外資に関する奨励

最終更新日:2024年01月12日

奨励業種

外資に対する奨励業種は特にない。ただし、特定企業に対し、外国政府、国際機関、外国銀行などからの融資にロシア政府が保証を付与し、それによって発生する経費が国家予算に組み込まれることがある。

各種優遇措置

外資のみを対象とした奨励措置は存在するが、それ以外にも、内外資を問わない投資奨励措置が導入されている。

優先的投資プロジェクトに対する優遇措置

1999年7月9日付連邦法第160-FZ号「ロシア連邦における外国投資について」において、外資プロジェクトに対する優遇措置を適用する条件が規定された。これにより、大規模なプロジェクト(外国投資の総額が10億ルーブル以上、または外国の資本出資が1億ルーブル以上のプロジェクトで、「優先的投資プロジェクト」という)については、グランド・ファーザー条項(新規則制定後も、それ以前の既得権を認める)の適用が定められた(同法第9条)。

これは、一定の条件が満たされた場合、輸入関税率、国内税率(ただし付加価値税や物品税を除く)、社会保障給付の引き上げまたは投資家などの税負担の増大につながる国内法の変更は、優先的投資プロジェクトを実施する外国投資家または外資企業には、一定期間適用されない(原則として、当該投資プロジェクトの投資回収期間までとされているが、この期間は7年を上回ってはならない)というものである(同法第9条)。

こうした優遇措置を受けるためには、当該優先的投資プロジェクトが経済発展省で登録され、ロシア政府(内閣)によって承認される「優先的投資プロジェクトのリスト」に盛り込まれなければならない。しかし、当該登録手続に関する規則は制定されておらず、政府の「優先的投資プロジェクトのリスト」も作成されていないため、この措置は、事実上適用が難しいと言える。

税制上の優遇措置

定款資本への現物出資として輸入される物資については、関税の免除が認められる。
根拠法:1993年5月21日付連邦法第5003-1号「関税率について」第34条ならびに1996年7月23日付連邦政府決定第883号「外国投資企業の定款[合同]資本金への出資として外国投資家が持ち込む物品にかかる関税および付加価値税の免税について」。しかし、物品税課税対象物は対象外。外資企業への出資の場合のみ。他の要件もあり。

また、ロシア国内に輸入される技術機器(部品、予備品)に関し、ロシア政府が指定する品目については、通関時に免税扱いとなる。
根拠法:国税基本法第150条第7項、2009年4月30日付連邦政府決定第372号「ロシア連邦で生産されていないもので、ロシア連邦へ輸入の際、付加価値税が課されない技術機器(部品、予備品を含む)のリストの承認について」

また対ロ制裁への対抗策として、2022年5月9日付政府決定第839号「ロシア連邦の優先的事業種類(経済部門)に該当する投資案件の実施の枠内で、専用的な利用のためにロシア国内に輸入される技術的設備、その部品、スペアパーツ、原料、材料に関する関税の免税による税関優遇措置の実施、前記商品の関税納付の保証義務の免除について」に従い、以下の一定の分野において、ロシア政府が認定した具体的な事業案件に必要な商品について関税が免税される。

  1. 農林業、狩猟、漁業、養殖業
  2. マイニング
  3. 製造業
  4. 電気、ガス、蒸気の提供。空調
  5. 給水、廃水処理、廃棄物の収集と処分の組織、汚染の除去のための活動
  6. 建設
  7. 輸送と保管
  8. 情報通信活動
  9. 専門的、科学技術的活動

2014年12月31日付連邦法第488-FZ号「ロシア連邦における産業政策について」および2015年7月16日付連邦政府決定708号「特定産業に対する特別投資契約」では、ロシア政府が輸入代替化を推進する特定産業(医療機器、農業機械など)に関し、ロシア国内生産および改良を目的としてロシア連邦、または地方、または市町村と投資家間の特別投資契約の締結が可能となり、当該投資に対する助成金、税制上の優遇措置(場合により企業利潤税、資産税の免除など)、国家調達上の優遇措置が設けられた。特別投資契約として認定を受けるための最低投資額は7億5,000万ルーブルであり、契約期間は最長で10年とされていたが、前記の連邦法「ロシア連邦における産業政策について」の改正に従い、2019年8月より、ロシア国内で世界的に競争力のある製品を製造するために技術を導入(または開発・導入)する特別投資契約について、最低投資額が廃止され、契約期間は、当該投資が500億ルーブル以下である場合と500億ルーブルを超える場合で、それぞれ15年、20年となった。

また、外国人またはロシア国内で駐在員事務所・支店として登記された外国組織を対象として、賃貸借契約によって事務・住居施設が提供される場合、その提供者は付加価値税の免税措置を受けられる(国税基本法第149条第1項)。一定の国に関しては、相互主義に基づいて本規定の適用から除外され、あるいは適用が制限されているが、日本については、制限なしに適用されている(2007年5月8日付外務省・財務省共同書簡第6498/40n号「ロシア国内において店舗・住宅の賃貸に際して、付加価値税の免税を受ける個人または組織が属する国家の一覧の承認について」)。

企業利潤税(法人税)のうちの一部は地方政府の財源となるが、2019年1月1日までは地方政府が国税基本法に定めのない場合にも当該税率の軽減ができたが(2017年までは13.5%、2017~2022年は12.5%が下限)、これらの軽減税率は、当該有効期間内に、ただし、2025年1月1日を最終期限に有効である。

特別経済区

2005年7月22日付連邦法第116-FZ号「ロシア連邦における特別経済区について」により、特別経済区(以下、特区)の制度が導入された。
特区には、工業生産型特区、研究開発型特区、観光・レクリエーション型特区、港湾型特区の4種類がある。特区の設置期間は49年とされている。観光・レクリエーション型特区以外の特区については、住宅を置いてはならないという制限が設けられている。

  1. 工業生産型特区
    区内で事業を行う対象企業(resident、特区内企業)は営利企業に限定され、最低投資額は1億2,000万ルーブル(うち、4,000万ルーブルを最初の3年間に固定資産に投資すべき)とされる。また、工業生産型特区の面積は、40平方キロメートルを上回ってはならない。
  2. 研究開発型特区
    対象企業は営利企業または個人事業者であって、4平方キロメートルを上回ってはならないとされる。また特区内企業は、特区外に支店・代表事務所を置いてはならない。
    なお、特区内においては、天然資源の採掘、乗用車とバイク以外の物品税対象製品の製造、天然資源の加工、鉄・非鉄スクラップの処理事業は禁止されている。
  3. 観光・レクリエーション型特区
    対象企業は営利企業または個人事業者であり、前述のような面積に関する制限は適用されない。
  4. 港湾型特区
    対象企業は営利企業で、海港、国際河川港、国際空港などで整備され、面積は50平方キロメートルを超えず、存続期間は49年とされる。港湾におけるインフラ施設の建設または再建工事が予定される場合には、それぞれの場合の最低投資額は4億ルーブル(うち4,000万ルーブルを最初の3年間に固定資産に投資すべき)、1億2,000万ルーブル(うち4,000万ルーブルを最初の3年間に固定資産に投資すべき)となっている。
特区における税制上のメリット

減価償却の加速、資産税(最初の10年間)、土地税(最初の5年間、一部の企業について10年間)の免税がある。また、地方議会によって採択される法令により、輸送税の減免ならびに企業利潤税(法人税)の減税をすることができる。企業利潤税を減税する場合、本来18%である地方税分は、13.5%を下回ってはならない。また、企業利潤税の連邦税分は2%とされる。
なお、一部の観光・レクリエーション型特区(2012年1月1日~2023年1月1日の間)においては、企業利潤税の連邦税分が免税される。

特区における関税上のメリット

観光・レクリエーション型特区以外の特区では、自由貿易区域としての扱いを受けることができる。すなわち、特区内に持ち込む商品については、輸入税・付加価値税の免除、持ち込みに際して割当その他の貿易法上の措置を適用しない(ただし、特区から商品をロシア国内外へ持ち出す場合、または特区内で特区内企業としての資格を有しない者へ譲渡する場合は、輸入税、付加価値税、物品税が課税される)。

カリーニングラード州およびマガダン州の特別経済地域

前述の経済特区に加え、以前より存続しているカリーニングラード州およびマガダン州の特別経済地域では、一定要件を満たした場合、関税免除などの適用を受けることができる。ただし、カリーニングラード州の特別経済地域は、2045年12月31日に終了し、マガダン州の特別経済地域は一部を除き、2025年12月31日に終了する予定となっている。
2006年1月10日付連邦法第16-FZ号「カリーニングラード州の特別経済地域および一部の法律の改正について」に基づき、カリーニングラード州の特別経済地域の特区内企業として登記された企業は、自由貿易区域としての扱いを受け、製造に必要な部品の輸入時に発生する付加価値税、輸入関税、通関手数料を免除されるという恩典を享受できる。また、特区内企業として登記した後は、最初の6年間において企業利潤税が免除され、7年目から12年目にかけて通常税率が半分に軽減される。

イノベーションセンター・スコルコボ

2010年、研究開発の促進策として、イノベーションセンター・スコルコボ(モスクワ郊外)を中心とする奨励体制が整備された。2010年9月28日付連邦法第243-FZ号「『イノベーションセンター・スコルコボについて』の採択に関するロシア連邦法令の改正について」に従い、研究開発のための環境整備の一環として、イノベーションセンター・スコルコボが設置された。一定の要件を満たした研究開発企業は、イノベーションセンター・スコルコボの入居者として公的登記簿に登記され、場合によっては、付加価値税(VAT)、企業利潤税、資産税、土地税の免税、社会保険料の一部支払免除といった優遇措置を受けることができる。

なお、2017年7月29日付連邦法第216-FZ号「イノベーション科学技術センターおよび一部の法律の改正について」に基づき設立されたイノベーション科学技術センター内の事業についても、前記イノベーションセンター・スコルコボと同様の優遇措置が適用される(2017年7月29日付連邦法第216-FZ号「イノベーション科学技術センターおよび一部の法律の改正について」連邦法の採択に関連する国税基本法第一部と第二部の改正について)。

2024年1月末現在、「バラビョービィの丘(雀が丘)」(2019年3月28日付連邦政府決定332号)、「シリウス」(2019年11月8日付連邦政府決定1428号)、「メンデレーエフバレー」(2019年12月24日付連邦政府決定1805号)、「ルースキー」(2020年11月18日付連邦政府決定1868号)などの11カ所のイノベーション科学技術センターがそれぞれの政府決定により創立されている。

地域投資案件の税制上の優遇措置

2014年1月1日より、極東・東シベリアの地域開発の促進を図る目的で、地域投資案件の税制上の優遇措置が導入された(2013年9月30日付連邦法第267-FZ号)。具体的には、企業利潤税(20%)の連邦税分(2017年~2024年は3%)をゼロとし、地方税分(2017年~2024年は17%)については、当該投資案件として製造した最初の商品の売上が発生した年から5年間は10%未満にし、それ以降の5年間も10%までとすることができる、というもの。地域投資案件の当事者は1社のみで、かつ当該地域を所在地とするロシア法人でなければならない、と規定されている。また、地下資源利用税についても、税制上の優遇措置が適用される。

地域投資案件制度の対象地域は、沿海地方、ハバロフスク地方、アムール州、イルクーツク州など、計13の連邦構成体である。地域投資案件は、当該地域内における商品の製造を対象としている(ただし、石油・天然ガスの採掘・加工・輸送、乗用車とバイク以外の物品税対象製品の製造、企業利潤税の税率がゼロである事業を除く)。また、同制度の対象となるのは資本投資額が5,000万ルーブル以上の案件で、この場合、当該地域投資案件の参加者登録後の3年以内に、当該額の資本投資を実施する必要がある。また、資本投資額が5億ルーブル以上である場合は、当該額の資本投資を実施する期間が5年以内となる。なお、最低投資額や投資案件の要件については、地域ごとにさらなる要件を設定することができる。

優先的発展区域(TOR)

2015年3月30日より発効した2014年12月29日付連邦法第473-FZ号「ロシア連邦における優先的発展区域について」では、連邦政府決定によって優先的発展区域が設置され、当該地域を対象として、一連の優遇措置を適用する体制が創設されることが規定されている。同区域は、同連邦法発効後の最初の3年間は、極東地域および経済・社会状況が深刻な地域のみにおいて創設できるが、3年経過後は、その他の地域においても創設することが可能となる。
同区域は「TOR」と呼ばれ、従来の経済特区よりも、さらに進んだ規制緩和や行政手続きの簡素化が図られている(2014年12月31日付連邦法519-FZ号「連邦法473-FZに関連する個別連邦法の改正について」)。

さらに税制面では、企業利潤税に関しては最初の利益が出た年から5年間は連邦税分(2017年~2024年は3%)をゼロとし、地方税分(2017年~2024年は17%)についても最初の5年間は5%未満にし、それ以降の5年間も10%までとすることができる。資産税および土地税は5年間免除されるとともに、関税については自由貿易区域としての免税措置を受けることができる。
また、区域内で雇用する労働者に対する社会保障費負担については、30%から7.6%の減免措置を受けることができる(2014年11月29日付連邦法380-FZ号「連邦法「優先的発展区域について」の採択に伴う国税基本法第2部の改正について」)。2024年1月現在、TORはハバロフスクや沿海地方を中心とする極東地方および極東以外の特定都市において115カ所が選定されている。新型特区の存続期間は70年である。

ウラジオストク自由港

極東地域への新たな優遇措置として、2015年10月12日より発効した2015年7月13日付連邦法第212-FZ号「ウラジオストク自由港について」が、新たに追加された。同法の対象となる地域は、ウラジオストク市やナホトカ市などの沿海地方南部をはじめ、ハバロフスク地方、サハリン州、カムチャツカ地方、チュコト自治菅区の約20市・地区であり、TOR同様の規制緩和や税制優遇措置の適用が受けられる。
また、ウラジオストク自由港では、通関・検疫のワンストップ化や外国人労働者の受入基準(ビザ、労働許可)の緩和措置が設けられ、人とモノの流れの迅速化と簡素化が図られている(2015年7月13日付連邦法第213-FZ号「ウラジオストク自由港法に関連する個別連邦法の改正について」)。自由港の存続期間は70年である。

北極地域

2014年5月2日付大統領令第296号「北極地域の陸上領土について」により制定された地域のリストについて、2020年7月13日付連邦法第193-FZ号「北極地域における商業活動の国家支援について」に従い、同地域において100万ルーブル以上の投資を行った企業は、企業利潤税の連邦税分が免税され、地方政府がその税分の減税を導入することができる等、税制上の優遇措置が設けられている。

投資保護促進契約

2020年4月1日付連邦法第69-FZ号「ロシア連邦における投資の保護及び促進について」および2020年10月1日付連邦政府決定第1577号「投資保護・促進契約の締結・変更・終了及び投資保護・促進契約の登記簿の管理について」に従い、官民連携による事業形態として投資保護促進契約の体制が整備された(ただし、賭博、小売り・卸売り、オフィスビル・住宅・商店建設は対象外)。当該契約は、連邦政府、連邦構成体、その他の自治体(2021年4月1日までは連邦政府のみ)と民間企業間の契約であり、民間企業向けの優遇として、グランド・ファーザー条項(新しい禁止・要件の導入、費用の増大や実施期間の延長を発生させる規定が不適用)、インフラ整備費用の償還、補助金制度などがある。グランド・ファーザー条項の適用期間は、投資額(公的補助金などを除き)により異なり、10億ルーブルを下回る投資額について6年(農業、食料業、加工業、教育、保健の分野を除く)、農業、食料業、加工業、教育、保健の分野における案件について10億ルーブルを下回る投資額について10年、10億ルーブル以上150億ルーブルを下回る投資額について15年、150億ルーブル以上の投資額について20年である。

その他

外資企業でも一定の要件を満たせば、ロシアの公的機関からの支援や税制面での優遇措置を受けることができる。

外国企業によるロシア中小企業ステータス認定基準

ロシアでは、中小企業に認定されると様々な公的機関の支援措置を受けることができる。2007年7月24日付連邦法第209-FZ号に従い、外国企業は、ロシア国内の中小企業の株主となることができるが、中小企業の認定基準として、当該企業の株主であるロシア法人、外国法人とも、当該企業への持分は、合計で議決権株の49%(当該企業が有限会社の場合、定款資本の持分の49%)を超えることができないと規定されている。ただし、当該企業の株主である外国法人の前年度の年間売上と平均従業員数がそれぞれ20億ルーブルと250人を超えない場合、前記の49%の制限が適用されない。

省エネ関連優遇税制

税法259条と381条では、省エネ事業を行う企業および省エネ施設・省エネ発電施設に対して投資を行う企業には、企業利潤税および各地方税・市町村税の税金支払いの繰り延べが認められる。また、省エネに関連する固定資産については、減価償却の優遇措置が適用され、法人資産税が免税される。