外国企業の会社設立手続き・必要書類

最終更新日:2024年01月02日

外国企業の会社設立手続き・必要書類

事業活動の内容・目的に沿って、子会社(現地法人)、支店あるいは駐在員事務所のいずれかを進出形態として選択。

事業活動の内容、目的に沿って、さらに親会社の責任、裁判管轄や税法上の問題等を考慮した上で、進出形態として子会社(現地法人)、支店あるいは駐在員事務所の設立を選択する。米国の場合、州ごとに若干の違いがあるが、設立手続きの概要は次のとおり。

設立手続き

  1. 子会社(現地法人)の設立
    1. 会社の定款作成(日本に比べて簡易)
    2. 発起人の署名済み定款を、所定の登録税・手数料とともに州務長官へ提出
    3. 州当局による会社設立許可証の交付
    4. 雇用主証明番号(Employer ID Number:EIN)の取得(別名:Tax ID(納税者証明))

    事業主は、EIN取得のため、内国歳入庁(IRS)に申請書(SS-4)を提出。
    EINはオンライン申請も可能。

    内国歳入庁(IRS)ウェブサイト:
    EIN申請書類 "Form SS-4, Application for Employer Identification Number (EIN)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"
    EINのオンライン申請 "Apply for an Employer Identification Number (EIN) Online外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"
    ※州政府の登記番号をIRSに電話で届け出ることで、その場でEINを取得することも可能。

  2. 会社の種類と登記手続き
    1. 会社の種類
      米国で設立できる会社は次の8種類。
      1. 株式会社(C Corporation
        定款を作成し、各州規定の必要書類を揃え、登記料や手数料とともに提出する(ファックスやオンラインでの登記が可能な州もある)。同時に、連邦政府機関の内国歳入庁(IRS)に納税者登録し、雇用主証明番号(EIN)の取得が必要。EINは会社の形態にかかわらず、すべての事業組織がIRSから取得する必要がある。
      2. 支店(Branch
        当該州規定の書類をはじめ、登記料や手数料を添えて、「外国法人の支店」として当該州政府に登記する。設立州以外の州でも事業活動を行う場合、その州政府に外国法人として登記する必要がある。
      3. 駐在員事務所(Representative Office
        米国では、「駐在員事務所」という事業体は登記上認識されていないため、州政府への登記が不要である州が多い。駐在員事務所は事業所として認められないことから、商業活動を行えない。駐在員事務所は日米租税条約上で「恒久的措置」とみなされず、活動内容は一般的に、次の事項に限定される。
        • 日本の親会社が米国内に所有する物品または商品の管理や引渡しのために施設を使用すること
        • 日本の親会社のために商品を購入し、または情報を収集すること
        • 日本の親会社のために準備または補助的な活動を行うこと

        連邦法人税は非課税だが、給与関連(個人所得)税および固定資産税の納税義務はあり、州税務当局とIRSへの年1回の報告書の提出が必要。従って、IRSからEINを取得する必要がある。州税法上は、商業活動を営む一般の事業体と同等に取り扱われる。

      4. 共同事業体(Partnership
        2人以上または2つ以上の会社が合弁事業を行う時に多用される形態。各州政府は、パートナーシップ法を独自に整備しているため、規定内容は州によって異なる。税務上、法人課税されないため、事業費の損失をパートナー個人の所得と相殺できるという利点がある。
      5. 有限責任共同事業体(Limited Liability Partnership:LLP)
        すべてのパートナーが「リミテッド・パートナーシップ(有限責任パートナー)」で、いかなるパートナーも無限責任を負わない形態。LLPとして登記できる事業体の種類は、法律事務所や会計事務所、何らかの専門的コンサルティング事務所に限定されるのが一般的。税務上は、パートナーシップとして扱われる。
      6. 有限責任会社(Limited Liability Company:LLC)
        基本的には、株式会社の一種。法務上は、有限責任を負い、税務上は、法人としての課税またはパートナーシップとしての課税のいずれかを選択することが認められている(株主が1人の場合、個人事業者と同じように所得申告が可能)。LLPとの違いは、LLCの登記では事業体の種類が問われないということと、パートナーシップの権利の委譲には他のパートナーの同意が必要だが、LLCでの権利(株式)の委譲が簡単であるということ。
      7. 小規模法人(S Corporation
        形態上は株式会社だが、実際には個人の零細企業。発行株数や株主数に上限が設定されている。つまり、法務上はLLCと同様に有限責任を負い、税務上はパートナーシップとして扱われる。小規模法人の形態を認められない業種があり、金融会社や保険会社がそれに該当する。
      8. 個人事業主(Sole Proprietorship
        個人が事業を興す時に多用される形態であり、日本では個人経営に相当し、事業主である個人と事業体が同一扱いされる。登記は非常に簡単だが、事業の債務が事業主個人の債務とみなされるため、無限責任を負う。
    2. 米国では、会社登記はすべて州政府の管轄であり、連邦政府への登記は不要。ただし、連邦政府に納税する義務があるため、税務上の手続きは連邦政府と州政府の両方に必要。
      州ごとの会社の登記手続きについて:IRS "State Government Websites外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

その他起業家向け情報

  1. 「州外法人」の考え方

    事業の本拠地とする州に会社を設立するのが基本的な考え方だが、いずれかの州に会社を設立した後、州外法人としての営業許可(Authority to Transact Business)を取得すれば、米国内のほかの州でも営業可能である。
    従って、会社法の州ごとの差異に注目して、例えば会社側にとって有利な会社法を持つデラウェア州に会社を設立し、実際の事業の本拠地(他州)に事務所・工場を構えるケースが多く見られる。

    デラウェア州での起業には、次のような利点がある。

    • フランチャイズ税は、年間最低175ドル、最高で20万ドル。
    • 同州に登記した企業が州外で得た収入(モノやサービスの売上げ)、また、利子やその他の投資収入には、州法人所得税が課されない。
    • 同州民以外が所有し、州外で営業する、デラウェア州に登記した企業の株式には、州の相続税が課されない。

    デラウェア州政府ウェブサイト:
    "Franchise Taxes外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"
    "Business Taxpayer Services外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

  2. 米国で投資する場合の報告義務

    米商務省は外国からの対米直接投資に関し、「INWARD INVESTMENT REPORTING REQUIREMENTS(国内投資報告要綱)」を規定している。根拠となる法は、「The International Investment and Trade in Services Survey Act(IITSSA)」と「The Agricultural Foreign Investment Disclosure Act」の2つ。

    1. The International Investment and Trade in Services Survey Act(IITSSA)

      管轄は商務省経済分析局(BEA)。財務規模に応じ、四半期の国際収支報告(BE-605)、年度ごとの国際収支報告(BE-15A、15-B、15-C、BE-15 Claim for Exemption)などを義務付けている。これは、米国内現地法人と海外親会社との直接資本取引を把握するため。

      商務省経済分析局(BEA)"International Surveys: Foreign Direct Investment in the United States外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます"

    2. The Agricultural Foreign Investment Disclosure Act(AFIDA)

      米農務省(USDA)が管轄の同法では、外国人が農地を所有する場合、「Agricultural Foreign Investment Disclosure Act Report」(書類番号FSA-153)という書類を、所有発効日から90日以内に農務長官に提出することを義務付けている。

      USDA "Agricultural Foreign Investment Disclosure Act Report外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(202KB)"

  3. その他関連情報(ジェトロ調査レポート)

    カリフォルニア州における会社開設、メインテナンス、解散のためのガイドブック(2020年3月)

    テキサス州における会社設立、維持、閉鎖ガイドブック(2020年3月)

    アーカンソー州における会社設立、維持、閉鎖ガイドブック(2020年3月)

    オクラホマ州における会社設立、維持、閉鎖ガイドブック(2020年3月)

    ミシシッピ州における会社設立、維持、閉鎖ガイドブック(2020年3月)

    ルイジアナ州における会社設立、維持、閉鎖ガイドブック(2020年3月)

    テキサス州における各種税制について(2020年3月)

    米国投資ガイド-米国における製造拠点立地選定のベストプラクティス-(2020年6月)

    米国における事業進出マニュアル(2022年3月)

    米国 西部7州進出基礎情報調査(2023年3月)

外国企業の会社清算手続き・必要書類

米国では、会社登記が州の管轄であることから、会社解散も州政府に報告するだけでよい(連邦政府への報告義務はない)。

一般的には、清算計画書を作成し、取締役会で解散を決議する。事業停止を株主や債権者に通知するとともに、従業員の解雇や各種契約(リース等)の解約に関する手続きを取る。同時に、株主総会を招集し、発行済み株式総数の過半数の解散賛成を得て、解散証書を作成し、州務長官に提出する。その際、州税の最終納税申告書と一緒に税金を納める。
州によっては、債権者保護に重点を置く州法を定めるところもあり、当該州では債権者への解散通知を終わらせてからでないと、解散手続きを完了できない場合もある。
最終納税に時間が掛かるため、解散が完了するまでには取締役会での解散決議から2~3カ月かかるのが一般的である。

一方、事業は停止するが即座に撤退には踏み切れないという場合は、現地法人を一旦閉鎖し従業員を解雇することで事業休止状態にし、様子をみてから事業の再開か完全撤退かを決めることもできる。休止状態でも法律的には会社が存続しているため、当該州の規定に則って、必要な手続きや手数料、納税は必要となる。
ニューヨーク州を例にとると、解散証明(Certificate of Dissolution)という書類を州務省に提出するだけだが、法人解散にともなう最終納税が完了していることに同州財務省が同意しなければ、登記上の法人解散は認められない。

手続き

  1. 現地法人株や営業資産を売却する場合の法的手続き

    米国法人の株券は、記名式の指図債権となっているため、売却するためには、株券に裏書きして買い手に交付する必要がある。買い手は、株券を保持することも、買い手名義の新株券を会社から発行してもらうこともできる。
    当該株券が米証券取引委員会(SEC)に登録されていない場合は、証券取引法の適用を免除されない限り、買い手は投資目的でのみ当該株券を保有できる(すぐには転売できない)ことを告知しなければならない。
    営業資産の売却について名義変更が必要な場合は、各州の規定に則って行わなければならない。

  2. 現地法人株や営業資産を売却する場合の税務上の手続き

    現地法人株や営業資産の売却益に対し、連邦政府と当該州政府に所得税を払う義務がある。連邦の場合は、Form 966(IRSウェブサイトからダウンロード可)を使ってIRSに納め、州の場合も同様に、当該州の規定に則って納税する。

    IRS "Corporate Dissolution or LiquidationPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(75KB)"

  3. 駐在員の帰任に際しての税務上の手続き

    駐在員が帰任する場合、出国する前にForm 2063またはForm 1040-CをIRSに提出することで離米許可証(sailing permitまたはdeparture permit)を取得する必要がある。
    Form 2063とForm 1040-Cは確定申告書類ではないため、帰任者は帰国後も、別途Form 1040-NR(非居住者の場合)またはForm 1040(居住者の場合)の確定申告書類で、1月1日から出国日までに受け取った所得分に対する確定申告を翌年の4月15日までに済ませる義務がある。税金については、駐在員を帰任させる現地法人または支店が負担する場合が一般的である。当該書類は、IRSのウェブサイトからダウンロードできる。

    米国内の住所を主たる住居としていた駐在員は、帰任にともない、駐在期間中に購入した不動産を売却して帰国する際、売却益に対する所得税も確定申告時に納める義務がある。ただし、不動産売却益に対する連邦政府の課税は、帰任者が日本で当該売却価格以上の住宅を購入することで繰り延べすることが認められる。帰任前に売却しなければ、その適用を受けられない。また、帰任前に売却したとしても、帰国後4年以内に既述のような不動産を購入しなければ、その適用を受けることはできない。

撤退に伴う従業員解雇に関する留意点

従業員との雇用契約に、会社撤退時にともなう解雇に関して明記していない場合でも、閉鎖の2カ月前には「事業閉鎖通知(Close Notice)」を従業員に告知するのが望ましい。雇用契約を交わしている場合には、個々の契約内容に則って、解雇通知を従業員に渡さなければならない。不当解雇で訴えられる可能性があるため、従業員の解雇には注意が必要である。

100人以上のフルタイム従業員を雇用する法人が50人以上のフルタイム従業員を解雇する場合には、解雇の60日前に、解雇される従業員か労働組合に対し、書面にて解雇通告する義務がある。ただし、それが認められるのは、経営再建を実行中か、不可抗力による経営難といった非常時に限られている。

その他

現地での資金調達制度

外国法人でも、米国内での資金調達はできるが、特に優遇措置はない。現地法人が資金調達する場合には、地元の銀行や州政府による工業収入債の発行や保証などの優遇措置がある。
米国内での資金調達の手段に関する規制はない。しかし、資金調達主体により、法・税務上には違いが生じる。

株式発行による資金調達では、預託証券(DR)制度がある。これは、日本の親会社が発行した株式を日本の銀行に預け、これを見返りに外国の銀行がDRを発行して現地の投資家に販売する方法で、日本の親会社にとっては、現地での新株発行と同じ効果を有する。

自らの信用力が不十分な現地子会社が現地調達(借入)を行う場合、信用補完の方法として、親会社や関連会社による債務保証、取引銀行によるスタンドバイ・クレジット供与(親会社の信用をベースとする)がある。米国ではスタンドバイ・クレジット供与が一般的。