ドイツ自動車産業が直面する課題とEV普及へ向けた動き

2019年1月15日

ドイツ自動車産業連合会(VDA)のベルンハルト・マッテス会長は、2018年12月5日の年末記者会見で、電気自動車(EV)化にかかる多大な投資やデジタル化の推進、英国のEU離脱(ブレグジット)問題や米中による貿易戦争、そしてEUによる二酸化炭素(CO2)の排出規制への対応など、ドイツの自動車産業が直面する現状と今後について述べた。本稿では同氏のコメントを基に、特にEUにおけるCO2の排出規制への見方やEVのさらなる普及に向けた課題、ドイツの大手自動車メーカーの最近の動きを紹介する。

CO2排出削減目標実現のためにはEVのさらなる普及が不可避

環境保護や気候変動対策がますます重要視される中、EUが定める自動車のCO2排出規制は現在、ドイツの自動車産業が直面する大きな課題の1つとなっている。欧州委員会、欧州議会およびEU理事会は2018年12月17日、域内で販売する新車のCO2排出量削減割合について、2030年までに2021年比で乗用車については37.5%(中間目標:2025年までに15%)、バンについては31%(中間目標:2025年までに15%)とすることで合意した。欧州委の原案では2021年時点の水準との比較で、2030年までに30%(中間目標:2025年までに15%)とする目標だったが、欧州議会が2018年10月3日の本会議で削減幅を拡大し、2030年までに40%(中間目標:2025年までに20%)とするよう法案の修正を主張。さらにその後開催されたEU環境相理事会では、乗用車については2030年までに35%(中間目標:2025年までに15%)、バンについては2030年までに30%(2025年までに15%)で合意されたが、最終的な判断は欧州委、欧州議会、EU理事会の調整に委ねられていた(2018年10月4日記事2018年10月12日記事参照)。12月17日の合意内容に対し、マッテス氏は、「世界でも最も厳しい目標値であり、欧州の自動車産業への負担は多大なものになる」と批判している。

同目標の達成には、欧州全土におけるEVのさらなる普及が不可欠である一方、今後の普及度合いは、電池のコストやエネルギー価格、公共調達の動向など、さまざまな要因に左右される。その中でも、充電インフラの整備は重要な課題であり、マッテス氏は現在、EUにある充電スタンドの4分の3が英国、ドイツ、フランス、オランダの4カ国に集中しており、他のEU諸国は、充電インフラの拡充を行う必要がある、と指摘している。さらに、ドイツ国内の充電インフラについては、現時点で1万3,500カ所に公共充電スタンド(うち急速充電スタンドは900カ所)が設立されているものの、同氏は「さらなる拡充が必要」とする。また、個人や民間企業の充電スタンドについても、導入促進のため、建物や不動産の賃貸および所有に関する法規制の改正など抜本的な改革の必要性を指摘した。


フォルクスワーゲン(VW)が開発する自動駐車・充電システム「V-CHARGE」(VW提供)

また、ドイツ連邦政府によるEVへの購入支援策「環境ボーナス(Umweltbonus)」は2019年6月が期限となっているものの、予算にまだ余剰があることから、「支援期間を延長すべき」としている。

ドイツの大手自動車メーカーもEVへ積極的な投資を展開

VDAによると、ドイツ自動車産業は今後の3年間で、電動駆動車種を100車種まで拡大するほか、代替駆動技術に400億ユーロを投資するという。

フォルクスワーゲン(VW)は2018年12月4日、EVなどの低排出車の事業展開の方針を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます した。EVの取り組みを促進するため、EV化に300億ユーロ以上の投資を計画、EVのモデル車種を2025年までに現在の6から50以上に増やす方針を示している。また2018年11月には、北ドイツのエムデン工場およびハノーバー工場をEV製造に改変することを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 、将来的に最大で年間33万台のEVの製造を予定するドイツ東部のツビッカウ工場と合わせ、欧州におけるEV製造の拠点に据える、としている。同社は2018年3月に、2022年までに欧州と中国、米国の16工場で電気自動車(EV)を生産すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 。欧州の生産については蓄電池を韓国のLG化学、サムスンSDIとSKイノベーションから、中国については電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)から調達するとし、契約規模は200億ユーロに達するとしていた。さらに11月には、米国生産分についてもSKイノベーションから蓄電池を調達する方針外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を示している。

ダイムラーは、2022年までに全てのモデルで電動化を実施するとしているほか、2025年までには、EVおよびプラグインハイブリッド車(PHV)を含む電気駆動車種の売り上げを全体の15~25%とするという目標を掲げている。電気駆動車のモデルの拡充に向け、100億ユーロの投資を実施しており、10億ユーロを投資して世界8カ所の工場で電池を生産する体制を構築し、効率的かつ柔軟性の高い電池の生産体制の確立を目指す。さらに12月11日には、電池セルの購買に200億ユーロを投じると発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(101KB) した。バンやバス、トラックといった商用車部門での電動化も積極的に進める方針を示している。


ダイムラーの電動バス(ダイムラー提供)

BMWグループは、2017年に電気駆動車種の年間販売数が初めて10万台を突破、2019年末までには50万台以上の出荷を見込む。同グループは、2025年までに少なくとも25の電気駆動モデルを発売する外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます とし、そのうち約半分は純粋なEVとなる予定だ。世界10カ所でEVを既に製造しており、2019年にはグループのミニのオックスフォード工場(英国)でも製造を開始するという。今後はEV、PHV、内燃機関車を同一ラインで生産することを目指すとし、柔軟な生産体制の確立を目指している。また、同グループは、CATLから今後数年間にわたって40億ユーロ相当の電池のセルを調達する計画を明らかにしているほか、2018年10月には、スウェーデンの新興リチウムイオン電池メーカーのノースボルト(2018年2月27日記事参照)、ベルギーの非鉄金属大手ユミコアと協働し、EV向けバッテリーのリサイクル技術の確立を目指すコンソーシアムを発足した。(2018年10月17日記事参照)


BMWのEVモデル「BMW i3」(BMW提供)

BMWグループミニのオックスフォード工場
(BMW提供)

VDA会長は内燃機関車も引き続き重要と指摘

VDAのマッテス会長はEVの普及の促進を訴える一方で、「内燃機関車も引き続き、重要な位置を占める」と指摘する。ドイツでは、EUが定める窒素酸化物(NOx)の基準を多くの都市で超過しているとの結果が出て以降、国内各都市で大気汚染の改善に向けて旧式ディーゼル車の走行を禁止する判決が出されている(2018年6月1日記事7月24日記事10月18日記事11月29日記事参照)。こうした中、旧式ディーゼル車の走行禁止は多くの市民や通勤者などに影響を及ぼすことから、より影響の少ない打開策が模索されている。これまで自動車産業は、窒素酸化物の排出量が少ない新型ディーゼル車への買い替えを推奨してきたが、最近では旧式ディーゼル車のハードウエアの交換も検討する姿勢も見せている。マッテス会長は「長期的視点で環境に優しい製品を作るほか、新たなモビリティーサービスの提供、大きな変革期への円滑な対応を通じて、信頼を再構築し続ける必要がある」としている。

執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。