アイルランド政府がノー・ディールに備えた法案を発表

(アイルランド、英国)

ロンドン発

2019年01月29日

アイルランド政府は1月24日、英国がEUから合意なく離脱(ノー・ディール)した場合に備える一連の法案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。法案は、市民の権利保護と経済、企業、雇用の支援に焦点を当てた17章で構成されている。政府は、英国がEUとの合意の上でEUを離脱することが望ましいとする一方、今回の発表はノー・ディールの可能性に備えた政府として対応すべき次なる一手だとしている。

政府は、ノー・ディールの場合の支援すべき重要な経済分野として輸送、エネルギー、税制を挙げている。輸送分野では、アイルランドと英国・北アイルランドとの国境を越えた鉄道やバスの往来を認める方針だ。エネルギー分野では、アイルランド単一電力市場(I-SEM)の運営を継続できるよう、事業者のライセンス条件を改定する。税制では、企業や個人に対して、離脱後も現在と同様の租税回避などの措置の継続を認める方針だ。

また、アイルランド企業庁(EI)による企業支援も強化する。ブレグジットで大きな影響を受けると予想される農産食品の生産者を支援するために、工業以外の産業や園芸分野を対象とした補助金を開始する。また、製薬などの研究開発に対する補助も強化する。研究開発補助金は、これまでコストの50%が上限となっていたが、中小企業向けには70%、中堅企業向けには60%まで上限を引き上げる。

このほか、アイルランドと英国の両国民が自由に行き来できる共通旅行区域(CTA)制度の下、現行の医療制度や社会保障制度を維持する方針を示すなど、今回の法案では英国との既存の枠組みを継続することが主旨の1つとなっている。政府は2018年12月にノー・ディールに備える緊急対策計画を発表し、具体的な施策の実行を進めるとしていた(2018年12月25日記事参照)。本法案は欧州委員会の緊急対策計画(コンティンジェンシープラン)を補完するもので、今後のEUでの法制化に合わせて、アイルランドでも法案を採択する見通しだ。

(木下裕之)

(アイルランド、英国)

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