環境・省エネビジネスのチャンスはどこにあるか−ジェトロが中国事情セミナー−

(中国)

グローバル・マーケティング課

2011年11月22日

ジェトロは2011年10月12日、「環境・省エネビジネス、中国市場のチャンスはどこか〜中国における環境ビジネスの最新情報〜」と題するセミナーを東京で開催した。講師はキヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹、グリーンブルーの谷學社長、ジェトロ北京事務所の清水顕司所員が務めた。

<攻撃は最大の防御だがリスク要因を忘れずに>
まず、瀬口氏が、「環境・省エネビジネスが重視される中国経済・社会的背景」と題して、中国の最新のマクロ経済情勢を中心に第12次5ヵ年規画(11〜15年)で環境・省エネ分野を重視している現状を紹介。「今後、30年までに米国が3%の成長率を維持する一方、中国の経済成長が徐々に鈍化すると慎重に予測しても、20年には、ドル換算した名目GDPでは中国が米国を抜いて世界一になる可能性が高い。その中国市場での競争で日本企業が伸び悩み、欧州、韓国、米国企業が収益力を付けた場合、その次は日本市場が彼らにより席巻されることになろう。『攻撃は最大の防御』が日本企業が取るべきスタンスだ」と強調した。

瀬口氏はそれと同時に、中国経済発展の足かせ要因を見ながら経営判断することが重要だ、と注意を促した。足かせ要因としては、(1)消費者物価指数の動きや貿易黒字の縮小の動向によっては、内需縮小の可能性がある、(2)主要都市の不動産価格が一般庶民には手の届かない高い水準で推移していることが問題で、その背景には所得格差の拡大がある、(3)1人っ子政策により20年半ば以降には労働力人口の減少が加速する、(4)公害、エネルギー問題といった将来のリスクがある、を挙げた。

(4)については、環境・省エネルギー意識が国民の間で高まっているが、その背景は日本の1970年代の状況と同じ。所得が増大し、成熟社会に向かう過程の中で、健康重視の傾向がみられ、生活空間の環境問題に意識が向っているからで、また、エネルギー価格の上昇への反応もある、と分析した。

瀬口氏は、こうした状況を踏まえつつ、中国人のニーズにマッチする製品・サービスの研究開発、販売拡大、収益拡大そして日本への収益還元、それを活用した新技術開発という好循環をいかに生むかが、日本企業の今後のビジネスのカギになると強調した。また、中国ビジネスでは、良好なパートナーの選択、現地への権限移譲、迅速な意思決定が不可欠だと語った。

<住宅の環境・省エネ、水ビジネスなどにチャンス>
続いて、ジェトロ北京事務所の清水所員が、中国で需要が高まっている環境・省エネビジネスについて以下のように講演した。

中国にはビジネスチャンスがたくさんあるものの、第12次5ヵ年規画に示された拘束性目標を達成することが義務になっているため、日系企業がビジネスを展開する上で、5ヵ年規画の意図をくみ取ることが重要だ。政府が規画に基づいて発表する「若干の意見」や通達には常に目を通しておく。どの業種に門戸を広げているのか、または絞っているのか、こうした政府の発表を注視し、経営判断の材料にしてほしい。

中国は、第12次5ヵ年規画期の5つの「基本的要求」の中で、「資源節約型、環境友好型社会の建設を経済発展モデル転換の重要な力点として堅持する」ことを明示している。この要求を基に、政策が「エネルギー消費総量を合理的に制御する」と規定する場合、「合理的」の意味するところは、その後発表される法制度で示されることが多く、どのような法律が打ち出されるのかを注視することが重要だ。

10年に発表された戦略性振興産業の1つである環境・省エネ分野の市場規模は、12.5規画が終了する15年には約4兆5,000億元(1元=約12.2円)とGDP比7〜8%に達し、20年には5兆元を超えると予想されている。外資誘致に積極的分野も多い。今後の環境・省エネ技術のニーズについて、市場の大きさと市場参入コストなどを考慮すると、特に室内空気汚染防止・浄化、水質汚染防止・浄化、渇水地方対策、土壌汚染防止・浄化、フライアッシュ(飛灰)再利用は、日本の中小企業にもビジネスチャンスがあると思われる。室内環境では、消費者のシックハウスに対する意識が高まり、政府が環境安全証明書を発行しているケースが増えているものの、検査は圧倒的に政府系機関が行っていることが多く、改善の余地が大きい。きめ細やかなサービスと製品を一体化させたビジネスの提案が有効だろう。

また、水処理関連では、まず中国の水資源の状況を理解する必要がある。揚子江の北側は乾燥地域で南側は降水量が多い。中国の淡水資源総量は、全世界の水資源の約6%を占めるが、人口1人当たりの水資源は世界平均の4分の1にすぎず、1人当たりの水資源が不足している。中国の北部は水不足がより深刻な状況にある。排水処理の設計、施工、アフターサービスのトータルな視点で、排水処理関連のビジネスプランを提案することが重要だ。汚泥処理もほとんどが埋め立てで再利用が進んでいない。この分野は外資の進出が比較的少ないのが現状だ。

フライアッシュの問題も深刻だ。石炭火力発電が中国の発電全体の75%を占め、石炭灰が増え続けているが、埋め立てに頼っている。再利用もコストが高くつくことや、地域横断型の再処理企業が極めて少ないことなどから、なかなか普及していない。この分野には外資の進出を規制する内容がみられない。

日本で高い注目を集めているエコシティーだが、一口にエコシティーといっても、いくつか種類がある。国務院が認可し、主導的に推進しているのは天津エコシティぐらいだ。天津は実際に目に見えて工事が進行しており、住居地区、商業地区、コンテンツ産業など低公害産業地区で構成されている。中国各地でエコシティー構想がみられるが、日本企業にとっては、今後、構想の具体的な基準と計画を見極めることが重要だ。

<まず人脈づくりと相手への提案から>
最後に、グリーンブルーの谷學社長が、同社の中国ビジネスの軌跡について以下のとおり講演した。

当社は、1985年に中国科学院環境評価部と環境アセスメントに関する技術交流を開始して以来、中国との付き合いが続いている。北京清華大学との交流もあり、88年に海南島に無償で中古の大気汚染観測機材を供与した際、北京の国家環境保護局や電視台が見守る中で贈呈式が行われた。中国ビジネスでは、まず相手に大きな支援をすることが大切で、そこで人脈を作り、そのうち相手からの提案を聞いて本格的なビジネスが始まると聞いていた。このため、当社は94年までこうした支援を行った。これが現在の中国ビジネスの基礎になっている。

当社は黒竜江省で中古の大気汚染観測機を供与・販売できたものの、沿海部が発展したころは、環境計測分野はもっぱら政府の管轄事項で、民間に門戸が開くことはなく苦戦した。政府の方針が大きくビジネスに影響する。しかし近年、大都市では環境計測を役所の職員だけでは賄いきれず、民間に委託し始めている状況もみられる。地域によって情勢が異なるため、各地方レベルの情報収集がビジネス展開のカギを握っている。

日本の環境計測市場は、最盛期には1,500億円市場だったが、現在はピーク時に比べて2〜3割縮小している。当社としては、中国での人脈を生かし、環境計測の簡易測定技術の移転を図り、ビジネス機会を作っていきたい。

(日下若名)

(中国)

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