2016年から新税制、大胆な所得減税

(オーストリア)

ウィーン事務所

2015年12月01日

 2016年1月1日から新税制が施行される。政府は低迷する経済を活性化させるために、思い切った所得減税を実施する一方で、軽減税率の対象の一部(10%から13%)や資本収益税(25%から27.5%)を引き上げる。

<現金ビジネスにレジスター導入を義務付け>

 201611日から、売り上げ情報のレジスター入力と、レシートの発行が義務付けられる。対象となるのは、年間売り上げが15,000ユーロを超え、そのうち現金の割合が7,500ユーロを超える事業者だ。小規模飲食店などでは、いまだに現金精算をするところが多く、レジスター導入により売り上げの把握を強化するのが狙いとみられる。201531日から20161231日までに導入した場合、最大200ユーロの公的助成がある。この背景には、201611日から実施される税制改革がある。

 

<税負担軽減による経済活性化が目的>

 税制改革は、社会民主党と国民党の連立与党のウェルナー・ファイマン第2次内閣の最大の政策で、税制改革法案は20157月に下院で承認された。特に、税制改革の目玉である所得減税は1988年以来の改定となり、49億ユーロ規模となる。低・中所得者層の税負担を減らし、経済を活性化させるのが狙いだ。主な改革点は以下のとおり。

 

1)所得税は税区分を現行の3段階から6段階に細分化

 給与所得者の大半を占める年間勤労所得11,000以上6万ユーロ未満の区分では従来、36.5%、43.21%の2つの税率しかなかったが、改定後は3つに細分化、最低税率が36.5%から25%へ大幅に引き下げられる(表参照)。6万ユーロ以上も3段階に細分化され、1人当たりおよそ年間5001,500ユーロ程度の減税となると試算されている。また、年間所得が11,000ユーロに満たない場合、国からの給付金が年間110ユーロから最大400ユーロまで引き上げられる。年金生活者の場合も、最大110ユーロの給付金を得る。一方、最高税率は5年間限定で50%から55%に引き上げられる。

2)子供の扶養控除額が倍増

 子供の扶養控除額は、夫婦どちらかが就労している場合、1人当たり220ユーロ、共働きの場合は1人当たり132ユーロの控除額だったが、改定後は、それぞれ440ユーロ、300ユーロに引き上げられる。

 

3)軽減税率の一部引き上げ

 付加価値税率は20%で据え置きだが、従来の軽減税率の対象の一部(生きた動物、種苗、植物、飼料、文化施設の入場券、ホテル・旅館の宿泊など)は10%から13%に引き上げられる。ただし、文化施設の入場券とホテル・旅館の宿泊にかかる税率の引き上げは201651日からとなる。

 

4)資本収益税は25%から27.5%に

 株式など有価証券の運用益に対する税率は25%から27.5%に引き上げられる。ただし、預金通帳や給与口座の利子は25%に据え置かれる。

 

5)不動産取得税の算定基準が市場価格に変更

 不動産取得税率は現在、評価額(個々の物件の基準価格の3倍)の3.5%(近親者の相続では2%)だが、2016年から新たな評価額を算出し、評価額に応じて3つの税率が設定される。評価額が25万ユーロまでは0.5%、25万ユーロを超え40万ユーロまでは2%、これを超える場合は3.5%となる。

 

<小売業界は歓迎、金融界は批判的>

 今回の税制改革のうち、所得減税は消費を促進させる効果があると小売業界などは歓迎している。一方、金融界は、資本収益税の引き上げが金融市場としてのオーストリアの立ち位置を危うくするものだと批判。また、最高所得税率の50%から55%への引き上げは、投資や起業に有利とする評判を失い、また若手企業家のやる気が削がれるとの声も出ており、税制改革への評価は賛否両論だ。

 

 先ごろ、欧州委員会はオーストリアの税制改革に一定の評価をしながらも、低所得者層の税負担がまだまだ重く、是正すべきと勧告した。

 

(田中由美子)

(オーストリア)

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