ブレグジット・セミナー、保守党党首選や欧州の輸出動向に注視を

(英国、EU)

欧州ロシアCIS課

2019年06月04日

ジェトロが5月24日に東京で開催した「英国のEU離脱(ブレグジット)セミナー」(2019年6月4日記事参照)の後半では、みずほ総合研究所調査本部の吉田健一郎上席主任エコノミストが、ブレグジットに関する英国内の今後の見通しと欧州経済・金融市場に与える影響について解説を行った。

カギを握る英国の保守党党首選

英国のメイ首相は離脱協定法案採択に向けた一連の動きで各方面から厳しい反発を招き、首相を辞任するとみられる(セミナー後に、保守党党首を6月7日に辞任することを表明、2019年5月27日記事参照)。次の保守党党首の筆頭候補は、強硬離脱派のボリス・ジョンソン前外相で、ノー・ディール(合意なき離脱)も辞さない構えだ。今後は、穏健離脱派の議員を中心として、ジョンソン首相の誕生をいかに阻止していくのか、注目する必要がある。

また、英国下院議員の過去の投票行動を分析すると、ブレグジットに関する選好は大きく割れ、かつ固定化されている。解散・総選挙による議員の交代がない限り、英下院の合意を形成することは非常に難しいとみている。解散・総選挙については、保守党と労働党が支持率を急激に落としており、政府が自主的な解散に踏み切る可能性はかなり低い。

不確実性が輸出依存の欧州経済に影を落とす

ブレグジットは、中期的に英国のGDPを押し下げるというのが大方の見方だが、下げ幅についてはさまざまな予測が飛び交う。また、離脱後に締結が見込まれる第三国とのFTA(自由貿易協定)の経済効果については、見解が大きく分かれる。一方で、英国の国際金融センターは、新興国を含めたグローバルマネーのハブとしての地位を確立しており、ブレグジットの影響は限定的だ。

EU経済への中期的な影響については、IMFの2018年のモデル推計は、欧州経済への影響は概して限定的だとする。しかし、不確実性を考慮すると、欧州経済への負の影響は拡大する可能性がある。また英国とEUは、自動車業界などで高度なサプライチェーンを構築しており、関税や認証手続きの発生はサプライチェーンの分断リスクにつながる。

ユーロ圏では、輸出額とGDPに大きな相関性がみられる。2018年以降のユーロ圏の財輸出をみると、新興国や英国を含む非ユーロ圏欧州向けの輸出が減少に転じている。さらに、ブレグジットや米中通商摩擦などでビジネス不確実性が高まり、ドイツを中心に広範な業種で生産や輸出が抑制されている。ノー・ディールの場合、こうした動きに拍車が掛かり、輸出依存のユーロ圏経済は短期的にマイナスの影響を受ける可能性が高まる。

写真 登壇するみずほ総合研究所調査本部の吉田上席主任エコノミスト(ジェトロ撮影)

登壇するみずほ総合研究所調査本部の吉田上席主任エコノミスト(ジェトロ撮影)

(山田広樹)

(英国、EU)

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