ジェトロ創立60周年記念国際シンポジウム
石毛理事長ご挨拶

11月8日(木曜)14時00分~
場所:ホテルニューオータニ「鶴の間」

ロベルト・アゼベドWTO事務局長
シャリーン・バシェフスキー元米国通商代表
甘利明・元経済再生担当大臣、衆議院議員
小林喜光経済同友会代表幹事
ご来賓、ご列席の皆様。

ジェトロ理事長の石毛でございます。本日はご多用のところ、ジェトロ60周年記念シンポジウムにご参加頂き、誠に有難うございます。

ジェトロは1958年、特殊法人・日本貿易振興会として発足いたしました。戦後のブレトン・ウッズ体制の下、GATT発足のちょうど10年後のことでございます。この60年の間に、日本の輸入も輸出も200倍以上にもなっております。ジェトロの歴史は、日本の貿易拡大の歴史と重なり、まさに、戦後、我が国の自由貿易体制の維持・発展とともにあったと言えます。

因みに、JETROのEは、当初Exportでしたが、現在はExternalです。ジェトロは、時代とともにその機能を変化させ、設立当時の輸出振興一本やりから、今では、外国からの企業誘致、日本の中堅中小企業の海外展開の支援なども行っております。輸出では近年、農産物輸出の振興に取り組んでいます。Eの中身は変わりましたが、名前はJETROを維持しています。

さて、今年は日本の通商政策にとって画期的な進展の年でありました。昨年1月、米国がTPPからの離脱を宣言したときに誰もがTPPは死んだと思いました。しかし、それを救ったのは日本のリーダーシップでした。TPP11として、12月30日に、いよいよ発効することになります。日本はEUとのEPA交渉もまとめ、協定の署名にこぎつけました。RCEPも、年内の実質的な妥結を目指しています。このような“飛躍”の年に、設立60周年を迎え、記念シンポジウムを開催できますこと大変嬉しく存じます。

しかし、今、私たちはGATT、WTO設立後経験したことのない、最も困難な課題に直面しています。世界第一位の経済大国・米国と、第二位の経済大国・中国との間の貿易戦争、保護主義の高まりなど、自由貿易を阻害する動きが顕在化していることであります。こうした動きは、ビジネスの予見可能性や法的安定性を損ない、企業による海外事業に悪影響を及ぼしています。

また、貿易戦争の影響は当事者である米国や中国だけにとどまりません。中国製品であっても、その部品の多くは、中国のみならず、ASEAN、日本など様々な国で作られています。米国製品も同様であります。米中間の貿易戦争はこれら部品を作っている第3国との貿易も阻害し、各国経済にも悪影響を及ぼします。

他方で、我々は、『米中間の貿易戦争の原因は何か』に思いをはせる必要があります。米国が問題視している、「戦略産業への補助金の支給」、「強制的な技術移転」などの市場歪曲的な産業政策の指摘は何も、米国だけの懸念ではありません。EU、日本等、多くの国が同様の懸念を持っています。

私は10月半ばにワシントンを訪問しました。セミナーを主催するためですが、その時耳にした言葉で非常にショッキングなものは、経済のデカップリングです。中国の経済制度は異なるのであるから、そして、この制度は変わらないであろうから、このグローバル化した世界経済を二つに分ける。分断するという考えです。我々は本当にそうした世界の通商体制の出現を許してよいのでしょうか?私はあり得ないと思っています。

その中でWTOが確り機能しなくてはいけないのに、今、WTOは信頼を失いつつある。紛争処理機能の低下の問題、新たなルール作りが出来ていないことの問題、メンバー国の貿易関連措置の透明性や通報の問題が指摘されています。今、自由貿易体制の危機です。貿易振興機関にとってもその活動が正常に行えない「危機」でもあります。

本日のシンポジウムでは、この後、小林・代表幹事よりご挨拶を、そしてアゼベド事務局長より基調講演を頂きます。現在直面している自由貿易体制の危機にどう対処するのか?WTOの三つの機能不全にどう対処するのか?是非伺ってみたいと思います。

また、その後に2つのパネルディスカッションがあります。最初のパネルでは、現在直面している貿易戦争のもたらす危機は何が原因で、どう解決したらよいのか?日本の果たす役割は何か?欧米の果たす役割は何か?二番目のパネルでは、新興国に焦点を当て、これからの通商体制におけるアジアの役割は何かについて議論いただきます。

最後になりますが、本日のシンポジウムを通じ、世界経済・通商問題の展望等に関し、何らかでもお役に立つ情報をご提供できれば幸いです。本日は誠に有難うございました。