米国の貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年の米国の実質GDP成長率は2.1%と、2021年の5.9%から鈍化したものの、物価高や政策金利の引き上げによる景気後退への懸念に反し、底堅く成長。
  • 通商政策においては、一貫して「労働者中心」を掲げる。対中通商政策は引き続き厳格化。
  • 輸出は前年比18.4%増の2兆899億ドル、輸入は前年比14.9%増の3兆2,729億ドルで、いずれも2021年に続いて過去最高額を記録(国際収支ベース、財)。
  • 対内直接投資は前年比12.0%減の3,451億ドルだった一方、対外直接投資は32.3%増の3,659億ドルに増加(国際収支ベース、ネット、フロー)。

公開日:2023年9月4日

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マクロ経済 
2022年は景気後退の懸念に反し底堅く成長

2022年の米国の実質GDP成長率は2.1%となり、前年の5.9%から鈍化したものの、物価高や政策金利の引き上げによる景気後退への懸念に反して、底堅い成長をみせた。2022年の実質GDP成長率の推移を四半期ベースでみると、第1四半期は前期比年率マイナス1.6%、第2四半期はマイナス0.6%と2期連続のマイナス成長を記録したが、第3四半期は3.2%とプラスに転じ、第4四半期は2.6%だった。経済成長のけん引役は、GDP総額の約7割を占める個人消費だ。2022年の個人消費は前年比2.7%増で、成長率への寄与度は1.9ポイントだった。個人消費を需要項目別にみると、インフレによる買い控えなどによって、耐久財消費が0.4%減、非耐久財消費が0.5%減と落ち込み、財消費全体では0.5%減(寄与度マイナス0.1ポイント)と2009年以来のマイナス成長となったが、新型コロナウイルス禍からのリバウンドで対面サービスなどが堅調に推移したサービス消費は4.5%増(寄与度2.0ポイント)と押し上げた。

表1 米国の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 5.9 2.1 △ 1.6 △ 0.6 3.2 2.6 2.0
階層レベル2の項目個人消費支出 8.3 2.7 1.3 2.0 2.3 1.0 4.2
階層レベル3の項目 12.2 △ 0.5 △ 0.1 △ 2.6 △ 0.4 △ 0.1 6.0
階層レベル4の項目耐久消費財 18.5 △ 0.4 7.6 △ 2.8 △ 0.8 △ 1.3 16.3
階層レベル4の項目非耐久消費財 8.8 △ 0.5 △ 4.4 △ 2.5 △ 0.1 0.6 0.5
階層レベル3の項目サービス 6.3 4.5 2.1 4.6 3.7 1.6 3.2
階層レベル2の項目民間投資 9.0 4.0 5.4 △ 14.1 △ 9.6 4.5 △ 11.9
階層レベル3の項目設備投資 6.4 3.9 7.9 0.1 6.2 4.0 0.6
階層レベル3の項目住宅投資 10.7 △ 10.6 △ 3.1 △ 17.8 △ 27.1 △ 25.1 △ 4.0
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 6.1 7.1 △ 4.6 13.8 14.6 △ 3.7 7.8
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 14.1 8.1 18.4 2.2 △ 7.3 △ 5.5 2.0
階層レベル2の項目政府最終消費支出・粗投資 0.6 △ 0.6 △ 2.3 △ 1.6 3.7 3.8 5.0

〔注〕季節調整済み、四半期の伸び率は前期比年率。
〔出所〕米国商務省経済分析局

失業率は改善、人手不足は継続、物価関連指数の上昇幅は鈍化

労働需要は堅調さを維持した。2021年12月から2022年12月の期間に、非農業部門の失業者数は633万人から572万人まで減少し、失業率は3.9%から3.5%に改善した。就業者数は1億5,608万人から1億5,924万人に増加し、労働参加率は62.0%から62.3%に微増した。求人数は1,183万人から1,123万人に微減したが、失業者数の減少に伴い、失業者1人当たりの求人数は1.87人から1.96人に増加し、人手不足が進んだ。平均賃金は1時間当たり31.4ドルから32.9ドルに上昇した。

2021年から顕著になった物価高は、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻がエネルギー・食料価格の高騰を助長したことなどから、2022年上半期を通じて加速した。6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比9.1%上昇と、1981年11月の9.6%上昇に次ぐ、40年7カ月ぶりの歴史的な水準となった。米国連邦準備制度理事会(FRB)が物価指数の中で重視するコア個人消費支出(PCE)価格指数も、2022年2月に前年同月比5.4%上昇と、1983年4月の5.5%上昇に次ぐ水準を記録した。物価高を抑制するため、FRBは3月におよそ2年間継続していたゼロ金利政策を解除した。FRBの金融政策決定会合にあたる連邦公開市場委員会(FOMC)は、7会合連続で政策金利の誘導目標の引き上げを決定し、12月の政策金利の実効レートは4.1%となった。CPIの上昇幅は7月以降鈍化したものの、CPIの3割程度を構成する住宅費の上昇幅が依然高止まりし、12月は6.5%上昇だった。コアPCE価格指数の上昇幅はCPIから若干遅れて9月以降に鈍化し始めたが、12月は4.6%上昇だった。

2023年も第1四半期は個人消費がけん引

2023年も、米国経済は緩やかに成長を続けている。第1四半期の実質GDP成長率は前期比年率2.0%となった。成長率への寄与度でみると、個人消費が2.8ポイントと最大の押し上げ要因となった。なかでもサービス消費が1.4ポイントと個人消費をけん引し、財消費が1.3ポイントと2021年第4四半期ぶりに押し上げに貢献した。耐久財消費は1.3ポイント、非耐久財消費は0.1ポイントとなった。一方、民間投資がマイナス2.2ポイントと最大の押し下げ要因となった。在庫投資のマイナス2.1ポイントが大きく影響した。5月のCPIは前年同月比4.0%上昇と大幅に鈍化したものの、コアPCE価格指数は2022年12月から横ばいの4.6%上昇となった。これを受け、FOMCは6月、政策金利の誘導目標を5.0~5.25%に据え置くことを決定し、6月の政策金利の実効レートは5.1%となった。ただし、これらの物価指数の上昇率は、依然として、FRBの物価誘導目標の2.0%を大きく上回っている。

貿易 
輸出入額ともに2年連続で過去最高、貿易赤字は過去最大に

米国商務省が2023年6月に発表した、2022年の貿易統計(国際収支ベース)によると、財貿易は、輸出が前年比18.4%増の2兆899億ドル、輸入が前年比14.9%増の3兆2,729億ドルで、いずれも2021年に続いて過去最高額を記録した。輸入の増加額(424億ドル)が輸出の増加額(324億ドル)を上回った結果、貿易赤字額は前年比9.2%増の1兆1,830億ドルとなり、併せて過去最高となった。

通関ベースで2022年の財輸出をみると、前年比17.5%増の2兆652億ドルとなった。財別(商務省分類)では、工業用原材料(構成比40.2%、8,308億ドル)が原油や重油、天然ガスなどエネルギーの輸出額の増大により、30.3%増となった。資本財(構成比27.7%、5,727億ドル)は電気機器、医療機器、通信機器の伸びを中心に9.9%増となったが、半導体は0.2%増とほぼ横ばいだった。消費財(構成比11.9%、2,457億ドル)は構成比の大きい医薬品や携帯電話・日用品、伸び率の高い玩具・ゲーム・スポーツ用品、家具・家庭用品等、繊維衣料品・日用品の増加によって押し上げられ、10.5%増となった。

表2 米国の主要品目別輸出入(通関ベース)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Customs Value:課税価格)
2021年 2022年 2023年1~5月 2021年 2022年 2023年1~5月
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 金額 構成比 伸び率 金額
食料品 164,476 179,906 8.7 9.4 71,069 182,131 208,315 6.4 14.4 83,642
工業用原材料 637,615 830,805 40.2 30.3 307,021 649,130 808,679 24.9 24.6 293,644
階層レベル2の項目原油 69,482 119,118 5.8 71.4 47,505 132,955 197,921 6.1 48.9 66,762
階層レベル2の項目重油 32,082 58,497 2.8 82.3 19,880 27,684 35,914 1.1 29.7 11,698
階層レベル2の項目天然ガス 40,143 63,076 3.1 57.1 18,786 10,153 16,457 0.5 62.1 6,578
階層レベル2の項目液化天然ガス 30,905 38,048 1.8 23.1 13,503 3,732 4,474 0.1 19.9 1,408
資本財 521,163 572,740 27.7 9.9 246,627 759,952 863,670 26.6 13.6 358,946
階層レベル2の項目半導体 66,312 66,458 3.2 0.2 23,667 69,539 77,696 2.4 11.7 31,136
階層レベル2の項目電気機器 42,939 49,226 2.4 14.6 21,986 68,879 89,121 2.7 29.4 40,511
階層レベル2の項目医療機器 39,845 42,834 2.1 7.5 19,535 59,073 56,807 1.8 △ 3.8 23,697
階層レベル2の項目通信機器 32,684 34,631 1.7 6.0 16,225 66,038 78,693 2.4 19.2 33,517
自動車・同部品等 146,417 159,654 7.7 9.0 72,890 345,738 398,869 12.3 15.4 183,911
消費財 222,324 245,692 11.9 10.5 110,713 767,412 841,580 26.0 9.7 322,616
階層レベル2の項目医薬品 83,174 89,313 4.3 7.4 43,854 171,327 189,792 5.9 10.8 81,502
階層レベル2の項目携帯電話・日用品 30,296 31,826 1.5 5.1 13,843 121,036 132,266 4.1 9.3 51,365
階層レベル2の項目玩具・ゲーム・スポーツ用品 10,899 12,351 0.6 13.3 4,622 57,076 59,926 1.8 5.0 20,644
階層レベル2の項目繊維衣料品・日用品 7,449 8,351 0.4 12.1 3,462 46,204 53,627 1.7 16.1 17,876
階層レベル2の項目家庭用電化製品 6,981 7,481 0.4 7.2 3,004 40,624 41,646 1.3 2.5 15,755
階層レベル2の項目家具・家庭用品等 4,831 5,474 0.3 13.3 2,187 47,479 50,543 1.6 6.5 16,633
その他 65,827 76,360 3.7 16.0 35,295 124,512 121,417 3.7 △ 2.5 54,315
合計 1,757,822 2,065,157 100.0 17.5 843,616 2,828,875 3,242,530 100.0 14.6 1,297,074

[注] 季節調整済み、伸び率は前年同期比。
[出所] 商務省統計から作成

財輸出を国・地域別にみると、最大の輸出相手国のカナダ(構成比17.3%、3,565億ドル)は15.1%増で、鉱物性燃料(HSコード27類、54.0%増)や自動車・同部品等(87類、15.7%増)の増加が全体を押し上げた。国別2位のメキシコ(構成比15.7%、3,243億ドル)は17.0%増で、鉱物性燃料(31.7%増)、電気機器(85類、14.8%増)、一般機械(84類、13.7%増)がけん引した。カナダおよびメキシコのUSMCA(構成比33.0%)では、6,808億ドルで前年比16.0%増となった。3位の中国(構成比7.5%、1,540億ドル)は1.7%増で、種子類(12類、25.8%増)、医薬品(30類、39.3%増)が増加した一方、鉱物性燃料(14.3%減)、電気機器(17.6%減)は減少し、全体として微増となった。4位の日本(構成比3.9%、802億ドル)は7.3%増だった。5位の英国(構成比3.7%、762億ドル)は23.6%増で、鉱物性燃料(2.3倍)、航空機・同部品(88類、32.8%増)が押し上げた一方、貴金属(71類、19.5%減)が押し下げた。

EU(構成比17.0%、3,508億ドル)は28.8%増で、鉱物性燃料(2.4倍)が押し上げた。特に、オランダ(243億ドル、倍増)、フランス(150億ドル、3.4倍)、スペイン(120億ドル、2.7倍)、イタリア(77億ドル、2.3倍)、ベルギー(37億ドル、2.3倍)が大幅に増加した。これ以外ではスペインへの医薬品(50億ドル、39.2%増)が増加した一方、ベルギーへの医薬品(32億ドル、37.6%減)、自動車・同部品等(23億ドル、31.2%減)が減少した。

表3 米国の国・地域別輸出入(通関ベース)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Customs Value:課税価格)
2021年 2022年 2023年1~5月 2021年 2022年 2023年1~5月
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 金額 構成比 伸び率 金額
北米
階層レベル2の項目USMCA 586,682 680,762 33.0 16.0 279,403 739,868 891,336 27.5 20.5 370,441
階層レベル3の項目カナダ 309,604 356,453 17.3 15.1 146,240 357,280 436,562 13.5 22.2 175,494
階層レベル3の項目メキシコ 277,078 324,310 15.7 17.0 133,163 382,589 454,775 14.0 18.9 194,947
欧州
階層レベル2の項目EU 272,278 350,791 17.0 28.8 155,730 490,587 553,266 17.1 12.8 236,734
階層レベル3の項目ベルギー 33,711 35,810 1.7 6.2 18,478 21,470 26,618 0.8 24.0 9,051
階層レベル3の項目フランス 29,898 46,025 2.2 53.9 18,384 50,144 57,304 1.8 14.3 23,691
階層レベル3の項目ドイツ 65,308 72,553 3.5 11.1 32,159 134,847 146,630 4.5 8.7 66,946
階層レベル3の項目アイルランド 13,734 16,011 0.8 16.6 7,319 73,861 82,569 2.5 11.8 31,673
階層レベル3の項目イタリア 21,682 27,713 1.3 27.8 11,485 60,998 69,075 2.1 13.2 29,280
階層レベル3の項目オランダ 53,195 73,207 3.5 37.6 33,018 35,155 34,549 1.1 △ 1.7 15,920
階層レベル2の項目英国 61,666 76,208 3.7 23.6 33,391 56,266 63,952 2.0 13.7 26,309
階層レベル2の項目スイス 23,621 36,727 1.8 55.5 11,938 63,515 59,404 1.8 △ 6.5 24,851
階層レベル2の項目ロシア 6,386 1,663 0.1 △ 74.0 297 29,638 14,438 0.4 △ 51.3 2,433
アジア
階層レベル2の項目中国 151,432 154,012 7.5 1.7 62,366 504,286 536,307 16.5 6.3 168,631
階層レベル2の項目日本 74,736 80,180 3.9 7.3 31,240 134,833 148,064 4.6 9.8 59,434
階層レベル2の項目韓国 65,864 72,116 3.5 9.5 26,507 95,097 115,394 3.6 21.3 46,368
階層レベル2の項目台湾 36,833 44,242 2.1 20.1 16,331 77,032 91,725 2.8 19.1 34,096
階層レベル2の項目シンガポール 35,383 46,177 2.2 30.5 16,528 29,610 31,606 1.0 6.7 16,440
階層レベル2の項目マレーシア 15,169 18,195 0.9 20.0 7,014 56,072 54,201 1.7 △ 3.3 19,261
階層レベル2の項目タイ 12,647 15,818 0.8 25.1 6,610 47,361 58,654 1.8 23.8 23,121
階層レベル2の項目ベトナム 11,020 11,356 0.5 3.0 4,123 101,916 127,481 3.9 25.1 43,535
階層レベル2の項目インドネシア 9,381 9,802 0.5 4.5 4,244 27,047 34,545 1.1 27.7 11,819
階層レベル2の項目フィリピン 9,281 9,331 0.5 0.5 3,692 13,994 16,155 0.5 15.4 5,429
階層レベル2の項目インド 39,988 47,160 2.3 17.9 16,545 73,308 85,537 2.6 16.7 35,582
階層レベル2の項目オーストラリア 26,458 30,552 1.5 15.5 13,321 12,452 16,171 0.5 29.9 6,714
中南米
階層レベル2の項目ブラジル 46,917 53,841 2.6 14.8 18,750 31,237 38,915 1.2 24.6 14,581
階層レベル2の項目チリ 17,322 22,257 1.1 28.5 8,501 15,062 15,568 0.5 3.4 7,726
階層レベル2の項目コロンビア 16,766 20,819 1.0 24.2 7,251 13,176 18,485 0.6 40.3 6,661
アフリカ 26,718 30,677 1.5 14.8 12,043 37,626 41,816 1.3 11.1 16,420
合計(その他含む) 1,757,822 2,065,157 100.0 17.5 837,544 2,828,875 3,242,530 100.0 14.6 1,262,801

[注] 2023年1月~4月の数値は季節調整前(表2と合致しない場合がある)。
[出所] 商務省統計から作成

2022年の財輸入(通関ベース)は、前年比14.6%増の3兆2,425億ドルとなった。財別(商務省分類)では、資本財(構成比26.6%、8,637億ドル)が13.6%増、消費財(構成比26.0%、8,416億ドル)が9.7%増、工業用原材料(構成比24.9%、8,087億ドル)が24.6%増となった。

財輸入を国・地域別にみると、最大の輸入相手国の中国(構成比16.5%、5,363億ドル)は6.3%増で、電気機器(1,410億ドル、8.4%増)や医薬品(103億ドル、3.1倍)が押し上げた。2位のメキシコ(構成比14.0%、4,548億ドル)は18.9%増で、自動車・同部品等(1,111億ドル、19.0%増)、一般機械(862億ドル、21.8%増)、電気機器(792億ドル、13.6%増)、鉱物性燃料(260億ドル、63.7%増)が押し上げた。3位のカナダ(構成比13.5%、4,366億ドル)は22.2%増で、鉱物性燃料(1,559億ドル、50.4%増)が大幅に増加した。4位の日本(構成比4.6%、1,481億ドル)は9.8%増で、2021年に4位だったドイツを上回った。

EU(構成比17.1%、5,533億ドル)は12.8%増で、医薬品や自動車・同部品等が押し上げた。EU内をみると、ドイツ(構成比4.5%、1,466億ドル)が8.7%増で、医薬品(178億円、19.3%減)は減少したものの、自動車・同部品等(279億ドル、24.2%増)、一般機械(292億ドル、8.7%増)が増え、全体では増加した。ドイツ以外では、ベルギーの医薬品(101億ドル、40.3%増)、フランスの医薬品(34億ドル、28.3%増)、アイルランドの有機化学品(29類、244億ドル、41.3%増)、医薬品(324億ドル、12.5%増)の輸入が増加した。

2023年の貿易額は減少し、貿易赤字も減少の傾向

2023年1~5月の財貿易(季節調整済み、通関ベース)は、輸出が前年同期比1.0%増の8,436億ドル、輸入が5.6%減の1兆2,971億ドルとなった。輸出額が82億ドル増加し、輸入額が773億ドル減少したことから、貿易赤字額は前年同期の5,390億ドルから4,535億ドルに減少した。

財別(商務省分類、季節調整済み)でみると、輸出では資本財(2,466億ドル、5.8%増)、自動車・同部品等(729億ドル、14.6%増)、医薬品(439億ドル、20.2%増)が押し上げ要因となった。一方、資本財の中で半導体(237億ドル、15.8%減)、工業用原材料の中で天然ガス(188億ドル、15.0%減)や液化天然ガス(135億ドル、19.8%減)が押し下げ要因となった。2023年1~5月の国別輸出額(季節調整前)をみると、欧州が増加に寄与した。オランダ(330億ドル、17.7%増)、英国(334億ドル、10.7%増)、ドイツ(322億ドル、8.6%増)では、鉱物性燃料が主要な押し上げ要因となった。中国でも、鉱物性燃料が82.2%増と増加に寄与したが、穀物(10類、58.2%減)、一般機械(18.9%減)、電気機器(31,7%減)が大幅に減少し、全体として3.5%増にとどまった。特に一般機械では、集積回路(8542項)が50.4%減、電気機器では半導体製造装置(8486項)が46.9%減と減少に寄与した。カナダとメキシコはそれぞれ1.6%増、1.0%増と微増した。

輸入では、自動車・同部品等(1,839億ドル、13.3%増)が全体を押し上げた一方、消費財(3,226億ドル、13.3%減)や工業用原材料(2,936億ドル、15.1%減)が押し下げた。国別では、2022年の最大の輸入相手国だった中国が24.3%減の1,686億ドルとなり、メキシコ(1,949億ドル、5.6%増)とカナダ(1,755億ドル、3.2%減)を下回った。中でも、電気機器(17.0%減)や一般機械(19.8%減)が減少に寄与し、特にスマートフォン(851713号、21.2%減)や10キログラム以下のノートパソコン(847130号、20.9%減)が減少した。このほかベトナム(16.8%減)やロシア(76.8%減)も、輸入の押し下げ要因となった。

対内・対外直接投資 
対内直接投資は前年比減も、半導体やEV関連で大型投資

2022年の米国の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー。対外投資も同様)は、前年比12.0%減の3,451億ドルだった。国・地域別にみると、欧州が12.5%減の2,193億ドル(寄与度マイナス8.0ポイント)と全体を押し下げた。このうち、アイルランドが80.9%減の80億ドル、ドイツが43.9%減の301億ドル、英国が17.3%減の582億ドルだった。一方、フランスは31.3%増の210億ドル、スイスは4.2倍の161億ドルだった。アジア大洋州は39.4%減の453億ドル(寄与度マイナス7.5ポイント)となり、中でも日本が大きく減少した。中国は65億ドルの引き揚げ超過だった前年に引き続き、13億ドルの引き揚げ超過だった。カナダは18.7%増の550億ドル、中南米は20.8%増の232億ドルだった。

表4 米国の国・地域別対内直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年 2022年末 2022年末
(UBOベース)*
フロー フロー 前年比 残高 前年比 残高 構成比
欧州 250,558 219,286 △ 12.5 3,396,499 4.4 2,907,614 5.4
階層レベル2の項目英国 70,322 58,155 △ 17.3 663,369 6.4 660,570 7.1
階層レベル2の項目オランダ 35,396 36,032 1.8 617,076 2.3 212,400 △ 1.6
階層レベル2の項目ドイツ 53,624 30,108 △ 43.9 431,449 6.5 618,814 3.7
階層レベル2の項目フランス 15,973 20,975 31.3 297,637 5.6 360,165 6.6
階層レベル2の項目スイス 3,836 16,111 320.0 307,231 2.3 227,377 △ 1.1
階層レベル2の項目スウェーデン 16,268 14,982 △ 7.9 94,146 19.4 97,867 26.3
階層レベル2の項目ルクセンブルク 6,644 11,536 73.6 323,661 0.3 39,909 32.4
階層レベル2の項目アイルランド 42,223 8,044 △ 80.9 295,001 0.2 344,048 4.0
階層レベル2の項目ノルウェー 2,134 5,770 170.4 36,872 12.3 37,430 12.3
階層レベル2の項目デンマーク 1,078 5,591 418.6 39,428 15.8 40,071 15.0
階層レベル2の項目イタリア 3,240 5,446 68.1 39,752 16.3 46,181 15.1
アジア大洋州 74,725 45,249 △ 39.4 1,002,087 3.1 1,128,107 2.6
階層レベル2の項目日本 62,721 27,598 △ 56.0 711,963 1.5 775,247 0.8
階層レベル2の項目オーストラリア 8,659 6,076 △ 29.8 106,519 8.8 111,660 8.7
階層レベル2の項目シンガポール 1,512 5,346 253.6 36,880 23.4 57,527 19.2
階層レベル2の項目韓国 9,565 4,687 △ 51.0 74,696 5.8 74,620 6.6
階層レベル2の項目中国 △ 6,452 △ 1,294 28,659 △ 7.2 44,786 △ 5.4
カナダ 46,289 54,945 18.7 589,288 7.3 683,798 8.7
中南米 19,237 23,238 20.8 211,876 0.8 198,238 △ 5.8
階層レベル2の項目メキシコ 5,965 5,012 △ 16.0 33,787 21.5 54,049 12.2
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 6,362 7,621 19.8 97,739 △ 4.0 27,788 △ 1.6
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 2,176 7,032 223.2 35,008 △ 8.4 38,779 △ 18.0
アフリカ 834 611 △ 26.7 11,160 6.8 7,610 20.2
中東 491 1,809 268.4 43,907 4.6 77,673 2.4
合計(その他含む) 392,134 345,138 △ 12.0 5,254,816 4.3 5,254,816 4.3

〔注〕(1)フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
(2)英領カリブ海諸島は、アンギラ、英領バージン諸島、ならびにモントセラトの合計値。
(3)*投資主体を最終的に所有またはコントロールしている事業体〔最終的な実質所有者(UBO:Ultimate Beneficial Owner)〕が所在する国を基準とした集計値。
〔出所〕商務省統計から作成

業種別では、製造業が前年比28.7%減の1,429億ドルで、寄与度はマイナス14.6ポイントだった。中でも、化学が66.1%減の316億ドルだった。非製造業では、マイナスの寄与度が大きい順に、不動産業が62.0%減の136億ドル、小売業が59.2%減の135億ドル、預金取扱機関を除く金融・保険業が36.6%減の189億ドルだった。他方、卸売業は64.5%増の468億ドル、情報通信業は50.2%増の276億ドル、銀行業は44億ドルの引き揚げ超過だった前年から102億ドルに増加した。

2023年第1四半期は、前期比53.4%増の1,042億ドルだった。国・地域別にみると、カナダが5.9倍の487億ドル、アジア大洋州が22.5%増の154億ドルだった。中でも、日本が43.8%増の119億ドルと押し上げた。一方で、欧州は7.0%減の377億ドル、中南米は60.4%減の23億ドルだった。

M&Aでは、情報通信業の取引額が大きかった。デジタルインフラに投資を行う米国のデジタルブリッジとオーストラリアのIFMインベスターズは2022年12月、データセンター企業のスイッチを105億ドルで買収した。スウェーデンの通信機器大手エリクソンは2022年7月、クラウドサービスを手掛けるボネージを61億ドルで買収した。一方、資産規模全米38位(2022年12月末時点)のファースト・ホライズン銀行は、2022年2月にカナダのトロント・ドミニオン(TD)銀行から134億ドルで買収されると発表していたが、規制当局による承認のめどが立たないことを理由に、2023年5月に買収中止を発表した。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が2023年3月に、ファースト・リパブリック銀行が同年5月に経営破綻したことなどから、米国では規制当局による金融セクターへの監督と規制強化が検討されている。

表5-1 米国企業が関わるクロスボーダーM&A取引額上位5社(2022年に取引成立した案件)
対内
買収企業 国・地域 被買収企業 国・地域 被買収企業の業種 取引額 完了日
デジタルブリッジ、IFMインベスターズ 米国、オーストラリア スイッチ 米国 情報通信 105億ドル 2022年12月
ブルックフィールド・アセット・マネジメント カナダ CDKグローバル 米国 ITコンサルティング 83億ドル 2022年7月
レントキル・イニシャル 英国 ターミニクス・グローバル 米国 サービス 74億ドル 2022年10月
エリクソン スウェーデン ボネージ 米国 情報通信 61億ドル 2022年7月
ブルックフィールド・アセット・マネジメント カナダ サイエンティフィック・ゲームズ 米国 サービス 61億ドル 2022年4月
表5-2 米国企業が関わるクロスボーダーM&A取引額上位5社(2022年に取引成立した案件)
対外
買収企業 国・地域 被買収企業 国・地域 被買収企業の業種 取引額 完了日
S&Pグローバル 米国 IHSマークイット 英国 ITコンサルティング 435億ドル 2022年2月
ブロック(旧スクエア) 米国 アフターペイ オーストラリア 金融 277億ドル 2022年1月
ゴアズ・グッゲンハイム 米国 ポールスター・パフォーマンス 香港 自動車、自動車部品 197億ドル 2022年6月
ブラックロック・リアル・アセッツ 米国 アラムコ・ガス・パイプラインズ サウジアラビア 石油・ガス 155億ドル 2022年2月
パーカー・ハネフィン 米国 メギット 英国 航空宇宙 98億ドル 2022年9月

〔注〕 ワークスペース(2023年7月13日時点)データ、各発表・報道から作成

グリーンフィールド投資では、半導体やEVに関連する大規模投資が複数みられた。2022年8月に成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)では半導体に関連する対米投資への助成制度が設けられ、同月に成立したインフレ削減法(IRA)ではEV購入時の税額控除において米国内での生産や調達割合を高めるような要件が設定されている。台湾積体電路製造(TSMC)は、2022年11月に280億ドルを追加投資し、アリゾナ州に半導体の第2工場を新設すると発表した。TSMCは、2020年5月にも120億ドルを投じて同州に半導体工場を建設すると発表していた。TSMCのサプライヤーの長春グループが2022年10月に同州での工場新設を発表するなど、台湾企業による米国進出が続いている。EV関連では、韓国の現代自動車グループが2022年5月に、ジョージア州へ55億ドルを投じてEVとバッテリー工場を新設すると発表した。同じく韓国のLG化学は2022年11月に、テネシー州へ32億ドルを投じ、バッテリー材料の正極材の工場を新設すると発表した。これらは、いずれも2025年の生産開始を見込んでいる。

対外直接投資は前年比増、新型コロナ禍に拡大した分野で再編

米国の2022年の対外直接投資は、前年比32.3%増の3,659億ドルだった。国・地域別にみると、欧州ではオランダが2.4倍の675億ドル、英国が48.6%増の858億ドルとプラスに寄与した。アジア大洋州は3.2倍の626億ドルで、寄与度はプラス15.5ポイントだった。中でも、シンガポールが倍増の348億ドル、中国は11億ドルの引き揚げ超過だった前年から120億ドルとなった。そのほか、カナダは40.7%増の491億ドル、中南米は2.7倍の654億ドルだった。一方、欧州は全体では3.3%減の1,883億ドルで、寄与度はマイナス2.3ポイントとなり、押し下げ要因になった。特に、アイルランドが77.6%減の111億ドルとなり、ルクセンブルクは158億ドルだった前年から130億ドルの引き揚げ超過だった。

表6 米国の国・地域別対外直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年 2022年末
フロー フロー 前年比 残高 前年比
欧州 194,760 188,339 △ 3.3 4,026,811 4.5
階層レベル2の項目英国 57,754 85,842 48.6 1,077,519 4.9
階層レベル2の項目オランダ 28,664 67,508 135.5 944,604 11.0
階層レベル2の項目ドイツ 15,340 13,855 △ 9.7 190,237 9.0
階層レベル2の項目アイルランド 49,472 11,102 △ 77.6 574,323 6.9
階層レベル2の項目フランス 241 6,584 2,632.0 112,017 4.0
階層レベル2の項目スイス 8,140 2,537 △ 68.8 212,235 △ 3.7
階層レベル2の項目ノルウェー 11,172 586 △ 94.8 13,484 △ 14.7
階層レベル2の項目ルクセンブルク 15,839 △ 13,034 605,304 △ 1.8
アジア大洋州 19,789 62,581 216.2 951,153 0.0
階層レベル2の項目シンガポール 17,123 34,756 103.0 309,441 8.7
階層レベル2の項目中国 △ 1,088 12,021 126,104 9.0
階層レベル2の項目インド 2,158 8,217 280.8 51,553 15.1
階層レベル2の項目日本 5,905 7,104 20.3 77,489 △ 29.3
カナダ 34,889 49,100 40.7 438,766 10.1
中南米 24,102 65,412 171.4 1,037,998 △ 0.1
階層レベル2の項目メキシコ 10,737 16,031 49.3 130,274 7.6
階層レベル2の項目ブラジル 1,766 7,555 327.8 80,963 12.0
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 29,708 20,937 △ 29.5 430,395 1.1
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 △ 17,326 14,402 206,389 △ 12.7
アフリカ △ 119 1,340 46,169 2.5
中東 3,059 △ 915 80,148 △ 1.0
合計(その他含む) 276,482 365,857 32.3 6,581,044 3.3

〔注〕(1)フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
(2)英領カリブ海諸島は、アンギラ、英領バージン諸島、ならびにモントセラトの合計値。
〔出所〕商務省統計から作成

業種別では、製造業が前年比77.2%増の913億ドルで、寄与度はプラス14.4ポイントだった。中でも、コンピュータ・電子機器が2.5倍の290億ドルと大きく増加した。非製造業では、寄与度が大きい順に、情報通信業が3.7倍の799億ドル、鉱業が3.4倍の192億ドル、ノンバンクの持ち株会社が14.3%増の916億ドルだった。一方で、卸売業は87.7%減の25億ドル、預金取扱機関を除く金融・保険業は31.2%減の325億ドルと減少した。

2023年第1四半期は、前期比28.5%増の1,008億ドルだった。国・地域別にみると、欧州が55.8%増の424億ドル、中南米が4.8%増の280億ドル、アジア大洋州が57.3%増の213億ドルだった。カナダは35.9%減の73億ドルだった。

M&Aでは、新型コロナ禍を機に市場が急拡大した分野で事業再編の動きがあった。決済サービス企業のブロック(旧スクエア)は2022年1月、後払い決済サービスを提供するオーストラリアのアフターペイを277億ドルで買収した。フードデリバリーサービス大手のドアダッシュは2022年6月に、フィンランドのウォルトを81億ドルで買収した。

グリーンフィールド投資では、アマゾンウェブサービス(AWS)が2022年11月、59億ドルを投じて、スイスにデータセンターを新設すると発表した。ファイザーは2022年12月、計25億ドル超を投じて、アイルランドとベルギーの自社工場を拡張すると発表した。テスラは2023年3月に、メキシコにEV工場を新設すると発表している。同社にとって、米国(カリフォルニア州・テキサス州)、中国、ドイツに次ぐ5カ所目のEV工場となる。

通商政策 
労働者中心の政策を継続

2021年1月に発足したバイデン政権は、一貫して労働者中心の通商政策を掲げている。米国通商代表部(USTR)は2023年3月、連邦議会に対して「2023年の通商政策課題と2022年の年次報告」を提出した。同報告書には、2022年と同様、「労働者に力を与えるため、通商を利用する」との記述がある。バイデン政権は「米国の労働者と地域社会に投資した後でなければ、新たな通商交渉には着手しない」との方針を継続しており、労働者中心の通商政策が新たな自由貿易協定(FTA)の締結などにも影響を与えている。通商交渉の権限を大統領に付与する大統領貿易促進権限(TPA)は、2021年7月に失効したまま復活していない。

米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)で定められた規則の執行は、競争環境の整備に必要な優先事項と位置付けられている。同協定の「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」は、在メキシコ事業者による労働権侵害への対処を念頭に置いた手続きだ。RRMの利用は、2023年に入り急増した。2020年7月のUSMCA発効以降、RRMの利用件数は2023年7月時点で11件に上り、このうち2023年中の利用が6件を占める。

政府調達では、雇用や国内生産の拡大を目的に、米国製の重要製品・素材を優遇するバイ・アメリカン政策が強化された。バイデン政権は2022年3月に、連邦調達規則の改正に関する最終規則を発表し、同年10月に施行した。これにより、国内調達要求の基準比率は、これまでの55%から2022年10月25日~2023年末まで60%になり、2024~2028年には65%、2029年以降は75%に引き上げられる。

また、米国商務省国際貿易局(ITA)は2023年5月、アンチダンピング税(AD)と補助金相殺関税(CVD)の執行強化に関する規則案を公示した。ITAはこれら貿易救済措置を回避する迂回貿易の防止に焦点に当て、国内産業および労働者への悪影響を抑制しようとしている。そのほか、開発途上国向けに輸入関税を一部免除する一般特恵関税制度(GSP)は2020年末に失効しており、更新時期は依然として不透明な状況だ。

FTAに代わる複数国間の通商協定が進展

バイデン政権は、同盟国との連携や国際協調を重視しており、通商政策でも同様の方針を維持している。米国が主導し2022年5月に立ち上げが宣言されたインド太平洋経済枠組み(IPEF)では、参加14カ国が貿易、サプライチェーン、クリーン経済、公正な経済の4つの柱について交渉を進めている。ただし、インドは貿易の柱に参加していない。2023年5月、サプライチェーン協定交渉が実質的に妥結した。バイデン政権は参加国と協力して、サプライチェーンの強靭化や労働権侵害への対処に取り組む方針だ。IPEFに参加していない台湾とは、2023年6月に21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブにおける第1段階の協定に署名した。同協定では、税関手続きと貿易円滑化、良き規制慣行、サービスの国内規制、反腐敗、中小企業の5分野で合意が交わされた。

バイデン政権が2023年1月に米州11カ国と立ち上げた経済繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)も、複数国間の取り組みを重視している表れだ。交渉の開始時期や妥結の目標時期は、2023年7月時点でいまだ明らかになっていないが、有志国の拡大も見据えながら、米州各国との関係を強化しようとしている。

EUとの間では、2021年6月に設立した米EU貿易技術評議会(TTC)が、新興技術や各種通商課題について両者の協力を深める枠組みとなっている。10の作業部会で協議が行われており、第2回(2022年5月)と第3回(同年12月)の閣僚会議では、人工知能(AI)に関する技術標準や半導体サプライチェーン分野での協力が主題となった。第3回閣僚会議では「信頼できるAIの開発・運用に向けた共同ロードマップ」が示され、第4回閣僚会議(2023年5月)では、その中でも生成AIを重点課題とすることで合意に至った。両者はTTCを通じて、経済安全保障、第6世代移動通信システム(6G)、データ政策、クリーンエネルギー政策などでも協調していく方針だ。

そのほか、複数国間の取り組みとして、2022年11月にASEAN・米国包括的戦略パートナーシップが立ち上げられた。両者は、2022年5月の米国・ASEAN特別サミットで示した8つの柱について連携を強化する。 ジェイク・サリバン大統領補佐官は2023年4月に行った講演で、FTAの限界を指摘し、今日の課題を解決する「現代の貿易協定」を追求すべきと主張した。バイデン政権は市場アクセスを伴わない通商協定を通じて、労働、環境、デジタル化などの課題を解決しようとしている。

国際協調を重視し個別の通商課題に対応

国際協調を重視する政策は、個別の通商課題への対応でも見て取れる。バイデン政権は、トランプ前政権下から継続していた1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品の輸入に対する追加関税について、対EUで2022年1月から、対英国および日本で4月から、一定数量まで追加関税を課さないとする関税割当制度(TRQ)を導入した。日本との関係では、日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)などを通じて、半導体、輸出管理、デジタルに加え、バイオ・量子分野でも協力を深化させようとしている。また、インフレ削減法(IRA)に基づく電気自動車(EV)購入者に対する税額控除の車両要件では、バッテリーに含まれる重要鉱物の採取または加工が一定割合、米国または米国のFTA締結国で実施される必要がある。バイデン政権は2023年3月に締結した「日米重要鉱物サプライチェーン強化協定」をIRA上のFTAと位置付け、日本をこれに含めた。EVの税額控除要件に関しては、米国とFTAを締結していない同盟国やパートナー国から懸念の声が上がっており、これらの諸国を排除しないかたちで運用するため、各国・地域と交渉を続けている。また、2022年10月に立ち上げられた技術とデータに関する米英包括対話や、2023年1月に第1回会合が開催された米印重要新興技術イニシアチブ(iCET)は、関係強化を図る国々と新設した枠組みだ。

バイデン政権による国際協調重視の姿勢は、ウクライナ情勢を巡るロシアへの対応にも表れている。例えば、2022年5月、G7首脳はロシア産原油の輸入を段階的に廃止または禁止することで合意した。それ以降も、米国がロシアの金融機関、輸出産品、政府高官などに対する各種制裁を主導し、日本を含む主要諸国はこれに足並みをそろえている。

輸出管理の対象を拡大

米国は2019年以降、バイデン政権発足後も継続して、安全保障貿易管理を強化している。輸出管理の分野では、所管する米国商務省産業安全保障局(BIS)が、輸出管理規則(EAR)に基づく規制を拡大しており、中でもエンティティー・リスト(EL)を積極的に利用している。ELには「米国の安全保障および外交政策上の利益に反する事業体や大量破壊兵器を拡散する恐れがある事業体」が掲載される。企業はELに追加された事業体へ米国製品を輸出、再輸出または国内移転する場合、通常は事前許可が不要な品目であっても、BISの許可を得る必要がある。BISは2023年3月、人権保護という外交政策上の利益も、ELに追加する際の根拠にするとして、EARの改定を発表した。BISはこれまでも人権侵害を理由に、外国の事業体をELに追加してきたが、EARに記すことでその位置づけを明確化した。また、BISは2022年6月に、EARの執行強化に向けて規則を変更し、国家安全保障に深刻なリスクをもたらす違反への罰則強化と、リスクの低い案件の審査迅速化を図っている。

2023年3月には、輸出管理と人権イニシアチブ(ECHRI)に関する行動規範が策定された。ECHRIは、米国、オーストラリア、デンマーク、ノルウェーの4カ国が2021年12月に立ち上げた枠組みで、今回策定された行動規範には、米国や日本を含む24カ国が参加した。行動規範は自主的かつ非拘束的だが、軍事と民生の双方で使用可能なデュアルユース製品が人権侵害に用いられないように各国間で協力を図る。

中国を念頭に、重要製品の輸出やサプライチェーンの管理を強化

輸出管理を含め、中国を念頭に置いたバイデン政権の政策は、厳格化の一途をたどっている。第一に、トランプ前政権が2018年に発動した1974年通商法301条に基づく追加関税(301条関税)は、バイデン政権下の2023年7月時点でも依然として継続している。USTRは2022年9月に301条関税の見直しに着手した一方、当該措置の継続を明らかにした。

2022年10月に公表された半導体関連製品のEARを強化する暫定最終規則は、先端半導体などの分野で中国の製造能力の抑制を意図したものだ。BISは同規則を通じて、先端コンピューティングとスーパーコンピューターに関する外国直接製品(FDP)ルールを導入し、先端のロジック半導体またはメモリー半導体を製造する中国内の施設に対して最終用途規制を設けた。半導体の開発や生産の支援につながる米国人の行動も規制対象となったことで、中国の半導体産業に大きな影響を与えている。また、バイデン政権は2022年8月、米国内の半導体産業への投資拡大を目的に、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)を成立させた。同法に基づく補助金プログラムは3段階に分かれており、2023年7月時点で公表されている第1弾と第2弾のガイダンスは、資金援助の受益者に対して、ガードレール条項の順守を求めている。すなわち、受益者は資金受領日から10年間、中国を含む懸念国での特定の投資を制限される。

前述のIRAに基づくEV購入者に対する税額控除の車両要件の下では、バッテリー部品の製造または組み立てが2024年から、バッテリーに含まれる重要鉱物の採取または加工が2025年から、懸念される外国の事業体の関与が認められなくなる。懸念される外国の事業体の定義は2023年中に公表される予定で、いまだ不明確だが、懸念される外国は中国、ロシア、イラン、北朝鮮などを指している。バイデン政権は米国市場で販売されるEVのバッテリーおよび重要鉱物の分野でも、中国依存からの脱却を志向している。

半導体、(大容量)バッテリー、重要鉱物はいずれも、2021年2月の米国のサプライチェーンに関する大統領令で指定された、米国のサプライチェーン強靭化にとって特に重要な製品であり、米国内、同盟国またはパートナー国からの安定調達が図られている。このような動きは、BISが2022年9月に、1962年通商拡大法232条に基づく調査報告書を公表したネオジム磁石にも当てはまる。BISはネオジム磁石の供給を中国からの輸入に依存していることなどから、国家安全保障を損なう恐れがあると認定した。他方で、バイデン政権はこれに対し、トランプ前政権のように追加関税を一律に課すのではなく、同盟国と連携して供給源を多角化しようと取り組んでいる。

UFLPAの執行範囲を拡大

輸入規制の分野では、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)が2022年6月に施行され、中国の新疆ウイグル自治区が関与する製品の輸入が原則禁止となった。米国税関・国境警備局(CBP)が2023年1月に公表したデータによると、UFLPAに基づく輸入の差し止めは、2022年6~9月のみで1,592件(総額約5億ドル相当)に上り、同会計年度(2021年10月~2022年9月)における差し止め件数全体の約4割を占めた。2022年6月に公表されたUFLPA戦略では、優先的に法執行すべき分野として、アパレル製品、綿・綿製品、ポリシリコンを含むシリカ系製品、トマトおよびその派生製品が挙げられていた。その後、CBPは2023年1月の主催ウェビナーで、レッドデーツやポリ塩化ビニル(PVC)を優先分野に追加したと述べるなど、UFLPAに基づく執行の範囲を広げている。さらに、ロン・ワイデン上院財政委員長が自動車のサプライチェーンと新疆ウイグル自治区の関係について、2022年12月に大手自動車メーカーへ、2023年3月に大手自動車メーカーと同部品メーカーへ質問状を送付した。人権侵害を理由とする輸入規制の強化に向けた取り組みは、バイデン政権のみならず連邦議会でも加速している。

輸入規制に関連して、中国の華為技術(ファーフェイ)、中興通訊(ZTE)、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファが製造した通信機器などの輸入・販売に関する認証を禁じる行政命令が、米国連邦通信委員会(FCC)によって2022年11月に出された。FCCは、当該行政命令を国家安全保障上の脅威から米国民を守るための措置と強調している。

CFIUSの執行などに関するガイドライン策定、対外投資規制の動きも

投資規制の分野では、外国企業の対米投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)について、財務省が2022年10月にCFIUSの執行と罰則に関する初めてのガイドラインを公表した。ジョー・バイデン大統領は同年9月に、CFIUSが重点的にフォローすべき分野と要因を特定した大統領令を発出しており、対内投資審査の焦点や手続きを明確化する動きが進んでいる。

また、財務省と商務省は、米国企業による外国投資を制限する対外投資規制を検討している。両省は2023年3月、連邦議会に提出した報告書の中で、懸念国の軍事技術を高める恐れのある対外投資に対する規制を検討中であり、最終的な政策の内容は、近い将来に公表予定と説明した。このような規制が実施されると、国家安全保障を理由とする米国の施策がまた一歩進むことになる。

対日関係 輸出は過去最大、2023年1月以降は輸出・輸入とも減少

2022年の対日貿易は、輸出が前年比7.3%増の802億ドル、輸入が9.8%増の1,481億ドルだった。輸出は2021年に続いて過去最大となり、輸入も2006年に次ぐ金額だった。対日貿易赤字額は12.5%増の679億ドルだった。輸出では、他の主要国と同じく、鉱物性燃料(構成比16.6%、133億ドル)が14.8%増、医薬品(構成比8.2%、654億ドル)が26.0%増、有機化学品(構成比4.2%、339億ドル)が29.9%増と押し上げ要因となった。一方で、航空機・同部品(構成比4.5%、36億ドル)が18.1%減と押し下げに寄与した。輸入では、一般機械(構成比25.4%、376億ドル)が16.7%増、自動車・同部品等(構成比29.5%、437億ドル)が3.4%増となった。2023年1~5月は、輸出が前年同期比5.6%減の312億ドル、輸入が4.2%減の594億ドルだった。対日貿易赤字額は前年同期比2.7%減の282億ドルとなった。

表7 米国の対日主要品目別輸出入(通関ベース)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Custom value:課税価格)
2021年 2022年 2023年1~5月 2021年 2022年 2023年1~5月
HSコード 金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 金額 構成比 伸び率 金額
食肉 2 3,906 3,598 4.5 △ 7.9 1,332 93 71 0.0 △ 23.4 44
穀物 10 4,217 4,265 5.3 1.1 1,753 5 9 0.0 61.3 5
鉱物性燃料 27 11,587 13,299 16.6 14.8 4,576 607 1,190 0.8 96.1 357
有機化学品 29 2,606 3,385 4.2 29.9 1,147 1,748 1,956 1.3 11.9 680
医薬品 30 5,190 6,541 8.2 26.0 2,838 5,972 6,993 4.7 17.1 3,143
各種の化学工業製品 38 1,708 2,129 2.7 24.6 792 2,902 3,646 2.5 25.6 1,564
プラスチック製品 39 1,843 1,974 2.5 7.1 778 2,442 2,700 1.8 10.6 993
ゴム・その製品 40 221 298 0.4 35.2 94 2,045 2,686 1.8 31.3 1,071
宝石・貴金属 71 2,952 3,152 3.9 6.8 884 470 766 0.5 62.9 245
一般機械 84 6,402 6,432 8.0 0.5 2,407 32,217 37,613 25.4 16.7 14,889
電気機器 85 4,392 4,668 5.8 6.3 1,747 18,946 19,923 13.5 5.2 7,923
自動車・同部品等 87 1,500 1,410 1.8 △ 6.0 731 42,254 43,704 29.5 3.4 17,840
航空機・同部品 88 4,447 3,640 4.5 △ 18.1 2,021 1,299 1,134 0.8 △ 12.7 570
光学機器・医療機器 90 6,890 7,156 8.9 3.9 3,106 7,196 7,342 5.0 2.0 2,825
合計(その他を含む) 74,736 80,180 100.0 7.3 31,240 134,833 148,064 100.0 9.8 59,434

[出所] 商務省統計から作成

半導体関連分野で日本企業の対米投資が相次ぐ

2022年の日本からの対米投資額は、前年比56.0%減の276億ドルだった。個別案件をみると、バイオや半導体産業での投資が複数みられた。バイオ分野では、大鵬薬品工業が2022年5月に、抗がん剤を開発するため、バイオ製薬企業のカリナンパールを最大4億500万ドルで買収すると発表した。武田薬品工業も2022年12月に、免疫介在性疾患の医薬品を開発するため、ニンバス・セラピューティクス子会社のニンバス・ラクシュミを最大60億ドルで買収すると発表し、2023年2月に買収を完了した。

日本企業による対米グリーンフィールド投資では、半導体分野で複数みられた。富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズは2022年3月、アリゾナ州に8,800万ドルを追加投資し、既存工場の半導体製造プロセス事業を強化すると発表した。JX金属の米国法人のJXニッポンマインニング&メタルズUSAも同月、アリゾナ州に半導体用スパッタリングターゲット事業を強化するため、工場を新設すると発表した。住友化学は2022年9月、100%子会社の東友ファインケム(韓国)を通じて、テキサス州に新会社を設立し、半導体用プロセスケミカル工場を新設すると発表した。

ジェトロが在米日系企業を対象に2022年9月に実施したアンケート調査(回答企業数:787社)によると、2022年の景況感を示すDI(改善-悪化)は17.5だった。DIは新型コロナウイルス禍からの反動で大きく上昇した前年度(34.7)と比べ低下したが、プラスを維持した。また、今後1~2年に事業を「拡大する」と回答した企業の割合は48.7%と、前年度(48.1%)を上回った。米国市場の「成長性、潜在性の高さ」が筆頭要因だった。

米国の対日投資額は20.3%増の71億ドルだった。大型M&Aでは、投資ファンドのベインキャピタルが2022年11月に発表した、アパレル大手マッシュの2,000億円(約14億ドル)での買収がある。グリーンフィールド投資では、メモリー半導体大手のマイクロン・テクノロジーが2022年9月に、広島県の生産拠点を拡大すると発表した。経済産業省は、国内主要産業に対する半導体の安定供給などを目的に、特定の半導体生産施設に助成金を提供しており、同社の投資計画(投資額約1,394億円)には最大で465億円を助成すると明らかにしている。

基礎的経済指標

人口
3億3,329万人(2022年7月)
面積
983万平方キロメートル
1人当たりGDP
7万6,399米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 2.8 5.9 2.1
消費者物価上昇率 (%) 1.2 4.7 8.0
失業率 (%) 8.1 5.3 3.6
貿易収支 (100万米ドル) △ 912,875 △ 1,083,511 △ 1,183,010
経常収支 (100万米ドル) △ 597,140 △ 831,445 △ 971,595
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 133,849 240,197 232,717
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 46,744,160 53,805,101 47,804,137
為替レート (1米ドルにつき、対円、期中平均) 106.77 109.75 131.50

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
人口、面積、実質GDP成長率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):米国商務省
1人当たりGDP:世界銀行
消費者物価上昇率、失業率:米国労働省
外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF