25年までに再生可能電力の比率を90%に−アジア大洋州の再生可能エネルギー政策−

(ニュージーランド)

オークランド発

2010年10月13日

水力発電を主体としてきたため再生可能エネルギー電力の比率は高く、90%を超えていたこともあった。しかし水力発電所の新規建設は環境団体などの反対で許可がなかなかおりず、2005年にはその比率が65%台にまで低下した。政府は建設認可のプロセス円滑化などを通じて、90%への回復を目指している。シリーズ最終回。

<09年の発電量の72.5%が再生可能エネルギー>
国内では一次エネルギーの35%が再生可能エネルギーで賄われている。国際エネルギー機関(IEA)によると、OECD加盟国の中でノルウェー、アイスランドに次いで3番目に再生可能エネルギーへの依存度が高い。OECD加盟国の中で原子力発電所を持たない13ヵ国のうちの1つでもある。

政府は94年から電力改革に着手し、まず国有ニュージーランド電力(ECNZ)の送電部門を新設した国有のトランスパワーに分離した。次いで、発電部門は3分の1を民営化、99年には残る発電部門を3つの国有企業〔メリディアン・エナジー、ジェネシス・パワー(現ジェネシス・エナジー)、マイティー・リバー・パワー〕に分割してECNZを解体し、独立発電事業者(IPP)参入の環境を整えた。

一次エネルギーのうち電力をみると、09年には発電量の72.5%が再生可能エネルギーによるもので、水力発電が発電量の57.0%、地熱発電が10.8%、風力発電が3.5%を占めた(表参照)。供給量は4万2,010ギガワット時(GWh)で、うち3万478GWhが再生可能エネルギーだ。

電力供給量に占める再生可能エネルギーの比率の推移

水力発電が主体のため、歴史的に再生可能エネルギー比率は高かったが、過去10年間には発電所開発許可までの同意プロセスの進捗がはかばかしくなかったこと、ハントリー石炭火力発電所が新しく稼働したことなどで、非再生可能エネルギーの比率が上がっていた。

なお09年の発電能力は9,486メガワット(MW)で、そのうち6,528MWが再生可能エネルギー、2,958MWが化石燃料だ。07年以降、国有電力会社による火力発電所の新規建設は停止され、老朽設備の運用停止も始まっている。

<発電所建設承認プロセスの迅速化図る>
07年9月、当時のヘレン・クラーク首相は「2050年に向けたニュージーランド・エネルギー戦略(New Zealand Energy Strategy to 2050)」のロードマップの一環として、エネルギー国家目標として25年までに再生可能電力を90%にすると発表した。

電力需要は25年までに20%増の1万590MWになると予測されており、目標を達成するためには新規発電所投資のほとんどを再生可能エネルギーに振り向けなければならない。具体的には25年には9,531MWの再生可能エネルギー電力が必要で、新規に約3,500MW、毎年平均175MWの再生可能エネルギーによる発電容量を増やすことを意味しており、地熱や風力、潮力の開発が期待されている。

発電所の建設には環境保護団体などからの反対もあり、承認プロセスには難しさが伴う。長期にわたる場合には膨大なコストもかかっていた。政府は再生可能エネルギー比率を高めるという目標に沿って承認プロセスを円滑化するため、再生可能エネルギーに関する国家政策要綱を用意し、地方当局にガイダンスを行ってきた。また、国にとって重要なプロジェクトには住民が参加するコールイン制度も可能にし、照会局または環境裁判所で資料を参照することができるようにして承認決定のスピードアップを図っている。

<比率を高める地熱と風力>
地熱発電への依存度は09年第4四半期の10%から、10年通年では約14%になる見込み。これはマイティー・リバー・パワーの新規140MWのヌアワプルア地熱発電所が稼働したことによる。この発電所は10年5月15日にジョン・キー首相が出席して開所式が行われ、本格稼働を開始した(2010年5月21日記事参照)。単機の蒸気タービンでは世界最大の発電能力140MWで、住友商事と富士電機システムズが機器納入と建設工事を受注した。マイティー・リバー・パワーはヌアワプルアの北、ナータマリキでの土地利用にも合意を得て、新たに4億ニュージーランド・ドル(NZドル、1NZドル=約62円)を投資して13年秋までに110MWの地熱発電所を建設するための調査を行っている。

また風力発電量は08年から40%増加し、09年第4四半期には全発電量の4.9%を占めるまでになった。さらに、国有電力会社ジェネシス・エナジーが北島のキャッスルヒル近くに風力発電所を建設する計画を発表した。メリディアン・エナジーも南島で風力発電所建設を計画している。

<省エネルギー化などにも取り組み>
ゲリー・ブラウンリー・エネルギー資源相は10年7月22日、ニュージーランド・エネルギー戦略(NZES)とニュージーランド・エネルギー効率・保護戦略(NZEECS)草案を発表した。草案で政府は、野心的だが達成可能な目標として15年までにエネルギー効率の改善により55ペタジュール(ペタは1,000兆を表す単位)の省エネを提案した。政府はエネルギー効率の改善率をOECD平均値までに高めようとしている。

また、送電部門を担っている国有のトランスパワーは10年9月に北島北部で需要が高い時に電力負荷を緩和させるスマートグリッド・プロジェクトを発表した。このプロジェクトは総額1億1,100万NZドルの北島リアクティブ・サポート・プログラムの一環で、初期投資費用として約1,000万NZドルが割り当てられた。10年8月にこの地域の送電信頼性を高めるため電力委員会に承認された。

このコンセプトは、トランスパワーとビジネス界が共同でインテリジェント・スマートテクノロジーを用いることにより電力需要を管理するというもの。夏は水不足で電力供給能力が減少する傾向があるが、インテリジェント・スマートテクノロジーは、この時期に不必要な電力供給を一時的に遮断することで電力負荷を緩和させ、効率的な安定供給を可能にする。この技術は導入に時間がかからず、しかも費用対効果もよく、将来の電力需要を管理する上で重要なステップになると期待されている。

(原田直美)

(ニュージーランド)

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