香港の貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のGDP成長率はマイナス3.5%と前年を大幅に下回る。
  • 財貨の貿易は輸出・輸入とも大幅減少。世界的需要の鈍化や中国本土との越境輸送の乱れが重い足かせに。
  • 総固定資本形成に基づく投資支出は大幅減少。景気見通しの低迷、金融引き締めによる借入コストの上昇などが影響。
  • 高付加価値品の物流の要所である香港国際空港の貨物取扱量は2年連続で世界1位。
  • 対内直接投資は前年比4.3%増の1兆897億香港ドル。中国が4年連続で1位。
  • 2023年通年の成長率は、4.0~5.0%と予測(2023年5月時点)。

公開日:2023年11月28日

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マクロ経済 
2022年の成長率は大幅に低下、経済成長減速などが原因

2022年の香港経済は、主要国の経済成長減速など外部環境の悪化と金融引き締めが財輸出と固定資産投資を圧迫し、実質GDP成長率はマイナス3.5%と、前年の6.4%を大幅に下回った。四半期ベースでみると、2022年第1四半期にマイナス3.9%、第2四半期はマイナス1.2%と前期からやや回復したものの、第3四半期はマイナス4.6%、第4四半期もマイナス4.1%と、通年でマイナス成長に転じた。

成長率を需要項目別でみると、2021年12月末以降、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染拡大第5波が到来し、2022年第1四半期にかけて感染者が大きく増加した影響を受け、2022年第1四半期の民間最終消費支出は急落した。その後、感染状況の安定に伴って各種防疫措置が徐々に緩和される中で、労働市場は改善した。また、香港特別行政区政府(以下、香港政府)が前年に引き続き消費刺激策として実施した市民1人当たり1万香港ドルの電子消費券の配布が寄与し、民間最終消費支出は前年比1.2%減にとどまった。域内総固定資本形成は、景気見通しの低迷や金融引き締めによる借入コストの上昇などにより前年比7.7%減となった。財貨の貿易は、世界的な需要の低迷や香港と中国本土間の越境輸送の乱れが重い足かせとなり、輸出はマイナス13.9%、輸入はマイナス13.2%といずれも2桁減となった。サービス輸出は1.4%減と貿易実績の低迷とともに減少した。2022年に香港を訪れた外国人渡航者数は前年比6.6倍の60万人で2021年の9万人を大きく上回ったが、2018年の6,510万人のわずか0.9%であった。旅行サービス輸出は64.8%増であったが、2018年の7.8%に過ぎなかった。

消費者物価指数(CPI)は1.9%と、前年(1.6%)より0.3ポイント上昇した。食料品や衣料品などの価格が上昇し、エネルギー関連品目の価格は高騰したものの、他の主要構成品目の物価上昇圧力が抑制されたことから上昇幅は限定的だった。

小売業の総売上高は、前年比0.9%減の3,500億香港ドルとなった。通年では減少したものの、電子消費券の配布が寄与し、消費者心理が改善したこと、感染状況が安定したことによる社会的距離の緩和などに伴い2022年第4四半期の小売総売上高は微増した。

失業率は4.3%と、前年(5.2%)より0.9ポイント低下した。新型コロナ第5波による影響から2022年2月~4月期は5.4%まで上昇したが、域内経済活動の回復とともに改善状況が継続し、2022年10月~12月期は3.5%まで低下した。

2023年第1四半期の実質GDP成長率は2.9%増、第2四半期も1.5%増とプラス成長となった。2023年2月に香港と中国本土間の往来制限の全面解除に伴い、消費者心理が急激に改善した。その後は、個人消費とインバウンド観光により小売売上高は2桁台で回復した。失業率も2023年初めは3%台で推移し、同年第1四半期は2.9%まで改善した。

香港政府は、2023/2024年度(2023年4月~2024年3月)の財政予算案の発表時に、香港経済は回復初期段階にあり、企業や市民は依然として政府支援を必要としていると述べた。同予算案では、2022/2023年度予算において実施した中小企業向け信用保証制度の申請期限を2024年3月まで延長した。また、2022年に引き続き2023年も電子消費券の配布を実施するとし、1人当たりの総支給額を1万香港ドルから5,000香港ドルに引き下げた。

香港政府は2023年8月、同年の成長予測値について、厳しい外部環境が輸出の足かせになるものの、インバウンド観光と個人消費が域内経済成長をけん引することから、同年2月および5月に公表した当初見通しの3.5~5.5%から4.0~5.0%に上方修正したと発表した。

表1 香港の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 6.4 △ 3.5 △ 3.9 △ 1.2 △ 4.6 △ 4.1 2.9
階層レベル2の項目民間最終消費支出 5.6 △ 1.2 △ 6.2 △ 0.2 △ 0.4 1.7 13.0
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.9 8.2 6.0 12.6 5.4 9.1 1.3
階層レベル2の項目域内総固定資本形成 8.3 △ 7.7 △ 6.3 △ 1.2 △ 14.2 △ 8.9 7.9
階層レベル2の項目財貨の輸出 18.7 △ 13.9 △ 4.4 △ 8.5 △ 15.9 △ 24.9 △ 18.9
階層レベル2の項目財貨の輸入 17.2 △ 13.2 △ 5.9 △ 6.0 △ 16.5 △ 22.9 △ 14.6
階層レベル2の項目サービスの輸出 3.4 △ 1.4 △ 4.3 2.7 △ 4.0 0.6 16.6
階層レベル2の項目サービスの輸入 2.5 △ 1.7 △ 3.5 △ 1.5 △ 3.2 1.2 20.7

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処

貿易 
貿易額は減少傾向

2022年の香港の財貨貿易の総額は、世界的な経済成長の鈍化に加え香港と中国本土間の越境輸送の混乱を受け、前年比7.9%減の9兆4,591香港ドルだった。うち、輸出は8.6%減の4兆5,317億香港ドル、輸入は7.2%減の4兆9,275香港ドルと、前年からいずれも減少した。

輸出の内訳をみると、全体の98.6%を占める再輸出は前年比8.5%減の4兆4,690億香港ドル、香港原産品の輸出(構成比1.4%)は15.9%減の626億香港ドルとなった。輸出を国・地域別でみると、1位は引き続き中国(56.7%)で、12.9%減の2兆5,708億香港ドル、2位は米国(6.8%)で5.8%増の3,096億香港ドル、3位はインド(3.8%)で29.0%増の1,717億香港ドルとなった。日本(2.3%)は13.8%減の1,025億香港ドルの6位だった。輸出を品目別にみると、1位の電気機器・同部品(49.0%)が1.9%減の2兆2,214億香港ドル、2位の通信・音響機器(12.0%)が27.5%減の5,457億香港ドル、3位の事務用機器・データ処理機(10.8%)が13.1%減の4,888億香港ドルとなった。

輸入を国・地域別でみると、1位は引き続き中国(42.2%)で14.6%減の2兆777億香港ドル。2位は台湾(11.9%)で7.3%増の5,874億香港ドル、3位はシンガポール(8.1%)で3.7%減の3,985億香港ドルとなった。日本(4.9%)は10.4%減の2,428億香港ドルの5位だった。

輸入を品目別にみると、1位の電気機器・同部品(45.7%)が3.1%減の2兆2,512億香港ドル、2位の通信・音響機器(11.3%)が26.4%減の5,563億香港ドル、3位の事務用機器・データ処理機(8.4%)が9.3%減の4,148億香港ドルとなった。

香港は原則輸入関税がかからない自由貿易港であり、中継貿易拠点としての機能を果たしてきた。世界的な経済経済成長の鈍化の影響から電子部品の貿易は減少したものの、電子・電気産業の世界有数の集積地である深セン市を後背地とする中で、工場の自動化に必要な専門・科学・制御機器は2桁台の伸び率を示している。国際空港評議会(ACI)の統計によれば、2022年の香港国際空港の貨物取扱量は前年比16.5%減の420万トンで、2021年に引き続き2位のメンフィス(米国)を抑えてトップの地位を維持した。

表2-1 香港の主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 2,263,991 2,221,349 49.0 △ 1.9
通信・音響機器 752,714 545,738 12.0 △ 27.5
事務用機器・データ処理機 562,474 488,790 10.8 △ 13.1
雑製品 247,957 23,182 0.5 △ 90.7
非金属鉱物製品 166,969 177,863 3.9 6.5
専門・科学・制御機器 102,016 155,321 3.4 52.3
撮影器具・光学機器・時計 105,886 103,693 2.3 △ 2.1
原動機 91,119 91,126 2.0 0.0
非鉄金属 92,507 59,889 1.3 △ 35.3
衣類・同付属品 66,688 53,520 1.2 △ 19.7
合計(その他含む) 4,960,656 4,531,650 100.0 △ 8.6

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表2-2 香港の主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 2,322,082 2,251,214 45.7 △ 3.1
通信・音響機器 755,995 556,260 11.3 △ 26.4
事務用機器・データ処理機 457,130 414,832 8.4 △ 9.3
雑製品 308,747 311,439 6.3 0.9
非金属鉱物製品 167,044 166,224 3.4 △ 0.5
専門・科学・制御機器 108,365 149,695 3.0 38.1
原動機 110,864 115,420 2.3 4.1
撮影器具・光学機器・時計 109,680 105,010 2.1 △ 4.3
石油、石油製品および関連物質 59,434 75,923 1.5 27.7
非鉄金属 90,958 63,210 1.3 △ 30.5
合計(その他含む) 5,307,792 4,927,467 100.0 △ 7.2

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表3 香港の主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア 3,849,296 3,515,991 77.6 △ 8.7 4,578,189 4,224,823 85.7 △ 7.7
階層レベル2の項目日本 118,849 102,488 2.3 △ 13.8 270,787 242,758 4.9 △ 10.4
階層レベル2の項目中国 2,951,973 2,570,757 56.7 △ 12.9 2,433,474 2,077,660 42.2 △ 14.6
階層レベル2の項目韓国 74,556 81,435 1.8 9.2 324,618 289,773 5.9 △ 10.7
階層レベル2の項目台湾 143,816 154,167 3.4 7.2 547,531 587,422 11.9 7.3
階層レベル2の項目ASEAN 338,015 360,017 7.9 6.5 908,816 934,369 19.0 2.8
階層レベル3の項目シンガポール 69,898 82,916 1.8 18.6 413,814 398,535 8.1 △ 3.7
階層レベル3の項目マレーシア 39,191 43,443 1.0 10.8 166,718 176,900 3.6 6.1
階層レベル3の項目インドネシア 23,148 20,291 0.4 △ 12.3 16,797 24,505 0.5 45.9
階層レベル3の項目タイ 57,228 59,093 1.3 3.3 102,819 93,666 1.9 △ 8.9
階層レベル3の項目ベトナム 103,277 112,424 2.5 8.9 117,652 143,864 2.9 22.3
階層レベル3の項目フィリピン 35,848 34,439 0.8 △ 3.9 87,702 94,156 1.9 7.4
階層レベル2の項目インド 133,057 171,673 3.8 29.0 81,414 80,733 1.6 △ 0.8
オーストラリア・大洋州 36,826 41,153 0.9 11.8 22,649 18,651 0.4 △ 17.6
階層レベル2の項目オーストラリア 36,154 32,488 0.7 △ 10.1 16,442 13,428 0.3 △ 18.3
西欧 354,689 404,201 8.9 14.0 340,678 323,957 6.6 △ 4.9
階層レベル2の項目EU27 339,510 312,617 6.9 △ 7.9 213,681 211,225 4.3 △ 1.1
階層レベル2の項目英国 73,438 48,489 1.1 △ 34.0 64,186 60,474 1.2 △ 5.8
中東 101,717 125,611 2.8 23.5 52,402 56,389 1.1 7.6
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 85,915 109,392 2.4 27.3 39,637 43,354 0.9 9.4
北米 308,996 328,320 7.2 6.3 215,541 217,931 4.4 1.1
階層レベル2の項目米国 292,705 309,619 6.8 5.8 206,687 209,351 4.2 1.3
アフリカ 46,603 28,261 0.6 △ 39.4 24,387 22,160 0.4 △ 9.1
中南米 92,411 84,667 1.9 △ 8.4 53,472 43,005 0.9 △ 19.6
階層レベル2の項目ブラジル 19,460 18,423 0.4 △ 5.3 15,209 9,137 0.2 △ 39.9
合計(その他含む) 4,960,656 4,531,650 100.0 △ 8.6 5,307,792 4,927,467 100.0 △ 7.2

〔注〕湾岸協力会議(GCC)諸国は、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦を加えた合計値。
〔出所〕香港特別行政区政府統計処 香港対外商品貿易

通商政策 
ペルーとFTA交渉開始、RCEP協定への加盟を引き続き希望

2023年7月時点で香港は、中国、ニュージーランド、欧州自由貿易連合(EFTA)、チリ、マカオ、ジョージア、ASEAN、オーストラリアとのFTAが発効しており、2023年1月末から、ペルーとのFTA交渉を開始した。

2022年1月に発効した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定について、香港政府は同月中旬、同協定への加盟を申請したとされる。RCEP加盟後には、連続する原産地証明(Back to Back Proof of Origin)が香港で発給可能となる。例えば、中国原産貨物を香港で分割し輸出する際、香港において分割貨物ごとに原産地証明が発給可能となり、輸入国で特恵税率の適用を受けることができる。香港の中継貿易機能が強化され、香港の価値向上につながることが期待される。

表4 香港のFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 香港の貿易に占める構成比(2022年)
往復 輸出 輸入
発効済み 中国 2004.1.1(CEPA)
2018.1.1(IA)
2017.6.28(Ecotech Agreement)
49.1 56.7 42.2
ニュージーランド 2011.1.1 0.1 0.1 0.1
欧州自由貿易連合(EFTA) 2012.10.1、2012.11.1 0.9 0.6 1.1
チリ 2014.10.9 0.1 0.0 0.3
マカオ 2017.10.27 0.7 1.3 0.2
ジョージア 2019.2.13 0.0 0.0 0.0
ASEAN 2021.2.12 13.7 7.9 19.0
オーストラリア 2020.1.17 0.5 0.7 0.3
合計 65.1 67.5 63.0
交渉中 ペルー 0.1 0.1 0.0

〔注〕(1)構成比については、輸出は地場輸出(再輸出は含まない)、輸入は輸入総額を使用。
(2)中国とは「経済貿易緊密化協定(CEPA)」およびサービス貿易協定、投資協定、経済技術協力協定を締結。
(3)ニュージーランドとは「経済連携緊密化協定(CEPA)」を締結。
(4)EFTAは、アイスランド、リヒテンシュタイン、スイスとのFTAは2012年10月1日に発効、ノルウェーとのFTAは2012年11月1日に発効。
(5)EFTAの構成比はアイスランド、リヒテンシュタイン、スイスおよびノルウェーの合計。
〔出所〕香港工業貿易署

対内・対外直接投資 
対内直接投資額は昨年に引き続き増加

香港の対内・対外直接投資統計(国際収支ベース、ネット、フロー)は、2023年8月時点では2021年の数値が最新となっている。
2021年の対内直接投資額は前年比4.3%増の1兆897億香港ドルと、前年に引き続き増加した。国・地域別では、中国が4.3%増の3,516億香港ドルとなり、4年連続で1位となった。2位の英領バージン諸島は30.5%増の3,110億香港ドルとなり、ケイマン諸島が5.3%減の1,205億香港ドル、クック諸島が59.0%増の396億香港ドル、日本が10.4倍の383億香港ドルだった。

業種別では、投資持ち株会社・不動産・商業サービスが前年から9.2%増の7,536億香港ドルで、構成比では69.2%を占めた。2位の貿易・卸・小売りは45.3%増の1,372億香港ドル、3位の銀行は24.8%減の623億香港ドルだった。

香港は、自由な資本、国際的な物流機能、低税率、国際色豊かな人材などを提供するのみではなく、ASEAN諸国へのアクセスも容易で、中国本土に隣接している地理的優位性を備えている。香港のビジネス・プラットフォームを世界各地に発信することを目的として設立された、政府系機関である香港貿易発展局(HKTDC)の調査によると、中国企業の海外展開はコロナ禍であっても衰えることなく、対外直接投資のプラットフォームとして香港を活用している。また、中国企業は、中国政府による「一帯一路」構想が生み出す機会のみならず、2022年に発効したRCEPの効果を期待し、新たなビジネス機会を捉えるためRCEP加盟国にも注目している。なお、中国商務部が公表する2021年の中国の対外直接投資額(フロー)は前年比16.3%増の1,788億米ドルに達し、香港の構成比は56.6%となった。

在香港中国企業数はコロナ禍であっても着実に増加した。香港政府統計処が2022年11月に発表した「2022年の香港域外企業の在香港拠点に関する調査報告」によると、国・地域別では、中国企業の拠点数が2,114カ所と最も多く、前年比1.6%増となり、香港域外企業全体の23.5%を占める。日本企業の拠点数は前年と変わらず1,388カ所で、中国に次ぐ第2位と全体の15.5%を占める。日本企業の拠点数を機能別にみると、香港およびその他地域の業務も統括する「地域統括本部」が212カ所、香港以外の地域も業務範囲に含む「地域拠点」が402カ所、香港のみの業務を行う「現地拠点」が774カ所となっている。2018年から2022年の間の香港域外企業の拠点数の推移をみると、地域統括本部数と地域拠点数は減少傾向にある一方、現地拠点数は増加している。

また、香港でのビジネス展開を支援する政府系機関である香港投資推進局(インベスト香港)によると、一部の外国企業も香港の優位性を活用し、中国政府が推進する地域発展計画「広東・香港・マカオグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)」への進出を進めている。

表5-1 香港の国・地域別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 337 352 32.3 4.3
英領バージン諸島 238 311 28.5 30.5
ケイマン諸島 127 121 11.1 △ 5.3
英領バミューダ諸島 △ 36 88 8.0
クック諸島 25 40 3.6 59.0
日本 4 38 3.5 935.1
カナダ 73 32 3.0 △ 55.7
英国 81 25 2.3 △ 68.8
米国 9 △ 10
シンガポール 85 △ 41
その他 102 134 12.3 31.8
合計 1,045 1,090 100.0 4.3

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表5-2 香港の国・地域別対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 381 436 58.2 14.6
英領バージン諸島 244 178 23.7 △ 27.3
英領バミューダ諸島 44 37 4.9 △ 17.3
ケイマン諸島 49 35 4.6 △ 29.4
シンガポール 20 33 4.3 64.6
英国 △ 10 13 1.7
オーストラリア 10 7 1.0 △ 28.2
日本 △ 1 3 0.4
オランダ 9 2 0.2 △ 81.4
米国 10 △ 23
その他 24 30 3.9 22.3
合計 781 750 100.0 △ 4.1

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

対外直接投資額は前年比減

2021年の対外直接投資額は、前年比4.1%減の7,496億香港ドルとなった。国・地域別では、中国への投資が14.6%増の4,364億香港ドル(構成比58.2%)と12年連続で首位となった。2位は英領バージン諸島で27.3%減の1,775億香港ドル。英領バミューダ諸島が17.3%減の367億香港ドル、ケイマン諸島が29.4%減の348億香港ドル、シンガポールが64.6%増の326億香港ドルとなった。日本は前年の5億香港ドルの引き揚げ超過から33億香港ドルとなった。

業種別にみると、構成比が最大(69.2%)の投資持ち株会社・不動産・商業サービスが前年から16.1%減の5,187億香港ドル。2位の貿易・卸・小売りが84.2%増の1,087億香港ドル、3位の銀行が3.0%減の491億香港ドルとなった。

直近の対中投資について個別案件をみると、粤港澳大湾区関連の買収が活発である。香港の不動産投資信託会社のリンク・リアル・エステート・インベストメント・トラストは2022年5月、浙江省と江蘇省にある物流倉庫の買収を発表した。取引成立後、同社は中国本土の物流ハブである長江デルタと粤港澳大湾区に物流施設を持つことになる。また、香港の不動産開発大手、新世界発展(ニューワールド・デベロップメント)のグループ会社であるHumansaは、2022年6月に、中国本土で医療サービスを提供するNoah Healthcareを買収し、高品質のヘルスケアサービスを提供するため粤港澳大湾区へ進出拡大することを公表した。なお、買収金額は公表されていない。

表6 香港の業種別対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:10億香港ドル、%)(△はマイナス値)
業種 対内直接投資 対外直接投資
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
投資持ち株会社・
不動産・商業サービス
690 754 69.2 9.2 619 519 69.2 △ 16.1
貿易・卸・小売り 94 137 12.6 45.3 59 109 14.5 84.2
銀行 83 62 5.7 △ 24.8 51 49 6.6 △ 3.0
保険 46 62 5.7 34.0 30 35 4.7 16.3
運輸・関連サービス 31 53 4.8 72.5 △ 19 △ 12
建設 19 43 3.9 121.8 4 6 0.7 34.1
情報・通信 3 10 0.9 308.0 3 △ 6
製造業 4 9 0.8 131.6 17 29 3.8 65.3
その他 10 1 0.1 △ 94.2 4 8 1.1 97.6
ホテル・飲食 △ 3 △ 0 2 4 0.5 72.7
金融(銀行・投資持ち株会社を除く) 68 △ 40 11 11 1.4 △ 6.1
合計 1,045 1,090 100.0 4.3 781 750 100.0 △ 4.1

〔出所〕香港特別行政区政府統計処

表7 香港の主な対内直接投資案件(2022~2023年)
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
飲食 永旺(香港)百貨
(イオンストアーズ香港)
日本 2022年10月 n.a. 喫茶店「コメダ珈琲店」の香港1号店を開店。
ゼンショーホールディングス 日本 2023年6月 n.a. 回転ずし「はま寿司」の香港1号店を開店。
JA全農インターナショナル 日本 2023年3月 n.a. 加工卵製品を製造する食品工場を開設。
金融 オールスプリング・グローバル・インベストメンツ 米国 2023年1月 n.a. 米国の大手独立系資産運用会社がオフィスを設置。
荷馬国際
(Homaer International)
中国 2023年6月 n.a. ファミリーオフィスを設置。
小売り 宜得利家居(香港)
(ニトリホールディングス)
日本 2023年9月 n.a. 家具・インテリア用品販売「ニトリ」の香港1号店を開店。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表8 香港の主な対外直接投資案件(2022年)
業種 企業名 投資国・地域 時期 投資額 概要
不動産投資会社 Gaw Capital Partners
(ガウ・キャピタル・パートナーズ)
日本 2022年4月 30億米ドル インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人を買収。
不動産・物流 領展房地産投資信託基金
(リンク・リアル・エステート・インベストメント・トラスト)
中国
浙江省および江蘇省
2022年5月 9億4,700万人民元 中国浙江省嘉興市と江蘇省常熟市に設置された複数の倉庫を買収。
医療・健康 Humansa
(仁山優社)
中国
粤港澳大湾区
2022年6月 n.a. 産科・小児科を専門とする医療グループNoah Healthcareを買収。
資産運用会社 PAG 日本 2022年8月 1,000億円 エイチ・アイ・エスが所有するハウステンボスの全株式を取得。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
日本の農林水産物・食品の輸出額は減少

香港の通関統計によると、2022年の対日貿易は、輸出が前年比13.8%減の1,025億香港ドル、輸入は10.4%減の2,428億香港ドルといずれも減少し、対日貿易収支は1,403億香港ドルの赤字となった。

品目別でみると、輸出では、電気機器・同部品が1.5%増の319億香港ドルとなった。一方、通信・音響機器は4.9%減の197億香港ドル、事務用機器・データ処理機は23.8%減の140億香港ドルと2桁減となった。輸入では、全体の約4割を占める電気機器・同部品が4.4%減の1,005億香港ドルとなった。

日本の通関統計によると、2022年の日本の農林水産物・食品の香港向け輸出は前年比4.8%減の2,086億円(構成比15.6%)と減少した。香港向け輸出額上位品目において2021年と2022年の輸出額を比較すると、ナマコ(調整)が29.2%減の85億円、アルコール飲料が21.6%減の116億円に減少した。香港は、2020年まで16年連続で日本にとっての最大の農林水産物・食品の輸出先となっていたが、2022年は2021年に引き続き中国に次いで2位となった。品目別では、特に真珠(天然・養殖)が38.4%増の173億円と好調で、輸出額は3年連続増加している。この他、鶏卵も38.6%増の79億円に増加し、2020年から輸出額上位10品目内に入っている。

投資について日本側の統計でみると、2022年の日本から香港向けの直接投資額は前年から73.2%減の1,395億円で、香港の対日直接投資額は84.2%減の2,088億円となった。

香港の主な対内直接投資案件で、特に直近の日系企業の香港ビジネス展開事例をみると、飲食業の出店が引き続き活発である。

JA全農インターナショナルは2023年3月に香港に食品工場を設置し、さまざまな卵加工品の製造を開始した。

飲食業では、外食大手のゼンショーホールディングスが2023年6月に「はま寿司」の香港1号店をオープンした。また、大手コーヒーチェーンの「コメダ珈琲店」を展開するコメダは、エリアフランチャイズ契約を締結している永旺(イオン)(香港)百貨と提携し、2022年10月に香港1号店をオープンした。

小売りでは、家具・インテリア用品大手のニトリホールディングスが2023年9月に「ニトリ」の香港1号店をオープンした。香港における日本の食文化やサービス、製品に対する需要は引き続き堅調といえる。

表9-1 香港の対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 31,444 31,924 31.1 1.5
通信・音響機器 20,662 19,645 19.2 △ 4.9
事務用機器・データ処理機 18,389 14,018 13.7 △ 23.8
その他の雑製品 13,423 7,675 7.5 △ 42.8
撮影器具・光学機器・時計など 6,045 5,647 5.5 △ 6.6
合計(その他含む) 118,849 102,488 100.0 △ 13.8

〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

表9-2 香港の対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万香港ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気機器・同部品 105,212 100,533 41.4 △ 4.4
通信・音響機器 28,258 20,457 8.4 △ 27.6
その他の雑製品 14,612 14,553 6.0 △ 0.4
撮影器具・光学機器・時計など 13,095 14,016 5.8 7.0
事務用機器・データ処理機 11,570 9,105 3.8 △ 21.3
合計(その他含む) 270,787 242,758 100.0 △ 10.4

〔出所〕 香港特別行政区政府統計処

その他(香港政府の今後の方針) 
香港の競争力強化に向けた新たな取り組み

2022年7月1日に李家超(ジョン・リー)氏が行政長官に就任した。李行政長官は、マニフェスト(選挙公約)として、(1)政府のガバナンス強化、(2)より多くの住宅・より良い生活の提供(民生関連の課題解決)、(3)香港の競争力向上、(4)思いやりと包容力のある社会の構築と若年層の発展支援の「4大政策」を掲げた。4大政策については、同年10月に発表した就任後初となる施政方針で具体的な内容が盛り込まれた。

同施政方針演説で、「一国二制度」の堅持、公務員管理の強化、香港の労働人材流出について言及した。域外の優秀人材の募集や、バイオテクノロジーおよび人工知能などの企業誘致のため戦略的企業誘致室を設立、300億香港ドル規模の共同投資基金を設立し、対象企業に出資するとした。人材に関しては、高度人材のみではなく、あらゆる分野において不足している状況であり、特に不足が顕著な建設業と運輸業に関しては域外から最大2万人の労働者を受け入れることを2023年6月に表明した。

また、林鄭月娥(キャリー・ラム)前行政長官が2021年10月の施政報告の中で打ち出した、中国広東省深セン市と接する元朗区と北区を中心とする「北部都会区」の建設に関しては、計画遂行に向け「全力を挙げる」と表明した。同構想に関しては、2023年6月に「北部都会区調整オフィス」を設け、政府部門間の調整、政策の取りまとめや中国本土の関係部門との連絡などの役割が課されている。また、2023年に同構想の綱領と計画実施が策定、公表される見通しである。

なお、香港政府は、2023/2024年度(2023年4月~2024年3月)予算案において、政府が主導するWeb3(分散型ウェブ)エコシステムの開発に向け、香港政府が建設した研究開発およびイノベーション推進拠点である「数碼港」(サイバーポート)内に設置された「Web3 Hub」に5,000万香港ドルを割り当てることや、暗号資産(仮想通貨)の持続的な開発に向けたタスクフォースの設置を盛り込んだ。同タスクフォースは、2023年6月末に陳茂波(ポール・チャン)財務長官を議長とし、15名の関係市場セクターの非公式メンバーで構成され、政府高官および関係金融規制当局者も参加する。

対外的な動きとしては、政府高官や財界人たちによるサウジアラビアやアラブ首長国連邦など中東への歴訪がみられる。具体的な成果として、香港証券取引所(HKEX)とサウジアラビア証券取引所間の協力覚書や金融当局間の協力合意が報道されており、企業同士のビジネス拡大や経済連携を通じた長期的な関係性の構築に向けた相互の歩み寄りがみられる。

また、中国共産党直轄組織として2023年に新設した「中央香港マカオ工作弁公室」のトップに、中国政府で香港政策を担当する国務院香港マカオ事務弁公室の夏宝竜主任が就任した。中国政府は、中央香港マカオ工作弁公室設置において「一国二制度」を堅持し、中国政府による全体統治、法に基づく香港・マカオの統治、国家安全と民生福祉の保障と香港・マカオが中国の国家発展に融合するための支援を明記している。

香港は、中国政府が支持する「一国二制度」を十分に活用し、安全保障の強固な基盤を構築すると表明している。「一国二制度」を運用しつつ、域外からの人材や域外企業を惹きつける香港の優位性を維持・発展させ、経済成長に必要な新たなビジネスの拡大と成長をどう継続できるか注目される。

基礎的経済指標

人口
750万人 (2023年央)
面積
1,114平方キロメートル(2022年10月時点)
1人当たりGDP
4万9,226 米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 6.5 6.4 △ 3.5
消費者物価上昇率 (%) 0.3 1.6 1.9
失業率 (%) 5.8 5.2 4.3
貿易収支 (100万香港ドル) △ 342,235 △ 347,136 △ 395,818
経常収支 (100万香港ドル) 187,012 339,429 296,871
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 491,649 496,745 423,908
対外債務残高(グロス) (100万香港ドル、期末値) 13,872,355 14,591,920 14,196,438
為替レート (1米ドルにつき、香港ドル、期中平均) 7.76 7.77 7.83

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
経常収支:2021年および2022年は暫定値。
対外債務残高(グロス):2022年は暫定値。
出所:
人口、 実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):香港特別行政区政府統計処
面積:香港特別行政区政府地政総処
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF