ジェトロ対日投資報告2020(要約)

第2章 日本のビジネス環境と外資系企業

日本のビジネス環境評価

  • 「グローバル・スタートアップ・エコシステム・リポート(GSER)2020」によると、東京は起業しやすい都市ランキングで15位となった。東京は、「研究開発」や「資金調達」などの評価が高かった一方で、域内の人や技術の連携に関する「域内連携」は1点と低かった。

GSERにおける東京と上位3都市の比較

GSERにおける東京と上位3都市の比較の6角形グラフ。 6つの項目で10を最大値とした。1位シリコンバレー、2位ニューヨーク・ロンドンで数値は5から10。東京は域内連携1、市場リーチ3、人材と実績が7、資金調達8、研究開発9で15位。
  1. 〔注〕

    各項目の数字は東京のスコアを指す。

  2. 〔出所〕

    「GSER2020」(スタートアップ・ゲノム)から作成

  • 経済産業省が2年に一度実施する「欧米アジアの外国企業の対日投資関心度調査」によると、2019年度の調査にて、対象となったアジア19カ国・地域のうちで、日本はR&D拠点として最も魅力的な国とされた。
アジアにおける日本の投資先としての魅力
機能(回答企業数) 日本 最高順位国・地域
順位 回答率(%) 回答率(%)
R&D拠点(91社) 1 38 - -
地域統括拠点(94社) 3 10 シンガポール 49
販売(85社) 3 15 中国 42
製造拠点(84社) 3 8 中国 55
物流点(77社) 3 8 中国 36
金融拠点(76社) 4 8 シンガポール 46
バックオフィス(77社) 4 4 インド 56

ビジネス環境の向上に向けて

国内都市機能の強化

  • 2020年5月に、国家戦略特別区域法の改正法案が成立した。今回の改正は「スーパーシティ」構想の具現化が大きな目的とされる。
  • 「スーパーシティ」構想は、市民生活全般にまたがる分野について、住民の参画を促しながら都市計画を実行することで、2030年に実現すると思われる未来社会の実現の加速を目標とする。
スーパーシティ構想の概要
要素 概要
1) 生活全般にわたる 以下のような10領域のうち、半分以上を対象とする程度に広範な分野について、新たなサービス提供などが行われること。10領域には、①移動、②物流、③支払い、④行政、⑤医療・介護、⑥教育、⑦エネルギー・水、⑧環境・ゴミ、⑨防犯、⑩防災・安全が含まれる。
2) 一時的な実証ではなく、社会への実装を行う スーパーシティの区域指定に係る公募では、域内における官民の関係者のコミットメントの強さのほか、応募に先立って選定される各区域の事業者の能力など、応募区域における企画の実現に重要な要素が選定の評価に取り入れられる。
3) 住民目線の未来社会の実現を加速する 地方公共団体は、スーパーシティの区域指定に係る応募の際に、事前に住民の意向の把握に努めることが求められる。また、区域指定後の基本構想の申請の際には、既存の住民が存在する場合に当該住民の投票によって住民合意を得ることなどが求められる。
  • 国内におけるスタートアップの創出および成長のため、内閣府は「Beyond Limits. Unlock Our Potential~世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」のもと、国内ビジネス環境整備を進めている。
  • 同戦略は、包括的にエコシステム強化を行うため、7つの戦略を設けている。そのうち戦略1は、域内の産官学でコンソーシアムを形成する都市を「グローバル拠点都市」あるいはそれに準ずる「推進拠点都市」に選定することで、世界の先進的なエコシステムを持つ都市と競うような拠点都市の形成を目指す。
スタートアップ・エコシステム拠点の選定都市
拠点都市 概要
グローバル拠点都市
スタートアップ・エコシステム
東京コンソーシアム
主に都内の企業や団体、大学や自治体など113組織が会員として参加する(2020年1月時点)。広域連携関連団体として、川崎市、茨城県、つくば市も参画する。域内の研究開発拠点を連結させるほか、有力大学の連携で研究開発の成果の事業化を促進する。
Central Japan Startup
Ecosystem Consortium
中部経済連合会、名古屋大学、愛知県、名古屋市などを中核とする「Aichi-Nagoya Startup Ecosystem Consortium」と、「浜松市スタートアップ戦略推進協議会」の2つの組織が形成するコンソーシアム。モビリティ、ヘルスケアなど重点分野にて連携事業のプロジェクトを推進する。
大阪・京都・ひょうご神戸
コンソーシアム
大阪、京都、ひょうご神戸の各コンソーシアムが連携して組織する合同コンソーシアム。各コンソーシアムの取り組みに加え、3組織が連携して大阪万博に向けて地域のエコシステム強化を目指す。
福岡スタートアップ・コンソーシアム 福岡市を中心として、地域の業界団体やスタートアップを後押しする企業を含む事業者、大学など、61組織が構成するコンソーシアム(2020年7月時点)。起業やスタートアップ支援のさらなる強化と、実証実験・公共調達などを通じたイノベーション創出を実施する。
推進拠点都市
札幌・北海道スタートアップ・
エコシステム推進協議会
会長の札幌市を含む31組織からなるコンソーシアム(2020年2月時点)。一次産業や、バイオ・ヘルスケア、宇宙産業などを対象とする。
仙台スタートアップ・エコシステム
推進協議会
仙台市長を会長としたコンソーシアムで、今後は仙台市でのピッチイベントやスタートアップ支援プログラムの実施などを計画する。
広島地域イノベーション
戦略推進会議
広島地域の企業、大学、金融、行政の有力者などからなる推進会議で、同地域では多様な人材が集まる拠点の整備なども行われている。
北九州市SDGsスタートアップ
エコシステムコンソーシアム
北九州市長を会長としたコンソーシアムで、同市の強みである環境・ロボット分野に加え、デジタル・トランスフォーメーション関連のスタートアップ支援や、小型無人機、IoTの実証実験フィールドの提供などを行う。

国内のイノベーション促進のための取り組み

  • 国内のイノベーション促進のための取り組みとして、オープンイノベーション促進に係る税制が創設された。同税制は、国内企業やそのCVCなどが、オープンイノベーションを行うことを目的として、スタートアップに対して一定以上の出資を行う場合に、その出資額の25%の所得控除を認める。
オープンイノベーション促進税制適用の主な要件
要件 要件の概要
1) 対象法人要件 税率控除の対象となる出資元の法人は、青色申告書の提出法人である株式会社や相互会社など、あるいはこれらの法人が出資割合の過半数を有し、一定の条件を満たす投資事業有限責任組合や、民法上の組合。
2) 対象スタートアップの要件 対象となる投資における投資先企業は、設立10年未満・未上場の、既に事業を開始している株式会社で、一つの法人グループが株式の過半数を有してはおらず、法人以外の者(投資事業有限責任組合、民法上の組合、個人など)が3分の1以上の株式を有している、などの要件を満たす企業。
3) 出資要件 主要な出資要件は以下のとおり。
①出資額:投資先企業が国内スタートアップの場合、1件あたり1億円以上の出資であること。ただし、出資元の法人が中小企業である場合は、1件あたり1,000万円以上とする。投資先企業が海外スタートアップである場合、一律、1件あたり5億円以上であること。
②出資目的:出資元の法人が、高い生産性が見込まれるあるいは新たな事業の開拓を目指した事業活動を行う上で、投資先企業のもつ技術・サービスなどが、出資元法人の実施する事業活動に不足しており、かつ革新的なものであること。さらに、当該連携の際に、出資元法人からスタートアップにも必要な協力を行い、スタートアップの成長に貢献すること。
③その他:出資は、スタートアップの資本金の増加を伴う現金による出資であること。また、出資元法人は、取得した株式を5年以上保有すること。

デジタル化の深化への政府の対応

  • 日本政府は、デジタル化の更なる進化を目指し、ローカル5Gや5G基地局設備の導入にかかる5G投資促進税制を導入した。また、デジタル経済・社会の環境整備の一環として、個人情報保護法の改正法案ならびに特定デジタルプラットフォームの透明性及び公平性の向上に関する法律をそれぞれ成立させた。
  • 日本政府の方針をみると、金融、移動、行政、医療などの分野においてデジタル技術・サービスの利活用の推進を目指す。
主なデジタル分野の政府方針
分野 概要
金融 キャッシュレス決済の利用比率の上昇を目指し、日本発の統一QRコード(JPQR)の利用促進や海外展開を進めるほか、タッチ式決裁の端末普及を行う。また、FinTechの活用をとおした金融サービスの高度化を推進する。
移動 陸移動における無人自動運転サービスの開始ならびに拡大のほか、高速道路での完全自動運転の実現を目指す。空の移動では有人地帯での目視外飛行を行うドローンの活用を2022年度までに目指すほか、海では自動運航船や無人潜水機などの利用促進に向けた議論を進める。
行政 行政におけるクラウドサービスの利用やワンストップサービスの推進などを進める。法人向けのサービスとして、2021年2月を目途に定款認証および設立登記を含めた全手続きのワンストップ化などを開始するほか、税や社会保険の証明手続きなどの電子化に向けたロードマップを2020年度中に策定する。
医療 マイナンバーカードを健康保険証として利用することのできる「オンライン資格確認」の本格運用を2021年3月より開始し、マイナポータルなどを通じて個人や家族が一元的に関連情報を把握できるよう利活用の推進を行う。また、ICTやロボット、AIなどの技術を活用しつつ、必要な見直しなどを行いながら、安全かつ効果的なオンライン診療を含む遠隔医療の普及を図る。

外資系企業による日本のビジネス環境の見方

日本に所在する外資系企業

  • 総務省と経済産業省が2016年に実施した「経済センサス-活動調査」によると、外国資本を含む企業の数は10,779社だった。外国資本比率別にみると、100%の企業が5,992社で最も多い。

国内外資系企業の外国資本比率と企業数

国内外資系企業の外国資本比率と企業数の円グラフ。100%が5992社、50~100%が820社、33.4~50%が656社、10~33.4が1527社、0~10%が1784社
  1. 〔出所〕

    「経済センサス-活動調査」(総務省、経済産業省)から作成

  • 経済産業省が国内の外資系企業を対象に実施する「外資系企業動向調査」によると、国内の外資系企業の親会社所在地は「欧州」が43.2%、「アジア」が27.4%、「北米」が24.1%、「その他」が5.3%だった。
  • 外国資本比率が3分の1を超えた理由(=外資系企業の設立方法)をみると、回答企業のうち、「単独資本での新規設立」が63.2%、「合弁」が15.8%、「合併及び買収(M&A)」が14.4%、「その他」が6.6%となった。

国内外資系企業数(出身地域別)

国内外資系企業数(出身地域別)の縦棒グラフ。欧州、アジア、北米、その他の順での%を表記。 2000年(n=1639)が、41.5、13.4、41.9、3.2。2005年(n=2405)が、43、16.1、36.2、4.7。2010年(n=3142)が、42.8、21、30.4、5.9。2015年(n=3410)が、43.5、25.7、26、4.8。2018年(n=3287)が、43.2、27.4、24.1、5.3。
  1. 〔注〕

    「年」はそれぞれ実績年度を示す。

  2. 〔出所〕

    「外資系企業動向調査」(経済産業省)から作成

国内外資系企業の設立方法

国内外資系企業の設立方法の縦棒グラフ。単独で新規設立、合弁、合弁・買収(M&A)、その他の順での%を表記。2005年(n=2405)が、59.9、23.5、11.4、5.3。2010年(n=3142)が、60.9、18.3、13.6、7.2。 2015年(n=3410)が、61.6、16.9、14.3、7.2。 2018年(n=3287)が、63.2、15.8、14.4、6.6。
  1. 〔注〕

    「年」はそれぞれ実績年度を示す。

  2. 〔出所〕

    「外資系企業動向調査」(経済産業省)から作成

大半の企業が新型コロナの影響をうけるも、日本でのビジネスを継続

  • ジェトロが2020年4月と7月に、ジェトロの支援企業を主な対象として実施したアンケート調査によると、新型コロナにより「悪い影響がある」あるいは「多少悪い影響がある」と回答した企業は、4月調査で93.4%、7月調査で92.2%と、いずれも90%を超えた。
  • 具体的な影響として売上の減少を挙げる企業が多く、その補てんに要する期間については「2021年上半期まで」と回答した企業が全体の29.2%と最多で、次いで「2021年末まで」(全体の25.3%)と回答した企業が多かった。

新型コロナによる影響

新型コロナによる影響の横棒グラフ。4月調査全体(n=376)、7月調査全体(n=193)の順での%を表記。 悪い影響があるが、62.5、46.1。多少悪い影響があるが、30.9、46.1。 影響はないが、2.7、3.6。 多少良い影響があるが、2.4、1.6。良い影響があるが、0.5、1.6。わからないが、1.1、0.5。
  1. 〔出所〕

    「外資系企業の事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)から作成

売上減少の補てんに要する期間

売上減少の補てんに要する期間の横棒グラフ。全体(n=154)製造業(n=65)非製造業(n=89)の順での%を表記。2020年までが7.8、12.3、 4.5。2021年上半期までが29.2、32.3、27。2021年末までが25.3、12.3、34.8。 2022年上半期までが11、18.5、5.6。2022年末までが8.4、7.7、9。2023年以降が3.9、1.5、5.6。わからないが8.4、12.3、5.6。その他が1.3、1.5、1.1。無回答が4.5、1.5、6.7。
  1. 〔注〕

    nは2020年の売上が前年同期と比較して減少したと回答した企業。

  2. 〔出所〕

    「外資系企業の事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)から作成

  • 新型コロナを経た今後の国内ビジネス展開や事業拡大の計画について聞いたところ、国内ビジネスの縮小や撤退を検討する企業は1割に満たず、大半の企業が日本でのビジネスを継続すると回答した。
  • 日本市場の魅力としては、現在の市場規模や関連産業の成長性を挙げる企業が6割を超えた。

今後の国内ビジネス展開

今後の国内ビジネス展開の横棒グラフ。4月全体(n=376)、7月全体(n=193)の順での%を表記。計画通りにビジネス拡大が22.6、20.2。ビジネス拡大を検討が7.2、10.9。現状のビジネスを維持が37.5、34.2。ビジネス拡大を遅らせるが22.6、23.3。ビジネス縮小を検討が7.2、8.3。ビジネス終了を検討が0.3、0。既にビジネスを終了が0.3、0.5。その他が1.9、1.6。無回答が0.5、1。
  1. 〔出所〕

    「外資系企業の事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)から作成

日本市場の魅力

日本市場の魅力の横棒グラフ。全体(n=187)製造業(n=74)非製造業(n=113)の順での%を表記(複数回答)。現在の市場規模が67.4、62.2、70.8。関連産業成長性が64.7、63.5、65.5。リスクの低さが22.5、20.3、23.9。ビジネス機会となり得る社会課題が13.9、12.2、15。イノベーションのための環境整備が10.7、9.5、11.5。企業・大学の技術力が9.1、13.5、6.2。政府による危機対応が4.3、2.7、5.3。資金繰りの利便性が3.7、5.4、2.7。企業・大学の資金力が3.7、4.1、3.5。住環境が2.7、1.4、3.5。外国人雇用の利便性が2.1、0、3.5。その他が2.7、4.1、1.8。
  1. 〔注〕

    nは、日本でビジネスを継続する企業。回答は、上位三項目まで回答可とした。

  2. 〔出所〕

    「外資系企業の事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)から作成

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