元とドルの貿易額の差が為替レートと乖離する理由(中国)

2019年1月22日

中国の貿易統計には、人民元建てと米ドル建ての2種類のデータがある。伸び率の差は元/ドルレートの変化率になるはずだが、最近伸び率の差は為替レートの変動よりも大きい。乖離の原因として、換算レートに実勢レートとの1カ月のタイムラグがあること、最近のレートの変動が急激だったことが指摘できる。

換算レートと実勢とのタイムラグ、急激なレート変動

中国の税関(海関総署)は毎月、米ドル建てと自国通貨である人民元建ての2種類の貿易額を発表している。輸出と輸入のいずれでもよいが、ここでは輸出で見てみる。

人民元建てとドル建ての前年同月比の差は為替レートの前年同月比で説明がつくはずだが、最近は従来に比べ乖離(図1の下段)が大きくなっている。もっとも、上段をみると(1)と(2)の形状は非常に似ており、平行移動に近い。なぜなのだろう。

図1:元建てとドル建ての輸出の前年同月比伸び率の差と
元/ドルレートの前年同月比
中国の輸出の元建てとドル建ての金額の前年同月比の伸び率の差、元ドルレートの前年同月比を折れ線グラフで示す。また、伸び率の差から元ドルレートの前年同月比を引いたものを棒グラフで示している。期間は2014年1月から2018年11月まで。棒グラフをみると2014年から2015年の半ばまでは、棒グラフはほぼゼロだが、その後は-5%から+4%の間の数値を示すようになっている。最近は、中国の輸出の元建てとドル建ての金額の前年同月比の伸び率の差と元ドルレートの前年同月比の差が大きくなっていることが示されている。元ドルレートの前年同月比のグラフは、中国の輸出の元建てとドル建ての金額の前年同月比の伸び率の差とほぼ同じ形状をしているが、1カ月左にずれているようにみえる。
資料:
海関総署ウェブサイト、CEIC

日本の場合、財務省が発表する貿易額は円建てのみで、米ドル建ては円建ての金額をベースに分析者が独自にドル換算するか、グローバル・トレード・アトラスのようなデータベース所蔵のドル建てのデータを用いるが、中国の場合は、ドル建ても人民元建ても当局がデータを発表している。しかし、海関総署が貿易額を発表する際、その換算レートが公表されるわけではない。

そこで、人民元建ての貿易額を米ドル建てで割り、換算レートを求めてみた。輸出・輸入のいずれでも計算できるが、ここでは輸出額から算出している。計算で割り出した換算レートと、中国外貨交易センター(CFETS)が発表している元/ドルレートを比較したものが図2である。両者の形状はほぼ平行移動となっている。当然、前年同月比も同様になる(図3参照)。

グラフの形状は横にわずかに移動しただけだが、各月の伸び率の差は2つのグラフの縦方向の差であるため、レートが急に変動した場合は大きくなる。

図2:海関総署と中国外貨交易センターの元/ドルレートの推移
2つの元ドルレートの推移を折れ線グラフで示している。一つは海関総署、もう一つは中国外貨交易センターのレートである。期間は2014年1月から2018年11月まで。両者の形状はよく似ている。中国外貨交易センターのレートを1カ月右にずらしたものが海関総署のレートになっているようにみえる。
資料:
海関総署ウェブサイト、CEIC
図3:海関総署と中国外貨交易センターの元/ドルレートの前年同月比の推移
2つの元ドルレートの推移を折れ線グラフで示している。一つは海関総署、もう一つは中国外貨交易センターのレートである。図2と異なり、レートの前年同月比を示している。期間は2014年1月から2018年11月まで。両者の形状はよく似ている。中国外貨交易センターのレートを1カ月右にずらしたものが海関総署のレートになっているようにみえる。
資料:
海関総署ウェブサイト、CEIC

海関総署の貿易データの換算レートは市場の実勢を反映してはいるものの、1カ月のタイムラグがある。これと最近の為替変動の拡大が相まって、各月の2つの貿易額の伸び率の差と為替レートの変動率の差が大きくなった。

なお、海関総署の換算レートを1カ月前の(1)中国人民銀行、(2)中国外貨交易センターの平均レート、(3)同加重平均レートの前年同月比と比較したところ、最も形状が近いのは(2)で、図4のとおりほぼ一致している。

海関総署で元建てとドル建ての換算がどのように行われているかは定かではないが、税関での輸出入申告の際の換算レートとして海関総署が提示するレートは事前に決められており、総じていえば、通関までのタイムラグが1カ月程度になるということではないか。このタイムラグがある限り、今後も、元/ドルレートの変化が緩やかな時期はさておき、変動が大きな時期には元建てとドル建ての貿易額の伸び率の差と為替レートの変化率の間に大きな乖離が生じることになるだろう。

図4:海関総署と中国外貨交易センター(1カ月前)の
元/ドルレートの前年比の比較
2つの元ドルレートの前年同月比の推移を折れ線グラフで示している。一つは海関総署、もう一つは中国外貨交易センターのレートであるが、1カ月右にずらしてある。期間は2014年1月から2018年11月まで。グラフはほぼ重なっている。
資料:
海関総署ウェブサイト、CEIC
執筆者紹介
アジア経済研究所新領域研究センター主任調査研究員
箱﨑 大(はこざき だい)
都市銀行に入行後、日本経済研究センター、銀行系シンクタンク出向、香港駐在エコノミストを経て、2003年にジェトロ入構。北京事務所次長、海外調査部中国北アジア課長を経て2018年より現職。編著に『2020年の中国と日本企業のビジネス戦略』(2015)、『中国経済最前線―対内・対外投資戦略の実態』(2009)がある。