技術・工業および知的財産権供与に関わる制度

最終更新日:2023年07月12日

技術・工業および知的財産権供与に関わる制度

ブラジルは、知的財産権および技術の国際貿易の保護にかかわるパリ条約と世界知的所有権機構のメンバー国であり、2019年10月より商標の国際登録を簡素化するマドリッド協定議定書に加盟しているが、意匠の国際登録を簡素化するハーグ協定には加盟していない。ブラジルにおける知的財産権は産業財産庁(INPI)が規定。産業財産法(LPI)等の法律により保護されている。ブラジルでは知的財産権に関し複雑で特殊な制度が存在し、出願から査定までに一般的に長い時間を要していたが、日本国特許庁とINPIは特許審査ハイウェイプログラムを2017年4月から実施している。ただし、同プログラムへの申請件数は年間上限が設定されているため、上限に達すると当該年の申請受付は停止される。

知的財産権および技術の国際貿易の保護に関し、ブラジルはパリ条約設立メンバー国で、1975年以降は世界知的所有権機構のメンバーでもある。また、1978年に特許協力協定(PCT協定)にも署名し、同協定はブラジルの国内法として承認されている。国際分類に関する1971年のストラスブール協定も適用している。2019年に商標の国際登録を簡素化するマドリッド協定議定書に加盟したため、複数国での権利取得手続きの簡素化(ワンストップ)や、各国ごとの登録料支払い不要等のメリットを享受することができる。

知的財産権を第三者に対し効力を持たせる場合や、その契約に対する所得税および利益に対する社会負担金(CSLL)の納付控除を行う場合、ブラジルの知的財産権に関する公的機関の産業財産庁(Instituto Nacional da Propriedade Industrial:INPI外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)への登録が必要。産業財産法(LPI)等、ブラジルの知的財産に係る法令および審査基準はINPIのウェブサイトに掲載されている(原則ポルトガル語版のみ)。
INPIは産業財産法(LPI)を実施するために、各種の決議(Resolução)や規範命令(Instrução Normativa)を出している。

産業財産庁(INPI)への登録が必要な契約

次の契約についてはINPIへの登録が必要〔2017年4月11日付INPI規範命令第70号〕。

  • 産業財産権ライセンス契約(特許、工業意匠、商標)
  • 産業財産権供与(特許、工業意匠、商標)
  • 技術移転・ノウハウ供与
  • フランチャイズ契約(特許または商標の使用、技術支援サービスの提供や技術移転などを含むビジネスモデルの一時的な許諾を目的とした契約)

産業財産庁(INPI)への登録が不要な契約

技術の移転を伴わない次の契約についてはINPIへの登録は不要〔2015年11月9日付INPI決議第156号〕。

  • 物流サービス
  • 海外で行われ、ブラジル企業の技術者が同行せず、報告書等の作成を伴わないサービス供与
  • 機械・設備の保守管理サービス
  • 機械・設備の修理・補修・改修・調整・検査等のサービス
  • 機械・設備の据付・解体・分解・試運転等の監督サービス
  • 製品の品質に関する認証・証明
  • 財務・営業・法務分野のコンサルタント業務
  • マーケティングサービス
  • ソフトウェアの使用許諾・トレーニング、等

知的財産権の種類および概要

  1. 商標

    ブラジルでの商標登録は、ブラジル人であるか否かを問わず可能。製品標章、役務マーク、証明標章、団体標章、地理的表示など、文字、図形、それらの混合、あるいは立体的なのものなど、視覚的に認識でき識別性を有するものは、法的に禁止されていない限り商標登録ができる。
    著名な商標や広告的商標については、産業財産権法の中でパリ条約の規定に基づき特別保護が与えられる。申請後、出願が公示され、第三者による異議申立て期間が60日設定される。異議申立て期間が終了するとINPIの審査官が当該案件を審査し、問題がなければ、料金の支払いを経て登録証明書が発行される。

    商標は登録証明書の発効日から10年間保護され、10年ごとに無期限に更新可能。保護期間を延長しない場合、登録は消滅する。商標登録の付与日から5年以内に登録商標の使用が開始されない場合や、継続する5年間に登録商標を使用しない場合には、利害関係者は商標登録の取消請求ができる。商標の登録所有者または出願人は、登録の移転および商標のライセンスを許諾する権利も保有している。

  2. 特許・実用新案

    特許の登録では、新規性、進歩性、産業上の利用可能性が考慮されるべき要素となる。
    実用新案では、実用物品またはその一部が産業上の利用可能性を有し、その使用または製造における機能的改良をもたらす新規の形態または構造を有し、かつ進歩性を有していることが考慮されるべき要素となる。

    特許、実用新案ともに、科学理論や数学の方式、情報の提供、人体または動物に用いられる手術のための医療技術・診断の方法、純粋に抽象的な概念、道徳に反するもの、コンピュータ・プログラムそれ自体、微生物を除く動植物などには権利が与えられない。公共の利害に反する場合や国家的緊急時のケースでは、権利を剥奪できると定めている。ブラジル国内で出願された医薬品の特許は、INPIによる審査の前に国家衛生監督庁(ANVISA)による事前審査を受け、承認を得る必要がある。

    有効期間は、発明特許が出願日から20年、実用新案が15年で、期間の延長は出来ない。

  3. 意匠(工業デザイン)
    意匠登録では、物品の装飾的造形体または製品に利用することができる線および色彩の装飾的配置であって、その外形に新規かつ独創的な視覚的効果をもたらし、産業上の使用可能性を満たすことが考慮されるべき要件となる。純粋に芸術的な性質の作品は意匠とはみなされず、また、対象物が通常または一般に備える必然的な形状、または技術的もしくは機能的配慮によって本質的に決定される形状も意匠とは認められない。モラルや公序良俗に反するもの、他人の名誉やイメージを侵害するもの、信教の自由・信条・信仰・理念・尊厳・崇拝を害するものは登録できない。
    意匠登録は、出願日から10年間有効で、1回につき5年、最高3回まで延長できる(最長25年間)。意匠の国際登録を簡素化するハーグ協定には加盟していない。
  4. 技術・ノウハウ
    外国企業が子会社を含むブラジル国内の企業に対し、技術・ノウハウの供与契約を結ぶ場合もINPIへの登録が必要となる。契約期間は最高5年とし、INPIが認めれば同期間の延長が一度可能。世界的に当該技術・ノウハウが陳腐化しておらず、また、国の安全を脅かし、公益に反するものでない限り契約期間の規制はない。
  5. 著作権
    文学的、美術的または科学的著作物の文章、演劇および舞踊の著作物、写真および建築の著作物、講演・演説および同様の著作物、映画などの視聴覚著作物、素描・絵画・彫刻・彫像等の著作物など、精神的創作を保護するもので、独創性および固定性が考慮されるべき要件となる。表現媒体が有形・無形なのか、既知であるかどうか、ブラジル国立図書館等への登録の有無は問わない。著作権は著作者の生前期間および著作者の死後70年間保護される。

課税控除

ブラジルでは税法上、知財ライセンス契約等に該当する収入・売上高は、INPIに登録することにより、一定範囲で課税対象所得から控除することが認められている。控除額は契約の種類や技術分野、産業分野により異なり、収入・売上高に対し5%に相当する額が上限。

ロイヤルティー等の国外送金

従来はブラジル国内に所在する企業が国外にロイヤルティー等の送金をするには、INPIおよびブラジル中央銀行への登録が必要だったが、2022年12月30日からは源泉所得税の納税証明と当事者間の契約書によって送金が可能となった〔2021年12月29日付法令第14286号〕。ただし、課税控除を受けるためにはINPIおよびブラジル中央銀行への登録は必要〔1991年12月30日付法令第8383号〕。ロイヤルティーの国外送金は、これまで課税控除額に相当する金額(上限は売上高に対し5%)までしか認められていなかったが、2024年1月1日以降は当事者間の合意に基づいた金額を送金できることになっている〔2023年6月14日付法令第14596号〕。ただし、ロイヤルティーを会社の経営陣や親族、本社、経営権を保持する人物へ送金する場合には課税控除は認められない。租税回避地へのロイヤルティー送金も課税控除は認められない。

ジェトロ:ブラジル「知的財産に関する情報」