市場・トレンド情報

パリにおけるバイヤー向け訴求手法

2015年10月
分野:デザイン、ファッション

世界に向けたトレンド発信地であるパリで、日本企業や地方自治体が、小売店などのバイヤーへ商品を訴求する動きが盛んだ。B2B見本市への出展はバイヤーへ売り込むのに最も有効な手法であり続けているが、レンタルスペースの利用など、その他の新手法も登場している。

レンタルスペースの利用は、アパレル分野では確立された経験者向け手法

アパレル分野では、早くから日本企業が商談目的でのパリのレンタルスペースの利用が進んだ。大手メゾンがコレクション(新作商品群)を発表し、複数のB2B見本市が併催されるため、世界中からアパレル分野のバイヤーがパリに集まる「パリ・ファッション・ウィーク」の前後数日から2週間、日本のアパレルブランドがレンタルスペースを借りる動きが活発だ。流行の発信地でレンタルスペースも多いマレ地区はこの時期、発表会・展示会から流れてきたアパレル関係者で賑わう。

だがこの手法は、B2B見本市への出展と比べて高コストで手続きも煩雑であることが多く、新規バイヤーの飛び込み来場は見込みにくい。パリで初めて海外販路開拓に挑む場合、見本市へ出展する方が低リスクと言える(表1)。

表1:B2B見本市へ出展する場合と、独自にスペースを借りる場合の長短

長点 注意点
見本市へ出展
  • 効果的な来場誘致策をとれば、新規バイヤーとの関係構築が可能な場合あり。
  • イベント主催者が紹介する事業者が提供する各種サービス(輸送、什器・機材のレンタルなど)を利用可能なことが多い。
  • 出展しただけではバイヤーの来場は見込めない。他の多数のブランドに埋もれぬよう効果的な来場誘致策をとること、価格設定・商品一覧表の作成といった事前準備が肝要。
独自にスペースを借りる
  • バイヤーがパリに集まる時期に合わせて借り、既存顧客のバイヤーやエージェントがおり、バイヤーへ事前に十分な来場誘致策を行う場合、来場が見込める。
  • 落ち着いた環境でより多くのサンプルをバイヤーに提示し、じっくりと商談することが可能。
  • 好立地、ハイシーズンであるほどレンタル料金が高額。
  • 見本市などと無関係の時期に借り、既存顧客もおらず、バイヤーへの事前の来場誘致策が不十分な場合、バイヤーの来場を見込むのは非常に困難。
  • 多くの場合、輸送、什器・機材、通訳兼販売補助員など、全てを自ら手配する必要が生じる。

しかし、コレクション発表の場へ定期的に足を運ぶ顧客がおり、バイヤーに顔が利き来場誘致に一役買える在欧州のエージェントと契約中のブランドにとっては、腰を据えた商談が可能で一定の成果も出せる選択肢のようだ。スペース探し、スペースの貸し手との契約手続き、什器の手配も、エージェントが対応するなら心強い。

複数のアパレルブランドが合同で場所を借りて経費を分担し、来場したバイヤーを紹介・誘導し合って相乗効果を図る試みも活発だ。

デザイン・伝統産品分野で新たなスペースが誕生

デザイン製品・伝統産品分野では、営業代理を行うエージェントは存在するが、日本ブランドが商談のためにスペースを借りる例は多くはなかった。他方、「B2B見本市に定期的に出展する日本企業や自治体から、会期外でもバイヤー向けに常に商品サンプルを提示し受注し得る場所を確保するニーズを実感してきた」と語るのは、ISONOの塩川嘉章 代表取締役だ。同氏は2011年からパリ・オペラ地区で、日本語で利用可能なB2C展示・即売レンタルスペース「DISCOVER JAPAN PARIS(注)」を運営。そこでの経験とニーズをふまえて、2015年7月にB2C機能にB2Bショールーム機能を加えた新たなレンタルスペース「Maison Wa」をプレオープン、9月にオープンした。

オペラ地区の日本人街にある「Maison Wa」のB2Bスペースは、7月から2016年3月末まで佐賀県、輪島商工会議所が予約済みだ。利用者がパリへ長期滞在するのは非現実的なため、バイヤーが来場した場合には「Maison Wa」の常駐スタッフが対応し、受注情報を利用者へ転送するという。しかし、ゼロから売り先を開拓する機能までは持たない。塩川氏は「利用者によるB2B見本市でのバイヤーとの積極的・主体的な関係構築が重要。既存顧客がいない場合は、B2Cスペースでの試験販売やB2B見本市への出展から始めることをお勧めする。」と説く。

佐賀県はB2B見本市会期後の支援拠点として利用

有田焼創業400年事業の一環として欧州での有田焼ブランド確立に取り組む佐賀県は、上述スペースをパリで開催されるインテリア分野の国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展した有田焼ブランド各社の「会期後の支援拠点」に位置づける。佐賀県では2014年9月に初めて、工業デザイナー奥山清行氏のプロデュースのもと、窯元らを束ねて有田焼ブースを同展へ出した。多数のバイヤーが訪れたが、会期後のフォローアップや商品見本のフランスへの送付依頼への対応が、成約を目指す上で課題だった。そこで、問い合わせ対応、サンプルの常設展示、在庫管理、日本からフランスへの定期航空便の活用による商品輸送の効率化が可能な「Maison Wa」の利用を決めた。より能動的な売り込みを図る窯元らが別途個別に契約する営業代理が、バイヤーとの商談場所として同スペースを活用することもあるという。

一般消費者向け訴求の場へバイヤーを誘致し成果を出すことは困難

昨今、日本企業や地方自治体がB2Cイベントに出すブースへのバイヤーの来場誘致を図ったり、地方自治体がパリ市内のホテルなどで観光・食品・伝統産品などを総合的に訴求するパーティーを開催してバイヤーを招待したりするケースが増えている。

せっかくパリへ出張するのだからB2C(市場調査と消費者への即売)とB2B(バイヤーからの受注)の両面で成果を出したいと願うのは当然だ。しかし、B2Cの場でバイヤーへの売り込みで成果を出すのは容易ではない。通常バイヤーが時間と費用をかけてまでB2Cイベントを訪れるとは期待できない。また、同種の機会が多くなるほど来場誘致は厳しさを増す。日本の商品を継続的に調達するバイヤーの数は限られ、日本に特別な思い入れが無く日本の地名の区別がつかない新規バイヤーの関心を引くのは難しい。

事前の来場誘致に励んでバイヤーが来場したものの、バイヤー向けに提案される商品の種類が少ない、売り込み主体の日本企業がその場に不在である、価格入り商品一覧表の用意が無いなどして、商機を逃す場合もあるようだ。バイヤーと商談するにあたっては、人員、資料の作成などの準備を整えることが必須だ。

(注) 2011年当時は「BUKIYA」。2013年にエイ出版社より同社が発行する雑誌「ディスカバー・ジャパン」の名称の使用許諾を得て「DISCOVER JAPAN PARIS」へ改名。