米国の対キューバ経済制裁再強化措置に反発-対話継続については前向きな態度示す-

(キューバ、米国)

メキシコ発

2017年06月29日

トランプ米大統領が6月16日にキューバに対する経済制裁の再強化策を発表したことを受け、キューバ政府は激しく抗議する一方、米国との対話は継続する用意があることを強調した。

政府は対話継続の前提に「平等な立場」を強調

トランプ大統領が6月16日にマイアミでスピーチを行った同日、キューバ政府は声明を発表し、米国による経済制裁再強化措置(2017年6月28日記事参照)を強く非難する一方、相互利益に関わる事案については米国政府と協調的な対話を継続する意思があると述べた。ブルーノ・ロドリゲス外相は6月19日に訪問先のオーストリアで記者会見を開き、トランプ大統領の声明に対し、「これまで両国が進めてきた対話を後退させるものであり、受け入れられない」と反発。また、「同政策は米国民の自由を阻害し、収入や雇用を縮小させ、数百万ドルに及ぶ税収を失うことになるだろう」と述べた。そして、「キューバ政府は対話継続の用意があるが、米国政府がキューバの独立と主権を尊重し、平等な立場で行われなければならない」と強調した。

国外からの反応では、親キューバとして知られるボリビアのエボ・モラレス大統領やベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が相次いでキューバを擁護する発言を行ったほか、キューバと友好的なカナダのジャスティン・トルドー首相も「今回の米国による措置は、カナダとキューバの関係には影響しない」とコメントした。

国内では、キューバ共産党の機関紙「グランマ」が、トランプ大統領のスピーチやロドリゲス外相の記者会見の模様をリアルタイムで更新する特設ページを設けたほか、「キューバに対するトランプ政策10のカギ」と題した特集を組み、米・キューバ国交正常化に関わるこれまでの動きや、今回の制裁再強化の政治的背景、キューバ経済への影響を分析しており、同国の関心の高さがうかがえる。

多岐にわたる国営企業を掌握するGAESAとの取引を禁止

米国政府は今回の措置の中で、キューバ軍関係の企業グループであるGAESAおよび傘下企業との新規取引を禁止した。GAESAは、革命軍事省(FAR)が管轄するキューバの企業経営上級組織(OSDE、注)だ。GAESAはホテル、旅行代理店、レンタカー会社を運営するグルーポ・デ・ツーリスモ・ガビオタ(Grupo de Turismo Gaviota)や、輸出入を行うテクノテックス・イ・テクノインポート(Tecnotex y Tecnoimport)、スーパーマーケットを運営するテー・エレ・デ・カリベ(TRD Caribe)、レストラン運営や食品の輸出入を手掛けるシーメックス(CIMEX)、外国投資誘致などのためのマリエル開発特区(ZEDM)など、軍事関連以外の幅広い分野にわたる企業を傘下に持ち、輸出入に関わる企業も多く掌握している。例えば自動車の輸入については、実質的にはGAESA傘下のテクノテックス・イ・テクノインポートか、外国貿易・外国投資省(MINCEX)傘下のトランスインポート(Transimport)の2社しか行っていない。

GAESAおよび傘下企業との取引禁止については、米国国務省が今後、具体的な取引禁止企業リストを作成する。今回の措置が導入される前までにGAESAとの間で実施された商業取引は規制対象外となるなど、その影響力の範囲はいまだ不明確であるものの、キューバの外貨収入の多くの割合を占める観光業や輸出入関連企業を多く傘下に持つGAESAとの取引禁止は、キューバ経済にとって悪影響が出ることになるだろう。

米国人のキューバ渡航増加傾向に歯止めか

米国政府によるもう1つの措置は、米国人のキューバ渡航制限の再強化だ。キューバ主要紙「クーバ・デバテ(CUBA DEBATE)」によると、2017年1~5月にキューバを訪れた米国人は28万4,565人に上り、2016年通年の28万4,937人に迫る勢いとしている。米国人のキューバへの渡航者数は、オバマ前米大統領が2014年12月にキューバとの国交正常化交渉再開を宣言して以降、急激に増加している。2016年3月には、これまで団体旅行にしか許可されなかった人的交流(People-to-People)活動を目的とした渡航が個人旅行でも認められ、同11月以降、アメリカン、ユナイテッド、デルタ、ジェットブルーなど各航空会社が米国各都市とハバナ間の定期便の運航を相次いで開始するなど、訪問者数のさらなる増加に拍車が掛かっていた。今回の人的交流を目的とした個人渡航の再度の禁止措置は、米国人のキューバ渡航者数の増勢を減退させる可能性がある。

(注)キューバでは閣僚評議会、官庁、地方行政評議会がさまざまなOSDEを管轄しており、それらのOSDEの傘下に各種公社(Empresas Estatales)、公的経済機関 (OEE)、100%キューバ資本商事会社(Sociedad Mercantil de Capital 100% Cubano)などの国営企業群が存在する。詳しくは、ジェトロ調査レポート「キューバの政治・経済の概況とビジネス機会」PDFファイル(3.4MB)の19ページ参照。

(西尾瑛里子)

(キューバ、米国)

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