シピラ首相、EU残留・離脱の国民投票を明確に否定

(フィンランド、英国)

ロンドン発

2016年07月06日

 英国のEU離脱問題に関し、フィンランド政府首脳はそろって英国民の選択を残念だが尊重するとし、同時にEUの改革を急ぐよう強調した。加えて、EU最大の軍事費支出国である英国の離脱により、欧州の軍事バランスが変化することへの懸念を払拭(ふっしょく)する発言を繰り返した。また、連立与党内から出ている、フィンランドにおいてEU残留・離脱を問う国民投票実施の要請に対しては、ユハ・シピラ首相が国会で明確に否定した。

<首相はEU改革の必要性を強調>

 英国のEU離脱に関する国民投票の結果に対し、シピラ首相は624日、「国民投票で英国がEUに残留する結果となることを期待したが、残念だ。しかし、英国民の選択を尊重する」との声明を発表した。「ヘルシンギン・サノマート」紙(624日)は、サウリ・ニーニスト大統領の「英国民のEU離脱という選択は、EUを根底から揺さぶることになるだろう」とのコメントを掲載した。また、同大統領は「EUはこれまで新規加盟希望国を引きつけてきた。しかし、今や相当数の加盟国が離脱を希望している。永続的に分裂しないEUという考えはもはや真実ではない」と述べ、EUは安全保障面での基本的な価値、平和、自由といった設立の原点に立ち返るべきだ、とした。シピラ首相も624日の声明の中で、「EUは速やかに、英国のEU離脱による影響を検証しなくてはいけない。市民の信頼を得るためにも、必要な課題に焦点を当て、改革に取り組むことができるようにしなくてはならない」と語り、EU改革の必要性を強調した。

 

<英国の離脱による防衛面の懸念が浮上>

 EU域内で最大の軍事費拠出国であり、フランスと並ぶ核兵器保有国である英国のEU離脱により、欧州の軍事バランスが変化するのではないかとの懸念がフィンランドでは浮上している。欧州の東端に位置し、ロシアと国境を接する同国は、欧州の軍事バランスの変化を注視しており、ウクライナ問題の直後にはNATO加盟を求める声が高まった(2014年9月16日記事参照)。フィンランド国営放送(YLE)によると、ニーニスト大統領は626日、「英国のEU離脱はフィンランドの安全保障に影響するものではない」と述べ、ティモ・ソイニ外相も627日に「英国はEUを離脱しても、NATOには残っている」と発言している。また、ユッシ・ニーニスト国防相は71日、英国のマイケル・ファロン国防相との間で近日中に防衛協力協定に調印すると発表した。同協定はもともと交渉されていたもので、2014年にはスウェーデンと締結し、米国とも締結に向けて動いている。フィンランド国内の懸念を払拭する狙いがあるとみられる。

 

 「ヘルシンギン・サノマット」紙(627日)は、EU内での政策決定は英国がいなくなればずっと簡略なものになるだろうと指摘する一方で、「フィンランドはドイツやオランダと共に、公共部門が大きく経済政策が緩いフランスや南欧諸国などの国々を支えるために、より多額のEU拠出金を請求されることになるだろう」というドイツ人エコノミストのハンス・ウェルナー・ジン氏の分析を紹介した。

 

<国民投票に7割が反対の調査結果も>

 一方、前回20154月の総選挙で第2党となった真フィン人党を中心とするEU懐疑派は、EU残留・離脱を問う国民投票の実施を要望している。国民投票の実施を要望する署名は627日だけで5,000件を超えた。国会で真フィン人党議員団の代表を務めるサンポ・テルホ議員からの国民投票実施の要請に対し、シピラ首相は627日の議会で、現政権下では「EU残留・離脱を問う国民投票は実施しない」と明言した。

 

 630日付のタブロイド紙「イルタレヘティ」によると、628日から29日にかけて調査会社タロウストゥトキムスが1,001人を対象に実施したオンラインアンケート調査では、EU残留・離脱を問う国民投票を希望する人は回答者全体の4分の1にとどまり、国民投票の実施には69%が反対した。また、仮に国民投票が実施された場合、どのように投票するかを聞いたところ、68%がEU残留と回答した。さらに、「ユーロ圏残留についても国民投票をするか」という問いに対しては、回答者全体の70%が国民投票を希望しないと答えた。

 

(前薗香織、岩井晴美)

(フィンランド、英国)

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