外資に関する規制

最終更新日:2023年11月28日

規制業種・禁止業種

外資によるカナダへの投資については連邦法による規制が一部あり、規制の内容は投資金額や産業などによって異なる。

カナダ投資法による規制や手続き

カナダに投資予定の非カナダ人は、イノベーション・科学・経済開発省に対し、通知または審査申請を行う必要があり、当該投資が経済効果などの観点からカナダにとって純利益(net benefit)になるか否かが審査される。通知と審査のどちらの手続きが必要かは、投資案件が新規ビジネスの立ち上げか既存ビジネスの買収かによって、また投資金額などによって異なる。なお、投資先にはカナダ人が所有・支配しないビジネスも含まれる(「その他規制」欄参照)。

また、純利益に係る審査に加えて、イノベーション・科学・産業相が必要と認める場合、事前届出の有無や審査対象額、業種を問わず、外国投資の国家安全保障への影響も審査される。この審査に関する文書「投資の国家安全保障審査に係るガイドライン」が2021年3月24日付で改訂され、機密性の高い個人情報、特定の機微な技術分野、重要鉱物など、国家安全保障上の懸念が生じる可能性のある分野が例示された。なかでも、機微な技術分野については15項目が例示されており、AIや量子科学、ロボティクス、医療技術などが含まれている。

なお、新型コロナウイルス感染拡大により、同省は2020年4月18日付で「外国からのカナダ国内への投資が、国民の健康と安全を含めカナダ経済や国家安全保障に新たなリスクをもたらすことを防ぐため」、カナダ投資法に基づく外国企業による投資の審査を厳格化すると発表した。
民間企業による投資については、これまで被買収企業の企業価値が一定額以上の場合にのみ同省による審査の対象となっていたが、公衆衛生やカナダ国民・政府にとって必要不可欠な製品・サービスの供給に関与する事業への投資は、投資額や支配的投資か否かに関わらず審査が行われる。さらに、国営企業または外国政府の指揮下にある民間企業などによる投資についても、これまで一定額以上の投資案件のみが審査の対象だったが、投資額の閾値が取り除かれ、投資額に関わらずあらゆる分野への投資が審査の対象となる。
審査の厳格化の適用期間は、「カナダ経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響から回復するまで」としており、2023年10月時点で適用は解除されていない。

さらに、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、同省は2022年3月8日付で、「海外投資審査とウクライナ危機に関する政策声明」を発表し、前述の「純利益に係る審査」と「国家安全保障への影響審査」の双方で審査を厳格化することを明らかにした。「純利益に係る審査」では、ロシアの直接・間接投資家による投資を「例外的にのみ」認定する。また、「国家安全保障への影響審査」では、前述の2021年3月改訂の「投資の国家安全保障審査に係るガイドライン」に加えて強化が行われ、「投資額にかかわらず、投資先が直接または間接的にロシア国家に関連する、または支配される、もしくはロシア国家の影響を受ける個人または団体と関係があると判断された」場合、その投資がカナダの国家安全を害する恐れがあると信じるに足る妥当な根拠があると判断される。この厳格化方針を踏まえ、同省では、ロシアの投資家および事業体との関係を確認するため、投資計画の慎重な見直しを推奨するとともに、直接・間接投資家、受益者、信託を含む企業データ、構造、資金調達関係などの追加情報の提出が必要となった場合には、審査に長期の期間を要する可能性があると警告している。なお、審査の厳格化は、「ロシアのウクライナに対するいわれのない攻撃に関連して国家安全保障と経済的損害リスクが高まっているこの時期から、追って通知があるまで」適用されるとしている。

参考:
イノベーション・科学・経済開発省:

法務省:カナダ投資法 “Investment Canada Act外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

外国の国営企業に関する規制

「カナダ投資法による規制や手続き」で記載のとおり、外国の国営企業(以下、国営企業)または政府の指揮下にある民間企業などによる投資については、これまでは一定額以上の投資案件のみが審査の対象だったが、2020年4月18日付の「新型コロナウイルス下の外国投資審査についての政策声明」発表および2022年3月8日付の「ウクライナ危機に関する政策声明」発表により、投資の審査対象額が取り除かれ、投資額に関わらずあらゆる分野への投資が審査の対象となっている。ただし、適用期間は前者が「カナダ経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響から回復するまで」、後者が「ロシアのウクライナに対するいわれのない攻撃に関連して国家安全保障と経済的損害リスクが高まっているこの時期から、追って通知があるまで」で、厳格化前の審査対象額が2023年2月11日付で更新されているため、その情報も併せて掲載する。

2023年2月11日付の「投資における審査対象額」によると、国営企業による投資では、後述「その他規制」の「c. 国営企業WTO投資」および「d. WTO非加盟国投資および文化事業投資」で詳細説明のとおり、国営企業WTO投資の場合は資産価値で5億1,200万カナダ・ドル以上の直接投資、WTO非加盟国投資の場合は、資産価値で500万カナダ・ドル以上の直接投資および資産価値で5,000万カナダ・ドル以上の間接投資の案件が審査の対象となる。

こうした審査対象案件について、イノベーション・科学・経済開発省では、「国有企業による投資-純利益評価ガイドライン」を発行し、カナダ投資法の審査・監視規定運用での手続きを提示している。国営企業を含むカナダ以外の投資家は、審査申請で、直接的または間接的な国の所有または支配を含む支配者を明らかにすることが求められ、提案中の投資がカナダにとって純利益となる可能性が高いことを、イノベーション・科学・経済開発大臣が納得するよう証明する責任を負うことになっている。大臣は、その際の評価の一環として、以下の審査を行う。

  1. 当該国営企業のコーポレート・ガバナンスと報告構造を審査する。これには、当該国営企業がカナダのコーポレート・ガバナンス基準(透明性と情報開示、独立取締役会メンバー、独立監査委員会、株主の公平な扱いなど)および自由市場原則の遵守を含むカナダの法律と慣行を遵守しているかどうかが含まれる。
  2. カナダ国内の雇用、生産、資本水準への影響を含め、カナダ国内の経済活動の水準と性質に及ぼす投資の影響を評価する。
  3. 当該国営企業が国家によって所有、管理されているか、またはその行動や業務が国家によってどのように、どの程度影響を受けているかを審査する。
  4. 当該国営企業が買収するカナダの事業が、以下の点を含め、商業ベースで運営される可能性が高いかどうかを評価する。
    1. 輸出先
    2. 加工場所
    3. カナダ人によるカナダおよびその他の地域での事業への参加
    4. カナダにおける生産性と産業効率に対する投資の影響
    5. カナダにおける継続的な技術革新、研究および開発の支援
    6. カナダの事業を国際的競争力のある状態に維持するための適切な水準の資本支出

同省では、以下のようなコミットメントが当該国営企業の計画説明を補足するのに役立つことがあると例示している。

  • 取締役会にカナダ人を独立取締役として任命すること
  • 上級管理職にカナダ人を採用すること
  • カナダで事業を設立すること
  • 買収企業または被買収カナダ事業の株式をカナダの証券取引所に上場すること

さらに同省は2022年10月28日、「カナダ投資法に基づく国営企業による重要鉱物への外国投資に関する政策」を発表し、「純利益に係る審査」と「国家安全保障への影響審査」の双方で審査を厳格化することを明らかにした。「純利益に係る審査」では、外国国営企業による重要鉱物を含むカナダ事業の支配権取得の申請は、例外的にのみ承認すると述べ、審査で考慮する点として外国のカナダ事業に対する支配力の行使の可能性の程度などを列挙している。また、「国家安全保障への影響審査」においては、国営企業による重要鉱物分野への投資そのものが、取引価格に関係なく、カナダの国家安全保障に害を及ぼす可能性があるとみるに足る合理的な根拠となり得ると説明し、国営企業による投資をけん制している。その上で、審査で考慮され得る要素として、「関与する鉱物資源のカナダにとっての戦略的価値」などを挙げている。なお、本政策では、前述の「新型コロナウイルス下の外国投資審査についての政策声明」や、「ウクライナ危機に関する政策声明」と異なり、適用期間は示されていない。

(参考)イノベーション・科学・経済開発省:

文化産業に関する規制

文化産業に関係する投資は、その他の業種とは異なった通知・審査の仕組みが適用され、イノベーション・科学・経済開発省ではなく、カナダ遺産省(Canadian Heritage)が担当する。
ただし、すべての投資はイノベーション・科学・経済開発省への通知が必要であり、同省が定める基準での審査が必要な場合は、その審査結果も併せて考慮される。

新規投資および直接・間接を問わず、原則として通知義務が生じる。ただし、遺産省への通知過程において審査が妥当とみなされた場合は、審査対象となる。
さらに、[1]総資産(簿価)が500万カナダ・ドル以上の直接買収、[2]総資産が5,000万カナダ・ドル以上の企業の間接買収案件は、同省の審査対象となる。

文化産業に該当するものとは、例えば、書籍、ビデオ、DVD、音楽の制作、流通、販売、展示などが挙げられる。

参考:

出資比率

連邦法および/または州法により、一部の産業で出資比率が制限されている。

連邦法および/または州法により、次の産業は出資比率が制限されている。
放送、電気通信、航空、書籍の出版・販売、金融、エンジニアリング、農業、水産業、酒類販売、採鉱、石油・ガス、検眼、製薬。

各産業における出資比率の詳細については、連邦または州政府の管轄官庁に確認されたい。

外国企業の土地所有の可否

原則として、すべての州で外国企業の土地所有が可能であるが、一部の州では制限される。また、2023年1月1日から2年間の時限措置として、カナダ人以外による住宅購入が禁止された。

不動産の売買や開発は州法の規制下に置かれる。
アルバータ州、サスカチュワン州、マニトバ州、ケベック州では、市民権または永住権を有しない人による農地などの土地所有は、一部制限されている。
またプリンス・エドワード・アイランド州では、非カナダ人を対象としたものではないが、同州非居住者、および同州法人を含めたカナダ国内外の法人による土地所有には制限がある。

なお、前述以外の州では、非居住者による土地所有について、カナダ国民と同様の扱いがなされている。

  1. アルバータ州政府:
  2. 連邦法務省:外国人による土地所有に関する該当法(アルバータ州のみ対象)“Foreign Ownership of Land Regulations外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
  3. サスカチュワン州政府:
  4. マニトバ州政府:農地所有に関する該当法 “The Farm Lands Ownership Act外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
  5. プリンス・エドワード・アイランド州政府:
  6. ケベック州政府:

また、カナダ国内での住宅価格高騰問題に対処するため、連邦政府は2023年1月1日から2年間の時限措置として「非カナダ人による住宅用不動産の購入禁止法および規則(the Prohibition on the Purchase of Residential Property by Non-Canadians Act and Regulations)」を施行した。同法では、カナダ人以外によるカナダでの住宅用不動産購入を禁止するとともに、法人やその他の団体を利用した購入禁止回避を制限し、違反に対する罰則を設定する。禁止事項に違反し有罪判決を受けた場合、1万カナダ・ドル以下の罰金に処される。
2023年3月に同規則の一部が即日緩和、施行され、就労許可証保持者が同購入禁止規則の適用対象外となるためには、[1]住宅購入時にカナダの就労許可証の有効期間が183日以上残っている、[2]カナダで住宅用不動産を複数購入していない(つまり、購入が認められるのは住宅用不動産1軒のみ)の2点を満たす必要がある。つまり、就労許可証保持者は、住宅用不動産購入時に就労許可証の有効期限が183日以上残っていれば、1軒のみ購入が認められる。

連邦法務省:

資本金に関する規制

なし。

その他規制

カナダに投資する場合には、通知または審査が必要。投資の金額、種類、産業、外国の国営企業か否か、などによって手続きが異なる。

「カナダ投資法による規制や手続き」で記載のとおり、民間企業による投資については、これまで被買収企業の企業価値が一定額以上の場合にのみイノベーション・科学・経済開発省による審査の対象となっていたが、2020年4月18日付の「新型コロナウイルス下の外国投資審査についての政策声明」発表、および2022年3月8日付の「ウクライナ危機に関する政策声明」発表以降、公衆衛生やカナダ国民・政府にとって必要不可欠な製品・サービスの供給に関与する事業への投資やロシアの直接・間接投資家による投資は、投資額や支配的投資か否かに関わらず審査を行う暫定措置が取られ、適用期間は前者が「カナダ経済が新型コロナウイルス感染拡大の影響から回復するまで」、後者が「ロシアのウクライナに対するいわれのない攻撃に関連して国家安全保障と経済的損害リスクが高まっているこの時期から、追って通知があるまで」となった。ただし、こうした事業以外の事業への投資については、従来どおり被買収企業の企業価値が一定額以上の場合にのみ審査の対象となり、2023年2月11日付で以下のとおり審査対象情報が更新された。

  1. カナダ投資法に基づく審査対象額
    カナダに投資予定の非カナダ人は、イノベーション・科学・経済開発省へ通知または審査申請を行う必要がある。
    ただし、審査の対象となるか否かは、投資しようとしている人または企業が属している国のWTO加盟や貿易協定の有無によって異なる。
    1. 民間企業によるWTO投資
      2023年の審査対象額は、以下の投資家がカナダ企業の経営権を直接取得する投資について、企業価値で12億8,700万カナダ・ドル以上となる。
      • 国営企業でないWTO加盟国の投資家、および
      • 国営企業ではない非WTO加盟国の投資家であって、投資の対象となるカナダの事業が、投資実行の直前に「WTO加盟国の投資家によって支配されている」場合。
    2. 民間分野貿易協定による投資
      2023年の審査対象額は、以下の投資家によるカナダ企業の経営権を取得する投資について、企業価値で19億3,100万カナダ・ドル以上となる。
      • 国営企業でない貿易協定投資家、および
      • 国営企業ではない非貿易協定投資家であって、投資の対象となるカナダの事業が、投資実行の直前に「貿易協定投資家によって支配されている」場合。

      なお、貿易協定投資家には、最終的な支配国が以下の貿易協定のいずれかに加盟している事業体および個人が含まれる。
      貿易協定:カナダ・英国TCA、CPTPP、CETA、CUSMA、カナダ・チリFTA、カナダ・ペルーFTA、カナダ・コロンビアFTA、カナダ・パナマFTA、カナダ・ホンジュラスFTA、カナダ・韓国FTA

    3. 国営企業WTO投資
      2023年の審査対象額は、以下の投資家によるカナダ企業の経営権を直接取得する投資について、資産額で5億1,200万カナダ・ドル以上となる。
      • 国営企業であるWTO加盟国の投資家、および
      • 国営企業であるWTO非加盟国の投資家であって、投資の対象となるカナダの事業が、投資実行の直前に「WTO加盟国の投資家によって支配されている」場合。
    4. WTO非加盟国投資および文化事業投資
      投資の審査対象額は、以下の投資による直接投資の場合は資産価値で500万カナダ・ドル以上、間接投資の場合は資産価値で5,000万カナダ・ドル以上となっている。
      • WTO非加盟国投資家が、投資実行の直前に「WTO加盟国投資家に支配されていない」カナダ企業の経営権の取得を伴う投資
      • すべてのカナダ人以外の投資家が、文化事業であるカナダの事業の支配権を取得するために行う投資

    通知や申請の要件、その方法などについては、次のイノベーション・科学・経済開発省のウェブサイトを参照されたい。

    (参考)イノベーション・科学・経済開発省:

  2. 通知・審査のタイムフレーム

    カナダへの投資に関する通知は、買収の完了または新規ビジネス立ち上げから30日以内に、イノベーション・科学・経済開発省のウェブサイトにある申請フォームに記入して提出しなければならない。

    申請フォーム "Forms外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

    審査結果は、45日以内に申請者に通知される。ただし、イノベーション・科学・産業相が必要と判断すれば、さらに30日間の延長もできる。この場合には、申請後45日が経過するまでに申請者宛に通知が届く。これ以上延長する場合は、同省と投資家(申請者)との間で合意が必要となる。ただし、文化産業への投資の場合は、審査に75日かかる。

    イノベーション・科学・経済開発省:

  3. 審査基準

    「当該投資がカナダの『純利益(net benefit)』になるか否か」が審査基準の核心であり(投資法第20条)、イノベーション・科学・経済開発省では、次の項目を考慮して審査する。

    1. カナダの経済活動(雇用創出、資源の処理・利用、カナダで生産される部品・サービスの利用、カナダからの輸出など)への効果
    2. 当該事業・業界におけるカナダ人の参加の程度
    3. カナダにおける生産性、業界効率、技術発展・イノベーション、製品種類の増加・向上への貢献度
    4. カナダのあらゆる産業における競争の投資影響
    5. カナダの産業、経済、文化政策などとの融合性
    6. カナダの世界市場における競争力強化への貢献度

参考:
イノベーション・科学・経済開発省:「カナダの純利益(net benefit)」についての説明 "What does "net benefit" mean?外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

外国の国営企業による買収、オイルサンド事業の買収については、カナダ投資法のガイドラインを参照のこと。
イノベーション・科学・経済開発省:カナダ投資法‐ガイドライン "Investment Canada Act ‐ All Guidelines外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

(データ確認日:2023年11月28日)