TPP11の経済活力取り込みに期待するEU

(EU)

ブリュッセル発

2018年12月19日

12月30日に発効が迫った「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)」について、EUではTPP11締約国との通商関係構築を急いでいる。ただ、「国家と投資家の間の紛争解決手続き」の在り方などをめぐるアプローチにはTPP11と異なる点もある。

欧州企業のアジア大洋州における競争環境に配慮

EUがTPP11締約国と進める通商協定では、カナダとの包括的経済貿易協定(CETA)が2017年9月21日に暫定適用を開始(2017年9月21日記事参照)したほか、日EU経済連携協定(EPA)では欧州議会本会議が2018年12月12日に締結に関する勧告案を採択(2018年12月13日記事参照)、2019年2月1日に発効の見通しだ。対シンガポールでは、自由貿易協定(FTA)および投資保護協定について10月19日に署名(2018年10月16日記事参照)。対ベトナムでは、貿易協定および投資保護協定の署名・締結について10月17日に欧州委員会がEU理事会(閣僚理事会)に対して提案(2018年10月18日記事参照)したところだ。また、EUはメキシコとのFTA近代化の再交渉を4月21日に妥結(2018年4月24日記事参照)しているほか、オーストラリア、ニュージーランドとも6月に交渉を開始している(2018年6月28日記事参照)。

EUはTPP11協定締約国との通商協定を重視する理由として、これらの地域での「欧州企業の公平な競争条件を確保すること」を挙げている。また、欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体のCOPA-COGECAなど、欧州の農産・食品・飲料産業を代表する3団体も12月11日、日EU・EPAに対する欧州議会承認を求める理由について、「TPP11協定などの発効が迫り、成長が期待できるアジア大洋州地域における競争力を強化すること」(2018年12月12日記事参照)と説明している。このほか、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)のエレオノーラ・カテラ上級顧問(通商問題担当)は、TPP11を含めたアジア大洋州地域の通商ネットワークとEUの関係について、「ASEAN諸国との通商協定の交渉・批准に遅れが出ると、欧州企業は競合企業と比較して著しく不利な状況に置かれる」と危機感をにじませる。

他方、「国家と投資家の間の紛争解決手続き」のためのアプローチとして、EUは「投資裁判所制度(ICS)」と呼ばれる独自の手法を通商交渉の相手に求める姿勢を強めている。ICSは、国際商事仲裁方式を活用した米国型の解決手続き(ISDS)と異なり、二審制の専門裁判所により投資紛争の解決を目指す手法だ。EUには、環境保護や労働者・消費者の権利などの面で、これまでに確立した「EU基準」があり、第三国からの圧力でこれらの基準が影響されることに対する警戒感が根強い。TPP11協定締約国との関係では、CETAやEU・ベトナム投資保護協定(2016年2月8日記事参照)などにICSを導入している。

(前田篤穂)

(EU)

ビジネス短信 61cec9af26b4841b