韓国の貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のGDP成長率は2.6%に低下。
  • 貿易は2年連続で過去最高を更新。資源高を受け、貿易収支は赤字に。
  • 対内直接投資は米国などが好調で、過去最高を記録。対外直接投資は半導体メモリーや車載電池などを中心に増加し、過去最高を記録。
  • 日韓貿易は輸出入とも微増。日本からの直接投資は回復。

公開日:2023年9月28日

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マクロ経済 
2022年は2.6%と成長率が鈍化、輸出不振と物価上昇が課題に

韓国の2022年の実質GDP成長率は2.6%と、前年(4.3%)に比べ低下した。その原因について、秋慶鎬(チュ・ギョンホ)経済副首相兼企画財政部長官は、2022年来の主要国の急激な金利上昇などにより、世界的に実体経済の厳しさが増し、輸出不振が続いたためとの見解を示した。需要項目別には、設備投資がマイナス0.9%、建設投資はマイナス2.8%と、総固定資本形成は全体としてマイナス成長を記録した。また、輸出および輸入はそれぞれ3.4%、3.5%(国際収支ベース(財のみ))と、前年(各11.1%、10.1%)に比べ伸びが鈍化した。民間最終消費支出は4.1%で、前年(3.6%)に比べ高い伸び率となった。

2023年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率は前期比0.3%だった。新型コロナウイルス感染対策の社会的距離(ソーシャルディスタンス)確保措置の解除により、民間消費が増加してプラス成長となった。しかし、輸出から輸入を差し引いた純輸出が実質GDP成長率を0.1ポイント引き下げた。さらに、同年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は前期比0.6%だった。民間消費や政府消費など内需の不振が全体の成長率を押し下げたが、輸入の減少率が輸出を上回り、純輸出が拡大した結果、前期に続いてプラス成長を維持できた。

目下の大きな課題は世界景気の減速である。ウクライナ情勢、インフレの進展、金利上昇、米中対立などを背景に、韓国は輸出の不振が続いている。この状況を打破するほどの成長の見込みがある輸出品目は見当たらない。また、2022年は消費者物価指数(CPI)が大幅に上昇し、通年で前年比5.1%を記録した。ただし、2023年は物価上昇率が鈍化しており、韓国銀行(中央銀行)は政策金利を2023年2月以降、3.50%に据え置いている。同行は、2023年通年の実質GDP成長率について、同年2月時点では1.6%とみていた。しかし、同年5月時点の見通しでは、半導体輸出や投資の不振を受けて1.4%に下方修正した。

なお、韓国では2022年5月に革新系の文在寅(ムン・ジェイン)前政権から保守系の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権に代わった。経済政策を巡っては、政府主導色が強かった文前政権に対し、尹政権は市場経済を重視している。同年6月に発表した「新政府の経済政策方向」で4項目の政策理念を掲げたが、そのうち、冒頭に掲げたのが「自由」であった。「経済運営を政府から民間・企業・市場中心に転換する」と強調した。さらに、規制緩和の推進や、不公正な事業活動の排除などに重点を置く姿勢を示した。

このような経済政策の基調は政権2年目に入ってからも変わっていない。政府が2023年7月に発表した「2023年下半期の経済政策方向」では、「自由・市場経済の回復」「グローバルリーダー国家への飛躍」の2つの目標を提示している。

ただし、国会(一院制)で与党「国民の力」は第2党にとどまっている。逆に、野党「共に民主党」が議席の過半数を占め、第1党になっている。そのため、与党は国会運営で主導権を取れず、政策遂行に必要な法律の制定・改正は必ずしも順調ではない。

表1 韓国の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
実質GDP成長率 4.3 2.6 0.7 0.8 0.2 △ 0.3 0.3 0.6
階層レベル2の項目民間最終消費支出 3.6 4.1 △ 0.6 2.9 1.6 △ 0.5 0.6 △ 0.1
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.5 4.0 0.1 1.0 0.1 2.5 0.4 △ 1.9
階層レベル2の項目総固定資本形成 3.2 △ 0.5 △ 2.1 0.0 3.1 0.6 △ 0.7 △ 0.1
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 11.1 3.4 3.8 △ 3.2 0.6 △ 3.8 4.5 △ 1.8
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 10.1 3.5 △ 1.1 △ 0.8 5.4 △ 2.8 4.2 △ 4.2

〔注〕四半期データは季節調整済み・前期比。2022年以降は暫定値。
〔出所〕韓国銀行

貿易 
2022年の輸出入額は2年連続で最高額を更新

2022年の輸出は前年比6.1%増の6,836億ドル、輸入は18.9%増の7,314億ドルとなった。世界経済の成長速度が鈍化しているなか、貿易額は2年連続で過去最高額となった。しかし、輸入額が輸出額を大幅に上回ったため、貿易収支は478億ドルの赤字と、2008年以降14年ぶりの赤字となった。

2022年の輸出実績について、韓国政府(産業通商資源部)は「ロシアのウクライナ侵攻や、物価高・高金利など厳しい世界経済の状況下で、輸出額は過去最高の実績を上げ、貿易額で世界6位に入るなど、さらなる成長を遂げた」と評価した。しかし、「エネルギー価格の高騰による輸入額の増加により、貿易赤字が発生したことを真摯に受け止め、対応する必要がある」と注意を促した。

2022年の輸出を品目別(韓国独自コードのMTI3桁ベース)にみると、半導体、自動車、石油製品などが過去最高を記録した。石油製品は輸出単価上昇により前年比64.9%増と大きく増加し、2022年12月まで7カ月連続で輸出額が50億ドルを超えた。精密化学製品も15.7%増で、その中でも二次電池の原料となる精密化学原料が前年比64.5%増と大きく増加した。また、半導体の輸出額は2022年9月まで17カ月連続で100億ドルを記録し、下半期の価格下落にもかかわらず、通年では過去最高の1,292億ドルとなった。

表2-1 韓国の主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB)
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
農林水産物 10,229 10,480 1.5 2.5
鉱産物 45,509 69,911 10.2 53.6
階層レベル2の項目鉱物性燃料 38,930 63,212 9.2 62.4
階層レベル3の項目石油製品 38,121 62,875 9.2 64.9
化学工業製品 101,548 106,734 15.6 5.1
階層レベル2の項目石油化学製品 55,092 54,316 7.9 △ 1.4
階層レベル3の項目合成樹脂 29,144 28,078 4.1 △ 3.7
階層レベル2の項目精密化学製品 37,365 43,219 6.3 15.7
プラスチック・ゴムおよび革製品 16,005 15,502 2.3 △ 3.1
繊維類 12,807 12,301 1.8 △ 4.0
生活用品 8,670 8,659 1.3 △ 0.1
鉄鋼・金属製品 53,487 56,259 8.2 5.2
階層レベル2の項目鉄鋼製品 36,367 38,448 5.6 5.7
階層レベル2の項目非鉄金属製品 15,362 16,048 2.3 4.5
機械類 157,160 161,030 23.6 2.5
階層レベル2の項目基礎産業機械 17,054 16,843 2.5 △ 1.2
階層レベル2の項目産業機械 18,475 19,434 2.8 5.2
階層レベル2の項目輸送機械 95,061 98,929 14.5 4.1
階層レベル3の項目自動車 46,465 54,067 7.9 16.4
階層レベル3の項目自動車部品 22,776 23,316 3.4 2.4
電子・電気製品 236,848 240,026 35.1 1.3
階層レベル2の項目産業用電子製品 46,785 46,053 6.7 △ 1.6
階層レベル2の項目電子部品 169,374 172,113 25.2 1.6
階層レベル3の項目半導体 127,980 129,229 18.9 1.0
雑製品 2,138 2,682 0.4 25.5
合計 644,400 683,585 100.0 6.1

〔注〕 品目区分は韓国独自コードのMTIに依拠。MTI1桁ベース全品目、MTI2桁ベース
輸出入上位10品目(2022年)、MTI3桁ベース輸出入上位5品目(同)を掲載。
〔出所〕韓国貿易協会

表2-2 韓国の主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸入(CIF)
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
農林水産物 44,366 50,912 7.0 14.8
階層レベル2の項目農産物 23,352 27,312 3.7 17.0
鉱産物 171,139 247,229 33.8 44.5
階層レベル2の項目金属鉱物 31,896 26,971 3.7 △ 15.4
階層レベル2の項目鉱物性燃料 137,200 218,101 29.8 59.0
階層レベル3の項目原油 67,013 105,937 14.5 58.1
階層レベル3の項目石炭 14,699 28,332 3.9 92.7
階層レベル3の項目石油製品 24,085 26,711 3.7 10.9
階層レベル3の項目天然ガス 25,453 50,022 6.8 96.5
化学工業製品 65,549 77,055 10.5 17.6
階層レベル2の項目精密化学製品 37,538 49,927 6.8 33.0
プラスチック・ゴムおよび革製品 9,210 8,449 1.2 △ 8.3
繊維類 18,299 19,901 2.7 8.8
生活用品 21,929 23,013 3.1 4.9
鉄鋼・金属製品 46,538 48,889 6.7 5.1
階層レベル2の項目鉄鋼製品 24,454 24,947 3.4 2.0
階層レベル2の項目非鉄金属製品 20,840 22,746 3.1 9.1
機械類 88,648 88,602 12.1 △ 0.1
階層レベル2の項目精密機械 28,249 26,237 3.6 △ 7.1
階層レベル2の項目輸送機械 28,968 30,706 4.2 6.0
電子・電気製品 147,006 165,139 22.6 12.3
階層レベル2の項目産業用電子製品 46,604 45,900 6.3 △ 1.5
階層レベル2の項目電子部品 77,274 94,038 12.9 21.7
階層レベル3の項目半導体 61,391 74,786 10.2 21.8
雑製品 2,409 2,181 0.3 △ 9.5
合計 615,093 731,370 100.0 18.9

〔注〕 品目区分は韓国独自コードのMTIに依拠。MTI1桁ベース全品目、MTI2桁ベース
輸出入上位10品目(2022年)、MTI3桁ベース輸出入上位5品目(同)を掲載。
〔出所〕韓国貿易協会

2022年の輸出を国・地域別にみると、ASEAN、米国、EU、インドへの輸出が過去最高となった。産業通商資源部は「ゼロコロナ政策や対ロシア制裁などにより中国、CIS諸国向けの輸出は減少したものの、ASEAN、米国など主要地域・国の輸出が増加し、対中国輸出依存度が低下した」と総括している。ASEAN向け輸出は、主要品目の半導体・ディスプレー・石油製品などが増加し、2年連続で過去最高となった。米国向け輸出は、ジョー・バイデン政権の電気自動車(EV)拡大戦略、積極的なインフラ投資などにより自動車・二次電池・機械などが増加し1,098億ドルを記録、貿易黒字は過去最大となった。一方で、中国向け輸出は、半導体製造装置・フラットパネル製造用装置を含む機械類、石油製品などが減少し、貿易黒字は大きく減少した。

表3 韓国の国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア 386,133 392,803 57.5 1.7 298,334 337,221 46.1 13.0
階層レベル2の項目日本 30,062 30,606 4.5 1.8 54,642 54,712 7.5 0.1
階層レベル2の項目中国 162,913 155,789 22.8 △ 4.4 138,628 154,576 21.1 11.5
階層レベル2の項目香港 37,467 27,651 4.0 △ 26.2 2,247 1,878 0.3 △ 16.5
階層レベル2の項目台湾 24,285 26,198 3.8 7.9 23,486 28,275 3.9 20.4
階層レベル2の項目ASEAN 108,826 124,889 18.3 14.8 67,705 82,529 11.3 21.9
階層レベル3の項目シンガポール 14,149 20,205 3.0 42.8 10,691 10,348 1.4 △ 3.2
階層レベル3の項目タイ 8,524 8,584 1.3 0.7 7,015 7,877 1.1 12.3
階層レベル3の項目マレーシア 10,107 11,473 1.7 13.5 10,456 15,249 2.1 45.8
階層レベル3の項目インドネシア 8,550 10,216 1.5 19.5 10,725 15,735 2.2 46.7
階層レベル3の項目フィリピン 9,659 12,306 1.8 27.4 3,894 5,178 0.7 33.0
階層レベル3の項目ベトナム 56,729 60,964 8.9 7.5 23,966 26,725 3.7 11.5
階層レベル2の項目インド 15,603 18,870 2.8 20.9 8,056 8,897 1.2 10.4
北米 102,616 117,605 17.2 14.6 79,583 90,324 12.3 13.5
階層レベル2の項目米国 95,902 109,766 16.1 14.5 73,213 81,785 11.2 11.7
欧州 89,427 91,219 13.3 2.0 97,412 96,843 13.2 △ 0.6
階層レベル2の項目EU27 63,614 68,072 10.0 7.0 65,930 68,190 9.3 3.4
階層レベル3の項目ドイツ 11,110 10,068 1.5 △ 9.4 21,996 23,615 3.2 7.4
階層レベル2の項目英国 5,962 6,341 0.9 6.4 5,810 5,775 0.8 △ 0.6
階層レベル2の項目ロシア 9,980 6,328 0.9 △ 36.6 17,357 14,817 2.0 △ 14.6
中東 15,600 17,524 2.6 12.3 65,189 109,459 15.0 67.9
階層レベル2の項目GCC 8,641 10,260 1.5 18.7 55,129 92,323 12.6 67.5
階層レベル3の項目サウジアラビア 3,325 4,865 0.7 46.3 24,271 41,640 5.7 71.6
中南米 25,817 26,590 3.9 3.0 28,439 32,739 4.5 15.1
階層レベル2の項目メキシコ 11,290 12,654 1.9 12.1 7,889 8,577 1.2 8.7
階層レベル2の項目ブラジル 4,666 4,976 0.7 6.6 6,622 7,930 1.1 19.8
大洋州 15,658 26,629 3.9 70.1 35,875 49,023 6.7 36.7
階層レベル2の項目オーストラリア 9,750 18,753 2.7 92.3 32,918 44,929 6.1 36.5
アフリカ 9,022 11,132 1.6 23.4 6,816 9,323 1.3 36.8
その他 126 82 0.0 △ 35.1 3,445 6,437 0.9 86.8
合計 644,400 683,585 100.0 6.1 615,093 731,370 100.0 18.9

〔出所〕韓国貿易協会

2022年の輸入を品目別にみると、鉱物性燃料が大幅に増加し、59.0%増の2,181億ドルとなった。内訳としては、原油が1,059億ドルで、最も多かった。韓国はエネルギー資源の多くを輸入に依存しているが、原油、天然ガス、石炭の3大エネルギー資源の輸入額は、いずれも価格高騰により大きく増加した。

2022年の輸入を国・地域別にみると、ASEAN(マレーシア45.8%増、インドネシア46.7%増、フィリピン33.0%増)、中東、オーストラリアなどからの輸入が大幅に増加した。ウクライナ侵攻により、ロシア産の天然ガスなどの輸入は減少した。また、中東からの輸入は原油高を受け67.9%増と、昨年に引き続き大幅に増加した。

2023年1~6月の貿易をみると、世界的な経済低迷と原油価格下落により、輸出は前年同期比12.4%減、輸入は7.7%減といずれも減少した。輸出は、最大の輸出品目の半導体が37.4%減と大幅に減少した。併せて、ウイズコロナ政策の影響により、パソコン、ディスプレーなども大きく減少した。また、市場の成熟化により無線通信機器も減少した。輸入は原油、石炭などの鉱物性燃料が減少した。貿易収支は6月に、2022年2月以来、16カ月ぶりに黒字(11億ドル)を記録した。

通商政策 
主要国・地域の他、新興国とのFTA締結を推進

韓国は世界的な自由貿易協定(FTA)拡散動向に対応し、安定的な海外市場を確保するために、2003年以降FTAを積極的に締結する方針に転じた。FTA締結による経済効果を上げるために、物品分野での関税撤廃の他、サービス、投資、政府調達、知的財産権、技術の標準化など多様な規定を含んだ包括的な協定となるよう取り組んできた。2023年8月現在、韓国は59カ国との間で21のFTAを発効しており、新興国とのFTA締結も積極的に推進している。FTA締結国との貿易額が貿易総額に占める割合は、輸出76.4%、輸入64.2%、輸出入総額70.1%(いずれも2022年)となっている。

2022年の動きをみると、1月に、湾岸協力会議(GCC)と2010年以来中断していたFTA締結交渉の再開で合意した。2月1日に、日韓間の初のFTAでもある地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。ちなみに、2022年2月から12月までにRCEPを活用した輸出入総額は、輸出額で33億ドル、輸入額は56億ドルとなった。輸出額を国別でみると、日本が全体の67.3%に当たる22億3,400万ドルと最も多かった。2021年に発効した英国とのFTAは、2022年2月に年内の改善交渉開始で合意したが、交渉開始が遅れている。3月には、メキシコと2016年以来中断していたFTA締結交渉の再開で合意した。12月1日に、イスラエルとカンボジアとのFTAがそれぞれ発効した。

2023年に入ると、1月1日にインドネシアとのCEPAが発効した。同協定は、より確固とした経済協力関係を築くために商品・サービス貿易の他、投資など関連サービス全般を包括した内容となっている。また、1月14日に、韓国にとって初のデジタル通商協定となる韓国・シンガポール・デジタルパートナーシップ協定(KSDPA)が発効した。2月には、モンゴルとEPAの交渉開始に関する共同声明に署名した。産業通商資源部は2月3日、「2023年自由貿易協定(FTA)活用支援事業」を公告し、FTA活用の促進、FTA海外市場進出、産業競争力強化などを促進するとしている。その他、韓国とエクアドルは2015年8月に交渉開始を宣言し、2016年1月から2023年4月に計9回の交渉を行っている。2023年9月には、ASEAN加盟国としては5番目の2国間FTAとなるフィリピンとFTAに署名した。FTAが発効すれば、フィリピン側の関税は、ガソリン車は即時撤廃、EVやハイブリッド車(HV)も5年以内に撤廃される。

対内・対外直接投資 
対内投資は米国・オランダ中心に増加、過去最高に

2022年の対内直接投資(申告ベース)は前年比3.2%増の304億4,525万ドルと、2年連続で過去最高を更新した。産業通商資源部では、「世界経済の不確実性が持続する中で、しっかりした製造業の基盤と制度改善・外資誘致努力などが奏功したため、過去最高の実績を達成し、投資と雇用の創出に寄与した」と総括している。

業種別にみると、製造業が前年比2.5倍の124億7,895万ドルと急増し、過去最高(2018年、100億4,871万ドル)を大きく更新した。製造業の内訳をみると、化学工業と電気・電子が大幅に増加し、製造業の対内直接投資をけん引した。これらの業種について、さらに詳細にみると、特に好調だったのが「石油精製品製造業」(31億1,342万ドル)と、「二次電池および蓄電池製造業」(19億6,029万ドル)だった。他方、サービス業は29.7%減の165億7,657万ドルにとどまった。特に、情報通信、事業支援・賃貸、金融・保険が大幅に減少し、サービス業全体の対内直接投資を引き下げた。

国・地域別には、米国が全体の28.5%を占め最も多く、また、前年比65.2%増と大幅に増加した。事例としては、オン・セミコンダクターやラムリサーチといった半導体関連の投資などがみられた。次いで、オランダからの直接投資が急増し、全体の16.2%を占めた。具体的には、ASMインターナショナルといった半導体関連の進出などがあった。アジアは、シンガポール、日本、中国の順で多かった。シンガポールからは、韓国の環境関連企業を買収する事例がみられた。日本からは、韓国の半導体関連の需要獲得を狙った化学メーカーの進出などがあった。中国からは自動車や車載電池関連の進出事例がみられた。

2023年上半期(1~6月)の対内直接投資は前年同期比54.2%増の170億9,207万ドルと、上半期ベースでは過去最高を記録した。産業通商資源部では、「今回の過去最高の投資誘致実績達成には、尹大統領の海外歴訪を通じた投資誘致の成果が大きく寄与し、民間投資促進のための税制改編などの政府支援政策やグローバル・スタンダードに合った規制改革など、企業に優しい政策も大きな役割を果たした」と総括した。

業種別には、製造業が前年同期比2.5倍の76億3,022万ドル、サービス業が11.0%増の84億7,547万ドルと、製造業の増加が顕著だった。製造業の中では特に、電子・電気、化学工業が好調だった。国・地域別には、米国(36億5,679万ドル、前年同期比24.1%増)が最も多く、次いで、ケイマン諸島(34億9,907万ドル、2.3倍増)、シンガポール(15億2,562万ドル、9.7%増)の順だった。具体的には産業通商資源部が4月、米国がエアープロダクツをはじめとする6社が合計19億ドルの対韓直接投資を申告したことを発表するなど、活発な投資が続いた。なお、中国からは、米国インフレ削減法(IRA)成立を受けて、韓国企業と合弁で車載電池材料の生産拠点を韓国に構築する動きが相次いだ。

対外直接投資は半導体メモリーや車載電池がけん引、過去最高に

2022年の対外直接投資(実行ベース)は前年比4.9%増の806億8,409万ドルと、2年連続で過去最高を更新した。韓国の対外直接投資額は2010年代後半から増加基調にあるが、その流れが続いたといえる。

業種別にみると、金融・保険業、製造業が多かったが、特に、製造業が40.9%増と大きく増加したのが特徴だった。製造業の増加額が対外直接投資全体の増加額の2.0倍に達し、製造業が2022年の対外直接投資をけん引した。製造業の中で特に投資額が多く、かつ、高い伸びを示したのが、「メモリー用電子集積回路製造業」(70億182万ドル、前年比75.9%増)と「蓄電池製造業」(35億8,595万ドル、104.3%増)の2つだった。これは、2021年と同様の傾向で、半導体メモリーと車載電池が前年に続いて2022年も対外直接投資のけん引役になった。

国・地域別にみると、最も多かったのが全体の35.4%を占めた米国で、他を大きく引き離した。対米直接投資を業種別にみると、金融・保険業(対米直接投資全体の37.1%)が前年比6.9%減、不動産業(11.5%)が8.4%減だった半面、製造業(28.2%)は56.5%増と大幅に伸びた。対米直接投資全体では前年比2.0%増と微増だったが、金融・保険業や不動産業の減少を好調な製造業が相殺した結果である。製造業の内訳をみると、車載電池の増加が顕著で、製造業全体の対米直接投資をけん引した。事例をみても、LGエナジーソリューションやサムスンSDIが自動車メーカーとの合弁で米国に車載電池工場を建設している。

アジアでは、中国が全体の10.6%を占め、米国に次いで多かった。対中直接投資額は、前年比10.6%増の85億3,856万ドルで、2年連続で過去最高を更新した。業種別(小分類)でみると、「メモリー用電子集積回路製造業」が全体の66.3%を占め、かつ、前年比2.2倍と急増しけん引した。さらに省別にみると、「メモリー用電子集積回路製造業」の9割以上を遼寧省が占めた。中国独占禁止法当局は2021年12月、SKハイニックスによる米国インテルの半導体メモリー部門買収を承認したが、その中に遼寧省大連市のNAND型フラッシュメモリー工場が含まれていた。この案件が2022年の対中直接投資を下支えしたと考えられる。仮にこれを除くと、対中直接投資に活況感があるとは言い難かった。中国以外では、シンガポール、ベトナムの順で多かった。シンガポールは、専門・科学・技術サービス業や金融・保険業が、ベトナムは、エレクトロニクス部品を中心とした製造業が多かった。ベトナムの事例をみると、サムスン電機やLGディスプレイ の追加投資などがあった。

欧州では、ハンガリーが前年比2.2倍と大幅に増加し、全体の2.3%を占めたのが目を引いた。対ハンガリー直接投資全体の91.1%を「蓄電池製造業」が占め、車載電池がけん引したといえる。具体的には、SKオンをはじめとした車載電池関連の投資事例がみられた。

2023年第1四半期(1~3月)の対外直接投資は、前年同期比41.6%減の164億8,957万ドルだった(ただし、第2四半期の実績発表時などに上方修正される可能性がある)。業種別には、金融・保険業(全体の39.0%)、製造業(33.2%)が特に多かった。国・地域別には、米国が全体の51.7%と、過半数を超え圧倒的に多く、次いで、ケイマン諸島(7.7%)、カナダ(6.5%)、ルクセンブルク(5.7%)、中国(4.1%)の順だった。

表4-1 韓国の業種別対内直接投資【申告ベース】(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 対内直接投資
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
農・畜・水産・鉱業 4 1 0.0 △ 70.8
階層レベル2の項目農・畜・林業 1 1 0.0 37.4
階層レベル2の項目漁業 4 0 0.0 △ 100.0
階層レベル2の項目鉱業 0 0 0.0
製造業 5,003 12,479 41.0 149.4
階層レベル2の項目食品 534 975 3.2 82.4
階層レベル2の項目繊維・織物・衣類 4 133 0.4 3,402.8
階層レベル2の項目製紙・木材 38 18 0.1 △ 52.8
階層レベル2の項目化学工業 921 5,366 17.6 482.5
階層レベル2の項目医薬 387 161 0.5 △ 58.4
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 50 20 0.1 △ 59.8
階層レベル2の項目金属・金属加工製品 113 565 1.9 399.0
階層レベル2の項目機械装置・医療精密 692 1,058 3.5 52.9
階層レベル2の項目電気・電子 1,466 3,453 11.3 135.6
階層レベル2の項目輸送用機械 786 656 2.2 △ 16.5
階層レベル2の項目その他製造 11 73 0.2 583.5
サービス業 23,569 16,577 54.4 △ 29.7
階層レベル2の項目卸売り・小売り(流通) 2,866 3,414 11.2 19.1
階層レベル2の項目宿泊・飲食店 459 145 0.5 △ 68.4
階層レベル2の項目運輸・倉庫 311 928 3.0 198.1
階層レベル2の項目情報通信 7,022 3,572 11.7 △ 49.1
階層レベル2の項目金融・保険 6,604 4,687 15.4 △ 29.0
階層レベル2の項目不動産 2,588 2,479 8.1 △ 4.2
階層レベル2の項目事業支援・賃貸 2,073 18 0.1 △ 99.1
階層レベル2の項目研究開発・専門・科学技術 1,301 1,236 4.1 △ 5.0
階層レベル2の項目余暇・スポーツ・娯楽 272 83 0.3 △ 69.3
階層レベル2の項目公共・その他サービス 73 13 0.0 △ 81.9
電気ガス・水道・環境浄化・建設 937 1,388 4.6 48.3
階層レベル2の項目電気・ガス 689 1,092 3.6 58.3
階層レベル2の項目水道・下水・環境浄化 2 4 0.0 156.6
階層レベル2の項目総合建設 245 280 0.9 14.6
階層レベル2の項目専門職別工事 1 12 0.0 1,491.0
合計 29,513 30,445 100.0 3.2

〔出所〕産業通商資源部

表4-2 韓国の業種別対外直接投資【実行ベース】(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 対外直接投資
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
農業・林業・漁業 110 39 0.0 △ 64.1
鉱業 1,924 2,412 3.0 25.4
製造業 18,325 25,828 32.0 40.9
電気・ガス・蒸気・空気調節供給業 2,851 3,317 4.1 16.3
水道・下水・廃棄物処理・原料再生業 23 1,265 1.6 5,340.3
建設業 840 548 0.7 △ 34.8
卸売り・小売り業 3,693 2,597 3.2 △ 29.7
運輸・倉庫業 1,372 733 0.9 △ 46.6
宿泊・飲食店業 148 135 0.2 △ 8.9
情報通信業 6,935 3,689 4.6 △ 46.8
金融・保険業 29,524 29,356 36.4 △ 0.6
不動産業 7,044 7,308 9.1 3.7
専門・科学・技術サービス業 2,959 2,760 3.4 △ 6.7
事業施設管理・事業支援・賃貸サービス業 988 481 0.6 △ 51.3
公共行政・国防・社会保障行政 0 19 0.0 6,165.4
教育サービス業 22 45 0.1 104.1
保健業・社会福祉サービス業 124 130 0.2 5.5
芸術・スポーツ・余暇関連サービス業 40 19 0.0 △ 52.7
協会・団体・修理・その他個人サービス業 8 0 0.0 △ 99.5
合計 76,932 80,684 100.0 4.9

〔出所〕韓国輸出入銀行

表5-1 韓国の国・地域別対内直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 申告ベース
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 9,083 7,050 23.2 △ 22.4
階層レベル2の項目シンガポール 4,189 3,248 10.7 △ 22.5
階層レベル2の項目日本 1,211 1,529 5.0 26.3
階層レベル2の項目中国 1,888 1,481 4.9 △ 21.6
階層レベル2の項目香港 636 385 1.3 △ 39.4
階層レベル2の項目オーストラリア 125 153 0.5 22.2
米州 6,912 14,546 47.8 110.4
階層レベル2の項目米国 5,258 8,685 28.5 65.2
階層レベル2の項目ケイマン諸島 829 4,424 14.5 433.8
階層レベル2の項目グアテマラ 0 571 1.9
階層レベル2の項目カナダ 503 508 1.7 1.0
階層レベル2の項目バージン諸島 241 317 1.0 31.6
欧州 12,941 8,476 27.8 △ 34.5
階層レベル2の項目オランダ 974 4,922 16.2 405.2
階層レベル2の項目マルタ 4,888 967 3.2 △ 80.2
階層レベル2の項目英国 815 581 1.9 △ 28.7
階層レベル2の項目ドイツ 2,836 538 1.8 △ 81.0
階層レベル2の項目スイス 100 262 0.9 160.7
階層レベル2の項目フランス 222 215 0.7 △ 3.4
階層レベル2の項目オーストリア 469 208 0.7 △ 55.7
階層レベル2の項目スペイン 211 182 0.6 △ 13.8
階層レベル2の項目ルクセンブルク 285 155 0.5 △ 45.6
中東 562 282 0.9 △ 49.7
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦 446 201 0.7 △ 54.9
アフリカ 14 24 0.1 72.8
合計 29,513 30,445 100.0 3.2

〔注1〕2022年上位20カ国・地域を掲載。
〔注2〕合計には国際機関を含む。
〔出所〕産業通商資源部

表5-2 韓国の国・地域別対外直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 実行ベース
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
アジア 18,642 20,311 25.2 9.0
階層レベル2の項目中国 6,731 8,539 10.6 26.9
階層レベル2の項目シンガポール 2,515 3,055 3.8 21.5
階層レベル2の項目ベトナム 2,516 2,828 3.5 12.4
階層レベル2の項目インドネシア 1,832 1,477 1.8 △ 19.4
階層レベル2の項目日本 1,184 1,145 1.4 △ 3.3
階層レベル2の項目香港 883 910 1.1 3.1
北米 30,732 31,027 38.5 1.0
階層レベル2の項目米国 27,986 28,536 35.4 2.0
階層レベル2の項目カナダ 2,746 2,491 3.1 △ 9.3
欧州 12,339 15,665 19.4 27.0
階層レベル2の項目ルクセンブルク 4,382 4,961 6.1 13.2
階層レベル2の項目ハンガリー 847 1,841 2.3 117.3
階層レベル2の項目ジャージー島 119 1,589 2.0 1,235.8
階層レベル2の項目ガンジー島 1,904 1,589 2.0 △ 16.6
階層レベル2の項目英国 804 1,206 1.5 49.9
階層レベル2の項目アイルランド 201 929 1.2 363.4
階層レベル2の項目ポーランド 569 907 1.1 59.4
中南米 12,999 11,505 14.3 △ 11.5
階層レベル2の項目ケイマン諸島 10,889 9,461 11.7 △ 13.1
階層レベル2の項目ペルー 476 692 0.9 45.3
中東 233 140 0.2 △ 40.0
アフリカ 312 123 0.2 △ 60.6
大洋州 1,674 1,914 2.4 14.3
階層レベル2の項目オーストラリア 1,178 1,495 1.9 26.9
合計 76,932 80,684 100.0 4.9

〔注〕2022年上位18カ国・地域を掲載。
〔出所〕韓国輸出入銀行

表6 韓国の主な対内直接投資案件(2022年1月~2023年7月)
時期 企業名 国・地域 投資額 概要
2022年3月 オン・セミコンダクター 米国 2億ドル 京畿道富川市のシリコンカーバイド(SiC)半導体工場の拡張工事に着手。製品はテスラ向けに供給予定。
2022年4月 ラムリサーチ 米国 n.a. 京畿道龍仁市の産業団地で研究開発(R&D)拠点の「ラムリサーチ・コリアテクノロジーセンター」を開館。
2022年5月 吉利汽車 香港(中国) 13億7,600万元 中国・浙江吉利控股集団傘下の香港・吉利汽車がルノーコリア自動車の増資引き受けを決定。出資比率は34%に。韓国市場・輸出向け生産拠点としての活用を狙う。
ネットフリックス 米国 1億ドル 仮想現実(VR)演出技術を活用した特殊効果映画製作施設建設のために6年間で1億ドルを投資。
天津巴莫科技(浙江華友鈷業の子会社) 中国 5,000億ウォン(両社合計) LG化学と合弁会社設立契約を締結。年産6万トン規模の正極材生産法人を慶尚北道亀尾市に設立。
2022年7月 ADEKA 日本 23億円 韓国子会社が先端メモリー向け高誘電材料の生産能力を2倍以上に引き揚げることを決定。DRAM(Dynamic Random Access Memory)の微細化進行に対応する。
2022年8月 ケッペル・コーポレーション傘下企業3社 シンガポール 6,261億ウォン 環境関連事業強化策の一環として、廃棄物処理を手がけるエコ・マネジメント・コリア・ホールディングスの買収を決定。
2022年9月 昭和電工 日本 n.a. 韓国子会社が京畿道安城市の半導体製造用高純度ガス貯蔵施設能力を2倍に拡張する工事を実施。韓国の旺盛な需要に対応する狙い。
2022年10月 ASMインターナショナル オランダ 1,000万ドル 半導体製造装置の生産施設と研究・開発(R&D)センターを建設。
2023年3月 出光興産 日本 18億5,000万ウォン リチウムイオン電池材料、結晶性酸化物半導体、有機EL材料、新規農薬などの高付加価値素材の研究開発加速、マーケティング体制強化を目的に、100%子会社・出光アドバンストマテリアルズコリアを設立。
格林美 中国 最大 1兆2,100億ウォン(3社合計) SKオン、エコプロと、全羅北道セマングムに年産5万トン規模の前駆体合弁工場を建設する投資協定を締結。
2023年4月 エアープロダクツ 米国 n.a. アンモニア・水素の貯蔵・生産施設を構築。
グリーンツイード 米国 n.a. 半導体装置部品(Oリング)の生産施設を新設。
2023年6月 中偉新材料 中国 約1兆 5,000億ウォン(3社合計) ポスコホールディングス、ポスコフューチャーエムと、二次電池用ニッケル精製と前駆体生産を行う2つの合弁会社を慶尚北道浦項市に設立する契約を締結。

〔出所〕産業通商資源部発表、各社発表、報道などを基に作成

表7 韓国の主な対外直接投資案件(2022年1月~2023年7月)
時期 企業名 投資国 投資額 概要
2022年1月 LGエナジーソリューション 米国 26億ドル(両社合計) GMとの合弁で米国で3カ所目の車載電池工場を建設、2024年下半期の完成を目指す。
2022年2月 SKオン 中国・ハンガリー 最大で6兆ウォン 中国・江蘇省塩城市とハンガリー・イバンチャにそれぞれ年産30GWh規模の車載電池工場を新設。
サムスン電機 ベトナム 2億6,700万ドル 「FCBGA(フリップチップ・ボールグリッドアレイ)」基盤の生産設備・インフラ構築事業に追加投資。
2022年3月 LGエナジーソリューション カナダ 4兆8,000億ウォン(両社合計) オンタリオ州でステランティスと合弁で車載電池工場を建設する計画を発表。2024年上半期に量産開始予定。生産能力は2026年時点で45ギガワット時(GWh)。
2022年4月 ハナ金融投資 ベトナム 1,420億ウォン BIDV証券の株式35%を買収する新株引受契約を締結。
2022年5月 サムスンSDI 米国 25億ドル以上(両社合計) ステランティスとインディアナ州に車載電池セル・モジュール合弁企業を設立する契約を締結。2025年第1四半期の本格稼働を予定。
ポスコケミカル カナダ 3億2,700万ドル(両社合計) GMとの合弁でケベック州に年産3万トン規模のハイニッケル正極材工場を建設。
2022年6月 LGディスプレイ ベトナム 10億ドル 有機ELモジュールラインの増設を決定。中小型有機EL市場でのシェア拡大を狙う。
2022年10月 ロッテ・グループ ベトナム 9億ドル ホーチミン市で「ロッテ・エコ・スマート・シティ」の建設を開始。地下5階・地上60階規模で、ショッピングモール、オフィス、ホテル、マンションなどで構成される予定。
現代自動車 米国 55億ドル ジョージア州で年産30万台規模の電気自動車(EV)専用工場を着工。2025年上半期の稼働を目指す。
2023年4月 エコプロ・グループ ハンガリー 3,827億ウォン 韓国の正極材メーカーとして初の欧州生産拠点を着工。2025年に正極材の量産を開始する予定。
現代自動車グループ、SKオン 米国 50億ドル(両社合計) ジョージア州に車載電池工場を建設することを決定。年産35ギガワット時(GWh)で、2025年下半期の稼働を目指す。

〔出所〕各社発表、報道などを基に作成

対日関係 
対日貿易は輸出入とも微増

2022年の対日貿易は、輸出が前年比1.8%増の306億ドル、輸入は0.1%増の547億ドルで、輸出入とも、微増ながら2年連続で増加した。対日貿易収支は構造的に赤字が続いており、2022年の赤字額は前年比5億ドル減の241億ドルだった。

輸出を品目別(韓国独自の品目分類のMTI3桁ベース)でみると、輸出が増加したのは、農薬および医薬品、石油製品、精密化学原料などだった。増加した理由について、産業通商資源部では、農薬および医薬品は「下半期のコロナウイルス感染症流行拡大に伴う検査キットの輸出増」、石油製品は「原油価格上昇による製品単価上昇など」としている。精密化学原料についての言及はないものの、数量ベースでは前年比9.3%減となっていることから、輸出額増加は単価上昇によるところが大きいものと思われる。一方、半導体は微減だったが、これは数量ベースの輸出減(前年比9.5%減)によるものである。

輸入を品目別(MTI3桁ベース)でみると、品目によって増減はまちまちだった。輸入額が最も多かった半導体は前年比31.9%増と大幅に伸びた。詳細をみると、「プロセッサー・コントローラー」の対日輸入増によるものである。次いで、輸入額が2番目に多い半導体製造装置は2桁の減少となった。同輸入は製品の性格上、もともと変動が大きいが、2020年前年比32.9%増、2021年44.4%増と、過去2年間に大幅な増加が続いたことによる反動減の影響が大きいと思われる。ちなみに、2022年の輸入額は、2017年から2021年の5年間の平均輸入額(51億8,756万ドル)を上回っていることからも、水準自体はけして低くなかったといえよう。なお、表には掲載していないが、「ノージャパン運動」(日本製品不買運動)の影響を受けた消費財のうち、自動車は前年比50.1%減の4億7,552万ドルと不振だった。ビールは前年比2.1倍の1,448万ドルと倍増したものの、過去最も多かった2018年(7,830万ドル)の2割弱の水準にとどまった。

2023年上半期(1~6月)の対日貿易は、輸出は前年同期比10.9%減の142億ドル、輸入は12.2%減の247億ドルと、いずれも2桁で減少した。品目別にみると、輸出は、最大品目の石油製品が12.8%減の24億ドル、4位の農薬および医薬品が18.4%減の5億ドルと、2022年に輸出増を記録した2品目がいずれも減少に転じた。産業通商資源部では輸出減の理由として、石油製品は原油価格の下落と需要不振を、農薬および医薬品はワクチン委託生産品の需要減少を、それぞれ挙げた。輸入は、2位の半導体製造装置が12.4%減の26億ドル、4位のプラスチック製品が34.6%減の8億ドルと2桁で減少し、対日輸入全体を押し下げた。なお、自動車は34.4%増、ビールは3.0倍と、輸入が大幅に伸びた。「ノージャパン運動」直前の2019年上半期の輸入額を100とすると、自動車は48.8、ビールは45.8と、いずれも半分近い水準にまで輸入額が回復し、同運動の影響から脱しつつあることが確認できる。

表8-1 韓国の対日品目別輸出(FOB)(上位10品目)
[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 品目名 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
1 石油製品 4,678 5,134 16.8 9.7
2 鉄鋼板 2,399 2,414 7.9 0.6
3 半導体 1,366 1,350 4.4 △ 1.2
4 農薬および医薬品 656 1,216 4.0 85.4
5 精密化学原料 1,022 1,197 3.9 17.0
6 合成樹脂 844 1,012 3.3 20.0
7 金・銀および白金 1,667 963 3.1 △ 42.2
8 石鹸・歯磨き粉および化粧品 801 750 2.4 △ 6.4
9 プラスチック製品 772 678 2.2 △ 12.2
10 コンピュータ 445 568 1.9 27.8
合計(その他を含む) 30,062 30,606 100.0 1.8

〔注〕韓国独自コードのMTI3桁ベースで2022年輸出上位10品目。
〔出所〕韓国貿易協会

表8-2 韓国の対日品目別輸入(CIF)(上位10品目)
[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
順位 品目名 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
1 半導体 5,889 7,768 14.2 31.9
2 半導体製造装置 6,326 5,533 10.1 △ 12.5
3 鉄鋼板 2,630 2,968 5.4 12.8
4 プラスチック製品 2,535 2,082 3.8 △ 17.9
5 合金鉄・銑鉄およびくず鉄 1,707 1,720 3.1 0.8
6 基礎留分 1,384 1,337 2.4 △ 3.4
7 計測制御分析器 1,229 1,196 2.2 △ 2.6
8 金・銀および白金 547 1,151 2.1 110.3
9 農薬および医薬品 650 1,140 2.1 75.2
10 精密化学原料 1,509 1,103 2.0 △ 26.9
合計(その他を含む) 54,642 54,712 100.0 0.1

〔注〕韓国独自コードのMTI3桁ベースで2022年輸入上位10品目。
〔出所〕韓国貿易協会

日本の対韓直接投資は回復へ

2022年の日本の対韓直接投資(申告ベース)は、前年比26.3%増の15億2,915万ドルだった。2年連続の増加で、2017年(18億4,243万ドル)以降で最も多かった。業種(中分類)別では、情報通信(日本の対韓直接投資額の27.6%)、化学工業(20.1%)の順で多かった。対韓直接投資が回復した理由として、韓国企業の国内生産拡大の動きがみられたこと、コロナ禍で厳格化された入国制限が解除されたこと、尹政権発足を契機に日韓関係が改善に向かったことなどが挙げられよう。

日本企業各社のプレスリリースによると、製造業では、拡大する韓国半導体企業向け需要を獲得すべく、顧客の近くに生産拠点を新増設する動きがみられた。具体的には、ADEKA(先端半導体メモリー向け高誘電材料の生産能力を2倍以上に増強)、昭和電工(半導体製造用高純度ガス貯蔵施設能力を2倍増強)、富士フイルム(イメージセンサー用カラーフィルター材料新工場建設)などがあった。非製造業では、ゲームやシステム開発分野での進出事例がみられた。具体的には、アドベンチャー(総合旅行予約サイトのオフショア・システム開発拠点の設立)、double jump.tokyo(ゲームの共同開発などを念頭に、ブロックチェーンゲーム開発のEPIC LEAGUEに出資)、KabuK Style(韓国のホテル向けにレベニューマネジメントシステムを提供するヒーローワークスを子会社化)などがあった。

2023年上半期(1~6月)は、前年同期比33.4%減の5億9,469万ドルだった。業種別には、化学工業(日本の対韓直接投資額の22.0%)が突出して多く、続いて、卸売り・小売り(流通)(16.3%)、情報通信(14.8%)の順だった。具体的な投資事例をみると、まず、日本の化学メーカーが韓国企業向け販売強化のために、韓国で研究開発(R&D)拠点を新設・増強する事例が見られた。ADEKA(顧客への提案力強化などのため、情報・電子化学品事業のR&D機能を拡充)、出光興産(リチウムイオン電子材料、結晶性酸化物半導体などの高付加価値素材のR&D強化のため、現地法人を設立)が該当する。また、韓国企業の保有技術の獲得などを狙った既存企業への出資事例もみられた。具体的には、メディアドゥ(縦スクロールコミック制作のコンテンツラボブルーに出資)、ワイエイシイホールディングス(人工知能を活用したフレキシブルプリント回路基板関連などの検査装置を製造するGDテックの全株式を取得)、三菱電機(モーションコントローラ設計・開発・販売のモベンシスに出資)、オリックス(EV充電ソリューションのEVARに出資)などがあった。

他方、2022年の韓国の対日直接投資(実行ベース)は、前年比3.3%減の11億4,508万ドルと、ほぼ前年並みだった。業種別には、金融・保険業(韓国の対日直接投資額の33.9%)、卸売り・小売業(27.5%)、情報通信業(16.7%)の順だった。韓国のメディア報道や各社発表によると、具体的な進出事例として、インターネットサービス大手のカカオ(日本子会社を通じ、暗号資産交換業運営のサクラエクスチェンジビットコインを買収)、LG生活健康(マイクロバイオーム化粧品のR&D拠点を設立)、化粧品ODM(開発・生産受託)・OEM(生産受託)大手のコスマックス(化粧品工場を新設)などがあった。

2023年第1四半期(1~3月)の韓国の対日直接投資は、前年同期比22.6%減の1億9,158万ドルだった(ただし、第2四半期の実績発表時などに上方修正される可能性がある)。具体的な事例としては、大象(日本法人を通じ、ライフドリンク カンパニーのソース製品事業を取得)、サムスン電子(横浜市に半導体開発拠点を新設)などがあった。

基礎的経済指標

人口
5,163万人(2022年中位推計)
面積
10万444平方キロメートル(2022年末)
1人当たりGDP
3万2,250米ドル(2022年、推計)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 0.7 4.3 2.6
消費者物価上昇率 (%) 0.5 2.5 5.1
失業率 (%) 4.0 3.7 2.9
貿易収支 (100万米ドル) 80,605 75,731 15,061
経常収支 (100万米ドル) 75,902 85,228 29,831
外貨準備高 (100万米ドル) 437,113 457,169 417,280
対外債務残高 (100万米ドル) 550,628 630,694 665,237
為替レート (1米ドルにつき、韓国ウォン、期中平均) 1,180.27 1,143.95 1,291.45

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
外貨準備高:金を含む。
出所:
人口、消費者物価上昇率、失業率:統計庁
面積:国土交通部
実質GDP成長率、貿易収支、経常収支、対外債務残高:韓国銀行
1人当たりGDP、外貨準備高、為替レート:IMF