エチオピアの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 長らく続いた北部紛争が11月上旬に停戦合意に至り、今後の立て直しが望まれる。
  • IMFによれば2022年の外貨準備高は輸入0.7カ月分と1カ月分を割り込んでおり、厳しい状況となっている。
  • 厳しい外貨状況を受け、乗用車、二輪車など38品目が2022年10月より輸入禁止となっている。
  • 2022年1月、輸出者の外貨保持割合が40%から20%に引き下げられ、取引条件はさらに厳しくなっている。
  • 住友商事が参画するサファリコム・エチオピアがサービス開始。

更新日:2023年10月4日

マクロ経済 
厳しい外貨情況が続く

エチオピア中央銀行は2021/2022年度(2021年7月8日~2022年7月7日)の実質経済成長率を6.4%と発表した。北部紛争、干ばつなどを経験しつつも前年度の6.3%とほぼ横ばいだった。分野別では工業が4.9%と前年の成長率を下回ったが、農業は6.1%、サービス業が7.6%とけん引し、中でも特に運輸・通信が9.8%と貢献した。

2020年11月から続いていた北部紛争は、2022年11月にアフリカ連合(AU)の仲介により停戦合意に至った。しかし、外資の撤退、紛争の影響による生産減、アフリカ成長機会法(AGOA)に基づく米国への特恵待遇の停止など、経済に与えた影響は少なくない。

IMFによれば、2022年の外貨準備高は輸入1カ月分を割り込む0.7カ月分となり、外貨不足は一段と厳しくなった。これはアフリカ54カ国の中でも、ジンバブエ、南スーダン、ガーナに次いで低い。2022年1月、中央銀行は輸出者の外貨保持割合を40%から20%に半減させた一方、国の管理下に置く割合を50%から70%に増加させた。同年10月には乗用自動車、アルコール類、魚介類など38品目に対し、新規のL/C発行停止措置が取られた。翌11月には家具や免税店での販売は本措置の対象外となるなど、一部見直しが実施されたが、大半は停止措置が継続中だ。政府は外貨節約のため、輸入品ではなく国産品の利用を推奨している。しかし、2023年4月時点の外貨準備高は輸入0.6カ月分とさらに減少しており、しばらくは厳しい状況が続くとみられる。

政府は2022年2月、ファンド「エチオピアン・インベストメント・ホールディングス(EIH)」を設立した。国家主導の統制経済、通信、銀行、運輸などの国営からの転換を図り、外資への市場開放、国営企業の一部民営化など民間投資を誘致する体制を整えた。エチオテレコムやエチオピア航空の民営化がスタートしており、今後の外国投資誘致の鍵となる。

貿易 
消費財の輸入増で貿易赤字が拡大

2021/2022年度の貿易は、輸出が41億150万ドル(前年度比14.0%増)、輸入が180億9,220万ドル(26.6%増)であった。

輸出ではコーヒー豆が総輸出額の34.9%(14億3,050万ドル)を占め最大だった。数量ベースでは前年度比22.0%増だった一方、取引価格も29.0%上昇したため、前年度の9億1,000万ドルから57.3%増となった。コーヒー豆に次ぐ輸出品目は金であり、13.3%(5億4,600万ドル)を占めたが、金額・量共に前年度比で減少した。一方、花きの輸出額は前年度比15.1%増の5億4,160万ドルとなった。花きの輸出額は金に迫り、総輸出額の13.2%を占めた。欧州での生産コストの増加による国際価格の上昇を背景に、エチオピアを含むアフリカ諸国での増産につながった。

国別でみると、輸出相手国の上位は、前年と同じく1位はスイス、2位はオランダ、3位が米国の順だった。スイス(構成比13.4%)は輸出額の9割以上がコーヒー、オランダ(同9.4%)は8割以上が花きであり、品目構成は前年と変化がなかった。米国(同8.7%)向け輸出品目は、衣料関連が約5割を占めた。

輸入は外貨不足にもかかわらず、世界的な物価上昇を受けて前年度比26.6%増を記録した。うち消費財は同39.1%増だったが、中でも、特に非耐久消費財の伸びが顕著で、総輸入額の4割超を占めた。例えば、肥料は98.1%増となった他、燃料も油価の上昇を受けて78.0%増となった。一方で資本財は農業、工業、運輸業のいずれの分野でも前年度より落ち込んだ。

国別では中国(構成比18.4%)が前年度に引き続き最大の輸入相手国であり、電子機器、スマートフォン、プラスチック製品、衣類など幅広い製品が輸入された。2位のインド(同15.2%)からの輸入品は医療用品、乗用車が多く、この2品が40%を占めた。続いてアラブ首長国連邦(UAE、同6.8%)、サウジアラビア(同6.3%)、クウェート(同6.0%)、トルコ(同5.8%)であり、いずれも中東の国々だった。

表1-1 日本の対エチオピア主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
貨物自動車 20,254 27,363 42.4 35.1
乗用車 6,031 3,322 5.1 △ 44.9
蒸気タービン 3,071 4.8 全増
建設機械 8,440 2,791 4.3 △ 66.9
部分品 2,707 4.2 全増
その他合金鋼フラットロール製品(幅600mm以上) 68 2,702 4.2 3,873.5
電動機及び発電機 13 2,526 3.9 19,330.8
自動車部品 2,439 2,323 3.6 △ 4.8
バイク 1,315 2,230 3.5 69.6
ゴムタイヤ(新品) 1,811 1,764 2.7 △ 2.6
合計(その他含む) 70,872 64,548 100.0 △ 8.9

〔出所〕Global Trade Atlas

表1-2 日本の対エチオピア主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
コーヒー豆 71,710 138,019 86.6 92.5
油糧種子(主にゴマ) 3,992 8,351 5.2 109.2
植物の葉・枝 4,748 4,487 2.8 △ 5.5
花き 5,168 3,971 2.5 △ 23.2
乾燥した豆 1,032 1,701 1.1 64.8
挿穂、接ぎ穂 865 763 0.5 △ 11.8
蜜蝋 362 547 0.3 51.1
綿Tシャツ 13 446 0.3 3,330.8
貴石・半貴石 110 269 0.2 144.5
衣類及び衣類附属品 31 139 0.1 348.4
合計(その他含む) 88,641 159,418 100.0 79.8

対内直接投資 
コロナ禍で目立った中国投資

エチオピア投資委員会(EIC)によれば、2021/2022年度の外国直接投資額は30憶ドルであった。EICは36億ドルの直接投資を見込んでいたが、新型コロナウイルス感染症の拡大やウクライナ侵攻、そして米国によるAGOAの適用停止などの影響を受け、見込みを下回った。国別では中国、インド、トルコ、UAEからの投資が多く、最大の投資国である中国は62社が直接投資を行った。

個別の投資案件を見ると、住友商事が参画するサファリコム・エチオピアは通信サービス開始に係る機器の調達、データセンターの整備などで数億ドル規模の投資を、年間を通じて行っている。また、2022年8月、ウォダインベストメントグループ(中国)がオロミア州における中規模工業団地と関連施設の建設に9,500万ドルを投資すると発表した。同年5月には中国で開催された中国-エチオピア投資・貿易フォーラムにおいて6件の覚書(MoU)を締結し、うち1件は投資促進にかかる協力であった。また、シノマ・インターナショナル・エンジニアリング(中国中材国際工程)は、急増するセメント需要に対応するため、デルバ・ミッドロックセメントと第2生産ラインを建設するべく2億8,200万ドルの契約を結んだ。中国土木工程集団(CCECC)は5つ星ホテルを含む複合施設の建設DMCトレーディングと142億エチオピアブル(約2億9,000万ドル)の契約を行った。

2022年8月、ディレダワ市にエチオピア初のフリーゾーンがオープンし、同市は中国山東省浜州市と、投資、貿易を含む多面的な協力に係る姉妹都市締結を行った。

一方でAGOAの停止は縫製業への影響が大きく、加えて外貨不足の影響もあり、外資企業の撤退や従業員の解雇、操業停止などの報道が相次いだ年でもあった。

対日関係 
日本の対エチオピア貿易は5年連続で輸入超過

日本の財務省貿易統計によると、2022年の日本の対エチオピア貿易(通関ベース)は、輸出が前年比8.9%減の6,455万ドル、輸入が79.8%増の1億5,942万ドルとなった。貿易収支は日本の5年連続の輸入超過だった。

輸入は、コーヒー豆が前年比で約2倍の伸びを示し、構成比は全体の86.6%を占めた。油糧種子(主にゴマ)と綿Tシャツは2021年比(金額ベース)でそれぞれ2.1倍、34.3倍と大幅に増加した。北部紛争の状況が改善したことが主な要因だが、いずれも2020年と比較すると半分以下の規模にとどまる。そのほか、植物の葉・枝や花きといった植物類は2021年比それぞれ前年比5.5%減、23.2%減だった。他方、緑豆の輸出額増加などによって乾燥した豆が64.8%増、貴石・半貴石はオパールの輸出が伸び前年比2.5倍となった。

日本から対エチオピアの輸出では、主力の小型トラック(5トン以下)が増加したことで、貨物自動車が前年比35.1%増となったほか、蒸気タービンや飛行機部品が新たに輸出品目に加わった。一方で、乗用車と建設機械がそれぞれ44.9%減、66.9%減となるなど、外貨不足の影響もあり、全体の輸出額は前年から8.9%減少した。

日本企業による対エチオピア投資では、横河電機が2022年3月、アディスアベバ市の水道事業を管轄するアディスアベバ上下水道公社(AAWSA)より、上水道に関連する設備を統合的に監視し、管理するシステムを受注した。凸版印刷子会社のトッパングラビティは2022年7月、エチオピアン・インベストメント・ホールディングス(EIH)とMoUを締結し、セキュリティー印刷を展開予定。三菱商事は2022年4月、中国のSEPCOIII Electric Power Construction(山東電力建設第三工程)とコンソーシアムを組み、エチオピアの民間発電事業者であるTulu Moye Geothermal Operations(TMGO)と1 億ドル相当の地熱発電所建設契約に調印した。発電所の建設開始は2022年9月に始まっており、電力供給は2024年12月の開始を予定している。

基礎的経済指標

人口
1億410万人(2021/22年)
面積
114万平方キロメートル
1人当たりGDP
1,218米ドル(2021/22年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2019/20年 2020/21年 2021/22年
実質GDP成長率 (%) 6.1 6.3 6.1
消費者物価上昇率 (%) 19.9 20.2 33.8
失業率 (%) 19.2 18.9 19.4
貿易収支 (100万米ドル) △ 10,894 △ 10,691 △ 13,989
経常収支 (100万米ドル) △ 4,402 △ 3,191 △ 5,131
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 28,890 29,503 27,914
為替レート (1米ドルにつき、エチオピアブル、期中平均) 31.3 39.0 48.57

注:
年度はエチオピア財政年度(7月8日~翌7月7日)。
人口:年度中央値。
失業率:都市青年層失業率(2020年1月、2021年2月、2022年2月)。
貿易収支:サービスを除く財のみ。
出所:
人口、面積、1人当たりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス)、為替レート:エチオピア国立銀行2021/22年報
失業率:中央統計庁