ。また現在、スタートアップ支援プログラムとして実施しているのはRUFINプロジェクトだけだが、当地のスタートアップと市場ニーズの双方に即した支援プログラムを今後も検討していく。
当施設では、アビジャンをアフリカで最も優れた新興都市の1つに成長させ、サハラ以南のフランス語圏アフリカで「最初のスタートアップ都市」にすることを目指している。国内のスタートアップや革新的なプロジェクトを継続支援するためには、国内外を問わず、技術的支援や運営資金の確保をサポートしてくれるようなパートナーが必要だ。日本企業との連携も視野に入れ、当地のエコシステム構築に尽力していきたい。

注1:
1919年に米国で設立された非営利団体。青少年が自らの意思で将来設計、進路選択を行える知見の育成を目的として、プログラムを実施している国際的経済教育団体。
注2:
アフリカのスタートアップとの連携、技術革新の促進、関係機関の有機的な連携に基づくエコシステムの構築などを目的に設立されたインキュベーション施設。
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
尾山 裕緒(おやま ひろお)
2012年、ジェトロ入構。途上国貿易開発部途上国貿易開発課、ジェトロ山梨、対日投資部対日投資課を経て、2019年3月から現職。