外資に関する奨励

最終更新日:2023年09月27日

奨励業種

カンボジアの外国直接投資に関する法制度は、基本的に投資を奨励するように設計されている。2021年10月15日、さらに投資を誘致・促進するよう新投資法が施行された。
新投資法は、投資奨励業種を対象に、租税・関税上の優遇措置が受けられる適格投資プロジェクト(QIP:Qualified Investment Project)を定めている。

新投資法制

新投資法制 新投資法は、旧投資法(1994年制定・2003年改正)に代わる新法として、さらなる投資の誘致・促進を目的とし制定された。そして、2023年6月26日公布の政令139号の施行をもって、新法に定められている投資奨励措置の認可のための手続きや、優遇措置の具体的内容などが定められた。 新投資法制においても、カンボジア当局の認可を条件として、租税・関税上の優遇措置が受けられるという枠組みは維持されている。主たる改正点としては、後述するように、投資優遇措置の対象およびその内容の変更が挙げられる。カンボジア政府は、従来の主たる産業であった縫製産業などの労働集約型産業から、高いテクノロジーを要する高付加価値の産業への転換を目指すとしており、投資優遇措置もこの志向に基づき改正がなされている。 なお、旧法制下に基づいて優遇措置の付与対象とされていた事業については従前どおりの内容が補償される。他方、これらの事業が新法制下で設けられた優遇措置の適用を受けうるかについては明確になっていない。

外国直接投資政策

カンボジアの外国直接投資(Foreign Direct Investment:FDI)に関する法制度は、投資を制限するのではなく、自由で積極的な投資を奨励することを目的として制定されている。具体的には、投資法制は外国直接投資を優遇するものではないが、外国直接投資は土地所有を除き、外国法人を内国法人と差別なく扱うものとしている(15条2項)。なお、外国人が土地を保有できないことは憲法で規定されている。
さらに、後述するように、適格投資プロジェクト(QIP)としての認可を受けることにより、租税・関税法上の各種の優遇措置を受けることができる。また、カンボジア政府は、投資促進サービスの向上を継続的に図っている。例えば、経済特別区(経済特区:Special Economic Zone:SEZ)の促進を図るため、投資プロジェクトの登録から日々の輸出入許可に至るまで、ワン・ストップ・サービスが提供されている。

奨励業種およびその分類

奨励業種

適格投資プロジェクトQIPの認可は、投資家または投資企業に対して発行されるのではなく、各投資プロジェクトを対象として発行される。旧法制において、QIPの対象となる投資奨励業種は、QIPの対象とならないプロジェクトを定める(ネガティブリスト)ことにより規定するという形をとっていた。新法制でもこの建て付けは維持されているが、対象業種がより広範かつ詳細に定められることとなった(政令139号付属書1)。以下の表1~4に概要を記載するが、対象業種および投資額などの条件により規定されている。

奨励業種の分類

旧法制下では、QIPは、輸出志向型プロジェクト(製品の一部または全部を国外に販売・提供するQIP)、国内志向型プロジェクト(輸出を目的としないQIP)、および裾野産業型QIP(輸出産業に製品を提供するQIP)とに分類されており、その性質に応じて優遇措置に差異があった。また、既存のQIPの拡張プロジェクトであるEQIP(Expanded-Qualified Investment Project)があった。新法制下でもこれらは維持されている。
新法制では、これらに加え、業種別にグループ1~3の3つのグループへのQIPの分類が設けられた(政令139号付属書2)。より高いテクノロジーを用いる産業は、より手厚い優遇措置を与えることとされている(グループの分類については以下の表1~4参照)。ただし、グループの分類は、カンボジア市場での需要・供給のバランスなど、テクノロジー以外の要素も反映されたものとなっている。

QIPの対象業種およびグループ分類(概要)
表1 農業・水産業
分野 投資額・その他の条件 グループ
農作物(稲作、園芸・補助作物、産業作物) 稲作:200万米ドル以上または面積が500ヘクタール以上
野菜、観賞用植物:100万米ドル以上または面積が10ヘクタール以上
果実:100万米ドル以上または面積が100ヘクタール以上
でんぷん作物:100万米ドル以上または100ヘクタール以上
砂糖作物:100万米ドル以上または500ヘクタール以上
油糧作物:100万米ドル以上または100ヘクタール以上 など
1
畜産業 小型四足動物:50万米ドル以上または500頭以上
大型四足動物:100万米ドル以上または300頭以上
乳業:投資資本額が50万米ドル以上または100頭以上
養鶏場:50万米ドル以上または2万匹以上 など
1
養殖業 淡水:100万米ドル以上または面積が5ヘクタール以上
海洋:300万米ドル以上または面積が10ヘクタール以上
1
表2 サービス業
分野 投資額・その他の条件 グループ
教育・職業訓練 製造業、農業、観光業、インフラ、環境、エンジニアリング、科学分野における職業教育・訓練機関:100万米ドル以上 2
中等教育:100万米ドル以上
高等教育:400万米ドル以上
1
医療 病院および総合診療所の設立:500万米ドル以上かつ病床数が40床以上 投資額・病床数に応じ1~3
透析センター・診断センターの設立:500万米ドル以上 2
高齢者治療・ケアセンターの設立:500万米ドル以上 1
物流センター 物流センター事業:1,000万米ドル以上 1
フォークリフト・設備などを含む冷蔵倉庫・コールドチェーン事業:300万米ドル以上 2
宿泊サービス ホテル:4つ星以上
ホテル・遊園地・ジム・動物園などのサービスを備えたリゾート:3つ星以上のホテル、かつ土地面積が10ヘクタール以上
リゾートホテル:4つ星以上
3
ショッピングモール 1,000万米ドル以上 3
表3 工業・製造業
分野 投資額・その他の条件 グループ
自動車 自動車の製造・組立:200万米ドル以上
自動車車体・トレーラー・セミトレーラーの製造・組立:100万米ドル以上
自動車の付属品・部品の製造:100万米ドル以上
1
自動二輪車 製造・組立:100万米ドル以上
部品の製造:100万米ドル以上
2
自転車・車いす 製造・組立:100万米ドル以上 2
機械・装置の製造・組立 100万米ドル以上
農業・林業・農産業・食品加工用の機械:50万ドル以上
1
電子機器・光学製品の製造・組立 50万米ドル以上
(電子コンピュータ・コンピュータ周辺装置の製造・組立・電子部品のパネル・チューブの製造、半導体パネル・その他の電子部品の製造・組立、通信設備の製造・組立、測定・試験・操縦・制御装置の製造、照射・電気治療・電気療法装置の製造・組立、写真用装置の製造・組立、腕時計・壁掛け時計の製造・組立、磁気・光媒体の製造・組立、テレビの製造・組立、録音・録画機器・受信・複写機器の製造・組立 など)
1
電気機器の製造・組立 50万~100万米ドル以上
(電動機・変圧器・整流器・電動発電機の製造・組立、配電・制御装置の製造、光ファイバーケーブルの製造、絶縁配線・鉄鋼製・銅製・アルミニウム製のケーブル・電子ケーブルの製造、配線装置の製造、電気照明器具の製造、家庭用電気製品の製造・組立、家庭用暖房器具の製造・組立、電池・蓄電池・蓄電システム・燃料電池・高密度蓄電装置(バッテリー・充電器)の製造 など)
2
繊維製品・縫製・靴・鞄・繊維関連製品の製造 50万米ドル以上
衣料品・靴・鞄・旅行用品の製造:50万米ドル以上
3
紡績・織布: 50万米ドル以上 1
食品の製造・加工 50万米ドル以上 2
表4 インフラ業
分野 投資額・その他の条件 グループ
経済特区・中小企業クラスター・工業団地の開発 関連法令の要件を満たす場合 1
土木建設プロジェクト(道路、橋梁、鉄道など) 法令の要件を満たす場合 1
港湾事業 国際港湾事業:2,000万米ドル以上 1
  • 国内港湾事業/特定の種類の貨物のための港湾事業:投資資本額が200万米ドル以上
  • マリーナ観光事業:200万ドル以上
  • 漁港・フィッシングマリーナ事業:50万ドル以上
2
送電網・変電所のための主要インフラ 700万米ドル以上 投資額に応じ1~3
天然ガス供給・配給のための主要インフラ建設 2,000万米ドル以上 1
再生可能エネルギー発電 50万米ドル以上 2
発電所の建設 1,000万米ドル以上 1
廃棄物処理

固形または有害廃棄物・埋立地の管理・収集・分離・リサイクル・処理インフラ建設:

  • 地区レベル・地区群:100万米ドル以上
  • 特別市・州レベル:200万米ドル以上
  • 地域レベル:300万米ドル以上

液体廃棄物の管理・処理インフラ建設:100万米ドル以上

1
デジタル産業 衛星システムのインフラ構築:6,000万米ドル以上
光ファイバーの建設:6,000万米ドル以上
海底光ファイバー網の構築:,000万米ドル以上
データセンター・クラウドサービスの建設:2,000万米ドル以上
1
ソフトウェア開発:50万米ドル以上 3

適格投資プロジェクト(QIP)の手続き

QIPは、CDC(カンボジア開発評議会)または特別市・州投資小委員会(Municipal-Provincial Investment Sub-Committees:MPISC)に対し、所定の方法で登録申請をし、認可を受ける必要がある。また、QIPは、CDC/MPISCに対し、半期・年次の報告をすることによりコンプライアンス証明書(COC)を取得することが義務付けられ、これを提出しない場合、優遇措置を失うとされる。

QIPの申請・認可に関する手続き
  1. QIPの申請は、CDC/MPISCに対して登録申請書を提出(紙ベースおよびオンライン双方可能)して行う。CDCまたはMPISCは受理時に、申請受理証明書を発行する。
  2. CDC/MPISCは、20営業日以内に登録証明書を発行するものとされる(政令139号7条1項、3項)。もっとも、[1]申請が法令の手続きに従っていない場合、[2]申請者の情報提供が不十分である場合、または[3]プロジェクトが機微にかかわるもので内閣または政府での事前承認を要する場合、その具体的な理由を示して登録を拒否または審査期間の延長をすることができる。
  3. 登録証明書の発行により、ただちにQIPの実施が可能となる。ただし、事業実施に当たって別途の許認可(商業登録・税務登録、事業ライセンスなど)が必要となる場合、別途それらの許認可を取得する必要がある。
コンプライアンス証明書の取得
  1. コンプライアンス証明書(COC)取得のため、QIP運営者は、半期ごとに、CDC/MPISCに半期および年次報告書を提出することが義務付けられている。
  2. 投資家からの半期報告書と年次報告書の受領の翌年、CDC/MPISCは投資家にコンプライアンス証明書(COC)を発行する。
QIPの移転・譲渡

QIPの権利・優遇措置は、QIP事業を取得した者に移転・譲渡することができるが、CDC/MPISCの認可を受けることを要する。

各種優遇措置

適格投資プロジェクトについては、法人税免税、輸出入免税など、租税および関税における優遇措置がある。

適格投資プロジェクト(QIP)に付与される投資優遇措置

適格投資プロジェクト(QIP)は、次の投資優遇措置の対象となる。なお、新投資法は、後述の基本的優遇措置と追加的優遇措置の分類を設けているが、後者は新投資法に基づいて導入されたことを強調する趣旨に過ぎないと考えられ、優遇措置を受けるための条件などに相違は規定されていない。

基本的優遇措置(投資法14条)
  1. 選択的優遇措置

    以下のいずれかを選択することができる。もっとも、旧法制下でも同様の選択制となっていたが、オプション1を選択することが通例であり、その状況は変わらないと考えられる。新法制における主たる変更点としては、グループにより優遇措置を受けられる期間が区分された点、および免税期間満了後の減税措置の導入である。

    1. オプション1:法人税の減免
      1. 最初に事業活動から収入を得た時点から、法人税の免税
        • グループ1:9年間
        • グループ2:6年間
        • グループ3:3年間
      2. 免税期間の満了後、6年間の法人税減税措置
        • 最初の2年間:25%
        • 次の2年間:50%
        • 最後の2年間:75%
    2. オプション2:特別償却
      1. 特別償却によって損金算入する権利
      2. その他の特定費用について最大200%の控除を受ける権利
        • グループ1:9年間
        • グループ2:6年間
        • グループ3:3年間
  2. 共通の優遇措置
    1. 前払い事業所得税の免税
      • グループ1:9年間
      • グループ2:6年間
      • グループ3:3年間
    2. ミニマム税の免税(独立監査人からの監査報告書の提出が条件)
    3. 輸出税の免税
    4. 生産ラインに用いる建設資材、建設機器、生産設備の輸入税の免税
    5. 生産資材の輸入税の免税
      • 輸出志向型QIP・裾野産業型QIP
        輸出用の生産ラインに用いる生産資材について、輸入税の免税
      • 国内志向型QIP(一部の業種のみ)
        付属書4に記載される事業について、生産資材の輸入税免税
追加的優遇措置(投資法15条)

新投資法制により導入された追加的優遇措置として、次の措置を受けることができる。

  1. カンボジア国内で生産された生産財についてVATの免税
  2. 以下の費用は課税標準額から150%控除できる
    1. 研究、開発およびイノベーション
    2. カンボジア人労働者への職業訓練や技能の提供を通じた人材育成
    3. 労働者のための宿泊施設、合理的な値段で食事の提供を行う食事場所・食堂、保育所およびその他の施設の建設
    4. 生産ラインのための機械のアップグレード
    5. 労働者が住居から工場まで移動するための快適な交通手段、宿泊施設、合理的な値段で食事の提供を行う食事場所・食堂、保育所およびその他の施設など、カンボジア人労働者対する福利厚生の提供
    6. 固形廃棄物、有害廃棄物、液体廃棄物および煙を含む、あらゆる廃棄物処理インフラへの投資または建設
拡張型QIP(EQIP)に対する優遇措置(16条)

拡張型QIPは、以下のいずれかを満たす場合に対象となる。

  1. 既存の製造ラインの拡張
  2. 既存の製造ライン内に新ブランド商品を追加することでの製造の多様化
  3. 生産性の向上または環境の保護の目的の新規テクノロジーの導入

前述の基本的優遇措置と同様、法人税・事業所得税・ミニマム税の免除を受けることができる。非課税となる所得の範囲は資本拡張率(QIPに対する既存の投資額+EQIPへの投資額)により決められる。

  1. 法人税・前払い事業所得税の免税(資本拡張部分)
    • グループ1:9年間
    • グループ2:6年間
    • グループ3:3年間
  2. ミニマム税の免税(独立監査人からの監査報告書の提出が条件)

その他

投資法は、外国直接投資について投資保障を規定している。日系企業に関しては、投資法による投資保障に加え、日本とカンボジアの間で2008年7月に「投資の自由化、促進及び保護に関する協定(Agreement Between Japan and the Kingdom of Cambodia for the Liberalization, Promotion and Protection of Investment)」が発効している。

投資法は、次のとおり投資保障を規定している。

  1. 外国投資家は、土地所有権を除き、投資家が外国人であることのみを理由にした差別的な扱いは受けない。
  2. カンボジア政府は、カンボジアにおける民間投資家の資産に悪影響を及ぼす国有化政策は実施しない。
  3. カンボジア政府は、QIPの製品価格やサービス料金に対し統制を行うことはない。
  4. カンボジア政府は、投資家が銀行を通じて外貨を購入し、次の目的のためにその外貨を海外へ送金することを許可する。
    1. 輸入品の代金、もしくは国際的な借入に対する元金・利息の支払い
    2. ロイヤルティー、および管理費用の支払い
    3. 利益の送金
    4. 投資資本の本国送金

日本・外務省:「投資の自由化、促進及び保護に関する協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます