サクセスストーリー

ベクタービルダー・ジャパン株式会社

VectorBuilderは、自社のオンラインプラットフォームをとおして分子生物学関連の受託サービスを提供する米国発の企業である。2015年のサービス開始以来、VectorBuilderは受託によるカスタムベクター(*1)構築と組換えウイルス作製における先駆的企業として市場シェアを急速に拡大している。同社は、米国のほかに欧州やアジアでビジネス展開をしており、さらなる市場拡大を目的として、2019年4月に横浜市に日本法人ベクタービルダー・ジャパンを設立した。日本法人のカントリーマネージャーである亦勝(またかつ)実穂氏に日本進出の理由、日本でビジネスをする上での工夫、今後の展望について聞いた。

設立年月
2019/04
進出先
神奈川県

  • バイオテクノロジー/ライフサイエンス
  • 米国

掲載年月 : 2021/05

ベクタービルダーの強み-カスタムベクターと組換えウイルスの受託作製-

亦勝氏は、同社のビジネスをカスタムベクターと組換えウイルスの受託作製サービスを通じた「研究者のサポート」と表現する。研究者が分子生物学技術を使った研究を行う際には、まず研究試薬となるベクターを構築する必要がある。これまで研究者は、ベクター構築に膨大な時間を費やすことから、本来の基礎研究や臨床研究テーマに集中できる時間が奪われていた。ベクタービルダー・ジャパンは、研究に必要なカスタムベクターや組換えウイルスをオンラインで、またワンストップで注文することができる革新的なO2O(Online to Offline)プラットフォームを提供している。現時点で同様のサービスを展開する企業は日本にはなく、「ベクタービルダー・ジャパンが高品質、低価格、短納期で受託サービスを提供することで、研究者が研究テーマに費やす時間を確保し、本来の研究者としての才能を生かして欲しいという想いでビジネスを展開している」と亦勝氏は語る。

日本法人カントリーマネージャー 亦勝(またかつ)実穂氏

日本市場への関心と代理店文化という障壁

VectorBuilder(*2)の創業者は、日本を米国に次ぐ大きな市場と位置付け、高い関心を持っていた。日本で販売されている欧米の研究試薬価格は、本国に比べ2~3倍高い。ベクタービルダー・ジャパンを利用することで、価格の歪みをなくし、研究スピードが加速すれば、日本発の独自の基礎研究結果や日本人やアジア系にフォーカスした遺伝子治療医薬開発が加速できるのではないか、と考えていた。

当初は、別会社を経由して販売を試みたものの思うように売上が伸びず、自社での日本市場参入を決意した。市場参入の際に印象的だったのが、米国とは異なる日本独特の代理店文化だという。日本の代理店は、製薬会社の研究所や大学研究室、公的研究所などとの独自のコネクションを持ち、メーカーとエンドユーザーを繋ぐ非常に大きな役割を担っている。しかし、代理店には理系の専門知識を持つ担当者が少なく、ベクタービルダー・ジャパンの強みを正確に理解し、必要としているユーザーに確実に繋いでもらうことは難しかった。そのため、亦勝氏は代理店の販売先である研究所などに同行し、直接研究者にベクターデザイン機能などオンラインプラットフォームの操作方法を説明した。亦勝氏は、「エンドユーザーからの具体的な問合せには直接対応し、きめ細やかなカスタマーサポートを行うことで、代理店およびエンドユーザーとの関係性を構築しつつ、エンドユーザーの信頼を獲得し、顧客を増やしていくことに成功した」と語る。日本の商慣習に鑑み、現在国内では、オンラインプラットフォームを使って、日本全国の代理店からベクタービルダー・ジャパンの受託サービスを購入することができる。

日本法人設立により本格的に日本市場へ参入

日本の顧客が増えたことを背景に、カスタマーサポートの充実や日本市場でのポジションを確立させるため、2019年4月、横浜市に日本法人を設立した。横浜市は立地コストが良く、研究開発拠点が集積し、都心・空港・新幹線などへの優れたアクセスが魅力であり、企業誘致をとおしたバイオ産業などの育成を目指す「ライフサイエンス都市横浜」の形成を推進している。市では、手厚いインセンティブ(各種補助金など)のほか、外国企業の日本法人設立のプレスリリースを当該法人と共同で行うなど充実した支援体制を設けており、それらが同社の横浜市への進出を決定づけたという。また「ジェトロから支援を受けたことで、わずか2ヵ月でスムーズに拠点設立を行うことが出来た」と亦勝氏は話す。

コロナ禍で変化した国内マーケティングと顧客ニーズ

企業のマーケティング戦略はコロナ禍によって変化を余儀なくされている。ベクタービルダー・ジャパンの場合、コロナ禍で顧客への直接訪問が困難となったことにより、国内での新規顧客獲得の新たな手法としてデジタルマーケティングの活用に注力し始めたという。日本ではGoogle 広告とYahoo!広告を利用し、ディスプレイ広告を行っている。他方コロナ禍において、企業や大学の研究所では人の出入りを減らすため、これまでよりも限られた人数・時間で効率的に研究を実施することが求められるようになった。国内でディスプレイ広告に力を入れ始めたことにより、研究の効率化を模索する研究者からの問い合わせと注文が劇的に増加した。さらに、VectorBuilderの新型コロナウイルス研究試料は、欧米のワクチン研究開発元にも納品しているため、日本でも同じ研究試料を購入して研究に使用することができる強みが顧客側の魅力となっている。新型コロナに起因するワクチン開発などへの期待、医療界への需要の高まりは大幅な受注増加の追い風となったと亦勝氏は話す。

今後の展開、日本への期待

VectorBuilderは受託カスタムベクター構築と受託組換えウイルス作製の世界最大のサービスプロバイダーとして成長し続けている。2019年末には、米国にてGMP(*3)準拠の遺伝子治療用ベクターの受託製造を開始した。これによりVectorBuilderは、前臨床研究から創薬までワンストップでフルサービスを提供するCDMO(*4)となり、日本のみならず米国、欧州、中国、PIC/S(*5)のガイドラインに従った治験、製造まで世界基準でサポートできるようになった。遺伝子治療が手に届く医療の選択肢の一つとなることを目指し、日本でもさらなるビジネス展開を進める。

最後に亦勝氏は、同社による日本の基礎研究への貢献について、「研究者の方々に信頼される受託サービスを提供することで、我々が提供する研究試薬を活用して研究成果を出し、さらには論文を出すことで成功するというように、研究者の方々のキャリアに繋がって欲しいと心から願っている。そのためには、企業としてさらなる成長を続け、日本の研究者のニーズを把握し、最高のソリューションを考案し、提供していきたい」と熱く語った。

  1. (*1)

    ベクターとは、人工的に改変した遺伝物質を目的の細胞に人為的に運びこむ核酸(DNAやRNA)やウイルスで、遺伝子工学や遺伝子治療に用いられる。必要な用途に応じてデザインしたものをカスタムベクターと呼ぶ。

  2. (*2)

    米国本社を示す場合は、VectorBuilderとする。

  3. (*3)

    医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(Good Manufacturing Practice)

  4. (*4)

    医薬品受託製造開発機関 (Contract Development and Manufacturing Organization)

  5. (*5)

    Pharmaceutical Inspection Convention/Scheme (The Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co- operation Scheme)。医薬品製造査察の相互承認に関する協定(GMP相互査察協定)PICおよび医薬品製造査察共同機構 PIC-Scheme あわせてPIC/Sと呼ぶ。国々と医薬品査察当局間において、GMP分野で積極的かつ発展的に協力する二つの国際的な機関。

  1. (*3) (*4) (*5)

    日本CMO協会からの引用

ジェトロのサポート

同社の日本拠点設立に際し、ジェトロ対日投資・ビジネスサポートセンター(IBSC)では、テンポラリーオフィスの貸与、コンサルテーション(登記、税務、労務)、サービスプロバイダー(行政書士、税理士、社会保険労務士、不動産会社、銀行)の紹介を行った。

同社沿革

2017年10月

米国VectorBuilder Inc.設立

2019年4月

ベクタービルダー・ジャパン合同会社設立

2020年12月

ベクタービルダー・ジャパン株式会社へ組織変更

ベクタービルダー・ジャパン株式会社

設立

2019年4月

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