知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)懲罰的損害賠償制度を導入した特許法、不正競争防止法の改正について

2019年01月16日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.124)
法務法人(有)和友パートナー弁護士 権東周(クォン・ドンジュ)

他人の特許権および営業秘密を故意に侵害した場合に、最大で損害額の3倍まで賠償責任を負わせる「懲罰的損害賠償制度」を導入する特許法および、不正競争防止並びに営業秘密保護に関する法律(以下、「不正競争防止法」)の各改正法案が2018年12月7日、韓国国会の本会議で可決成立し、19年1月8日に公布されました。各改正法は公布6カ月後の19年7月9日に施行される予定です。

1.改正の背景:

従来の特許法と不正競争防止法は、特許および営業秘密の侵害行為による損害額の算定において、侵害者が取得した利益又は特許権の実施や営業秘密の使用により、通常受けることができる金額などを根拠とする実損賠償の原則に従っていました。
ところで、韓国の場合、特許および営業秘密侵害訴訟において認められる損害賠償額が他国より比較的に低いため(注1)、市場では知的財産の侵害によって得た利益が損害賠償額より大きいという認識が形成されており、これは侵害の誘引として作用していました。そこで、国会および政府は歪んだ市場秩序を正し、知的財産の保護を強化すべく、故意による特許権および営業秘密の侵害行為に対して、損害と認められた金額の3倍以内で賠償額を決定する「懲罰的損害賠償制度」を導入することになりました。

(注1)特許庁によると、特許侵害訴訟における損害賠償の中間額は約6,000万ウォン(約572万円)であり、米国の約9分の1の水準にすぎず、営業秘密の侵害に係る損害賠償額の平均認容金額は2億4,000万ウォン(約2,290万円)であり、請求額である13億ウォン(約1億2,400万円)の約18.5%の水準に止まりました。

2.改正の内容:

  • 特許法改正(損害賠償請求権の根拠条項である第128条に第8項および第9項を新設)

    特許権または専用実施権の侵害行為が故意によるものと認められる場合は、損害と認められた金額の3倍を超えない範囲内で賠償額を決定することとし(第128条第8項)、賠償額を判断するときには、侵害者の優越的地位の有無、故意または損害発生の恐れを認識した程度、侵害行為による被害の規模、侵害者が得た経済的利益、侵害行為の期間および回数、侵害行為による罰金、侵害者の財産状態、被害救済努力の程度などを考慮することとしました(同条第9項)。附則において、上記改正規定は法施行後に最初に違反行為が発生したものから適用することとしています。

  • 不正競争防止法改正(損害額の推定条項である第14条の2に第6項および第7項を新設)

    営業秘密の侵害行為が故意によるものと認められる場合は、損害と認められた金額の3倍を超えない範囲内で賠償額を決定することとし(第14条の2第6項)、賠償額を判断するときは侵害者の優越的地位の有無、故意または損害発生の恐れを認識した程度、侵害行為による被害の規模、侵害者が得た経済的利益、侵害行為の期間および回数、侵害行為による罰金、侵害者の財産状態、被害救済努力の程度などを考慮することとしました(同条第7項)。附則において、上記改正規定は法施行後に営業秘密侵害行為が始まったものから適用することとしています。

3.示唆点および留意事項:

今回の改正により、故意による知的財産侵害行為の誘引が縮小し、特許・営業秘密保有者らの権利が強化されるものと期待されています。特に、政府は、懲罰的損害賠償制度が社会的問題になっている零細中小企業に対する技術奪取行為の防止に大きく貢献すること になるものと期待しています。 さらに、損害額の3倍以内で法院の損害額の算定に対する裁量が認められるため、当事者らとしては法に規定された法院の賠償額判断要素に留意し、これらに対する十分な主張、立証を準備する必要があります。

今月の解説者

法務法人(有)和友パートナー弁護士権東周(クォン・ドンジュ)、前特許法院部長判事、高麗大学法学部卒、米国バージニア大学ロースクールLL.M.取得
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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