エジプトの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2021/2022年度のエジプトのGDP成長率は6.6%と前年を上回ったが、景気は減速傾向。
  • 輸入制限により貿易赤字幅は縮小。自動車など日本からエジプトへの輸出は大きく減少。
  • 湾岸諸国などからの直接投資受入が伸びる一方、ポートフォリオ投資からは引き揚げが続く。
  • 通貨切り下げなどにより物価の上昇が続き、国民生活を悪化させている。

公開日:2023年9月7日

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マクロ経済 
IMFからの追加融資を受けながら経済改革に取り組む

2021/2022年度(2021年7月~2022年6月)のエジプト経済は、外需がプラスに転じたことで実質GDP成長率は前年度の3.3%を大きく上回る6.6%となった。成長率に占める民間消費支出の寄与度は5.1ポイントから2.4ポイントに減少したが、投資はマイナス0.3ポイントからプラス2.2ポイントに転じた。業種別でみると、コロナウイルス渦で減少した観光客が戻り、観光業は前年度比45.7%と急増した。また、情報通信産業は16.5%増、スエズ運河通行料は11.7%増、製造業は9.6%増となった。

ロシアによるウクライナ侵攻が2022年2年に開始されて以来、エジプト政府は、主な輸入品である原油や小麦の価格高騰による財政支出増や、海外からのポートフォリオ投資引き揚げによる外貨準備高の減少に悩まされている。継続的な政策金利の引き上げや、輸入抑制など対抗措置を取る一方、外国政府や国際機関に財政支援を要請している。2022年3月には日本貿易保険(NEXI)の支援を受け、600億円のサムライ債を発行した。国際通貨基金(IMF)は2022年12月にマクロ経済の安定、民間企業主導の経済成長へと構造改革を支援するため、30億ドル相当の追加融資を決定した。融資条件には、柔軟な為替レートへの移行、財政健全化、国営企業の民営化の促進などが含まれている。

エジプト中央銀行(CBE)が発表した2022/2023年度上半期(2022年7月~12月)の国際収支状況によると、国際収支は前年同期の1400万ドルの赤字から6億ドルの黒字に転じた。貿易赤字の減少、観光収入やスエズ運河通行料などのサービス収支の黒字が拡大したことにより、経常赤字は77.2%減の18億ドルまで縮小した。資本収支は、湾岸諸国などからエジプトへの直接投資が増え、純流入となった。一方、米国の利上げやエジプト経済への先行き不安から、債券市場からホットマネーの国外流出が続いている。CBEによると、ロシアによるウクライナ侵攻前(2022年2月)に409 億ドルあった外貨準備高は2022年8月時点で331億ドルまで大幅減少した。その後は微増が続くが、本格的な回復には至っておらず、2023年7月時点で349億ドルにとどまっている。

2022/2023年度は、ロシア・ウクライナ戦争の継続などにより世界的な景気回復が見込めないこと、財政健全化に向け公共投資の抑制が見込まれること、民間企業の資金調達コストが上昇していることなどを背景に、経済成長の減速が見込まれている。IMFは2023年4月時点で、同年度の成長率を3.7%と予測している。

エジプト政府は2022年3月から通貨切り下げを3度行っており、エジプト・ポンドは対ドルで約半分に減価した。2023年5月のインフレ率(ヘッドライン、前年同期比)は32.7%まで上昇した。政府は、国民生活の悪化への影響を緩和しながら、持続的な成長軌道に乗せていく難しいかじ取りを迫られている。

貿易 
天然ガスを輸出し、原油を輸入

2022年のエジプトの貿易(通関ベース)は、輸出は前年比18.4%増の517億ドル、輸入は5.9%増の945億ドルとなり、前年に続き輸出入とも増加した。貿易収支は428億ドルの赤字となったが、赤字幅は前年より縮小した。外貨準備高の減少に歯止めをかけるため、CBEは2022年3月から12月まで輸入取引には原則として信用状(L/C)を利用することを義務付けるなど、強い輸入制限をかけたことが一因である。2023年7月現在も、輸入品の支払いにおける外貨送金の承認が中央銀行から下りにくい状況が続いている。

品目別輸出額では、183億ドルの鉱物性燃料(石油製品など)が輸出額全体の35.5%を占めており、肥料(33億ドル、6.5%)、プラスチックおよびその製品(28億ドル、5.4%)が続く。鉱物性燃料の主な輸出先は、近隣国のスペイン、トルコ、イタリア、ギリシャとなっている。電気機器(テレビなど)、果物(オレンジ・メロンなど)、衣類、野菜などの輸出増は、エジプト・ポンド安が追い風となった。

輸入でも154億ドルの鉱物性燃料が構成比16.3%と最大となっている。これは主に原油で、サウジアラビア、クウェートなどから輸入されている。その他の輸入品としては、穀物(小麦など)が73億ドル、機械類が71億ドルとなっている。原油や小麦の輸入額の増加は、国際相場の上昇による。ガソリンや小麦粉は政府が輸入し、補助金によって価格を調整した上で国内市場に供給している。また、ガソリン、小麦粉、医薬品などの輸入には、景気悪化の中で国民の支持を維持するため、外貨が優先的に割り当てられている。

国別の輸入(主な輸入元)をみると、順位は前年とほぼ同じとなっており、最大が144億ドルの中国、次いで79億ドルのサウジアラビア、68億ドルの米国が続く。中国からは電気製品、サウジアラビアからは鉱物性燃料(原油など)、米国からは搾油用種子類(大豆など)が輸入されている。

国別の輸出では、トルコ向けが最大の40億ドルで、37億ドルのスペイン、34億ドルのイタリアが続き、いずれも鉱物資源を多く輸出している。4位のサウジアラビアは、銅製品や果実の輸出先となっている。

表1-1 エジプトの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料(石油製品など) 13,832 18,317 35.5 32.4
肥料 2,226 3,337 6.5 49.9
プラスチックおよびその製品 2,785 2,789 5.4 0.1
電気機器(テレビなど) 2,397 2,635 5.1 9.9
果物(オレンジ・メロンなど) 1,713 2,201 4.3 28.5
衣類 1,329 1,682 3.3 26.6
宝石など 1,161 1,633 3.2 40.7
野菜 1,086 1,513 2.9 39.3
鉄鋼製品 1,782 1,408 2.7 △ 21.0
化学品 640 1,332 2.6 108.2
総額(その他含む) 43,637 51,646 100.0 18.4

〔出所〕エジプト中央動員統計局(CAPMAS)

表1-2 エジプトの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料(石油など) 10,974 15,351 16.3 39.9
穀物(小麦など) 6,411 7,286 7.7 13.6
機械類 7,274 7,074 7.5 △ 2.7
プラスチックおよびその製品 5,123 5,776 6.1 12.8
電気製品(テレビなど) 6,760 5,646 6.0 △ 16.5
鉄鋼製品 4,107 5,099 5.4 24.2
医薬品 4,036 3,799 4.0 △ 5.9
輸送機器(自動車など) 5,606 3,613 3.8 △ 35.6
搾油用種子類 3,201 3,066 3.2 △ 4.2
有機化学品 2,501 3,058 3.2 22.3
総額(その他含む) 89,206 94,460 100.0 5.9

〔出所〕エジプト中央動員統計局(CAPMAS)

表2-1 エジプトの主要国・地域別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
トルコ 2,991 3,956 7.7 32.3
スペイン 1,871 3,663 7.1 95.8
イタリア 2,884 3,409 6.6 18.2
サウジアラビア 2,241 2,492 4.8 11.2
米国 2,536 2,306 4.5 △ 9.1
オランダ 689 2,128 4.1 208.9
韓国 619 1,977 3.8 219.4
アラブ首長国連邦(UAE) 1,759 1,946 3.8 10.6
インド 2,047 1,914 3.7 △ 6.5
中国 1,475 1,845 3.6 25.1
合計(その他含む) 43,637 51,646 100.0 18.4

〔出所〕エジプト中央動員統計局(CAPMAS)

表2-2 エジプトの主要国・地域別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 14,424 14,401 15.2 △ 0.2
サウジアラビア 6,876 7,856 8.3 14.3
米国 6,387 6,765 7.2 5.9
ロシア 3,578 4,132 4.4 15.5
ドイツ 4,215 4,035 4.3 △ 4.3
インド 3,232 4,086 4.3 26.4
トルコ 3,745 3,721 3.9 △ 0.6
ブラジル 2,302 3,605 3.8 56.6
イタリア 3,134 3,461 3.7 10.4
クウェート 1,167 3,303 3.5 183.0
合計(その他含む) 89,206 94,460 100.0 5.9

〔出所〕エジプト中央動員統計局(CAPMAS)

対内・対外直接投資 
再エネ、スタートアップ企業への投資が拡大

エジプト中央銀行(CBE)によると、2022年の対内直接投資額(流入額)は、前年比59.6%増の222億ドルで、流出額133億ドルを引いたネットは89億ドルであった。直接投資額を国別でみると、アラブ首長国連邦(UAE)が4.1倍の57億ドルと最大で、21億ドルのオランダ、20億ドルのイタリアと英国、15億ドルの米国が続く。UAEからの直接投資が急増したのは、アブダビ首長国の政府系投資会社であるADQがエジプトの銀行や肥料メーカー、物流、金融決済サービスなどの大手企業5社に約20億ドルの出資をしたためである。UAEに続く欧米諸国は、各国の資源大手企業が地中海沖ガス田開発への投資を拡大したことによるものである。

エジプトへの投資の中心は欧米諸国とアラブ諸国であり、日本、中国、韓国を含む東アジアからの投資は限定的である。日本からの直接投資は、7,400万ドルと他国と比べて規模は小さいが、日本企業は、英国など第三国に設立した子会社から投資するケースも多く、数字以上の存在感を有している。エジプト政府は、海外直接投資(FDI)を持続的な経済成長のけん引役と位置付けており、大規模な雇用創出や先端技術の導入が見込まれる投資案件に「ゴールデンライセンス」を付与し、登記や土地取得等の行政手続きが滞らないよう支援している。

2022年11月に、エジプトのシャルム・エル・シェイクで国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が開催された。会場では、エジプトにおける多くの新エネルギーや再生エネルギー関連事業が発表された。UAEの再生エネルギー企業であるマスダールは、エジプトのインフィニティ、ハッサン・アラム・ユーティリティーとの合弁で、10ギガワット級の陸上風力発電をエジプト国内で建設予定と発表した。政府は、スエズ運河経済特区(SC Zone)を中心にグリーン水素、グリーンアンモニアの製造・輸出拠点(ハブ)となることを目指すと表明しており、今後、グリーン分野への投資が活性化することが期待されている。

近年、エジプトはスタートアップ企業に投資するファンドなどからも注目を集めている。マグニットの調査によると、2022年の中東・北アフリカ(MENA)地域におけるスタートアップ企業への投資件数は、国別でエジプトが160件となり、前年1位のUAEを抜いて同地域で初めて首位となった。日本のベンチャーキャピタル(VC)も存在感を示しており、AAIC、ケップルアフリカベンチャーズ、サニー・サイド・ベンチャー・パートナーズ、サムライインキュベートなどがエジプトのスタートアップに投資を行っている。ヘルスケア分野に積極投資を行っているAAICは2023年1月にエジプト法人を立ち上げた。エジプトの人口は1億人を超えており、個人消費市場としての注目も高まっている。

対日関係 
日本の自動車輸出が大幅減、風力IPP事業への参加続く

2023年4月、岸田文雄首相はG7広島サミット(主要国首脳会議)に向けたアフリカ歴訪の最初にエジプトを訪問した。アブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領との会談では、両国関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げすることで一致した。岸田首相の来訪に合わせてカイロで開催された「日・エジプト・ビジネスフォーラム」には、ムスタファ・マドブーリー首相をはじめ経済分野の閣僚8名が出席し、日本・エジプト両国の経済関係者の友好な関係が示された。

2022年の日本の対エジプト貿易は、輸出が前年比27.8%減の7億8,941万ドル、輸入が15.9%増の3億6,996万ドルとなり、日本の貿易黒字が縮小した。前年まで最大の輸出品であった自動車の輸出額は、政府による輸入制限の影響を大きく受け、45.8%の大幅減となった。日本を含む海外で生産された自動車の輸入はほとんどできなくなり、各メーカーのショールームを訪ねても、在庫が払底している状態が続いている。一方で、農業や水処理施設などで使われるポンプや、新行政首都をはじめとする都市開発で使用される建設機械などは、優先的に外貨の割り当てを受けているとされる国営または軍系の組織が調達を行うケースが多い。そのため、それぞれ、前年度比40.4%、2.9%増となった。

2022年12月に住友商事は、ラスガレブにおける陸上風力IPP事業への参画を発表した。UAEのAMEA Powerと共に500メガワットの風力発電所を建設・保有・運営し、2025年から送電を行う予定だ。2023年3月に豊田通商は、グループ会社のユーラスエナジーホールディングスと共に、エジプトで2件目の風力発電IPP事業に参加すると発表した。2023年6月に住友電装の子会社、住友エレクトリック・ワイヤリングシステム・エジプトはテンス・オブ・ラマダン市に新設する自動車部品工場の起工式を行った。

表3-1 日本の対エジプト主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 410,380 237,785 30.1 △ 42.1
階層レベル2の項目自動車 350,446 190,014 24.1 △ 45.8
階層レベル3の項目乗用車 77,361 66,991 8.5 △ 13.4
階層レベル3の項目バス・トラック 262,274 109,627 13.9 △ 58.2
階層レベル2の項目自動車の部分品 58,034 45,700 5.8 △ 21.3
一般機械 313,048 266,632 33.8 △ 14.8
階層レベル2の項目原動機 86,733 33,209 4.2 △ 61.7
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 22,269 31,260 4.0 40.4
階層レベル2の項目建設用・鉱山用機械 141,587 145,702 18.5 2.9
電気機器 103,560 90,582 11.5 △ 12.5
階層レベル2の項目電気回路等の機器 24,064 29,862 3.8 24.1
原料別製品 128,701 70,240 8.9 △ 45.4
階層レベル2の項目鉄鋼 56,623 11,739 1.5 △ 79.3
階層レベル2の項目ゴム製品 57,423 43,910 5.6 △ 23.5
化学製品 66,392 46,022 5.8 △ 30.7
階層レベル2の項目プラスチック 28,448 15,594 2.0 △ 45.2
食料品 23,165 23,320 3.0 0.7
合計(その他含む) 1,093,307 789,406 100.0 △ 27.8

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)を基に作成

表3-2 日本の対エジプト主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 253,664 296,140 80.0 16.7
階層レベル2の項目石油製品 123,528 106,307 28.7 △ 13.9
階層レベル3の項目揮発油 121,977 106,007 28.7 △ 13.1
階層レベル2の項目液化天然ガス 130,136 189,833 51.3 45.9
食料品 25,971 30,507 8.2 17.5
階層レベル2の項目野菜 4,867 6,691 1.8 37.5
階層レベル2の項目果実 13,430 14,112 3.8 5.1
原料別製品 10,761 15,142 4.1 40.7
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 8,461 10,209 2.8 20.7
原料品 5,955 7,187 1.9 20.7
化学製品 4,542 6,041 1.6 33.0
合計(その他含む) 319,111 369,959 100.0 15.9

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)を基に作成

基礎的経済指標

人口
1億440万人 (2023年1月、暫定値)
面積
100万平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
4,563 米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) 3.5 3.3 6.6
消費者物価上昇率 (%) 5.7 4.5 8.5
失業率 (%) 8.0 7.4 7.3
貿易収支 (100万米ドル) △ 42,060 △ 43,396 n.a.
経常収支 (100万米ドル) △ 7,802 △ 1,782 n.a.
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 34,095 35,090 24,824
対外債務残高(グロス) (10億米ドル、期末値) 124 138 156
為替レート ( 1 米ドルにつき、エジプト・ポンド、期中平均) 15.76 15.64 19.16

注:
失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):エジプト年度(7月~翌年6月)。
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
貿易収支、経常収支:2022年のデータは未公表。
出所:
実質GDP成長率、 消費者物価上昇率、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
失業率、貿易収支、経常収支、 対外債務残高(グロス):エジプト中央銀行(CBE)