海外における日本産食材サポーター店認定制度

日本食材サポーター店インタビュー Kicsi Japán Sushi(キチ・ヤパンすし)

大衆的、でも本格派江戸前寿司が味わえる店

所在地:ブタペスト(ハンガリー)

江戸前寿司を売りにしているKicsi Japán Sushi

江戸前寿司を売りにしているKicsi Japán Sushi(キチ・ヤパンすし)は、ハンガリーの首都ブダペスト市内のCorvin Negyed(コルヴィン街)という場所にある。ここはかつて老朽化した建物ばかりで廃れた様相だったが、約20年前に始まった大々的な再整備事業のお陰で大変貌を遂げた。現在は近代的な商業施設や集合住宅が建ち並び、学生やミドルクラスの地元住民などが途切れなく行き交う活気のあるエリアとなった。

オーナー兼シェフの廣瀬義仁(ひろせ・よしひと)氏が店をオープンしたのは2019年5月のこと。コルヴィン街に決定したのは、今後さらに発展しそうだったが、消費水準はそれほど高くなかったからこそだったという。当時、市内には富裕層向けに寿司を提供するレストランは既にあったが、廣瀬氏は「大衆向けのお店で、食べたことのない人にも本格的な味を伝えていきたいと思ったんです」と振り返る。

本物の日本体験

Kicsi Japánとはハンガリー語で「ちっちゃな日本」という意味だ。その名の通り、店はとても小さい。入り口をくぐると、まるで東京新橋あたりの高架下の店に来たような錯覚に陥る。壁には廣瀬氏自らが選んだ日本のポスターが所狭しと貼り付けられ、お祭りの屋台のような賑やかで、まさに大衆的な雰囲気が溢れている。

店内は、30人も入ればいっぱいとなる。中でも人気があるのはカウンター席。廣瀬氏らが手際よく握る姿を目の前で見ることができるからで、ブダペストではこのような場所は他にない。

ちっちゃい店ながらメニューは豊富

店の大きさに比べて、Kicsi Japánのメニューの数はかなり多い。寿司ネタでは、サーモン、マグロ、真鯛、イボダイ(エボダイ)、イカ、北寄貝、イクラ、エビ、タコ、北海道産ホタテ、ウナギ、しめ鯖、和牛のほか、事前に予約しておけばウニ、ズワイガニ、スキャンピー(アカザエビ)、アワビ、生カキ、大トロ、カツオ、アナゴ等も味わうことができる。海鮮の他に、ハンガリー名産のフォアグラもある。

これらのネタは、握りでも丼ものでも味わうことができる。さらに、同じサーモン握りでも、炙りやオニオンスライスを載せたりと異なる組み合わせが楽しめる「サーモン寿司盛り」などもある。見た目も華やかで美しい。

もっとも、内陸国ハンガリーで仕入れができる海鮮の種類や仕入れ元は限られている。その中で、廣瀬氏が他店と差別化をはかり、また日本で食べられる江戸前寿司により近づけるために一番気をつけていることは、ネタの徹底的な鮮度管理と各ネタにあった調理法だという。さらに、酢飯にも細心の注意を払う。温度と味を保つためにコメに寿司酢を合わせるのは少量ずつに留め、握る際には、口に含んでほろっと崩れやすいように、外だけ固めて中は空気を含むように圧を調整する。「むらさき」も市販の醤油よりまろやかにするため、みりんを加えて煮詰め直す。「こうした随所でのこだわりが、ネタをより一層美味しくしてくれるのです」(廣瀬氏)

廣瀬氏によると、初めて訪れる人は丼ものや巻物を注文する傾向があるが、常連になるにつれて本格的な握りのプレートを注文する人が多くなる。客層は、旅行者が2~3割。7~8割が当地在住者で、うちハンガリー人と外国人の割合半々 。年齢層は学生から70代までと幅広い。

ブダペストで仕入れる日本の味

食材のうち、寿司ネタの大半は、ハンガリーの卸売業者Attimcom Kft. から仕入れている。北海道産ホタテや宮崎牛は、タコフーズ から。その他、ウニ、アワビ、数の子などのブダペストではまだ珍しいネタは、ネットで探してオランダやドイツの業者から仕入れている。

味噌やのり、しょうが、また大福などデザートの食材は、JFCグループ (ウィーン)から調達している。日本酒などはハンガリーのアルコール飲料輸入業者Intercooperation Zrt. からで、地元の人たちには辛丹波(からたんば)や月山(がっさん)など辛口が人気だという。

ハンガリーでは2022年以来、物価上昇率が一時期20%を超えるほどとなり、原材料も輸送費も高騰した。他のレストランと同様にKicsi Japánでも価格改定を行ったが、廣瀬氏によると仕入れ値は今は落ち着いている。むしろハンガリーでの商売の難しさは、文化や商慣習の違いだと語る。発注して確認の連絡がないというちょっとしたことから、税務上の手続きでは外国人1人では頭を抱えるときもあるという。

寿司で勝負

廣瀬氏は大阪のグルメ回転ずしを経て、中国、ブダペストの和食店を経験した後に独立してKicsi Japánを開店した。実はその半年後、ブダペスト市内にもう1軒、Izakaya(いざかや)という店をオープンさせていた。当時は、居酒屋風、焼き鳥屋といろいろな専門店を展開することを考えていた。

しかしIzakayaは1年半後に閉店することに。当時、シェフは廣瀬氏だけで両方の店を切り盛りするという形で、持続的な経営は厳しかった。そのため、収支はとんとんだったがIzakayaは閉鎖し、まずKicsi Japánの経営を完全に軌道に載せることを優先した。

現在、Kicsi Japánの経営が安定した中、市中心部からやや北にあるレヘル市場の近くに出店することを計画している。新たな店でも寿司や丼ものが中心となる。「あれこれ展開するのは人材確保の面でとても難しい。だから自分は、基本は寿司で勝負したい」と意気込みを語る。

一方で、提携しているフードデリバリーサービスWolt の方は、新型コロナウィルス流行期には売上の5~7割を占めていたが1割程度に減少している。店からの売上が大幅に増加したからだ。店に来る客優先のため、Wolt 用メニューも意図的にかなり縮小した。「寿司は目の前で握ったものが一番。やはりお店に来て味わってほしいですね」(廣瀬氏)

Kicsi Japán Sushi
Üllői út 40 Budapest 1082
+36 30 856 7925
kicsijapanbp@gmail.com外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
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