ブレグジット・セミナー、ノー・ディールに備えた継続的な対策必要

(英国)

欧州ロシアCIS課

2019年06月04日

ジェトロは5月24日、「英国のEU離脱(ブレグジット)セミナー」を東京で開催した。冒頭、経済産業省通商政策局欧州課の松田明恭課長補佐があいさつし、ブレグジットの日本企業に対する影響を最小限に抑えるために、日本政府として英国とEUに対して働き掛けていくと述べた。

セミナーの前半では、ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課の田中晋課長が登壇し、ブレグジットの経緯・最新動向と日系企業に与える影響を解説した。離脱協定交渉の中で課題となった北アイルランドとアイルランドとの国境問題に触れ、同協定案に含まれている保険的措置である「バックストップ」の解除規定などが、英国下院での3度にわたる離脱協定法案の否決の主要因の1つになっていることを指摘した。また、保守党が単独では下院の半数を満たしていない上、離脱強硬派から残留派まで幅広い考えの議員で構成されている問題点を説明した。こうした理由から、当初予定されていた2019年3月29日のEU離脱日に、離脱協定の発効を間に合わせることができず、英国はEUに対して離脱日延期を余儀なくされ、最長10月末まで延期されるに至った(2019年4月11日記事参照)。

しかし、議員構成が変わらない中で、離脱協定を批准するハードルは依然として高く、首相の交代が見込まれる中で10月末に合意なき離脱(ノー・ディール)となる可能性が高まっている。英国政府は、多くの分野・項目でノー・ディールに備えるためのガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを既に公表している。また、EU側でも欧州委員会がブレグジットの「準備通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を公表し、あらゆる事態に備えるよう呼び掛けている。

特に、英国側ではノー・ディールになる場合、最大1年まで輸入額の87%に相当する製品を輸入時に無税にする暫定的な関税緩和措置を導入するなどの方針を示している(2019年5月23日記事参照)。とはいえ、こうした措置は一時的なもので、英国とEUの将来関係に関する協定の締結が急務だが、同協定の正式な交渉は、英国がEUを離脱した後に始まるため、離脱協定による移行期間の有無が重要となる。

なお、ジェトロが2019年2月に東京と京都で実施したブレグジット・セミナーの参加企業に対するアンケート調査(注)では、回答者の15.7%がノー・ディールに備えた緊急対応策を「策定済み」としており、「策定中(20.9%)」と「策定予定(9.6%)」も合わせると半数近くに達する。

田中課長は、ジェトロがウェブサイト上でブレグジットに関する特集ページを設け、企業活動への影響に関する解説PDFファイル(0.0B)報告書を作成している旨を説明し、こうした情報も活用しながら、必要な対策を準備することを促した。

写真 登壇するジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課の田中課長(ジェトロ撮影)

登壇するジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課の田中課長(ジェトロ撮影)

(注)ジェトロが2月に東京と京都で主催したブレグジット・セミナーでのアンケート調査の対象者は、英国・EU間の関連事業がある115人。

(山田広樹)

(英国)

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