サクセスストーリー

Tellus You Care合同会社

非接触型遠隔モニタリングでエルダー・ケア(高齢者介護)を革新する米国企業Tellus You Care(テラス・ユー・ケア)は、2020年2月に日本法人Tellus You Care合同会社を東京都に設立した。世界で最も急速に高齢化が進んでいる社会のひとつである日本を、創造的なエルダー・ケア技術を提供する最適な環境として捉えている。日本法人のジェネラルマネージャー、クリシャン・カルドウェル氏に日本進出の理由、日本でビジネスに取り組むアプローチ、今後の展望について聞いた。

設立年月
2020/02
進出先
関東・東京都

  • ICT
  • バイオテクノロジー/ライフサイエンス
  • サービス
  • 米国

掲載年月 : 2021/09

高齢者と介護者両方の負担を軽減するソリューション

高齢者をどのようにケアするかが大きな課題となっている。その背景には、日本の少子高齢化と、介護現場の深刻な人材不足がある。このような課題を解決するためには、介護者が状況に応じて適切に対応し、短期的にも長期的にも優れたケアを提供できるようなIoTデバイスや技術の活用が鍵となる。Tellus You Careのモニタリングソリューションは、自動運転やドローンに使われるレーダー技術を応用して、人の微細な動きを検知する。日本の一般的な住宅の寝室に1台設置するだけで、入居者の情報を家族や在宅介護の専門家などの関係者と共有することができる。このシステムでは、ウェアラブルを利用せずに、心拍数や呼吸数などの生体データの変化や、睡眠・歩行状態を検知する。そのデータはTellusのクラウドシステムに蓄積され、独自のAIによってリアルタイムに分析される。介護者や家族は、専用のWebサイトで遠隔からデータを確認することができる。同社のモニタリングソリューションの特徴として、非接触で健康状態を把握することと、カメラではなくレーダーを使用するためプライバシーを重視したモニタリングが可能であることが挙げられる。介護やその管理だけでなく、医療や健康管理にも応用でき、特に介護を受ける人の見守りが難しい睡眠中の身体機能の状態を把握できる点が強みとなる。

Tellus You Care合同会社 ジェネラルマネージャー
クリシャン・カルドウェル氏

手のひらサイズのデバイスは、使いやすさと設置のしやすさを追求している。「利用者にとって邪魔にならないように、小さなデバイスをつくった。このシステムは、すべての介護者のアシスタントとして、重要な介護情報を自動的に記録し、介護者の時間を節約し、一般的なケアの水準を向上させる」とカルドウェル氏は語る。コンセントに挿すだけでWiFi接続あるいはセルラー回線による利用が可能となる。介護者が遠隔で健康状態を把握しやすくなるだけでなく、レーダーが収集したデータはその人の一日を正確に記録することができる。他の多くのセンサーでは、入居者がベッドにいる間しかデータを収集できないのに対し、レーダーは部屋全体の活動を把握できる利点がある。これは、高齢者と介護者双方の心理的・物理的負担を軽減するソリューションといえる。

「日本で成功すれば、どこでもできると信じている」

創業時、同社はソフトウェア会社Evernoteの元代表取締役社長(CEO)で、サンフランシスコ、パリ、東京を拠点とするAIスタートアップAll Turtlesの共同設立者であるフィル・リビン氏の協力を得た。同氏はテラス・ユー・ケアの共同設立者であるケビン・シューとタニア・コークに、2018年に65歳以上の高齢者が人口の28.4%、労働人口の12.9%という過去最高の割合を占めた日本で自分たちのアイデアを試してみることを勧めた。高齢化という課題を抱える日本での成功が、今後同様に超高齢化社会へと変遷する他の国々での成功へと導き得るかもしれないからだ。

また、市場規模だけで見れば中国などのほうが大きい中、日本を選んだのは、国や自治体が介護施設や家庭での高齢者ケアの分野でのイノベーション支援に力を入れているからだという。日本への進出理由について、カルドウェル氏は「日本における高齢化や保険制度など様々な理由がある。特に国や自治体はエルダー・ケアに力を入れており、多くの補助金制度がある。私たちは、施設の紹介、ロボティクス領域の専門知識へのアクセス、エルダー・ケア技術への補助金を出している都道府県からの支援など、さまざまなサポートを得ることができた。日本でビジネスをする利点は、国や自治体がこの分野で優れた支援制度を持っていること」と話す。

エルダー・ケアのあり方を問い直す熱意

2019年3月には、NTTドコモ・ベンチャーズが同社を発掘して出資した。その後、NTTドコモによる紹介でネットワークを広げ、多くの顧客と接触することができた。カルドウェル氏は、資金調達先のVC/CVCパートナの重要さについて「日本市場に関するアドバイスとともに、製品や販売についてもフィードバックを提供してくれ、そのような情報は貴重で有難い」と語る。

2019年7月には1ヵ月間、NTTドコモと神戸市が主体となり、神戸市の中心地に位置する特別養護老人ホーム「山手さくら苑」での、Tellus You Careのソリューションの実証実験が行われた。神戸市は、医療・ヘルスケア領域のイノベーションに力を入れてきた一方、政令指定都市の中でも高齢化率、高齢単独世帯率が高いという。カルドウェル氏は、この実証による技術面以外での収穫として、施設やエンドユーザーである高齢者と対話する機会を豊富に持つことで、高齢者のレーダー技術に対する恐れが徐々に払拭され、イノベーションへの理解が深まり、彼らの新技術を適切に活用するための知識や能力が向上したことを挙げる。

2019年末から続いている新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行は、Tellusが呼吸波形の変化に基づいてCOVID-19の症状の一つである咳を検知するソリューションとして同社のAIを適用するきっかけとなった。リスクのある一人暮らしの高齢者に対する新たな技術の必要性が浮き彫りになり、遠隔医療、遠隔診療、実用的な健康情報やデータを迅速に提供するために、ヘルスケアとテクノロジーへの熱意を組み合わせた開発を進めているという。

現在、Tellusのデバイスは、日本のいくつかの県の施設に設置されている。カルドウェル氏は、「連携している施設では、Tellusシステムの導入により、これまで気づくことが難しかった危険な行動や状況を積極的に把握できるようになったという声が聞かれる。これらの施設では、Tellusが提供するデータをケアプランに積極的に活用し、データに基づいたケアを入居者に提供している」と述べる。

日本での事業展開にあたって苦労した点

技術基準適合証明(技適)の取得といった電波法令の基準をクリアするプロセスは、当初予想していたより円滑であった。他方、COVID-19の危機により、事業計画にも影響が出た。例えば、一度物理的な東京オフィスを引き上げ、リモートワーク体制に切り替えた際に適応しなければならなかった。しかし、直接会ったことのないスタッフも協力的に対応してくれたとカルドウェル氏は話す。「私たちは、オンラインでも一緒に楽しむことができる方法を模索し、緊急事態宣言が出ていない間は、定期的に交流機会を設けてきた。COVID-19がもたらした混乱と困難にもかかわらず、私たちのチームは一緒にここまでやってくることができた」。

地域への展開、日本でのビジネスへの期待

Tellus You Care合同会社は、地域でのビジネスチャンスを開拓している。将来的には、九州で被災した高齢者の見守りをサポートする業務を行いたいと考えている。また、京都府での実証実験も予定している。今後も、地域への展開を進めていきたいとし、「高度なケアを必要とする人に提供する」というTellusの重要なビジョンのもと、ソリューションを全国に届けていきたいと期待する。

カルドウェル氏は、今後の日本でのビジネスへの期待について、「(日本における)高齢化は進んでおり、介護施設だけでなく在宅介護(ホームケア)もますます重要になるだろう。現在は日本市場に集中しているが、日本で成功すれば、同様の社会課題を抱える他国・地域への展開も考慮していきたい」と意気込みを語った。

ジェトロのサポート

同社の日本拠点拡大に際し、ジェトロ対日投資・ビジネスサポートセンター(IBSC)では、テンポラリーオフィスの貸与、情報提供(市場)、コンサルテーション(税務)、PR支援、サービスプロバイダー紹介(弁護士、税理士)、ビジネスマッチングを行った。

同社沿革

2017年

AppleやGoogleなどでの事業経験を持つ、スタンフォード大学出身の創業者2人が、遠方に住む祖父母の介護という原体験をきっかけに、最先端の技術でエルダー・ケアを変えることを目指して、米国Tellus You Care, Inc. を設立

2020年

Tellus You Care合同会社 設立

Tellus You Care合同会社

設立

2020年2月

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