デジタルヘルス産業のセミナーが東京で開催、技術革新で医療費削減も

(フィンランド)

欧州ロシアCIS課

2019年06月06日

在日フィンランド大使館などは5月28日、東京都内で同国のヘルスケア産業に関するセミナーを開催した。セミナーでは、フィンランドのヘルスケア産業のデジタル化に向けた取り組みが紹介され、同産業で活躍する現地発のスタートアップ企業もプレゼンテーションを行った。

フィンランドは、ヘルスケア産業のデジタル化に向けて、個人医療情報のデータ化とその活用に力を入れている。2007年には医療情報アーカイブ「KANTA」を設置し、個人の診察情報をデータ化して全国規模で一元管理している。さらに、2019年5月からは「健康・福祉データの2次利用に関する法律」が施行された(2019年5月31日記事参照)。同法の下で個人情報を保護しつつ、政府の管理する医療データにアクセスしやすい環境が整い、データの利活用がより容易となることで、人工知能(AI)を利用した医療技術の開発に期待が高まる。

フィンランドでは既に、個人医療データの活用に向けた動きが加速している。ヘルシンキ大学病院は2017年にクレバー・ヘルスネットワークというプロジェクトを立ち上げ、参加企業に対して所有する医療データベースを開放している。同病院の戦略開発局長によると、現在、日本企業1社を含む15社が参加しており、さらなる日本企業の受け入れを目指すという。

事業説明を行ったスタートアップの多くは、独自に開発したAI技術を用いて医療問題の解決を目指す。ナイチンゲール・ヘルス(Nightingale Health)は、潜在的な慢性疾患患者を独自のアルゴリズムを用いた血液検査分析で特定する。慢性疾患患者の8割は予防可能なことから、同技術が患者数を減らし、医療現場や事務などの関連業務への負担も軽減することに期待を寄せる。

国際ビジネス促進と研究開発支援を行う公的機関ビジネスフィンランド(Business Finland)のノラ・カレラ氏によると、フィンランドは世界トップ水準の医療サービスを維持しつつも、医療費を抑えることに成功している。その理由としては、多くの医療データを用いて研究開発やその技術の活用を進めていることがあるという。同氏は、日本とフィンランドが高齢社会の到来による医療負担の増加という共通の問題に直面しており、ヘルスケア分野における企業協力は両国の医療サービスの効率化に資する、とも指摘した。

2018年11月には、日本のスタートアップ企業のモルフォが、フィンランドのAIスタートアップのトップデータサイエンス(Top Data Science)を買収した。モルフォは、自社が強みとする画像処理・認識技術と豊富な医療データに支えられたトップデータサイエンスのAI技術を掛け合わせ、ヘルスケア分野の展開に乗り出している。

なおジェトロは、オープンイノベーションに積極的な日本企業で構成されるミッションを、フィンランドを含む北欧地域に派遣することを検討している。詳細情報を希望する方はこちらのメールアドレス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますまで連絡のこと。

(山田広樹)

(フィンランド)

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