旅行会社はエジプトへの団体旅行中止−メーカーは駐在員の一時帰国も−

(北アフリカ、デンマーク、中東、アフリカ)

コペンハーゲン発

2011年02月08日

エジプト、チュニジア両国の混乱による経済的影響は、全体的には軽微にとどまっているが、主要旅行会社は少なくとも3月いっぱいのエジプトへのパッケージツアーを中止、料金の返却や旅行先の振り替えを行っている。デンマーク企業の一部にはエジプト駐在員を一時帰国させる動きもある。国内海運最大手のA.P.モラー・マースクは2月3日、エジプトでの業務を再開している。

<貿易への影響は軽微>
イスラム移民を多数抱えているため、チュニジア政権崩壊やエジプトでの反政府デモの動きは、テレビや新聞でも特集が組まれ、国内でも大きな関心を集めている。しかし、経済への影響は限られている。

2009年の対エジプト輸出は、輸出全体の0.2%の13億デンマーク・クローネ(1クローネ=約15円)で、主要輸出品は機械類や医薬品だ。輸入額は9,000万クローネで、生地、服飾、アクセサリー、野菜類が主要品目。貿易収支はデンマークの大幅な黒字だが、旅行やデンマーク国籍の船舶(主に海運業)のスエズ運河利用料により、サービス収支は4億クローネの赤字となっている。

対チュニジア貿易は、対エジプト貿易に比べて小さい。09年の対チュニジア輸出額は1億5,900万クローネで、医薬品が50%以上を占める。輸入額は5,200万クローネで、除草剤や食品が主要品目。サービス収支は、対チュニジアでは海運サービス、対デンマークでは旅行業が目立ち、ほぼ均衡している。

<チュニジア、エジプトの民主化支持が多数>
チュニジア政権崩壊やエジプトの反政府デモ、そのほかのアラブ諸国の情勢について、国内では民主化を支持し、経済的な発展を期待するという意見が多い。

チュニジアの暴動は国内でも大きく報道され注目されたものの、現在ではチュニジアのニュースは影を潜め、大方の関心はエジプトに移っている。エジプトは、チュニジアに比べ経済規模が大きく、スエズ運河を保有し、かつイスラエルの隣国として国際政治の要所にあるからだ。

<海運最大手のAPマースクは業務再開>
エジプト旅行中のデンマーク旅行客が、危険に巻き込まれる可能性は低いと発表されているものの、エジプト国内に足止めされ、現在も帰国の見込みが立っていない旅行者も多い。主要旅行社は、少なくとも11年3月までのエジプトへのパッケージツアーや旅行の中止を発表し、旅行代金の返却や旅行先の振り替えを発表している。

デンマーク産業連盟のスポークスマンは、エジプトに事務所を持つ企業の多くは主に現地スタッフを採用し、人駐在員がいないため、特別の対策はとらない場合が多いが、状況は依然として不安定だ、と発表している。現地にデンマーク人スタッフを抱える企業の中には、駐在員を一時帰国させる動きもある。産業機器製造販売のF・L・シュミッドは、エジプトにいるデンマーク人スタッフ約100人を帰国させると発表した。

国内海運最大手のA.P.モラー・マースクは、事務所とコンテナターミナルを4日間閉鎖したものの、現地時間2月3日午後には業務を再開させた。同社ウェブサイトでは、エジプト業務の稼働状況を随時更新している。

<首相はムバラク大統領の早期退陣求める>
外務省は1月30日、エジプトへの不必要な渡航を控えるよう勧告を出し、2月3日には、理由を問わず全面的に控えるよう勧告した。在エジプトのデンマーク大使館は、人員不足のため対外サービスを休止し、緊急時の連絡のために全旅行者の登録を進めている。外務省は24時間体制で、エジプト情勢の情報収集や提供に当たっている。

1月29日にレーネ・エスパーセン外相がエジプト政府の武力行使を非難し、「反政府デモに対していかなる武力も用いるべきではなく、対話での解決を望む」との見解を発表した。2月3日には、ラース・ルッケ・ラスムセン首相が、ムバラク大統領の一刻も早い退陣と、退陣に際し民主化移行への道のりを示すこと、さらに欧州は民主化への迅速な移行への働き掛けを進めるべきだとの見解を発表している。

(安岡美佳)

(デンマーク・中東・北アフリカ)

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