ナイジェリアの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2023年5月、新政権発足。財政を圧迫していた燃料補助金を撤廃し、通貨ナイラを変動相場制に移行。
  • 石油生産の落ち込みと対照的に非石油部門は堅調。2022年の実質GDP成長率は3.1%。
  • 油価の高騰により原油輸出額が上振れした結果、貿易収支は黒字に転換。

公開日:2023年9月6日

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マクロ経済 
石油を含む鉱業部門以外は通年でプラス成長

ナイジェリア国家統計局(NBS)によると、2022年の実質GDP成長率は3.1%となり、前年の3.4%から減速した。石油を含む鉱業部門の成長率は通年でマイナス18.2%と2020年第2四半期以降、マイナス成長が続いている。原油の盗難や設備のメンテナンス不足で原油産油量が減少した。2022年11月の産油量は日量115万バレルで、新型コロナウイルス感染拡大以前の半分程度に落ち込んだが、その要因は日量40万バレルに及ぶと推定される原油の盗難である。

その一方で、石油鉱業部門を除くほぼ全ての産業はプラス成長を記録した。非石油部門の2022年通年の成長率は4.8%で、中でも金融・保険(同16.4%)、情報通信(同9.8%)、卸・小売り(同5.1%)などが経済成長をけん引した。農業セクターは、10月に南東部地域での大きな洪水被害により被害を受けたものの、通年で1.9%と低成長ながらプラス成長を維持した。

政府は燃料補助金を投入し、市販ガソリン価格を1リットル当たり170ナイラ(約0.4ドル、2022年12月)に抑えてきたが、年間で4兆6,200億ナイラに上るといわれる同補助金は、連邦政府の財政を圧迫してきた。2023年の総選挙で当選したアシワジュ・アーメド・ボラ・ティヌブ大統領は5月29日に新政権を発足させた。燃料補助金を撤廃し、連邦政府の財政負担を軽減させたほか、経済再生に向けた新政策を打ち出している。また、ナイジェリア中央銀行は外国為替の透明性を高めるため、2023年6月14日に公定レートを投資や輸出のためのレート(I&Eウィンドウレート)に統一し、ナイラを変動相場に移行させた。新政権に対して経済健全化に向けた期待が寄せられる一方、ナイラ安が進行し、ナイラ建て対外債務が増加するほか、ガソリン代の高騰など、さらなるインフレ圧力が高まっている。加えて、主な外貨獲得手段である原油生産量が大幅に減少したことから、中央銀行は外貨の供給を絞り、銀行を介した外貨調達が難しい状態が続いている。

貿易 
原油高がけん引し、貿易黒字に転換

NBSによると、2022年の輸出額は前年比41.7%増の26兆7,967億ナイラであった。一方、輸入額は22.8%増の25兆5,905億ナイラであり、年間の貿易収支は1兆2,062億ナイラの黒字だった。生産量の大幅な減少にもかかわらず、なお輸出シェア79%を占める原油が、ウクライナ危機やエネルギー需要の高まりによる価格高騰により、21兆991 億ナイラ(前年比46.4%増)と輸出額を大きく伸ばしたことが貿易黒字の要因である。輸出先を国別にみると、原油の主要な輸出先であるインド(構成比12.6%)、スペイン(同12.0%)、インドネシア(同7.4%)が上位を占めた。インドネシア向けは原油輸出が伸びた影響で前年比2.7倍と急増した。日本向けは輸出全体の1.5%だった。

外貨収入源として、原油などの鉱物性生産品の輸出に大きく依存する一方、輸入の最大シェアも石油精製品(ガソリンなど)を含む鉱物性生産品で、総輸入額の約4割を占めた。同品目の輸入額は10兆2,513億ナイラで前年比56.2%増だった。輸出と同様に、輸入もエネルギー価格高騰の影響を受ける結果となった。日量計44.5万バレルの精製能力を持つ国内3カ所の製油所は、メンテナンス不足のため現在、全て稼働を停止しており、ガソリンをはじめとする石油製品のほとんどを輸入に依存している。次いで輸入が多かった品目は、機械・電気機器・同関連品(4兆3,369億ナイラ)だった。輸入元を国別に見ると、中国(構成比21.7%)、ベルギー(同9.9%)、米国(同5.3%)が上位を占めた。輸入における日本の占める割合は0.5%だった。

表1-1 ナイジェリアの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ナイラ、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性生産品 16,910,119 24,389,951 91.0 44.2
階層レベル2の項目原油 14,410,769 21,099,178 78.7 46.4
階層レベル2の項目液化天然ガス 1,975,359 2,853,784 10.6 44.5
階層レベル2の項目プロパン 58,444 35,717 0.1 △ 38.9
階層レベル2の項目ブタン 24,466 0 0.0 △ 100.0
輸送機器・同関連品 654,167 364,783 1.4 △ 44.2
植物性生産品 259,305 316,547 1.2 22.1
加工食品・飲料品 345,302 405,751 1.5 17.5
化学工業製品 405,879 844,368 3.2 108.0
卑金属・同製品 152,238 244,618 0.9 60.7
プラスチック・ゴム製品 44,635 54,487 0.2 22.1
合計(その他含む) 18,907,789 26,796,755 100.0 41.7

〔出所〕ナイジェリア国家統計局

表1-2 ナイジェリアの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ナイラ、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
機械・電気機器・同関連品 4,195,175 4,336,996 16.9 3.4
鉱物性生産品 6,563,003 10,251,333 40.1 56.2
輸送機器・同関連品 1,555,881 1,680,757 6.6 8.0
化学工業製品 1,799,433 2,215,191 8.7 23.1
植物性生産品 1,351,406 1,313,469 5.1 △ 2.8
卑金属・同製品 1,060,164 851,394 3.3 △ 19.7
プラスチック・ゴム製品 1,161,273 1,186,873 4.6 2.2
加工食品・飲料品 903,477 976,580 3.8 8.1
動物性生産品 551,226 549,643 2.1 △ 0.3
木材パルプ・同製品 59,340 105,610 0.4 78.0
精密機器・同関連品 1,288 274,534 1.1 21214.8
合計(その他含む) 20,843,965 25,590,547 100.0 22.8

〔出所〕ナイジェリア国家統計局

対内投資 
海外からの投資流入額は過去10年で最低

NBSによると、2022年の対内投資額(直接投資、ポートフォリオ投資、その他含む)は53億2,890万ドルで、前年比25.7%減だった。最大の投資国は英国で、全体の51.9%(27億6,400万ドル)と半分を占め、8%の南アフリカ共和国、7.9%のシンガポール、5.4%の米国が続く。米国企業はナイジェリアの石油・ガスセクターにおいて依然として重要なプレーヤーであり、大きな影響力を持つ。しかし、米国の石油およびガスへの投資は前年比93.7%減と大きく減少した。2022年、海外投資流入額は過去10年間で最低となった。外貨不足、治安の悪化、未整備なインフラ、汚職などにより外国からの直接投資の減少が続いていることが背景にある。投資先の業種は、銀行が前年比43%増の20億8,960万ドルで全体の39.2%を占めた。次いで製造業が多く、9億4,843万ドル(構成比17.8%)だった。有価証券は前年比57.1%減の4億6942万ドルと大きく減少した。

石油関連の主要な動きとしては、政府は2022年7月に官営だったナイジェリア国営石油公社(NNPC)を株式会社化し、NNPC Limitedとして発足させ、政府として石油産業の強化に注力しはじめている。2023年5月にはシングルトレインとしては世界最大の日量65万バレルの生産が可能とされる、ダンゴテ製油所の落成式が行われた。同製油所が稼働すれば、輸入品から国内精製品への代替が進むことが期待される。また、ポートハーコート製油所も修繕工事を行い、年内に再稼働させる予定だ。

政府は、非石油産業の育成による輸入の削減も目指しており、2033年までの自動車産業育成政策や2027年までの投資政策などを策定し、承認した。また、2023年5月に発足したボラ・ティヌブ政権は、早々に燃料補助金を廃止したほか、中央銀行の公定レートを変動相場に移行させるなど、新たな取り組みを行っている。

スタートアップ投資は引き続き活況を呈している。ナイジェリアにおける2022年のスタートアップのエクイティ・ファイナンスによる資金調達額は、前年比では36%減だったものの、12億ドルを記録し、4年連続でアフリカ最大となった。また、ムハンマド・ブハリ前大統領は2022年10月、スタートアップ法案に署名し、「ナイジェリア・スタートアップ法2022」が成立した。米グーグルは、グーグル・フォー・スタートアップ・ブラック・ファウンダーズ・ファンド(BFF)を立ち上げ、2021年から2023年にかけて135社を支援しており、うち58社がナイジェリアのスタートアップとなっている。

表2 ナイジェリアの国・地域別対内投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
英国 2,288 2,764 51.9 20.8
南アフリカ共和国 1,054 429 8.0 △ 59.3
シンガポール 464 421 7.9 △ 9.4
米国 678 287 5.4 △ 57.7
アラブ首長国連邦 357 282 5.3 △ 21.2
モーリシャス 691 209 3.9 △ 69.8
オランダ 410 171 3.2 △ 58.2
香港 38 165 3.1 340.2
トーゴ 87 105 2.0 20.5
スペイン 36 40 0.8 13.2
ルクセンブルク 74 36 0.7 △ 51.9
中国 10 25 0.5 143.1
モロッコ 13 22 0.4 74.3
ベルギー 40 21 0.4 △ 47.2
コンゴ 32 20 0.4 △ 37.5
ギニア 30 20 0.4 △ 33.3
サウジアラビア 46 9 0.2 △ 80.0
デンマーク 79 8 0.2 △ 89.3
ドイツ 25 8 0.2 △ 66.5
日本 0 5 0.1 23350.0
合計(その他含む) 6,701 5,329 100.0 △ 25.7

〔出所〕ナイジェリア国家統計局

対日関係 
日本への輸出はLNGがけん引

日本の財務省統計によると、ナイジェリアから日本への輸出額は前年比64.7%増の12億5,048万ドルだった。構成比の約7割を占める液化天然ガス(LNG)が前年比73.0%増の9億842万ドルを記録し、LNGの伸びが輸出全体の伸びにつながった。ただし、数量ベースではLNGは97万トンで前年比14.8%増にとどまっている。ナイジェリアの日本からの輸入額は、前年比13.5%減の2億4,858万ドルだった。自動車やバス・トラックなどの輸送機器が15.9%増と伸びる一方で、二輪自動車、一般機械などが減少した。

在ナイジェリア日系企業の動きでは、味の素が2022年5月、ナイジェリアにおけるブランド力の強化を目的として社名をウエスト・アフリカン・シーズニング社(WASCO)から味の素フーズ・ナイジェリア・リミテッドに変更した。2022年11月には日揮グローバル(JGC)が年産120万トンの浮体式液化天然ガス生産設備(FLNG)に関わる基本設計業務を受注した。また、2022年11月から大塚製薬がラゴスで「ポカリスエット」の店頭販売を開始している。豊田通商の完全子会社である仏CFAOグループ傘下のCFAOモータースは、トヨタブランド車の販売を開始した。今後、ナイジェリアでのトヨタ自動車の販売は、独立代理店のトヨタナイジェリアとCFAOモータースの2系列体制となる。

日系ベンチャーキャピタル(VC)のケップルアフリカベンチャーズは2022年9月、UAEのエマルゴ・アフリカと提携し、エマルゴ・ケップル・ベンチャーズを設立した。新会社ではweb3に特化した新たなファンドを運営する。また、VCのグローバル・ブレインは2023年4月、プレ・シリーズAラウンドで、ナイジェリアでフリート車両を保有する法人や修理工場、部品小売店に向けて、流通ソリューションを提供するメコー・オートテックに出資した。同社にとって、ナイジェリアで事業を行うスタートアップに対する初の出資となった。

表3-1 ナイジェリアの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:1000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
液化天然ガス 524,949 908,416 72.6 73.0
非鉄金属 137,179 184,383 14.7 34.4
原材料 96,002 156,619 12.5 63.1
階層レベル2の項目木材 47 0.0 全増
食料品 703 232 0.0 △ 67.0
階層レベル2の項目魚介類 302 191 0.0 △ 36.8
階層レベル2の項目野菜 51 15 0.0 △ 70.6
階層レベル2の項目果実 5 13 0.0 160.0
化学製品 34 0.0 全増
電気機器 67 4 0.0 △ 94.0
合計(その他含む) 759,265 1,250,475 100.0 64.7

〔出所〕 財務省貿易統計

表3-1 ナイジェリアの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:1000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 75,238 87,221 35.1 15.9
階層レベル2の項目自動車 47,969 58,667 23.6 22.3
階層レベル3の項目乗用車 7,506 11,019 4.4 46.8
階層レベル3の項目バス・トラック 30,354 35,477 14.3 16.9
階層レベル2の項目自動車の部分品 17,545 20,633 8.3 17.6
階層レベル2の項目二輪自動車 7,935 6,353 2.6 △ 19.9
原料品 50,351 41,466 16.7 △ 17.6
一般機械 45,878 39,653 16.0 △ 13.6
化学製品 25,601 31,630 12.7 23.5
階層レベル2の項目プラスチック 4,571 17,284 7.0 278.1
階層レベル2の項目医薬品 11,602 12,545 5.0 8.1
原料別製品 41,113 24,263 9.8 △ 41.0
階層レベル2の項目鉄鋼 29,495 10,688 4.3 △ 63.8
階層レベル2の項目ゴム製品 5,177 6,846 2.8 32.2
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 5,436 5,601 2.3 3.0
食料品 30,423 13,408 5.4 △ 55.9
電気機器 14,416 7,541 3.0 △ 47.7
合計(その他含む) 287,331 248,577 100.0 △ 13.5

〔出所〕 財務省貿易統計

基礎的経済指標

人口
2億1,854万人(2022年)
面積
92万3,769平方キロメートル
1人当たりGDP
2,202米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △1.9 3.4 3.1
消費者物価上昇率 (%) 13.2 17 18.8
失業率 (%) 33.3 n.a. n.a.
貿易収支 (100万米ドル) △ 16,402 △ 3,246 n.a.
経常収支 (100万米ドル) △ 15,986 △ 1,849 n.a.
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 36,730 40,476 35,564
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 33,348 38,391 41,695
為替レート (1米ドルにつき、ナイラ、期中平均) 358.81 401.15 425.98

注:
人口、1人当たりGDP:推計値
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)。
貿易収支、経常収支:暫定値。
出所:
人口:世界銀行
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
面積、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:ナイジェリア国家統計局
貿易収支、経常収支:ナイジェリア中央銀行
対外債務残高(グロス):ナイジェリア債務管理局