「2018年度(第29回)カナダ進出日系企業実態調査」の結果について

2019年02月06日

営業黒字を見込む企業は74.8%で過去最長の7年連続で7割超
日本からの輸入で半数近くがCPTPPの利用を検討

ジェトロは、2018年11月9日から12月7日まで、カナダに進出している日系企業に対し、経営実態に関するアンケート調査を実施しました。その結果を以下の通り発表します。

調査方法・実施時期 アンケート調査・2018年11月9日~12月7日
アンケート送付先 カナダ進出日系企業(製造業および非製造業)180社(回答企業数143社、有効回答率79.4%)
質問項目
  1. 企業業績
  2. 今後の事業展開
  3. 原材料の調達先および製品の販売先
  4. 経営上の課題
  5. 変化するビジネス環境への対応

調査結果のポイント

  1. 企業業績
    営業黒字を見込む企業は7年連続の7割超(74.8%)となり、米国進出日系企業調査と同様に調査史上最長を更新。景況感を示すDI値(2018年)は、前年比8.2ポイント減の16.8と悪化したが、2019年の見通しは27.3と高く、業績改善を見込む企業が増えている。
  2. 今後の事業展開
    過去1年間に現地従業員を「増加」と回答した企業は33.8%で、半数近く(46.2%)が今後1~2年の事業拡大を視野。
  3. サプライチェーン(原材料の調達先及び販売先)
    NAFTA域内の調達率は6割超、販売先はNAFTA向けが8割超を占める。日本からの調達率は2割弱で日本向けの販売は1割強。日本からの輸入で「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」の利用を検討中の企業は、半数近く(45.0%)に上る。
  4. 経営上の課題
    経営上の課題(コスト上昇要因)は、「労働者の確保」(59.2%)、「賃金(給与・賞与)」(54.9%)が上位を占める。
  5. 変化するビジネス環境への対応
    トルドー政権の政策に対する関心分野は、前回に続き「通商」(72.8%)、「税制」(65.4%)、「外交」(58.1%)が上位3項目に挙がる。通商の中では「米国・カナダ・メキシコ協定(USMCA)」(64.9%)、「追加関税」(55.7%)、「CPTPP」(38.1%)に関心を示す。

(注1)調査結果の構成比は、小数点第2位を四捨五入しているため、必ずしも合計は100とはならない。
(注2)回答比率は、各設問の回答者数を基数として算出した。

調査結果概要

(1)営業利益見込み:
黒字を見込む企業は74.8%。7年連続の7割超で調査史上過去最長を更新。

  • カナダ進出日系企業の営業利益は、2018年は回答企業の74.8%が黒字を見込む。前年(75.3%)より0.5ポイント減少したものの、2012年度調査から7年連続で7割台の黒字比率を維持している(資料4頁)。
  • 景況感を示すDI値(前期と比較した営業利益の「改善」-「悪化」)は16.8となり、前年から8.2ポイント悪化した。2018年の営業利益が前年比で「改善」するとの回答割合は41.3%となり、前年から6.1ポイント減少し、営業利益が「悪化」するとの回答(24.5%)は2.1ポイント増加した。また、2019年の景況感の見通しを示すDI値は27.3で、2018年に比べて10.5ポイント改善しており、営業利益の悪化を見込む企業は14.7%に減少している(資料5頁)。

(2)今後の事業展開:
事業拡大を視野に入れる企業は半数近く(46.2%)

  • 今後1~2年の事業の拡大を視野に入れる回答企業は46.2%で、前回から4.1ポイント減少した。産業別でみると、製造業は49.3%と前回(48.8%)から0.5ポイント増加したが、非製造業は43.1%と前回(52.1%)から9.0ポイント減少した。事業展開の方向性が拡大する理由として、「現地市場での売上増加」(74.2%)や「成長性、潜在力の高さ」(43.9%)が主に挙がった。拡大する機能としては、「販売機能」(65.2%)、「生産(高付加価値品)」(31.8%)、「生産(汎用品)」(24.2%)が上位を占めた(資料6頁)。
  • 2018年の設備投資は、金額ベースで前年を上回る企業が38.3%で、前年比横ばいは55.4%だった。設備投資の目的は、「既存設備の維持・補修」が50.8%を占めたほか、「増産・販売力増強」(25.4%)や「情報化(AI、IoTなど)への対応」(21.4%)が上位に挙がった(資料7~8頁)。
  • ICT分野の活用状況については、「スマートフォンやタブレット端末の導入」をしている企業が84.9%、「モバイル端末(携帯、スマートフォン)の業務アプリケーション連携」は55.8%、「クラウドサービス」が51.4%と高い導入率を示した。製造業では輸送用機器・部品(自動車・二輪車)、非製造業では卸売・小売(商社を含む)、販売会社がICTを積極的に活用しており、「IoT・M2Mソリューション」は販売会社の19.0%、「VR(仮想現実)・AR(拡張現実)」は輸送用機器(自動車・二輪車)の37.5%が活用している(資料9頁)。
  • 現地従業員数については、過去1年間に現地従業員を「増加」と回答した企業は33.8%となり、前回(36.6%)から2.8ポイント減少した。今後については40.9%の企業が「増加」を予定している。日本人駐在員数は総じて「横ばい」との回答になった(資料10頁)。

(3)サプライチェーン(調達、販売):
NAFTA域内の調達率は6割超、販売先はNAFTA向けが8割超

  • 原材料・部品の調達については、カナダ国内からの調達率は36.1%(現地日系企業9.1%、地場企業25.8%、その他外資企業1.2%)となり、前年から1.4ポイント増加した。米国(28.0%)とメキシコ(2.0%)を合わせたNAFTA域内からの調達率は66.1%を占めた。アジアからの調達は、日本が18.0%を占め、中国が5.9%、ASEANが3.6%と続いた(資料11頁)。
  • 販売先はカナダ国内が67.1%、米国が15.3%、メキシコが0.3%という分布となり、カナダを含むNAFTA向けは82.7%を占めた(資料12頁)。
  • 全回答企業のうち、米国またはメキシコとの輸出入においてNAFTAを利用する企業は、41.6%(47社)だった(資料13頁)。このうち、輸出/輸入を行っている企業に限ると、NAFTAを利用する企業は52.8%となった。また、日本からの輸入で「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」の利用を検討中の企業は半数近く(45.0%)に上った(資料14頁)。

(4)コスト上昇/販売抑制要因:
「労働者の確保」、「賃金(給与・所得)」が課題

  • 経営上の課題(コスト上昇要因)については、「労働者の確保」が59.2%と前年(49.7%)から9.5ポイント増えて筆頭要因となり、「賃金(給与・賞与)」が54.9%と前年(63.6%)から8.7ポイント減少したものの上位に挙がった。また、2割の企業が規制を課題に挙げており、その中では前回に続き「環境規制」(56.7%)や「労務」(30.0%)が課題の上位に挙がった(資料15頁)。

(5)USMCAの影響:
「影響はない」との回答が最多。自動車業界は「品目別原産地規則(PSR)の見直し」や「鉄鋼・アルミの域内調達比率達成義務」を懸念

  • NAFTAに代わるカナダ・米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の影響について、「影響はない」と回答した割合は48.9%で、「分からない」が32.8%、「プラスとマイナスの影響が同程度」が10.9%で続いた。「マイナスの影響」があると回答した割合は4.4%にとどまったものの、輸送用機器・部品(自動車・二輪車)では13.0%と高かった。同業種のマイナスの影響を項目別にみると、「品目別原産地規則(PSR)の見直し」(19.0%)、「鉄鋼・アルミの域内調達比率達成義務」(19.0%)、「通商拡大法232条が発動された場合の自動車・同部品の適用除外措置」(15.0%)の順に高かった(資料16頁)。
  • USMCAへの対策は、「何も変更しない」が56.0%、「分からない」が20.6%となり、対応はこれから、という企業が大半を占めた。具体的な対策を講じる中では、「販売価格の引き上げ」(17.7%)が最も高く、「調達先の変更」(7.1%)、「生産量・雇用の調整」(3.5%)が続いた。輸送用機器・部品(自動車・二輪車)では、「わからない」(39.1%)が最も高く、「何も変更しない」(26.1%)が続いた。具体的な対策では「販売価格の引き上げ」(17.3%)、「調達先の変更」(13.0%)、「生産量・雇用(労働時間)の調整」(8.7%)の順となった(資料17頁)。

(6)トルドー政権の政策に対する関心:
「通商」が最も高く、うち「USMCA」や追加関税に高い関心

  • トルドー政権の政策に対する関心分野として、前年に続き「通商」(72.8%)、「税制」(65.4%)、「外交」(58.1%)が上位3項目に挙がった。通商の中でも「USMCA」への関心が64.9%(63社)と大きかった。続いて「追加関税」(55.7%)、「CPTPP」(38.1%)に関心を示した。「外交」では、対米、対日に対する関心が87.3%、60.8%で上位を占めた(資料18頁)。

(7)市場拡大を期待する産業・地域:ICTへの期待が最多

  • 今後2~3年で拡大を期待する産業分野として、情報通信技術(ICT)を選択した企業が最多で、環境、医療、環境が続いた。前回(2016年)実施に比べて、ICTが30ポイントの大幅増となり、ロボティクス・メカトロニクス4.6ポイント増、農業・食品加工4.2ポイント増となった。一方、環境、医療、健康がそれぞれ5.1ポイント、3.5ポイント、6.8ポイント減少した。(資料19頁)。

ジェトロ海外調査部 海外調査計画課(担当:秋山)、米州課(担当:中溝、野口、藤井)
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