激動する世界貿易の方向性を議論 -ジェトロ創立60周年記念国際シンポジウム開催-

2018年11月

ジェトロは11月8日、創立60周年を記念した国際シンポジウムを都内で開催しました。「激動する世界経済と貿易、これからの日本の役割」を全体テーマに、ロベルト・アゼベドWTO事務局長をはじめとする内外の識者が登壇、約1000人が参加しました。

冒頭、石毛理事長が米中間の貿易摩擦などを背景に現在世界は「自由貿易体制の危機」にあり、主要先進国やアジア諸国がこの危機にいかに対処すべきか議論する必要がある、と主催者挨拶で問題提起しました。続いて、経済同友会の小林喜光代表幹事が来賓挨拶で「グローバル化・デジタル化・ソーシャル(社会)化」という「3つの変革のうねり」に着目していると述べました。例えば経済のデジタル化についてシェアリングサービスの発展等を挙げ、このうねりが「着実に前進している」との認識を示しました。その上で、こうした変革は時に負の影響も伴うため、各国、WTO等の国際機関、企業が各々の立場から、負の影響の緩和に努めなければならないと提言しました。

基調講演に登壇したアゼベド事務局長は、(1)主要国間の緊張関係の高まり、(2)WTOの紛争解決制度が機能麻痺の危機に直面していること、(3)テクノロジーが貿易にもたらしている革命的な変化などを挙げ、世界の貿易体制が激動の時代に入っていると述べました。同氏は、WTO体制の未来は加盟国の意思にかかっていると強調しました。WTO改革に向けた機運が高まる中、非公式WTO閣僚会合やG20など様々な対話の場を通じた各国の取り組みが不可欠と指摘し、日本の主導的な役割に期待を示しました。

2つのパネルディスカッションでは、最初のパネルで太田泰彦・日本経済新聞社編集委員兼論説委員がモデレーターを務め、米国離脱後のTPP11交渉に日本が果たした役割、トランプ政権の通商政策の在り方、データの取り扱いに関する世界的な共通ルール形成と中国によるその遵守の必要性等について、甘利明・元経済再生担当大臣、シャリーン・バシェフスキー元米国通商代表部(USTR)代表、ダニー・リスバーグ前駐日欧州ビジネス協会(EBC)会長と討論を行いました。また、後半のパネルでは佐藤百合理事がモデレーターを務め、WTOの機能不全が指摘される状況下、アジアでは如何なる体制とルールのもとで開かれた経済を実践していくのかについて、クリッサダー・ピアムポンサーン元タイ駐WTO大使、張燕生・中国国際経済交流中心首席研究員、深尾京司アジア経済研究所長と討論をしました。

最後に赤星康副理事長は閉会挨拶で、参加者および登壇者、関係機関への謝辞と共に、本シンポジウムを通じて今後の世界貿易の展望や自由貿易推進に向けた日米欧やアジアの役割が示された、と締めくくりました。

なお、本シンポジウム開催に先立ち、石毛理事長はアゼべド事務局長と、多角的自由貿易の重要性、WTO改革のあり方等について意見交換を行いました。

「ジェトロ創立60周年記念国際シンポジウム」概要

開催日時 2018年11月8日(木曜) 14時00分~17時00分
会場 ホテルニューオータニ ザ・メイン 宴会場階 「鶴の間」
主催 ジェトロ
後援 経済産業省
協力 日本経済新聞社
参加者 約1000人
テーマ 激動する世界経済と貿易、これからの日本の役割
次第 (司会)ジェトロ 対日投資課長 河田 美緒
  1. 主催者挨拶
    ジェトロ理事長 石毛 博行
  2. 来賓挨拶
    経済同友会代表幹事 小林 喜光 氏
  3. 基調講演
    「世界貿易の未来」WTO事務局長 ロベルト・アゼべド 氏
  4. パネルディスカッション -自由で公正な貿易に向けて-
    テーマ1. 「主要先進国の役割」
    • (パネリスト)元経済再生担当大臣、自由民主党選挙対策委員長、衆議院議員 甘利 明 氏
    • (パネリスト)元米国通商代表 シャリーン・バシェフスキー 大使
    • (パネリスト)前駐日欧州ビジネス協会(EBC)会長 ダニー・リスバーグ 氏
    • (モデレーター)日本経済新聞 編集委員兼論説委員 太田 泰彦 氏
  5. パネルディスカッション -自由で公正な貿易に向けて-
    テーマ2. 「アジアの役割」
    • (パネリスト)元WTO代表、タイ取引競争委員会委員 クリッサダー・ピアムポンサーン 大使
    • (パネリスト)中国国際経済交流中心首席研究員 張 燕生 氏
    • (パネリスト)ジェトロ・アジア経済研究所 所長 深尾 京司
    • (モデレーター)ジェトロ理事 佐藤 百合
  6. 閉会挨拶
    ジェトロ副理事長 赤星 康