ブレグジットに備え、韓英FTAの交渉は原則妥結に

(韓国、英国)

ソウル発

2019年06月12日

韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)産業通商資源部通商交渉本部長と英国のリアム・フォックス国際通商相は、6月10日にソウルで「韓英自由貿易協定(FTA)」交渉の原則妥結を公式に宣言した。今般の韓英FTAは、英国の合意なきEU離脱(ノーディール・ブレグジット)に備えた臨時措置(Emergency Bridge Agreement)で、従来の韓EU・FTA並みの協定を締結したことで韓英間の通商関係の連続性と安定性を確保している。特に、英国の政治状況の変化によりEU離脱の先行きが不確実となる中、ノーディール・ブレグジット、ブレグジット移行期間の有無、ブレグジットの追加延長など、可能な限り多様な状況に備え、両国間のビジネス環境の連続性を維持するための総合的・先進的な対応策を講じたものだ。

商品の関税は韓EU・FTAと同様

全ての加工製品に対する関税撤廃を維持するため、発効8年目となる韓EU・FTAの譲許関税を同様に適用することで合意した。これを受け、自動車(10%)、自動車部品(3.8~4.5%)など、韓国の主要輸出品目は従来と同様に無関税で輸出できることとなる。現在、対英輸出の商品全体のうち99.6%が無関税(加工製品100%、農産品98.1%)となっているが、韓英FTAが締結されない場合、平均4.73%の関税が課されることになる。

農業における緊急輸入制限措置(Agricultural Safeguard Measure)は、国内農業のセンシティブ品目(注)への保護を考慮し、EUより低い水準で発動できるよう発動基準を緩和し、国内需要に比べて生産が少ない麦芽と補助飼料に限っては、直近3年間の統計を踏まえ、関税割当制度(Tariff-rate Quota)で対応することとなった。

原産地および運送は3年間EUも域内扱い

原産地に関しては、両国企業が既にEUで展開している生産・供給網の調整にかかる期間を考慮し、EU産材料で生産したものについても3年間は域内産として認めることを合意した。また運送については、EUを経由したとしても3年間は直接運送したと見なすなど、韓国企業がEU物流拠点を経由して輸出した場合においても協定が適用されるよう設定された。

地理的表示は品目を限定して保護

知的財産権については、英国の酒類2品目、韓国の農産品・酒類64品目に対して地理的表示を認め、引き続き保護することを合意した。主な地理的表示は次のとおり。

  • 韓国(64品目):寶城(ボソン)緑茶、淳昌(スンチャン)伝統コチュジャン、利川(イチョン)米、高麗紅蔘、高敞(コチャン)トックリイチゴ、珍島(チンド)紅酒(ホンジュ)など
  • 英国(2品目):スコッチ・ウイスキー、アイリッシュ・ウイスキー(国内の異議申し立てを経た後に保護)

投資ルールは2年以内に改正

さらに、中小企業の利便性を考慮し、輸出入の行政手数料に対する透明性を韓米FTA並みに強化したほか、韓国企業のニーズが高い投資ルールは2年以内に検討し改正することが今般の協定に反映された。

両国は、今後英国のEU離脱をめぐる状況が安定すれば、韓EU・FTAよりも高い水準で2年以内に協定をグレードアップできる根拠条項を設けた。とりわけ、英国がEU離脱で合意し移行期間が確保された場合には、移行期間中に一段高い水準の協定締結に向けた交渉を速やかに開始すること、韓国の関心事である投資、貿易救済の手続き、地理的表示などを積極的に検討することで合意した。

なお、今後については、韓英通商関係の連続性を確保するべく、法律の検討など政府内部の手続きを速やかに完了して正式署名を終え、国会批准など国内手続きの円滑化を図るため、国内の利害関係者とも緊密に協議していく予定だ。英国のEU離脱の期限が2019年10月31日となっており、それ以前に韓英FTAについて合意することにより、合意なきEU離脱が現実となったとしても対英国輸出などに支障をきたさないよう、批准手続きの加速化に向けて取り組む。

(注)牛肉、豚肉、リンゴ、砂糖、高麗ニンジン、麦芽およびビール用二条大麦、植物性発酵エタノール、加工でんぷん、バレイショでんぷんの9品目。

(末永敏)

(韓国、英国)

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