タイの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のGDP成長率は2.6%と前年から伸びが拡大。
  • 貿易は原油価格、天然ガス価格の上昇を受け、鉱物性燃料の輸入が大幅増。
  • 対内直接投資は4,340億バーツ(申請ベース)。前年比36.3%増となり、国別では 中国が首位に。
  • 認可ベースは、日本からの直接投資が500億バーツとなり、国別で首位を継続。

公開日:2023年10月26日

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マクロ経済 
2022年のGDP成長率はプラス幅を拡大

2022年のタイの実質GDP成長率は2.6%と前年の1.5%からプラス幅が拡大した。財・サービスの輸出入の伸びが鈍化したものの、個人消費が大きく拡大した。

需要項目別にみると、個人消費(民間最終消費支出)は6.3%増と、前年の0.6%増から加速した。背景には、新型コロナウイルスの感染拡大収束後の経済活動再開がある。2022年の新型コロナの新規感染者数は4月にピークに達した後、大きく減少した中、政府は景気刺激策を継続的に実施した。また、7月に「タイランド・パス(新型コロナ禍の入国申請システム)」を廃止し、10月から入国時のワクチン接種証明の提出も不要とするなど、入国規制が段階的に緩和され経済が正常化に向かった。これに伴い労働市場も回復したことで、国内消費は第3四半期に9.1%増と顕著に増加し、第4四半期も5.6%増と高い伸びが続いた。他方、新型コロナの影響を受けて、一時GDP比で90%を超えた家計債務(2021年第1四半期、第4四半期)は、2022年第4四半期も86.9%と高い水準で推移しており、今後のタイ経済における懸念材料となっている。

国内総固定資本形成は2.3%増と、前年の3.1%増から減速した。民間投資は5.1%増と前年(3.0%増)を上回る伸びとなったが、政府投資(公共投資)は機械・設備の購入が控えられたことを受けて4.9%減とマイナスに転じた(前年3.4%増)。

財・サービスの輸出は6.8%増と引き続き拡大したが、前年から伸び率は低下した。うち、財の輸出が1.3%増となった。長引くロシアのウクライナ侵攻による燃油の高騰に起因したインフレにより、主要貿易相手国の需要が低下したためである。2021年に大きく回復した主要輸出品目である自動車・同部品、コンピュータ・同部品、ゴム製品などが前年比でマイナスとなった。一方、サービス輸出は65.8%増と、2年連続のマイナスからプラスに転じた。上記の段階的な入国規制の緩和、新型コロナ禍の経済活動や人々の移動を制限していた「非常事態宣言」の解除(9月)などにより、外国人旅行者が大幅に増加し、サービス輸出が改善した。

回復を続ける2023年のタイ経済

2023年もタイ経済は回復が続いている。第1四半期の実質GDP成長率は、前年同期比2.6%となり、前期(1.4%)からプラス幅が拡大した。需要項目別にみると、個人消費は5.8%増と堅調に伸びた。外国人旅行客の回復により宿泊施設、飲食店などでのサービス支出が増加したことで、国内経済が活性化したためである。また、財・サービスの輸出は2.1%増と前期(0.7%減)からプラスに転じた。財の輸出は、特にコンピュータ・同部品の輸出減少により6.4%減となったが、サービス輸出は外国人旅行者の増加などにより78.2%増と財・サービス輸出全体を押し上げた。

一方、第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比1.8%に鈍化した。個人消費が7.8%増と前期から加速し、成長をけん引したものの、民間投資(1.0%増)やサービス輸出(54.6%増)は減速し、財の輸出(5.7%減)や政府消費(4.3%減)は縮小した。

タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)は、2023年通年のGDP成長率見通しを2.5~3.0%(8月時点)とし、5月の見通し(2.7~3.7%)から下方修正した。世界的な貿易量の減速や設備稼働率の低下に伴い、民間投資は前年比1.5%増に減速し、財輸出も1.8%減に縮小する見通しとなっている。また、政府消費は、予算執行率見通しの引き下げに伴い、3.1%減に縮小する見込みである。他方、サービス輸出は外国人観光客の回復継続により高い伸びが続くと見込まれる。また、個人消費も観光関連部門の労働市場および所得改善により堅調に拡大し、通年で5.0%増を見込む。

また、タイでは2022年から2023年にかけて、インフレ、政策金利に大きな変化がみられた。インフレについては、ロシアのウクライナ侵攻に起因するエネルギー価格の急騰を受けて消費者物価指数(CPI)が上昇、2022年8月のCPIの前年比は7.86%にまで達し、通年での上昇率は6.1%となった。2021年までの過去5年間の平均が約0.6%であることを鑑みると驚異的な伸びである。他方で、コロナ禍に実施していた超緩和的な金融政策の必要性が低下したことから、タイ中央銀行は2022年8月、政策金利を0.25ポイント引き上げ0.75%とした。これを皮切りに7会合連続で引き上げ、2023年8月には2.25%に達した。そのような中でも個人消費が堅調であった背景には、政府により景気刺激策や入国規制が緩和され、経済が正常化に向かったことが寄与したと考えられる。

表1 タイの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
実質GDP成長率 1.5 2.6 2.2 2.5 4.6 1.4 2.6 1.8
階層レベル2の項目民間最終消費支出 0.6 6.3 3.5 7.1 9.1 5.6 5.8 7.8
階層レベル2の項目政府最終消費支出 3.7 0.2 8.2 2.7 △ 1.5 △ 7.1 △ 6.3 △ 4.3
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 3.1 2.3 1.0 △ 0.9 5.5 3.9 3.1 0.4
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 11.1 6.8 11.9 7.8 8.7 △ 0.7 2.1 0.7
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 17.8 4.1 4.4 7.3 9.5 △ 4.8 △ 0.9 △ 2.4

〔出所〕タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)

貿易 
2022年は米国向け輸出が好調

タイ商務省によれば、2022年の輸出額(通関ベース)は前年比5.5%増の2,871億ドル、輸入額は13.6%増の3,032億ドルといずれも増加した。貿易収支は161億ドルの赤字となった。

国・地域別でみると、最大の輸出相手国である米国が475億ドル(前年比13.4%増)と、全体の16.6%を占めた。2位の中国は344億ドル(7.7%減、構成比12.0%)、3位の日本は247億ドル(1.3%減、8.6%)だった。米国向けでは、コンピュータ・同部品が16.5%増の85億ドル、半導体装置・トランジスタ・ダイオードが37.7%増の15億ドル、空調機器・同部品が27.3%増の14億ドルなど多くの主要品目で2桁増を記録した。プリンターや電話機・同部品に至っては3.3倍の30億ドルと激増した。一方で、ゴム製品は13.6%減、自動車・同部品は8.3%減となった。

品目別では、宝石・宝飾品(50.3%増)、精製燃料(14.2%増)、電子集積回路等(9.4%増)などで伸び率が高かった。特に宝石・宝飾品は前年に44.8%減となった反動もあり、大きく伸張した。主要な輸出先であるスイス(3.4倍)、香港(22.0%増)、米国(21.7%増)で大きく伸びたことが寄与した。他方、世界的なインフレや政策金利の引上げが輸出需要を下押ししたことなどが影響し、自動車・同部品、コンピュータ・同部品、ゴム製品などは減少した。

一方、輸入額を国・地域別でみると、最大の輸入相手国である中国は710億ドル(6.7%増)で全体の23.4%を占めた。2位の日本は346億ドル(3.0%減、構成比11.4%)、3位の米国は180億ドル(25.7%増、5.9%)だった。

品目別でみると、国際価格の上昇に伴い原油が59.1%増の374億ドルと、2年連続で最大の輸入品目となった。また、鉄・鉄鋼製品が5.2%減、コンピュータ・同部品が11.0%減など減少している。

2023年上半期については、輸出額が1,412億ドル(前年同期比5.4%減)、輸入額が1,475億ドル(3.5%減)といずれも前年を下回った。主要輸出品目のうち、コンピュータ・同部品(15.2%減)、宝石・宝飾品(14.1%減)、ゴム製品(6.5%減)、化学製品(18.0%減)、などが減少した。一方、自動車・同部品(5.4%増)、空調機器・同部品(7.4%増)、機械・同部品(89.5%増)などが増加した。また、主要品目以外では、果物(生鮮・冷蔵・冷凍・乾燥)が中国向けドリアン(生鮮)の輸出好調を受け、18.9%増の42億ドルとなった。ラオスのビエンチャンと中国雲南省昆明を結ぶ中国ラオス鉄道の利用、中国でのタイ産果物の人気上昇などが背景にある。

また、輸入についても、原油(5.5%減)、電子集積回路(5.0%減)、化学品(5.7%減)、鉄・鉄鋼製品(18.2%減)など多くの品目で減少した。他方、天然ガス(9.4%増)、植物・同製品(22.9%増)、自動車部品(3.9%増)が増加した。上位品目以外では、乗用車・トラックが4.8倍の14億ドルに急増した。そのうち、中国からの輸入が12.5倍の12億ドルと増加が顕著だった。同品目の輸入全体に占める中国のシェアも8割を超え、2022年の3割から大幅に拡大した。これは、2022年以降、タイ政府の電気自動車(EV)振興のための補助金政策により、中国系のEVの販売台数が拡大しているが、タイ国内での生産は限定的で、そのほとんどが中国から輸入されていることが影響していると考えられる。

商務省は、下半期の輸出動向について、今後数カ月にわたって徐々に回復すると見込んでいる。中国経済の回復が予想よりも遅く、欧州経済も生活費の高止まりや脆弱な労働市場により停滞するなどマイナス要素はあるものの、有望市場である中央アジア、ラテンアメリカ、アフリカなどの市場開拓が加速することで、リスクの分散や主要貿易市場の低迷による影響を緩和し、継続するバーツ安がタイの輸出を後押しするとともに、世界的な食糧不足に対する懸念が農産物輸出額の上昇をもたらす可能性があるとした。

表2-1 タイの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
自動車・同部品 29,250 28,214 9.8 △ 3.5
コンピュータ・同部品 22,036 20,664 7.2 △ 6.2
宝石・宝飾品 10,052 15,106 5.3 50.3
ゴム製品 14,472 13,862 4.8 △ 4.2
エチレンポリマー等 11,250 10,683 3.7 △ 5.0
精製燃料 8,849 10,105 3.5 14.2
化学製品 9,875 9,572 3.3 △ 3.1
電子集積回路等 8,517 9,320 3.2 9.4
機械・同部品 8,157 8,744 3.0 7.2
空調機器・同部品 6,486 7,044 2.5 8.6
合計(その他含む) 272,006 287,068 100.0 5.5

〔出所〕タイ商務省

表2-2 タイの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
原油 23,507 37,396 12.3 59.1
化学品 20,646 21,023 6.9 1.8
機械・同部品 20,935 20,779 6.9 △ 0.7
電子機械・同部品 19,266 20,241 6.7 5.1
電子集積回路 15,150 19,041 6.3 25.7
鉄・鉄鋼製品 16,437 15,581 5.1 △ 5.2
宝石・宝飾品 11,986 15,561 5.1 29.8
金属くず・スクラップ 12,956 13,515 4.5 4.3
天然ガス 5,895 12,718 4.2 115.7
コンピュータ・同部品 10,146 9,034 3.0 △ 11.0
合計(その他含む) 266,882 303,191 100.0 13.6

〔出所〕タイ商務省

表3 タイの主要国・地域別輸出入(再輸出を含む総額ベース)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 171,027 175,655 61.2 2.7 184,729 198,709 65.5 7.6
階層レベル2の項目日本 24,995 24,669 8.6 △ 1.3 35,654 34,584 11.4 △ 3.0
階層レベル2の項目中国 37,266 34,390 12.0 △ 7.7 66,553 71,014 23.4 6.7
階層レベル2の項目香港 11,591 10,083 3.5 △ 13.0 2,859 2,735 0.9 △ 4.3
階層レベル2の項目台湾 4,673 4,708 1.6 0.8 10,513 11,848 3.9 12.7
階層レベル2の項目韓国 5,894 6,388 2.2 8.4 9,922 10,137 3.3 2.2
階層レベル2の項目ASEAN 65,150 71,890 25.0 10.3 45,719 53,000 17.5 15.9
階層レベル3の項目マレーシア 12,076 12,687 4.4 5.1 12,012 14,509 4.8 20.8
階層レベル3の項目ベトナム 12,540 13,235 4.6 5.5 6,953 7,959 2.6 14.5
階層レベル3の項目シンガポール 9,059 10,272 3.6 13.4 7,340 8,262 2.7 12.6
階層レベル3の項目インドネシア 8,918 10,326 3.6 15.8 8,113 9,709 3.2 19.7
階層レベル3の項目フィリピン 7,075 7,383 2.6 4.4 3,794 3,834 1.3 1.0
階層レベル3の項目カンボジア 7,077 8,675 3.0 22.6 895 1,125 0.4 25.7
階層レベル3の項目ラオス 4,001 4,540 1.6 13.5 3,260 3,339 1.1 2.4
階層レベル3の項目ミャンマー 4,320 4,697 1.6 8.7 2,823 3,531 1.2 25.1
階層レベル2の項目インド 8,589 10,525 3.7 22.5 6,406 7,178 2.4 12.1
階層レベル2の項目オーストラリア 10,960 11,154 3.9 1.8 6,275 7,235 2.4 15.3
階層レベル2の項目ニュージーランド 1,910 1,847 0.6 △ 3.3 827 979 0.3 18.3
アラブ首長国連邦 2,799 3,420 1.2 22.2 9,176 17,404 5.7 89.7
サウジアラビア 1,652 2,048 0.7 24.0 5,701 7,172 2.4 25.8
米国 41,912 47,527 16.6 13.4 14,341 18,026 5.9 25.7
EU27 21,674 22,794 7.9 5.2 18,220 18,244 6.0 0.1
階層レベル2の項目ドイツ 4,943 4,769 1.7 △ 3.5 6,223 6,078 2.0 △ 2.3
階層レベル2の項目オランダ 5,333 5,717 2.0 7.2 1,023 1,058 0.3 3.4
合計(その他含む) 272,006 287,068 100.0 5.5 266,882 303,191 100.0 13.6

〔注〕アジア大洋州はASEAN+6(ASEAN、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値
〔出所〕タイ商務省

対内直接投資 
対内直接投資は申請ベースで36.3%増に

タイ投資委員会(BOI)によると(2023年1月26日時点)、2022年の外国企業による対内直接投資(FDI)申請額は、前年比36.3%増の4,340億バーツとなった(2023年2月7日付ビジネス短信参照)。国・地域別では中国が2.1倍の774億バーツで首位となった。次いで、日本が36.6%減の508億バーツ、米国が72.5%増の503億バーツ、台湾が2.1倍の452億バーツ、シンガポールが49.5%増の443億バーツと続いた。タイ国内の地域別では、チョンブリ県、チャチェンサオ県、ラヨーン県を含むタイの主要な工業地域である東部経済回廊(EEC)へのFDI投資額が74.2%増の2,553億バーツと最も多く、全体の58.8%が同地域に集中した。

2022年は特に中国の投資申請額が大きく伸長し、日本から首位を奪う結果となった。中国からの投資拡大の背景にあるのは、2024年から本格的に始まるEV生産だ。タイでは2024年末までの国内生産開始を条件としたEV補助金政策を実施している関係で、主要な中国メーカーが同年から一斉にEVの生産を開始する。中国メーカーのタイでの生産能力(計画)は、比亜迪汽車(BYD)が年間15万台、長安汽車が10万台、長城汽車(GWM)が8万台で、これに加えて上海汽車(SAIC)、哪吒汽車(NETA)も生産を行うと発表している。また、台湾のフォックスコンが5万台を生産する計画だという。これらの生産能力を単純に合計すると40万台を超える。タイの年間自動車生産台数を200万台とすれば、約20%をEVが占める計算になる。

一方、認可額は、前年比14.2%増の3,205億バーツとなった。国・地域別では、日本が32.0%減の500億バーツと大きく減少するも、前年に続き首位となった。2位は台湾で455億バーツとなり、前年比2.5倍に大きく伸長した。2022年6月にタイ石油公社(PTT)と鴻海精密工業とのEV生産を手掛ける合併事業(361億バーツ)が承認されたことが大きく寄与した。3位は中国で12.3%減の417億バーツとなった。また、認可額の上位3分野は機械・金属加工、電気・電子機器、サービス・インフラとなった。

タイは、産業高度化に向けた国家の指針「タイランド4.0」や、国家戦略である「バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデル」の下、EV、デジタル、スマート電子機器、BCG経済、クリエーティブ産業などの重要分野にて、他産業よりも手厚い投資優遇措置(法人税の減免など)を提供している。また、BOIは2022年10月、新たな「5カ年投資促進戦略(2023~2027年)」を公表した。同戦略では、イノベーティブ、コンペティティブ、インクルーシブというコンセプトの下、国家の長期的な競争力向上につながる「新しい経済」を構築する方針を掲げている。結果、多くの世界の大企業が新規投資拠点としてタイを選んでおり、2020~2022年の3年間で、BCG経済モデルの重要5分野に対する投資申請は2,637件、6,000億バーツを超えた。分野別でみると、EV(部品および充電ステーションを含む)では46件、総額781億バーツの申請があり、主要企業は独メルセデス・ベンツ、GWM、SAIC、BYDなどによる現地生産事業だった。デジタル産業には420件、総額645億バーツの申請があり、主要企業は米アマゾン ウェブ サービス(クラウドサービス提供)、中国のアリババクラウド(データセンター設立)やファーウェイ(アプリ開発)などがある。BCG経済分野では1,911件、総額1,140億バーツと、重点5分野の中で最も多くの投資申請があった。事業者には米ネイチャーワークス(バイオプラスチック製造)、食品加工ではスイスのネスレや味の素などである。クリエーティブ産業は218件、総額531億400万バーツの申請があり、主要企業は地場のザ・スタジオパーク(映画撮影)である。

また、タイでは、アジア地域などにある関連会社に対して、マネジメントサービスの提供を行う地域統括会社を設立する動きもみられる。近年は、英アゴダ、ファーウェイ、アルチェリク・日立ホームアプライアンス(日立グローバルライフソリューションズとトルコのアルチェリクが設立)、味の素、日清食品、トヨタ自動車、日本製鉄などが統括会社を設立した。

表4 タイの国・地域別対内直接投資[タイ投資委員会認可ベース](単位:100万バーツ, %)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
日本 73,503 49,960 15.6 △ 32.0
中国 47,559 41,691 13.0 △ 12.3
香港 15,336 22,846 7.1 49.0
台湾 18,027 45,484 14.2 152.3
韓国 12,991 5,309 1.7 △ 59.1
シンガポール 28,126 34,181 10.7 21.5
マレーシア 3,937 3,335 1.0 △ 15.3
インド 3,984 1,332 0.4 △ 66.6
オーストラリア 2,887 4,284 1.3 48.4
米国 34,184 38,165 11.9 11.6
EU27 33,800 31,332 9.8 △ 7.3
階層レベル2の項目ドイツ 847 3,795 1.2 348.1
階層レベル2の項目フランス 2,328 1,591 0.5 △ 31.7
階層レベル2の項目イタリア 13,158 15 0.0 △ 99.9
階層レベル2の項目オランダ 7,610 4,556 1.4 △ 40.1
階層レベル2の項目ルクセンブルク 1,947 20 0.0 △ 99.0
英領ケイマン諸島 5,891 21,049 6.6 257.3
合計(その他含む) 280,670 320,445 100.0 14.2

〔注〕(1)複数国による投資はそれぞれの国に重複して計上されている。
(2)タイ投資委員会の投資恩典認可ベースのため、投資奨励非対象業種など、認可を受けていない投資は含まれていない。
〔出所〕タイ投資委員会

表5-1 タイの業種別対内直接投資[タイ投資委員会認可ベース・世界の業種別内訳](単位:100万バーツ、%)(△はマイナス値)
業種 2021年 2022年
件数 金額 件数 金額 伸び率
農水産業・農水産加工 72 24,862 66 24,954 0.4
鉱業・セラミック 14 5,700 22 23,176 306.6
繊維・軽工業 57 43,065 43 30,504 △ 29.2
機械・金属加工 179 45,130 183 83,119 84.2
電気・電子機器 186 67,759 175 79,038 16.6
化学・紙 64 59,432 58 21,165 △ 64.4
サービス・インフラ 199 34,722 255 58,489 68.4
その他 0 0 0 0
合計 771 280,670 802 320,445 14.2

〔注・出所〕表4と同じ

表5-2 タイの業種別対内直接投資[タイ投資委員会認可ベース・日本の業種別内訳](単位:100万バーツ、%)(△はマイナス値)
業種 2021年 2022年
件数 金額 件数 金額 伸び率
農水産業・農水産加工 10 2,895 12 3,456 19.4
鉱業・セラミック 2 616 9 8,382 1,260.7
繊維・軽工業 6 2,930 3 256 △ 91.3
機械・金属加工 78 20,611 95 7,753 △ 62.4
電気・電子機器 31 10,986 39 17,419 58.6
化学・紙 20 30,230 11 2,617 △ 91.3
サービス・インフラ 42 5,235 47 10,076 92.5
その他 0 0 0 0
合計 189 73,503 216 49,960 △ 32.0

〔注・出所〕表4と同じ

投資環境 
日系企業の経営上の問題点は他社との競争激化がトップに

盤谷日本人商工会議所(JCC)が、2023年5月9日~6月2日に実施した「JCC2023年上期日系企業景気動向調査」の結果によれば、在タイ日系企業の経営上の問題点について、「他社との競争激化」と回答した企業の割合が63%と最も多かった。特に製造業ではEVなどの分野で中国や台湾からの投資が増加し、他国との競争が激しくなっていることが要因とみられる。次いで「原材料価格の上昇」が59%、「総人件費の上昇」が45%とコスト関連の課題も引き続き上位を占めた。また、一方、「物流コストの上昇」(23%)を挙げた企業の割合は前回調査(2022年下期)から低下しており、改善がうかがえる。海上輸送運賃をはじめとした輸送費の低下から、企業の負担は減少していると考えられる。人材に関する問題点では「総人件費の上昇」のほか、「エンジニアの人材不足」(23%)、「従業員のジョブホッピング」(20%)が上位10項目に挙げられた。

表6-1 経営上の問題点(複数回答)単位:件数、( )内は回答企業数割合(%)
前回 今回 項目 製造業 非製造業 全体
1 1 他社との競争激化 165 (61) 148 (65) 313 (63)
2 2 原材料価格の上昇 215 (80) 76 (34) 291 (59)
3 3 総人件費の上昇 125 (46) 100 (44) 225 (45)
4 4 為替変動の対応 99 (37) 55 (24) 154 (31)
6 5 エネルギーコストの上昇 130 (48) 21 (9) 151 (30)
8 6 製品・利用者ニーズの変化への対応 63 (23) 59 (26) 122 (25)
4 7 物流コストの上昇 75 (28) 39 (17) 114 (23)
7 8 エンジニアの人材不足 75 (28) 37 (16) 112 (23)
9 9 DXによる業務効率化 47 (17) 53 (23) 100 (20)
10 10 従業員のジョブホッピング 44 (16) 54 (24) 98 (20)
合計 1,387 840 2,227
回答企業数 270 226 496

〔注〕上位10位
〔出所〕バンコク日本人商工会議所「2023年上期タイ国日系企業景気動向調査」

同景気動向調査では、タイの賃金上昇傾向が将来の投資先としての魅力に影響を与えるのではないかと懸念を示す傾向が一部にみられた。2022年10月、2年9カ月ぶりに最低賃金が引き上げられた(平均5.02%)影響については、約8割の企業が「限定的」、もしくは「なかった」と回答した。しかし、今後賃金が大幅に上昇した場合に見込まれる影響や対応については、「人件費以外の費用の抑制」(59%)、「利益の減少」(50%)、「売上にコスト転嫁」(40%)と、経営への影響を心配する回答が上位を占めた。一方、「投資先としての魅力の低下」は15%、「他国に移転または生産量をシフト」は10%にとどまったが、製造業は、それぞれ21%、14%に回答割合が高まった。2023年5月の下院総選挙では各政党が最低賃金の引き上げを公約に掲げていたことから、今後賃金が大幅に上昇した場合、タイ拠点の位置づけを見直す企業が一定数は発生する可能性があることが示唆される。

表6-2 2022年に実施された最低賃金引上げが与えた影響単位:件数、( )内は回答企業数割合(%)
順位 項目 製造業 非製造業 全 体
1 影響は限定的だった 173 (64) 78 (35) 251 (51)
2 影響はなかった 41 (15) 116 (51) 157 (32)
3 影響は大きかった 48 (18) 18 (8) 66 (13)
4 不明 7 (3) 14 (6) 21 (4)
回答企業数 269 226 495
表6-3 賃金が大幅に上昇した場合に見込まれる影響や対応単位:件数、( )内は回答企業数割合(%)
順位 項目 製造業 非製造業 全体
1 人件費以外の費用の抑制 164 (61) 129 (57) 293 (59)
2 利益の減少 133 (49) 113 (50) 246 (50)
3 売上にコスト転嫁 123 (46) 76 (34) 199 (40)
4 人件費の抑制 122 (45) 65 (29) 187 (38)
5 投資先としての魅力の低下 56 (21) 18 (8) 74 (15)
6 他国に移転または生産量をシフト 38 (14) 10 (4) 48 (10)
その他 6 (2) 4 (2) 10 (2)
合計 642 415 1,057
回答企業数 269 225 494

〔出所〕表6-1に同じ

対日関係 
2022年の対日貿易額は減少、投資認可は日本が首位

2022年の日本への輸出額は、246億6,900万ドル(前年比1.3%減)となった。主要品目では自動車・同部品(18億4,600万ドル、18.4%減)や化学製品(10億3,200万ドル、5.8%減)などが減少したものの、加工鶏肉(14億5,500万ドル、7.4%増)、コンピュータ・同部品(9億7,300万ドル、8.2%増)、プラスチックペレット(8億5,100万ドル、5.2%増)などで増加した。日本からの輸入額も、345億8,400万ドル(3.0%減)と減少した。1位の鉄・鉄鋼製品(56億8,500万ドル、4.5%減)、2位の機械・同部品(52億9,000万ドル、4.9%減)、3位の電子機器・同部品(34億4,300万ドル、7.8%減)など上位品目が前年の2桁の伸びから一転、マイナスとなった。世界経済の減速による外需の落ち込みにより、輸出向け生産に必要な資本財、部品などの輸入が落ち込んだことなどが要因として考えられる。

2022年の日本からの直接投資は、申請ベースで293件、508億バーツ(構成比11.7%)と、国・地域別で中国に次いで2位となった。一方、認可ベースでは、先端またはナノ材料や、ハードディスクドライブ(HDD)の製造事業などで大型案件があった日本が216件、500億バーツ(15.6%)でトップだった。

2022年は、中国のBYD、台湾の鴻海精密工業がEVの完成車工場の建設を申請するなどEV関連の投資が増加した。そのような中、プリント基板大手の日本シイエムケイ(日本CMK)が2022年9月、タイ東部プラチンブリ県に新工場を建設すると発表(投資額は約250億円)した。EV産業の活況を追い風に、主力製品である車載向けのプリント基板の生産能力を拡大し、状況に応じてさらに工場を拡張する予定である。また、自動車用タイヤの補強材として使用されるカーボンブラックを製造するタイ東海カーボン・プロダクトが2022年9月、東部ラヨーン県に新工場を建設すると発表(投資額は約346億円)した。EVを含めた自動車産業の拡大を背景に、カーボンブラック需要は大幅に増加しており、今後もこのトレンドは継続すると判断した。長期リース契約であった工場敷地から、自社所有の土地を確保し、移転することでサステナブルな供給体制を確立するという。

表7-1 タイの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
自動車・同部品 2,262 1,846 7.5 △ 18.4
加工鶏肉 1,355 1,455 5.9 7.4
化学製品 1,096 1,032 4.2 △ 5.8
機械・同部品 1,023 1,022 4.1 △ 0.1
コンピュータ・同部品 899 973 3.9 8.2
プラスチックペレット 809 851 3.4 5.2
その他電気設備・同部品 723 818 3.3 13.2
プラスチック製品 787 763 3.1 △ 3.1
鉄・鉄鋼製品 758 676 2.7 △ 10.9
加工魚類、甲殻類、軟体動物 629 658 2.7 4.7
合計(その他含む) 24,995 24,669 100.0 △ 1.3

〔出所〕タイ商務省

表7-2 タイの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉄・鉄鋼製品 5,954 5,685 16.4 △ 4.5
機械・同部品 5,565 5,290 15.3 △ 4.9
電子機器・同部品 3,733 3,443 10.0 △ 7.8
化学製品 3,470 3,088 8.9 △ 11.0
自動車部品 3,562 2,888 8.4 △ 18.9
電子集積回路 2,095 2,189 6.3 4.5
金属くず・スクラップ 2,082 2,141 6.2 2.8
科学・医療試験機器 1,333 1,347 3.9 1.1
金属製品 905 866 2.5 △ 4.4
プラスチック製品 1,031 857 2.5 △ 16.8
合計(その他含む) 35,654 34,584 100.0 △ 3.0

〔出所〕タイ商務省

基礎的経済指標

人口
7,008万人(2022年)
面積
51万3,115平方キロメートル
1人当たりGDP
7,651米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 6.1 1.5 2.6
消費者物価上昇率 (%) △ 0.9 1.2 6.1
失業率 (%) 2.0 1.5 1.0
貿易収支 (億米ドル) 267 324 135
経常収支 (億米ドル) 209 △ 103 △ 157
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 248,743 231,737 202,274
対外債務残高(グロス) (10億米ドル) 191 196 200
為替レート (1米ドルにつき、バーツ、期中平均) 31.3 32.0 35.1

注:
人口、1人当たりGDP、失業率、経常収支、貿易収支:2022年は推計値
貿易収支:国際収支ベース
出所:
人口、1人当たりGDP、失業率、外貨準備高(グロス):IMF
面積:農業協同組合省
消費者物価上昇率:商務省
実質GDP成長率:タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)
経常収支、貿易収支、対外債務残高(グロス)、為替レート:タイ中央銀行(BOT)