メルコスール域内向け輸出拠点として注目集める-日・パラグアイ経済セミナーを開催-

(パラグアイ)

サンパウロ事務所

2015年11月11日

 パラグアイ商工省、在パラグアイ日本大使館とジェトロは10月13日、商工省内で「日・パラグアイ経済セミナー」を開催した。在ブラジル、在アルゼンチンの日系企業を含め46人が出席した。セミナーでレイテ商工相と進出日系企業は、南米南部共同市場(メルコスール)域内向け輸出拠点として、パラグアイの税制・労働コスト面などの優位性を説明。参加者は同国での事業展開に期待を寄せていた。

<税制・労働コスト面で魅力>

 ブラジルやアルゼンチンでビジネスを行う日系企業の多くは、ブラジルの複雑な法務・労務・税制や、アルゼンチンの輸入規制などに悩まされている。両国は経済規模が大きく潜在能力も高いが、ビジネスハードルの高い国として知られている。そこで、両国を含むメルコスール域内諸国、さらに近隣の中南米諸国へのビジネス拠点として近年、注目を浴びているのがパラグアイだ。

 

 パラグアイの魅力は、国内全土で対象となる税の恩典制度だ。代表的な保税制度「マキラ制度」は、同国での付加価値に対して1%課税されるのみで、後は工場内への機械設備輸入も含め、事業を行うに当たってかかるあらゆる種類の税金が免除される。パラグアイは人件費や電力などの事業コストも安く、若年人口も多い。ブラジルと比較し、電力料金は6割安く、人件費は平均で4割程度低い。さらに、メルコスール原産の証明書を取得するに当たって通常は域内調達率60%以上を達成すべきところ、パラグアイは特別優遇制度が敷かれており、域内調達率40%で証明書を取得できる。このことが、特にメルコスール域内向け輸出拠点としてのメリットを生み出している。

 

 パラグアイには、2011年に造船、農業、河川輸送業などを手掛ける常石グループ、自動車用ワイヤーハーネスを製造するフジクラが進出し、続く2013年に同じくワイヤーハーネスを製造する矢崎総業、2015年には住友電装も進出を果たすなど、日系企業の進出が近年、相次いでいる。

 

<「開放的な国」をアピールするパラグアイ>

 セミナーの冒頭あいさつで、上田善久駐パラグアイ大使は「パラグアイは現在、変化の時を迎えている」とし、「百聞は一見にしかず。是非この機会に多くの方々にパラグアイを見てもらい、その成長ぶりを感じてほしい」と呼び掛けた。

 

 続いて、「パラグアイ経済の見通しとビジネス投資環境」をテーマに、レイテ商工相が講演を行った。レイテ商工相は、2013年のオラシオ・カルテス大統領就任により、パラグアイは大きく変化している、と述べた。同国は今後、中南米諸国、さらに欧米諸国などと投資・技術移転・貿易拡大に取り組んでいく計画があること、その上で引き続き外資誘致も積極的に行う「開放的な国」であること、をアピールした。また近年、ブラジルからの企業進出が著しく、投資優遇のマキラ制度を利用して進出している94社のうち、8割がブラジル企業であることも紹介した。レイテ商工相は「ブラジルはパラグアイにとってのパートナー。共に技術革新や生産性の向上を目指しウィン・ウィンの関係を築いていきたい」と語った。

 

 パラグアイは現在、カルテス大統領の下、「パラグアイ2030」と題する中長期的な成長プランを策定している。これにより、国内の貧困削減と中間層の拡大を目指す。さらに、世界4位の大豆輸出国、6位のトウモロコシ輸出国である同国は、世界の食料供給国となることを目指す。

 

 レイテ商工相は最後に、現地紙「5ディアス」(924日)で、米大手格付け会社ムーディーズがパラグアイについて「同国のカントリーリスクは直近10年間で着実に改善されてきていることから、ほぼ投資適格級に位置付けられる」と報じられたことを紹介した。

 

<進出日系企業は豊富な労働力などを活用>

 この後、「パラグアイ投資の魅力およびパラグアイ政府への期待」と題したパートでは、常石造船パラグアイ取締役の飯塚正明氏、矢崎パラグアイ社長の井上寿弘氏、ブラジル日本商工会議所会頭の村田俊典氏、フジクラ・パラグアイ社長のイグナシオ・イバラ氏が講演を行った。

 

 常石グループは、パラグアイとの関係が深く、本社のある広島県沼隈郡(現・福山市)からパラグアイへの移民団を結成した時期(1936年)までさかのぼる。造船事業で世界7位の規模を誇る同社は、河川が主要輸送手段の1つであるパラグアイで、河川輸送用バージ船などの建造を中心に、農牧畜業、土木・建築工事、自動車部品の販売や自動車整備修理業などを行う。飯塚氏はパラグアイ投資の魅力として、「今後の成長性、投資環境の良さ、南米大陸の中心に位置する立地条件の良さ、製造環境の良さ」の4つを挙げ、同時にパラグアイ政府への期待として、「輸送インフラや電気、上下水道など基礎インフラへの投資」「地場企業への融資制度拡充などを含む中長期ファイナンスの拡充」「教育環境整備による技術者養成や管理職人材の拡充」の3点を挙げた。

 

 矢崎総業は、世界44の国・地域に拠点を有し、自動車用ワイヤーハーネスを含む自動車関連製品など、さまざまな製品開発を行う。パラグアイでは1,300人以上を雇用し、製造した自動車用ワイヤーハーネスをブラジルとアルゼンチンへ輸出している。井上氏はパラグアイへ進出した理由として、「親日国であること、豊富な若い労働力を有していること、勤勉で誠実な国民性、治安が良く国内政治が安定していること」などを挙げた。中でも、勤勉な労働者を高く評価し、労働集約的な業務が多い同社の事業においては、このような特長が非常に重要だと述べた。

 

 2011年にブラジルとの国境の街、シウダ・デル・エステに進出したのがフジクラだ。イバラ氏は、パラグアイのポテンシャルの高さを評価するとともに、労働者の多くは欠勤率や離職率が低く、また製造される商品の品質が非常に高いことをアピールした。また、当地進出を検討している企業に向け、パラグアイがブラジルやアルゼンチンを含む中南米諸国向け輸出のためのプラットホームとなり得ることを強調した。

 

 参加企業からは「パラグアイの優位性については以前から話題になっていたが、実際にセミナーに参加し、実態を知ることができた」といったコメントが寄せられた。パラグアイの2014年の実質GDP成長率は4.7%で、中央銀行は2015年も3.7%の成長を見込んでいる。

 

(辻本希世)

(パラグアイ)

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