ジェトロ対日投資報告2021
第2章 日本のビジネス環境と外資系企業
第2節 日本におけるビジネス環境整備
[COLUMN] グローバル都市としてのビジネス環境整備

国際金融都市としての地位確立に向けた措置

政府は、2020年12月8日に閣議決定した「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」において、「世界における国際金融センターの実現」を盛り込んだ(図表2-8)。

図表2-8 国際金融センターに向けた環境整備
(分野別)
分野 現在 今後 施行時期
税制改正
運用会社に対する法人税
役員の業績連動報酬
上場会社:損金算入可能
非上場会社:損金算入不可
投資運用業を主業とする非上場の非同族会社などについて、業績連動給与の算定方法などを金融庁のウェブサイトへ掲載するなどの場合には、損金算入を認める。 金商法改正法案施行(2021年11月22日)
税制改正
相続税
10年超国内に居住していた場合:
全世界の財産が対象
10年以下の国内居住の場合:
国内財産のみ対象
勤労等のために日本に居住する外国人については居住期間にかかわらず、国外財産を相続税の課税対象外とする。 2021年4月1日施行
税制改正
ファンドマネージャーなどの個人に対する所得税
ファンドマネージャーのファンド持分に対して運用成果を反映して分配される利益に関して、金融所得にあたるかが不明確 利益配分に経済的合理性がある場合などにおいては、総合課税(累進税率、最高55%)の対象ではなく、「株式譲渡益など」として分離課税(一律20%)の対象となることを明確化する。 2021年4月1日公表。チェックシートや計算書等については金融庁のホームページ参照のこと
参入手続きの簡素化
英語での手続き
海外の資産運用会社に対する事前相談対応や登録審査などにおいて管轄が金融庁と財務局で分かれており、提出書類や議論を日本語で行う必要があった。 2021年1月に金融庁および財務局が「拠点開設サポートオフィス」を設置。金融ライセンス取得に係る事前相談から登録手続き、登録後の監督までを英語・ワンストップで対応する。
参入手続きの簡素化
参入制度
海外のプロ投資家を顧客とする資産運用業者であっても、日本で資産運用業を行うには、原則として「登録」が必要であり、さらに海外で業務実績がある場合でも、登録手続には一定の時間を要する。 1)海外当局による許認可を受け、海外の顧客資金の運用実績がある資産運用業者(海外の資金のみ運用)(5年間の時限措置)
2)主として海外のプロ投資家を顧客とするファンドの資産運用業者
については、簡素な手続き(届出)による参入制度を創設
2021年11月22日施行
(ビザ関連)
ビザ関連 今後 備考
在留資格 起業準備のため在留資格「短期滞在」で入国した場合でも、一定の要件(※1)を満たせば、事業開始前に日本から出国することなく「短期滞在」の在留資格から直接「高度専門職」、「経営・管理」等への変更が可能になる。 ※1「短期滞在」の在留資格で在留中に投資運用業等の登録を受けたことなど
※2「短期滞在」で在留中に投資運用業等の登録を受けたことなど
※3高度人材本人と同居し、日本人と同等額以上の報酬を受けて「技術・人文知識・国際業務」などに該当する活動を行うこと
高度人材 「高度専門職」の在留資格を得るために必要なポイントに、資産運用業者向けのポイント項目(10点加算)を追加する。(「高度専門職」の在留資格を得る場合、優先処理(10日以内を目処)で取得可能)
家事使用人 一定の要件(※2)を満たす資産運用業等に従事する高度人材について
1)13歳未満の子供がいる等の家庭事情がなくても家事使用人を雇用することが可能になる
2)世帯年収が3,000万円以上である場合に高度人材が雇用可能な家事使用人の人数枠を1名から2名に増加する
配偶者 高度人材の配偶者は一定の要件(※3)を満たせば就労資格を取得することなくフルタイムでの就労が可能にある。また優先処理(10日以内を目処)の対象となる。

海外の資産運用業者を日本に誘致し、日本の国際金融センターとしての地位を確立する観点から、2021年税制改正では、海外の金融事業者・人材を呼び込むための措置が盛り込まれた。 第一に、法人税に関して、投資運用業を主業とする非上場の非同族会社などについて、業績連動給与の算定方法などを金融庁ウェブサイトへ掲載するなどの場合には、当該業績連動給与の損金算入を認める。

第二に、相続税に関して、就労などのために日本に居住する外国人が被相続人となる場合について、国外に居住する外国人や日本に短期的に滞在する外国人が相続人となる場合には、その被相続人の国内居住期間にかかわらず、国外財産を相続税の課税対象外とする(これまでは、相続前15年以内の国内居住期間の合計が10年超である外国人が被相続人となる場合、国外財産も相続税の課税対象になっていた)。

第三に、所得税に関して、ファンドマネージャーが、出資持分を有するファンドから運用成果に応じその出資割合を超えて受け取る利益の分配(キャリードインタレスト)について、その利益の分配に経済的合理性がある場合などにおいては、総合課税(累進税率、最高55%)の対象ではなく、「株式譲渡益など」として分離課税(一律20%)の対象となることを明確化する。

税制上の見直し以外に、参入手続きに関する見直しも行っている。2021年1月、金融庁と財務局が共同で、日本拠点開設を検討する海外金融事業者に対する一元的な相談窓口として、「拠点開設サポートオフィス」を開設した。これにより、金融ライセンス取得に係る事前相談、登録手続き、登録後の監督などワンストップで英語にて対応することが可能になった。ビデオ会議を用いた海外からの事前相談にも対応している。

参入手続きを簡素化する動きもみられる。現状、日本で投資運用業を行う場合は海外のプロ投資家を顧客とする資産運用業者であっても原則として登録が必要であり、さらに海外で業務実績がある場合でも登録手続きに一定の時間を要していた。金融庁は2021年3月、ファンド業務における海外事業者の参入を後押しするため、簡素な手続き(届出)による受け入れを可能とする特例を創設すべく改正金融商品取引法案を国会に提出した。この法案は同年5月に成立し、同年11月から施行されている。具体的には、1.海外当局による許認可を受け、海外の顧客資金の運用実績があり、海外の顧客の資金のみを運用する投資運用業者(5年間の時限措置)、2.主として海外のプロ投資家を顧客とするファンドの投資運用業者、について、簡素な手続き(届出)による参入を認める。

在留資格については、海外事業者が安心して日本でのビジネスを検討できる環境を整備する一環として、「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」において、在留資格関連の利便性向上のための諸施策を行っていくことになった。

具体的には、起業準備のため在留資格「短期滞在」で入国した場合でも、一定の要件を満たせば、事業開始前に日本から出国することなく在留資格を取得可能になる。高度人材については、様々な優遇措置を受けられる「高度専門職」の在留資格を得るために必要なポイントに、資産運用業者向けのポイント項目を追加した。「高度専門職」の在留資格を得る場合、優先処理(10日以内を目処)で取得可能になる。

また、一定の要件を満たす高度人材について、13歳未満の子供がいるなどの家庭事情がなくても家事使用人を雇用することが可能になったほか、高度人材が雇用可能な家事使用人の人数枠を1名から2名に拡大した。そのほか、高度人材の配偶者は一定の要件を満たせば就労資格を取得することなくフルタイムでの就労が可能となる。

東京のほか大阪、福岡も外資系金融機関誘致を強化

東京では、2017年11月に「国際金融都市・東京」構想を策定し、国際金融都市としての地位の向上に向けた施策、体制づくり等をとりまとめた。この構想に基づき、英国シティと金融分野における連携に向けた合意書を締結するとともに、官民連携の金融プロモーション組織である「東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)」を創設し東京の取組や魅力についての国内外への情報発信を展開している。その後、脱炭素への関心の高まりや、英国のEU離脱など、金融を取り巻く世界的な環境の変化に対応するため同構想を改訂することとし、2021年6月まで5回にわたり有識者懇談会を開催するとともに2021年7~8月にかけてパブリックコメントを実施した。パブリックコメントで寄せられた意見などを踏まえ、2021年11月、「『国際金融都市・東京』構想2.0」を策定した。この新たな構想では、グリーンボンドを発行する事業体への支援などグリーンファイナンスの推進、フィンテック企業の誘致や創業・成長支援、キャッシュレス化の推進など金融分野のデジタル化促進、資産運用業者の誘致や創業・成長支援、金融系人材の育成に力を入れるなど多様な金融関連企業・人材の集積、が盛り込まれている。

大阪では、大阪府と大阪市、関西の経済団体により、2021年3月29日、海外から金融分野の専門家や金融機関が集まる国際金融都市を目指すべく「国際金融都市OSAKA推進委員会」を設立した。7月には国際金融都市構想の実現に向けた戦略素案を同委員会が公表し、スタートアップに対する資金調達支援や金融サービスの規制緩和などに取り組み、大阪での金融機能の拡充とビジネス環境の整備を進めていくことを掲げた。最終案を2022年春までに策定し、その後具体的な実行に移す予定としている。

福岡では、2020年9月、福岡県や福岡市などの自治体、国立大学法人九州大学などの教育機関、九州電力株式会社や西日本鉄道株式会社といった地元企業が産官学で外資系金融機関の誘致を目指す組織「国際金融機能誘致TEAM FUKUOKA」を発足した。アジアの主要ビジネス地区へのアクセスのよさを強みの一つとする福岡は、アジア系金融関連企業の誘致にも成功している。具体的には、香港の資産運用会社MCPホールディングスが2021年2月、シンガポールのフィンテック企業キャップブリッジ・ファイナンシャルが同年4月に、福岡市内に拠点を設立することを公表している。

お問い合わせ

フォームでのお問い合わせ

ジェトロはみなさまの日本進出・日本国内での事業拡大を全力でサポートします。以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム

お電話でのお問い合わせ

受付時間

平日9時00分~12時00分/13時00分~17時00分
(土日、祝祭日・年末年始を除く)