シンガポールの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年の実質GDP成長率は3.6%。
  • 貿易は2022年第4四半期に下降局面へ。
  • 固定資産投資は、半導体がけん引して過去最高を記録。
  • 対日直接投資は前年比減だが、引き続きアジア最大の対日投資国。

公開日:2023年12月11日

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マクロ経済 
2022年のGDP成長率は3.6%

2022年のシンガポールの実質GDP成長率は3.6%だった。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響からの反動で高成長(8.9%)を記録した2021年と比べて成長が減速した。第1四半期から第3四半期までは前年同期比4%台の成長を記録したが、第4四半期に2.1%と減速した。

実質GDP成長率を需要項目別にみると、構成比3割を占める民間最終消費支出は前年比9.7%増と、前年を上回る高い成長率を達成し、経済全体をけん引した。「その他物品・サービス」や「レクリエーション・文化」への支出が増加した。いずれも、2021年以降の新型コロナからの回復によるものである。他方、政府最終消費支出は2.3%減少した。新型コロナ流行の沈静化の影響を受けた。国内総固定資本形成は1.6%増加したが、2021年の伸び率18.0%からは大幅に低下した。このうち、公共部門の伸び率は前年の21.5%から一転し、マイナス1.8%に落ち込んだ。設備投資の減少が影響した。民間部門は、半導体に関する設備投資の増加などにより2.3%(前年は17.3%)の伸びとなり、同項目を押し上げた。

産業部門別にみると、製造業が前年の13.3%から2.5%へと大幅に減速した。バイオメディカル、化学品、エレクトロニクスおよび一般製造業のセクターでは、新型コロナ流行で一時的に需要増や価格高騰がみられていたが、流行の沈静化に伴い生産が減少した。建設部門は前年(20.5%)から減速したが、6.7%と堅調だった。2021年以降、公共部門・民間部門とも建設工事の受注が回復基調にある。

小売り部門は8.4%と、12.0%を記録した前年に続き、高い成長率だった。貿易産業省(MTI)によると、非自動車部門の販売数量(指数)が11.8%増加した。なかでも衣類・靴(40.8%)、食料品・酒類(31.3%)、百貨店(28.5%)、時計・宝飾品(27.7%)が大きく伸びた。他方、自動車の販売数量(指数)は19.8%減少した。政府が新車購入時に取得を義務付けている自動車所有権証書(COE)の発行枚数を抑制したことが影響した。

MTIは2023年11月、2023年通年の実質GDP成長率について、8月時点では「0.5~1.5%」としていたが、「1.0%前後」へと予測値の幅を絞り込んだ。MTIは世界的なエレクトロニクス部門の不況は底打ちの兆しがあるが、在庫が依然として高水準にあるため、需要は低迷が続いているとしている。こうした背景から、シンガポール製造業などの貿易関連産業は2023年の残り期間は成長が伸び悩むと予測している。

シンガポールの消費者物価指数(CPI)は2022年に6.1%上昇した。乗用車、燃料、航空券の価格上昇に伴い、輸送(16.4%)が上昇した。食品(5.3%)も上昇し、住宅賃料と電気料金の上昇により、住宅・公共料金が5.2%上昇した。

シンガポール通貨金融庁(MAS、中央銀行に相当)は、金融政策として政策金利を設定しない代わりに年 2 回(4 月と10月)、シンガポール・ドル(以下、Sドル)の変動幅を見直す為替管理政策を実施している。MASは物価対策として、2021年10月にそれまでの方針を転換して金融引き締め(Sドル高への誘導)策を導入した。それ以降は2022年1月、4月、7月、10月まで5回連続で引き締め策を行った。さらに2023年に入り、4月と10月にMASは連続して金融政策を維持すると発表した。MASは2023年10月の発表で、MASコアインフレ率(消費者物価指数(総合)から住居関連費および民間輸送費を除いた指数)を2023年は前年比で約4%、2024年は2.5~3.0%とする見通しを示した。

財政面では、2022年 2 月に発表した2022年政府予算案で発表されていた財・サービス税(GST)の税率引き上げを実施し、従前の7%から2023年 1 月に 8 %へ引き上げた。2024年 1 月には9 %へ引き上げることを発表している。これまでに、人口の高齢化に伴う保健歳出の増加などの財源確保のため、2021~2025年にかけてGSTの税率を 7 %から 9 %に引き上げる計画を明らかにしていた。政府は2022年時点でGDPの18%に相当する政府支出が、今後、高齢化と医療費の増加により、2030年までに20%に達すると予測している。その上でGSTの税率引き上げを含めた税制改正がなければ、歳出を補うことはできないと説明している。また、政府は歳入・歳出の増加を踏まえて、2022年は20億Sドル(GDP比0.3%)の赤字となり、2023年度は4億Sドル(0.1%)の赤字となることを見込んでいる。

失業率は2022年に2.1%まで低下した。2020年に3.0%まで上昇していたが、新型コロナ禍からの経済回復の中で雇用環境は急速に改善している。物価上昇と人材不足により、賃金は上昇傾向にある。

表1 シンガポールの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
実質GDP成長率 8.9 3.6 4.0 4.5 4.0 2.1 0.5 0.5
階層レベル2の項目民間最終消費支出 6.6 9.7 3.9 13.4 12.0 9.5 6.2 1.9
階層レベル2の項目政府最終消費支出 3.7 △ 2.3 △ 3.6 △ 0.1 △ 3.6 △ 1.5 5.7 △ 4.1
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 18.0 1.6 2.0 2.1 3.4 △ 1.2 0.5 △ 2.8
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 11.7 △ 1.3 △ 1.8 0.7 3.2 △ 7.0 1.9 △ 1.1
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 12.0 △ 1.9 △ 3.7 1.0 2.6 △ 7.3 1.5 △ 3.9

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕シンガポール統計局(DOS)

貿易 
2022年の輸出入は第3四半期まで好調も、一転減少へ

2022年の貿易総額は、前年比17.7%増の 1 兆3,654億Sドルだった。前年に続き、新型コロナの影響からの回復基調が顕著だった。輸出は15.6%増の7,100億Sドル、輸入が20.1%増の6,554億Sドルだった。四半期ごとにみると、第1四半期(前年同期比18.8%増)、第2四半期(24.9%増)、第3四半期(23.4%増)までは好調に増加していたが、第4四半期には転じて1.0%減少した。

輸出を品目別(総額ベース)にみると、輸出総額の56.9%を占める機械機器は12.0%増となった。とりわけ、輸出総額の35.1%を占める電気機器(半導体等・集積回路を含む)が11.3%増加した。このうち、半導体等電子部品類は12.1%増加した。在宅勤務の浸透などに後押しされ、2022年第3四半期までコンピュータなどの需要の増加が継続し、エレクトロニクス部門の生産が拡大したことが要因にある。輸出総額の12.6%を占める石油・同製品は54.4%増加した。石油価格の上昇が影響し、大幅な増加につながった。

輸出を国・地域別にみると、構成比で12.4%を占める中国、11.2%を占める香港向けの輸出はそれぞれ3.0%減、1.3%減となった。中国向け輸出では、輸出総額の22.2%を占める化学品が7.5%減少した。香港向け輸出では、輸出総額の70.2%を占める半導体等電子部品類が3.1%減少した。
対日輸出は16.3%増加した。なかでも、日本国内での半導体需要の継続によって、輸出総額の21.1%を占める半導体等電子部品類が14.8%増加した。

輸入を品目別(総額ベース)にみると、輸入総額の24.1%を占める半導体等電子部品類は16.8%増加した。20.3%を占める石油・同製品は43.0%増加した。輸入を国・地域別にみると、輸入総額の13.2%を占める中国が18.4%増加した。石油価格の上昇を反映して、対中輸入総額の11.9%を占める石油・同製品が54.6%増加したほか、10.9%を占める化学品の輸入が74.0%増加したことが影響した。日本からの輸入は25.8%増加し、総額の19.6%を占める半導体等電子部品類が47.0%増加した。

なお、シンガポールは、自国で生産した物品の輸出(地場輸出)と、輸入品を保管・再梱包し第三国向けに輸出される物品(再輸出)を分けて輸出統計を発表している。2022年の地場輸出は前年比18.2%と大幅に増加したものの、2021年の19.0%には届かなかった。非石油部門の地場輸出額(NODX)は、3.0%増加した。エレクトロニクス製品(0.5%増)と非エレクトロニクス製品(3.8%増)の双方で増加したが、2021年の水準(それぞれ16.3%増、10.9%増)には届かなかった。エレクトロニクス製品については、2022年に集積回路など半導体等電子部品類の供給が一巡し需要が減少したことから、地場輸出が減少した。非エレクトロニクス製品では、非貨幣用金、医薬品、石油化学品で減少が大きかった。NODXを四半期ごとにみると、2022年第1四半期(前年同期比11.4%増)、第2四半期(7.1%増)、第3四半期(7.1%増)までは好調に増加したが、第4四半期には一転、14.0%減少した。

2023年に入ってからもNODXは振るわず、第1四半期は16.1%減少、第2四半期も13.4%減となった。エレクトロニクス製品については、2023年に入ると、第1四半期は7.8%減少、第2四半期には18.7%減少した。

MTI管轄下の産業・貿易振興機関「エンタープライズ・シンガポール(Enterprise SG、シンガポール企業庁)」は 2023 年8月、2023年通年の貿易総額と非石油部門の地場輸出について、2023年11月、2023年通年の貿易総額と地場輸出について、ともに「10.0~9.0%減少」とする8月時点の予測を、貿易総額については「10.0%程度減少」に絞り込んだほか、NODXについては「12.5~12.0%減少」に予測を引き下げた。

2022年のサービス輸出は前年比12.1%増の 4,015億Sドルとなった。2021年(21.2%増の3,581億Sドル)に続いて増加したが、伸び率は緩やかになった。特に輸送は13.0%増、 その他ビジネスサービス(研究開発、法務・財務・ビジネスマネジメントなど)は8.3%増だった。サービス輸出は2021年から2022年にかけて2.9倍となった。同国では、2022年3月にワクチン接種済みの全ての国・地域からの渡航者について、原則として入国時の隔離義務を撤廃した。その後も段階的に進めた入国規制の緩和による外国人観光客の増加が、旅行の増加に寄与した。また、物品貿易が好調であったことから、輸送サービスの輸出増加につながった。2023年のサービス輸出は第1四半期に前年同期比0.2%増だったが、第2四半期には2.5%の減少に転じた。物品貿易の落ち込みを受けて、輸送サービス輸出(24.5%減)の減少幅が大きかった。

表2 シンガポールの主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万Sドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械機器 360,633 403,920 56.9 12.0 301,588 346,298 52.8 14.8
階層レベル2の項目一般機械 92,858 103,676 14.6 11.7 80,431 90,252 13.8 12.2
階層レベル3の項目コンピューター・周辺機器類 27,306 25,535 3.6 △ 6.5 24,563 23,172 3.5 △ 5.7
階層レベル2の項目電気機器 224,165 249,478 35.1 11.3 185,082 213,326 32.5 15.3
階層レベル3の項目半導体等電子部品類 166,226 186,350 26.2 12.1 135,056 157,765 24.1 16.8
階層レベル2の項目輸送機器 10,741 15,675 2.2 45.9 13,350 17,473 2.7 30.9
階層レベル2の項目精密機器 32,869 35,090 4.9 6.8 22,726 25,248 3.9 11.1
化学品 85,232 87,273 12.3 2.4 50,576 57,293 8.7 13.3
階層レベル2の項目化学工業品 61,476 62,976 8.9 2.4 37,649 43,835 6.7 16.4
階層レベル3の項目医薬品・医療用品 13,776 13,567 1.9 △ 1.5 5,978 7,142 1.1 19.5
階層レベル2の項目プラスチック・ゴム 23,756 24,298 3.4 2.3 12,928 13,457 2.1 4.1
食料品 18,834 19,574 2.8 3.9 17,788 19,291 2.9 8.5
油脂その他の動植物生産品 601 796 0.1 32.3 3,387 4,473 0.7 32.1
その他原料、およびその製品 112,992 145,897 20.5 29.1 160,687 216,542 33.0 32.8
階層レベル2の項目鉱物性燃料等 61,662 90,508 12.7 46.8 101,220 145,083 22.1 43.3
階層レベル3の項目石油・同製品 58,124 89,756 12.6 54.4 93,050 133,069 20.3 43.0
階層レベル2の項目卑金属・同製品 13,581 14,329 2.0 5.5 16,054 18,656 2.8 16.2
階層レベル3の項目鉄鋼 5,756 6,628 0.9 15.2 8,801 10,502 1.6 19.3
合計(その他含む) 614,081 709,967 100.0 15.6 545,882 655,436 100.0 20.1

〔注1〕品目の分類については、「ジェトロ世界貿易投資報告 2023年版」資料付注1を参照。
〔注2〕HS2022改正に伴い、HS2017から分割、統合されたHSコードを含むため、2022年以降のデータについては、比較ができない商品がある。
例として、3Dプリンターは2017年版HSコードでは「半導体等電子部品類」に含まれていたが、2022年版では別の項目に移行している。
〔出所〕シンガポール貿易統計(エンタープライズ・シンガポール)から作成

表3 シンガポールの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万Sドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 454,496 510,964 72.0 12.4 350,510 421,245 64.3 20.2
階層レベル2の項目日本 24,639 28,664 4.0 16.3 29,271 36,831 5.6 25.8
階層レベル2の項目中国 90,939 88,192 12.4 △ 3.0 73,314 86,834 13.2 18.4
階層レベル2の項目香港 80,738 79,659 11.2 △ 1.3 4,361 4,149 0.6 △ 4.9
階層レベル2の項目台湾 31,287 34,808 4.9 11.3 68,626 79,336 12.1 15.6
階層レベル2の項目韓国 26,444 28,729 4.0 8.6 29,796 42,222 6.4 41.7
階層レベル2の項目ASEAN 163,008 203,079 28.6 24.6 124,658 147,239 22.5 18.1
階層レベル3の項目マレーシア 56,553 71,119 10.0 25.8 72,131 81,898 12.5 13.5
階層レベル3の項目インドネシア 38,661 51,328 7.2 32.8 20,423 25,032 3.8 22.6
階層レベル3の項目タイ 20,970 24,116 3.4 15.0 13,163 18,006 2.7 36.8
階層レベル3の項目ベトナム 21,035 23,732 3.3 12.8 5,885 7,574 1.2 28.7
階層レベル3の項目フィリピン 12,305 14,979 2.1 21.7 10,892 11,509 1.8 5.7
階層レベル2の項目インド 16,946 19,162 2.7 13.1 9,884 11,664 1.8 18.0
階層レベル2の項目オーストラリア 17,502 22,871 3.2 30.7 9,720 11,787 1.8 21.3
EU27 46,177 54,482 7.7 18.0 55,865 59,041 9.0 5.7
英国 4,651 4,700 0.7 1.0 9,211 10,912 1.7 18.5
中東 10,054 13,924 2.0 38.5 36,621 46,604 7.1 27.3
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 8,491 12,302 1.7 44.9 33,626 43,461 6.6 29.2
北米 54,578 66,228 9.3 21.3 59,689 77,195 11.8 29.3
階層レベル2の項目米国 51,384 61,779 8.7 20.2 54,349 70,967 10.8 30.6
アフリカ 7,745 13,457 1.9 73.7 7,579 6,465 1.0 △ 14.7
中南米 10,759 14,939 2.1 38.8 6,610 12,050 1.8 82.3
合計(その他含む) 614,081 709,967 100.0 15.6 545,882 655,436 100.0 20.1

〔注〕アジア大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕シンガポール貿易統計(エンタープライズ・シンガポール)から作成

通商政策 
分化型協定締結に向けた動きが加速

シンガポールは、多角的貿易体制への協力とともに、地域・二国間貿易協力の強化、つまり、自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)(以下、FTA)の締結にも積極的である。シンガポール企業庁などによると、シンガポールの発効済みFTA件数は、28件(2023年8月時点)に上る。2022年の貿易統計に基づき算出したFTAカバー率(貿易総額に占める FTA 発効国・地域との貿易額比率)は94.1%に達している。

シンガポールの発効済みFTAのうち、2022年以降に発効したFTAは、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定である。シンガポールはRCEP協定発効前に、同協定締約国とは二国間もしくは複数国間の枠組みでFTAを締結していた。それでも、RCEP協定の「バック・トゥ・バック(Back to Back)原産地証明書(CO)(連続する原産地証明書)」や原産地証明の自己申告制度を活用し、シンガポールをサプライチェーンに組み込む取り組みがみられる(2023年6月調査報告書参照)。前者の具体的事例は、中国で化学品を生産し、シンガポールの地域倉庫(地域ごとに設けられた配送拠点)を活用して、韓国、ASEAN 加盟国に輸出するケースである。RCEP協定発効前までは、中国で生産した製品をシンガポールから韓国およびASEAN 加盟国に輸出する場合、既存のFTAを活用すると、複数の協定を併用した上で一部の取引にしか特恵関税を適用することができなかった。しかし、RCEP協定ではこれらの国々を包括した「バック・トゥ・バック原産地証明書」を活用した特恵関税の適用が可能になった。次にRCEP協定の原産地手続きに注目した取り組みについては、例えば、シンガポールと日本との間で締結されていたFTA(日本・シンガポールEPA、日本・ASEAN包括的経済連携協定)では認められていなかった、認定を受けた輸出者自らが原産地申告を作成する「認定輸出者自己証明制度」、さらには、輸出者または生産者、輸入者が自ら原産地申告を作成する「自己申告制度」が、RCEP協定で採用された(注)。シンガポールから日本へ輸出する際に同制度を活用することで、業務の削減や効率化につなげている。

2022年以降の署名済みや交渉中のFTAに着目すると、シンガポールは2022年7月、メルコスール加盟4カ国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)とのFTA交渉が妥結したと発表した。同FTAが発効すると、シンガポールはメルコスール加盟各国との間で初めてFTAを締結することになる。

表4 シンガポールのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 シンガポールの貿易に占める構成比(2022年)
往復 輸出 輸入
発効済み 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 2022年1月 50.4 51.6 49.8
中国・ASEAN自由貿易協定 (ACFTA) 2005年7月 36.7 38.7 35.7
韓国・ASEAN自由貿易協定(AKFTA) 2007年6月 29.9 31.9 28.9
日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) 2008年12月 29.4 32.0 28.1
ASEANオーストラリア・ニュージーランド自由貿易地域(AANZFTA) 2010年1月 27.7 34.2 24.4
香港・ASEAN自由貿易協定(AHKFTA) 2019年6月 26.6 33.5 23.1
ASEAN・インド包括的経済協力枠組み協定(AIFTA) 2010年1月 26.5 30.9 24.2
ASEAN自由貿易地域(AFTA) 1993年1月 24.4 28.4 22.5
環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP) 2018年12月 22.6 22.6 22.7
中国シンガポール自由貿易協定(CSFTA) 2009年1月 12.3 10.3 13.2
米国シンガポール自由貿易協定(USSFTA) 2004年1月 10.6 10.0 10.8
シンガポール台湾経済パートナーシップ協定(ASTEP) 2014年4月 9.7 5.0 12.1
EUシンガポール自由貿易協定(EUSFTA) 2019年11月 8.9 8.7 9.0
韓国シンガポール自由貿易協定(KSFTA) 2006年3月 5.5 3.5 6.4
湾岸協力理事会(GCC)シンガポール自由貿易協定(GSFTA) 2013年9月 5.0 1.6 6.6
日本・シンガポール経済連携協定(JSEPA) 2002年11月 5.0 3.6 5.6
シンガポール・オーストラリア自由貿易協定(SAFTA) 2003年7月 2.8 4.7 1.8
欧州自由貿易連合(EFTA)シンガポール自由貿易協定(ESFTA) 2003年1月 2.1 1.4 2.5
インド・シンガポール包括的経済協力協定(CECA) 2005年8月 2.0 2.6 1.8
英国シンガポール自由貿易協定(UKSFTA) 2021年2月 1.3 0.6 1.7
環太平洋戦略的経済連携(TPSEP)協定 2006年5月 0.9 1.3 0.6
パナマ・シンガポール自由貿易協定(PSFTA) 2006年7月 0.8 2.5 0.0
ニュージーランド・シンガポール経済緊密化連携協定(ANZSCEP) 2001年1月 0.5 1.2 0.2
トルコ・シンガポール自由貿易協定(TRSFTA) 2017年10月 0.1 0.1 0.1
スリランカ・シンガポール自由貿易協定(SLSFTA) 2018年5月 0.1 0.3 0.0
シンガポール・コスタリカ自由貿易協定(SCRFTA) 2013年7月 0.1 0.1 0.0
ペルー・シンガポール自由貿易協定(PeSFTA) 2009年8月 0.0 0.0 0.0
シンガポール・ヨルダン自由貿易協定(SJFTA) 2005年8月 0.0 0.0 0.0
合計(重複除く) 94.1 90.2 96.1
署名済み 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定 33.2 32.6 33.5
太平洋同盟シンガポール自由貿易協定(PASFTA) 0.5 0.4 0.6
ユーラシア経済同盟(EAEU)シンガポール自由貿易協定(EAEUSFTA) 0.4 0.0 0.5
交渉中 ASEANカナダ自由貿易協定(ACAFTA) 24.8 28.5 22.9
メルコスール・シンガポール自由貿易協定(MCSFTA) 1.2 0.3 1.6

〔注〕(1)構成比について、輸出は再輸出を除く金額、輸入は総額を使用。発効済みFTAの各値は、本表作成時点(2023年8月)で発効している国・地域が対象(RCEP協定については、ミャンマーも含む)。
(2)AIFTAの発効日は物品貿易協定の発効日。
(3)AFTAの発効日はAFTA形成のための共通効果特恵関税協定(CEPT-AFTA)の発効日。CEPT-AFTAに代わり、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)が2010年5月に発効した(関税自由化は2010年1月にさかのぼって実施)。
(4)MCSFTAの値は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの合計。
〔出所〕Enterprise Singapore、外務省、WTO、ASEAN事務局、「Global Trade Atlas」(S&P Global)から作成

シンガポール貿易産業省は、2023年度(2023年4月~2024年3月)優先課題の1つとして、太平洋同盟シンガポールFTA、メルコスール・シンガポールFTAとともに、インド太平洋経済枠組み(IPEF)を通じた新たなパートナーシップの構築を表明している。シンガポール政府はIPEFに関して、「将来を見据えた野心的かつ革新的なイニシアチブであり、従来の貿易ルールの範囲を超えて、IPEFのパートナーとともに新たな経済問題に取り組むことを可能にする」などとし、IPEFへの参加にメリットを見出している。

また、既存のFTAではデジタル経済やグリーン経済のニーズに十分に対応できていないという問題意識の下、これらの2つの分野に特化した協定の締結に向けた取り組みも推進している。

デジタル分野に特化した協定は、例えば、電子請求書(e-invoicing)、電子決済、人工知能(AI)のガバナンスと倫理、電子化された属性情報の集合(Digital identities)といった、とりわけ新たなデジタル関連の問題において、国際的なルールの確立、ベンチマークの設定、さらには基準を合わせることを目的としている。シンガポールはこれまで、(1)オーストラリアとの間でデジタル経済協定(SADEA、2020年12月発効)、(2)チリとニュージーランドの3国間でデジタル経済パートナーシップ協定〔DEPA、2021年1月発効(チリについては同年11月発効)〕、(3)英国との間でデジタル経済協定(UKSDEA、2022年6月発効)、(4)韓国との間のデジタルパートナーシップ協定(KSDPA、2023年1月発効)と計4つのデジタル特化型の協定を発効している。このうち、DEPAについては、これまでに韓国、中国、カナダ、コスタリカ、ペルーが加入申請を行った。なかでも韓国は、2023年6月に加入交渉の実質妥結が発表された。中国とカナダは2022年8月に、コスタリカは2023年10月に加入作業部会の設置が発表された。

この他には、EUとの間でデジタル貿易協定の交渉開始が2023年7月に発表された。同年2月に署名されたEUシンガポール・デジタルパートナーシップ(EUSDP)とデジタル貿易原則に基づき、「(EUとシンガポール)両者の社会のデジタル変革に貢献し、両者の企業と(加盟国)国民がデジタル経済の急速な発展に歩調を合わせることを可能にし、既存の特恵貿易枠組みを深化させ補完する野心的で現代的なデジタル貿易協定を交渉する」(デジタル貿易協定交渉開始に関する共同声明)としている。また、ASEANの枠組みにおいて、ASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)の交渉開始が2023年9月に合意された。

グリーンに特化した分野では2022年10月、オーストラリアとのグリーン経済協定(GEA)に署名した。両政府の発表によると、同協定(SAGEA)は、貿易、経済、環境を組み合わせた世界で初めての協定となる。シンガポールは、(1)環境財・サービスの貿易・投資の促進、(2)環境ガバナンスの強化、(3)気候変動への対応能力の強化を目的とした、GEAの締結を模索してきている。

対内直接投資 
2022年の固定資産投資、半導体関連の大型投資で過去最高

シンガポール経済開発庁(EDB)が管轄する内資、外資による2022年の固定資産投資(FAI、コミットメントベース)は224億8,990万Sドルと、前年の117億9,580万Sドルから90.7%増と大きく上回った。2022年はエレクトロニクス関連の大型投資により、FAIは過去最高だった。

部門別でみると、エレクトロニクス分野の投資は149億9,400万Sドルと、FAIの66.7%を占めた。同国では近年、半導体関連施設の新設や拡張工事が相次いでいる。2022年には、台湾の半導体受託製造会社聯華電子(UMC)が2月に、既存の300ミリウエハー工場に隣接して、新たな工場建設を発表した(投資額50億ドル)。第1期工事(ウエハー月産能力3万枚)については、2024年後半に稼働する予定だ。また、オランダの半導体製造装置会社ASMインターナショナル(ASMI)は2022年 3月、同年に稼働した工場の2階部分を拡張する工事の着工式を行った。拡張後、ASMIの同国での製造能力はこれまでの4倍となる予定だ。さらに、半導体の製造工程で必要となる化学物質などのろ過・分離・精製技術を提供する米ポール・コーポレーションは8月、新工場の着工式を行った(投資額1億ドル)。同工場は2023年後半~2024年前半に完成を予定している。

表5 シンガポールの業種別対内直接投資[コミットメントベース](単位:100万Sドル、%)(△はマイナス値)
業種 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
製造業 8,486 17,372 77.2 104.7
階層レベル2の項目エレクトロニクス 4,986 14,994 66.7 200.7
階層レベル2の項目化学 980 862 3.8 △ 12.0
階層レベル2の項目バイオメディカル 1,769 844 3.8 △ 52.3
階層レベル2の項目精密エンジニアリング 69 68 0.3 △ 1.4
階層レベル2の項目輸送エンジニアリング 367 167 0.7 △ 54.5
階層レベル2の項目その他製造業 315 437 1.9 38.7
サービス産業 3,310 5,118 22.8 54.6
合計 11,796 22,490 100.0 90.7

〔出所〕 経済開発庁(EDB)から作成

2022年のFAIを国・地域別にみると、米国が50.6%と最大の割合を占め、次いで欧州が21.2%を占めた。米国の主な投資案件としては、エクイニクスが4月にシンガポールで5カ所目のデータセンターを拡張すると発表した(投資額8,600万ドル)。また、グーグルが8月に同国で3カ所目のデータセンターを正式開設している。この他、イート・ジャストの培養肉部門グッド・ミートが6月に、アジアでは最大となる細胞培養肉の工場を着工し、2023年中にも稼働予定である。

2022年には中国からのFAIが全体の8.5%を占め、2021年の1.1%を大きく上回った。主な投資案件としては、医薬品受託研究開発製造会社ウーシー・バイオロジクス(WuXi Biologics)が2022年7月、シンガポールに新設する製造・研究施設に10年間で14億ドルを投資する計画を発表した。医薬品の治験開発製造受託会社ウーシー・アップテック(WuXi AppTec)も同日、シンガポールの新たな研究・製造施設に約20億Sドルを投資すると明らかにしている。

表6 シンガポールの国・地域別対内固定資産投資[コミットメントベース](単位:100万Sドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
国内資本 736 1,975 8.8 168.3
外国資本(小計) 11,060 20,515 91.2 85.5
階層レベル2の項目米国 7,910 11,374 50.6 43.8
階層レベル2の項目欧州 1,546 4,761 21.2 208.0
階層レベル2の項目日本 200 58 0.3 △ 71.0
階層レベル2の項目アジア大洋州・その他 1,404 4,322 19.2 207.8
合計(その他含む) 11,796 22,490 100.0 90.7

〔出所〕経済開発庁(EDB)から作成

2022年の統括本部・専門サービスのFAIは13億7,200万Sドル、研究・開発(R&D)関連へのFAIが14億1,000万Sドルだった。統括本部・専門サービスと、オープンイノベーション・センターを含むR&D施設への投資は近年、政府の積極的な誘致もあり増加傾向にある。統括本部・専門サービスとR&D施設を合わせたFAIは2012年の8億Sドルから、2022年に過去最高の27億8,200万Sドルへと大きく増加した。2022年のR&Dやオープンイノベーション拠点の主な投資例としては、ドイツの法人向けソフトウエア会社SAPが3月、人工知能(AI)など先端デジタル技術のイノベーション・ハブを開設した。また、米国の航空エンジン製造会社プラット・アンド・ホイットニー(P&W)は9月、保守・修理・整備(MRO)関連技術の開発拠点の開設を発表した。統括拠点の開設では、英国の電気機器メーカーであるダイソンが3月、グローバル本社を正式開設した。同社は向こう4年間で15億Sドルを投資する計画である。この他、オランダのリサイクル会社アーチウェイは7月に、国際地域統括本部を開設した。

投資環境・外資誘致政策 
グローバルミニマム課税導入に伴い、政策を見直しへ

EDBは2020年から毎年のFAIの目標の発表を停止し、その代わりに中・長期的なFAIの目標額を「80~100億Sドル」と設定した。EDBは2023年2月、同目標額を維持する方針を示した。ただし、2023年のFAIの見通しについては、世界的な経済見通しの不透明感と半導体需要の後退により、過去最高を記録した2022年の水準を維持できないとの見通しを明らかにした。2023年上半期のFAIは35億3,310万Sドルと、前年同期比58.5%減となっており、2023年通年のFAIは前年を下回る可能性が高まっている

他方、政府は長期的には優遇税制制度を含む投資誘致政策全体を見直す方針を示している。財務省は2023年2月、2023年度政府予算の中で、「税源浸食と利益移転(BEPS)2.0」イニシアチブの第2の柱のグローバルミニマム課税(最低税率課税)を2025年から導入する方針を発表した。EDBは課税対象となる多国籍企業に対して、最低15%の最低税率と実効税率との差額分に対して、追加納税の「国内トップアップ税」を課す予定だ。

同国の法人税の最高税率は現行(2023年10月時点)、17%である。ローレンス・ウォン副首相兼財務相が2021年7月の国会答弁で明らかにしたところによると、同国に拠点を置く多国籍企業のうち、グローバルミニマム課税の対象となる多国籍企業が約1,800社で、この多くの実効税率が15%を下回る。ウォン副首相兼財務相は2023年度予算発表の中で、投資誘致で競争力を維持するためにも、産業政策全体を見直す考えを示した。このため、政府が今後、これまでの優遇税制を中心とした投資誘致のあり方の根本的な見直しに踏み切る可能性も高まっている。

対日関係 
日本・シンガポール間の貿易は2桁増、設備投資は縮小傾向

シンガポール企業庁(エンタープライズ・シンガポール)によると、2022年の日本からの輸入額は368億3,100万Sドルと、前年比25.8%増加した。また、日本への輸出額(再輸出除く地場輸出)も前年比15.8%増の87億2,049万ドルだった。ほぼ全ての品目で前年比プラスとなった。

特に、世界的に半導体関連需要が好調だったことから、日本からの集積回路の輸入が47.9%増だったほか、半導体デバイスも24.1%増だった。シンガポールから日本への地場輸出(再輸出除く)については集積回路が38%増加し、光学機器の輸出も54%増加した。

しかし、2023年に入ると、世界的な半導体需要が一転、落ち込んだ影響で、輸出入ともに下降局面にある。シンガポールの日本からの輸入額は2023年第1四半期に前年同期比で7.8%減少し、第2四半期には28.3%減とマイナス幅が拡大した。また、シンガポールから日本への地場輸出は2023年第1四半期に前年同期比1.1%増だったが、第2四半期に27.2%減と2桁減少した。

日本の対シンガポール固定資産投資(FAI、コミットメントベース)は近年、縮小傾向にある。シンガポール経済開発庁(EDB)が管轄する内資・外資による2022年のFAIに占める日本の割合は、2021年の1.7%から2022年は0.3%へ、一段と縮小した。ただ、2022年には日系企業の地域統括本部の開設や現地法人の設立もみられた。具体的には、日揮ホールディングスが2022年1月にアジア太平洋統括拠点を設立した。

さらに、2022年の日系の現地法人の主な設立事例としては、日本M&Aセンターが1月に現地法人を設立した。また、東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAは4月、液化天然ガス(LNG)の戦略拠点を開設した。この他、10月には手術支援ロボットのメディカロイド、ゲームのセガがそれぞれ現地法人を設立した。

アジアで最大の対日投資国としての地位を維持

日本財務省と日本銀行の国際収支統計によると、シンガポールの対日直接投資は2022年に72億3,400万ドル(国際収支ベース、ネット、フロー)と、前年比で7.1%減少したものの、引き続きアジアで最大の対日投資国だった。

2022年も前年と同様、新型コロナ流行収束に伴う観光回復をにらんだ大型の不動産関連投資があった。政府系投資ファンド(SWC)のGIC(旧称シンガポール政府投資公社)は2022年2月、プリンスホテルが保有するホテルやリゾート施設全76施設のうち、31施設を買収することで親会社の西武ホールディングスと基本合意した(買収見込み額約1,500億円、最終的に26施設を買収)。また、観光物件だけでなく、物流施設関連の大型投資もあった。政府系不動産会社キャピタランドの投資部門キャピタランド・インベストメント(CLI)は2022年10月、三井物産都市開発と共同で、「相模原南橋本ロジスティクスセンター」を竣工した。キャピタランドが日本で物流施設を開発するのは初めてで、電子商取引(EC)の需要増に対応したものだ。CLIはさらに、2カ所目の物流施設を大阪、3カ所目を東京に建設している。2023年に入ってからはGICが4月に、米国の投資会社ブラックストーンから日本の物流施設6カ所を8億ドルで買収すると発表した。GICは2023年8月、今後も引き続き長期的な投資先として日本の物流施設に投資する意向を明らかにしている。

また、2022年にはスタートアップを含むテック系のシンガポール企業の進出があった。携帯電話のアプリを通じてメンタルヘルスケアを提供するインテレクト・カンパニー(創業2019年)は8月、日本に現地法人を設立すると発表した。同社が海外に法人を設立するのは初めてである。また、フィンテック企業のエムダック(M-DAQ、創業:2020年)は9月に福岡での法人設立を発表した。この他、同年には南洋工科大学発のナノテクノロジー会社で、シンガポール取引所(SGX)上場のナノフィルム・テクノロジーズ・インターナショナルが機能性コーティングのサービス拠点を大阪に設置している。

人件費など経営コスト増が課題、円安で負担増に拍車

一方、日系企業を含めシンガポールでビジネスを展開する企業にとっては、人件費や経営コストの負担増が大きな課題となっている。新型コロナの感染対策が撤廃され、経済活動の再開とともに人材の需要も増え、ほぼ全ての業界で人材採用が困難となっている。シンガポール経済連盟(SBF)が実施した2022~2023年度の全国ビジネス調査(2023年1月発表)によると、同国の企業で人材関連の課題に直面する割合は96%に上った。人材関連の課題の中でも、「人件費の上昇」を挙げた企業が75%と最大だった。ジェトロの2022年度アジア・オセアニア進出日系実態調査(アジア・オセアニア調査)でも、在シンガポール日系企業がビジネス環境上のリスクとして「人件費の水準」を挙げた企業が81.1%と最大だった。次いで、ビジネス環境上のリスクとして大きな割合を占めたのが、「地価・賃料の水準」(71.8%)だった。特に、日本円は2022年1月末には1Sドルに対して85.06円だったのが、同年12月末には98.35円と円安が進行した。さらに、2023年9月末には108.34円と、円安が一段と進んでおり、日系企業の経営コスト増に拍車をかけている。

また、ジェトロのアジア・オセアニア調査によると、「ビザ・就労許可の手続き」(70.9%)がビジネス環境上のリスクとして3番目だった。シンガポール人材省は2010年以降、外国人労働者への過度な依存を抑制するために、外国人の就労査証の発給基準を段階的に引き上げている。人材省は日本人駐在員の多くが対象となる幹部・専門職向け就労査証「エンプロイメント・パス(EP)」の発給基準となる基本月給の下限について、2022年9月の新規申請から5,000Sドルと、それまでの4,500Sドルから引き上げた。さらに、同省は2023年9月からEPの新たな審査ポイント・システム「補完的評価フレームワーク(COMPASS)」を導入した。同システムは、EP申請者の給与と学歴だけでなく、幹部・専門職を25人以上採用する企業について、その人材の国籍の多様性や地元雇用創出への貢献度も審査する。多くの人材を抱える大手企業は、人件費の上昇とともに、地元人材の登用を含めた人事体制の見直しにも迫られている。

(注)詳細は「RCEP協定解説書PDF file(12MB)」を参照。

基礎的経済指標

人口
592万人(2023年6月)
面積
734平方キロメートル(2023年)
1人当たりGDP
8万2,808米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 3.9 8.9 3.6
消費者物価上昇率 (%) △ 0.2 2.3 6.1
失業率 (%) 3.0 2.7 2.1
貿易収支 (100万米ドル) 106,457 125,699 136,404
経常収支 (100万米ドル) 57,338 76,345 90,152
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 362,305 417,904 289,484
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 1,690,156 1,833,331 1,798,114
為替レート (1米ドルにつき、シンガポール・ドル、期中平均) 1.38 1.34 1.38

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
人口、面積、実質GDP成長率:統計局
1人当たりGDP:IMF World Economic Outlook database : April 2023
消費者物価上昇率:貿易産業省
失業率:人材省
貿易収支、経常収支、外貨準備高(グロス)、対外債務残高(グロス)、為替レート:シンガポール通貨金融庁(MAS)