「2018年度 中南米進出日系企業実態調査」の結果について

2019年02月07日

ジェトロは、2018年11月1日から11月30日まで、中南米7カ国(メキシコ、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、チリ、ブラジル、アルゼンチン)に進出している日系企業を対象に、経営実態に関するアンケート調査を実施しました。その結果を以下のとおり発表します。

調査方法・実施時期 アンケート調査・2018年11月1日~11月30日
アンケート送付先 在中南米進出日系企業687社(回答企業数342社、回答率49.8%)
質問項目 (1)企業業績、(2)今後の事業展開の方向性、(3)経営上の課題とその対応等

調査結果のポイント

全体概要

2018年は、中南米地域で全体的に政治・経済の不透明感が高まり、進出日系企業の事業展開にも慎重さが見られた年となった。2018年の営業利益見込みについては前回調査と比べ、大きな変化はなかったが、今後1~2年の事業展開の方向性については「拡大」の回答割合(51.7%)が前回調査と比べて7.8ポイント低下した。

進出日系企業をとりまく不透明感の背景には、域内主要国で政権交代があり、政策の方向性を見定める必要が生じたことが挙げられる。また、ファンダメンタルズが脆弱な新興国に対する市場へ評価が世界的に厳しくなり、中南米地域では特にアルゼンチンなどで大幅な通貨下落とそれに伴う指標金利の引き上げに見舞われたこともある。さらに、通商面では、メキシコにおけるNAFTA再交渉など、進出先国の経済・投資環境に変化が生じたことが挙げられる。

主要国ポイント

メキシコ:
左派・ロペス・オブラドール政権が2018年12月に発足。穏健かつ財政規律を重視した政策を打ち出したことで進出企業に安心感を与えたものの、発表されたUSMCA(新NAFTA)に規定された賃金条項の達成条件面などで投資環境悪化への懸念が広がった。ただし、調査時点において、条文の内容が未確定であったことから、今後の対応策について「分からない」との回答が首位だった。
アルゼンチン:
通貨ペソの下落、金利上昇など消費市場に逆風が吹いたことで進出企業による同国の投資環境への見方が厳しくなった。
ブラジル:
開放経済策と穏健な財政政策を公約に掲げるボルソナーロ氏が2018年10月の大統領選挙で勝利したことが市場に好感され、選挙前に乱高下していた通貨レアルの対ドルレートが強含み、経済も落ち着きを取り戻した。そのため、2019年の営業利益見通しで「黒字」を予想する企業の割合が調査対象国の中で唯一増加する結果となった。
コロンビア:
前サントス政権とFARC(左派ゲリラ組織)の和平成立を経て2018年に議会選挙(3月)と大統領選挙(6月)が行われた。ドゥケ新政権によるゲリラ組織との対話政策の継続やビジネス寄りの政権公約が進出企業に安心感を与え、今後1~2年の事業展開の方向性では調査対象国の中で最もポジティブな結果が出た(「拡大」の回答が72.2%)。

全体概要補足

  • 2018年の営業利益見込みについて、「黒字」と回答した割合が中南米全体でみると前回調査同様6割超で大きな変化はなかった。国別で見ると多くの国で「黒字」と回答した割合が前回調査と比べて減少したが、メキシコとブラジルの「黒字」の割合の増加が、全体を下支えした。【資料9ページ】
  • 2018年の業況感は僅かに減少した。DI値(業況感)は前回調査と比べて僅かに減少しており、国別にみると前回調査でのDI値でプラス幅が2番目に高かったアルゼンチンが、今回調査では最下位かつ大幅マイナスとなった。コロンビアはプラス幅が昨年の約4倍となり、チリは大きく減少したのが目立った。【資料10ページ】
  • 2018年と比べた2019年の営業利益見込みを見ると、進出企業の見通しは弱気だった。国別ではメキシコ、ペルー、アルゼンチンが大幅に減少したのが目立った(それぞれ58.2%→43.2%、47.4%→32.1%、43.9%→27.8%)。【資料17ページ】
  • 今後1~2年の事業展開の方向性については、国別ではブラジルのみ「拡大」の回答割合が前回調査と比べて増加した(55.7%)。【資料24ページ】
  • 今後の日本人駐在員数の予定では、コロンビア(21.1%)が最も高かった。【資料33ページ】
  • 同業種企業で最も競合関係にある企業について、中南米全体では、同業種の競合先として「日系企業」との回答割合が前回調査と比べて減少(36.7%→29.2%)し、「欧州系企業」や「韓国系企業」の同割合が増加した。【資料34ページ】

調査結果概要

1. メキシコ:NAFTA再交渉による影響は分析中の企業多く、具体的な対応はこれから。

  • NAFTA再交渉によるメキシコ進出日系企業への影響は、本調査時点で妥結内容の詳細が不確定であったことから「分からない」との回答割合が最も高かった(44.4%)。「プラスの影響」3.7%、「マイナスの影響」19.4%を比較すると、現時点ではややマイナスの影響とみる向きが多い。【資料69ページ】
  • マイナスの影響が懸念される具体的な項目は、完成車に対して時給16ドル以上の地域で製造された部品・原材料を一定割合用いなければならないという「賃金条項への対応」(42.5%)や「品目別原産地規則(PSR)の見直し」(33.8%)、「鉄鋼・アルミの域内調達比率達成義務」(26.0%)などの、原産地規則の厳格化に集中した。【資料69ページ】
  • 現時点でのNAFTA再交渉結果への対応策としては、「何も変更しない」(42.3%)や「分からない」(36.0%)が大半を占め、具体的な対応は、これからという企業が多い。【資料69ページ】
  • 同業種企業で最も競合関係にある企業について、メキシコでは、「日系企業」と回答した割合が前回調査と比べて減少(57.6%→48.6%)し、「欧州系企業」が増加した(10.7%→17.1%)。ドイツの自動車部品関連企業の対メキシコ投資が昨年比で増加したことなどが背景にあると見られる。【資料34ページ】
  • 日本人駐在員数の変化については過去1年で増加した(22.5%)が、NAFTA再交渉による影響もあり、今後の予定については半減(11.7%)した。現地従業員数の変化についても同様に、今後の予定を見ると、前回調査と比べて減少(57.1%→50.5)している。【資料32、33ページ】

2. アルゼンチン:為替急落や高金利など、金融状況に対する懸念が増加。

  • アルゼンチン進出日系企業の業況感は極度に悪化した。具体的には、昨年のDI値で中南米地域においてプラス幅が2番目(31.7%)であったが、今回は最下位(マイナス8.4%)となった。2018年の営業利益見込み(前年比)では、「悪化」と回答した割合が9.8%→41.7%に急増した。【資料10ページ】
  • 2018年の営業利益見込み「悪化」の理由として、不安定な金融状況を背景に、「為替変動」と回答した割合が前回調査時の0.0%から93.3%に急増した。また、「金利の上昇」も25.0%から60.0%への大幅に増加した。【資料14ページ】
  • 2019年の営業利益見込み(前年比)は「改善」との回答割合が大幅に減少(43.9%→27.8%)した。【資料17ページ】
  • 現地従業員数と日本人駐在員数の変化で「今後の予定」をみると、「減少」(それぞれ2.4%→20.0%、12.2%→35.0%)の割合が大きく増加したことが目立った。【資料32、33ページ】
  • 投資環境面のメリットとリスクでは、為替急落や高金利政策によって国内市場が縮小したことで、「市場規模/成長性」をメリットと捉える割合が大きく減少した(73.2%→50.0%)。【資料57ページ】

3. ブラジル:大統領選の終了で政策予見性高まる。進出日系企業のビジネス拡大意欲に回復の兆し。

  • ブラジルの業況感は2019年に「改善」を見込むとの回答割合が増加した。具体的には、2019年の営業利益見込み(前年比)のDI値でブラジルが首位(46.9)となった。2018年と比べた2019年の営業利益見通しでも増加(53.3%→57.0%)した。【資料17ページ】
  • 今後1~2年の事業展開の方向性では「拡大」との回答割合が前回調査と比べて増加した唯一の国となった(53.5%→55.7%)。【資料24ページ】
  • ブラジルの2018年の営業利益見込みをみると「改善」の理由として、同国内需の緩やかな回復を反映し、「現地市場での売上増加」(75.6%→77.8%)を挙げる企業が多かった。また、「その他の支出(管理費、光熱費、燃料費等)の削減」と回答した割合が減少(40.0%→22.2%)し、2015年以降続いていた「我慢の経営」に出口がみえてきた。【資料11ページ】
  • 2019年の営業利益見込みが「改善」の理由では「現地市場での売上増加」が3.7ポイント増加(83.0%→86.7%)したことに加え、大統領選挙後の通貨の落ち着きを背景に、販売会社などを中心に「為替変動」を改善の理由に挙げる回答割合が増加(3.8%→15.6%)した。【資料18ページ】
  • テーメル前政権の制度改革の一環として実現した労働法改革により、投資環境面のリスクで、「労働争議・訴訟」との回答割合が大きく減少(65.7%→48.1%)し、リスク項目の順位も前回調査の4位から8位となった。【資料52ページ】

4. コロンビア: 2016年末の増税による市場縮小の反動で強気の進出日系企業

  • コロンビアの業況感は大きく改善した。DI値(業況感)のプラス幅は昨年の約4倍(10.0%→38.9%)となり、2018年の営業利益見込み(前年比)も増加(40.0%→55.6%)した。【資料10ページ】
  • 業況感のプラス幅の伸びの背景には、現地市場での売り上げ増加がある。付加価値税(IVA)増税(2016年12月)により17年は内需の伸びが鈍化したが18年に回復に向かった。直面している経営上の問題点(販売・営業面)をみても「主要販売市場の低迷」を挙げる割合が大きく減少(56.7%→11.1%)した。【資料36ページ】
  • コロンビアのビジネス環境に対する進出日系企業の見方は前回調査と比べて改善した。投資環境のメリットとリスクでは、2018年8月に就任したドゥケ大統領のゲリラ組織との対話政策の継続や、ビジネス寄りの政権公約などが安心感を与え、リスク面の「不安定な政治・社会情勢」は前回調査と比べて大幅に改善した(53.3%→22.2%)。【資料53ページ】
  • 今後1~2年の事業展開の方向性をみると、「拡大」との回答割合が最も高い(72.2%) 。【資料24ページ】
  • 日本人駐在員数の変化における、「今後の予定」で「増加」と回答した割合が最も高い(21.1%)。【資料33ページ】

ジェトロ米州課 (担当:竹下、志賀)
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